第3話 水探し

瞼を閉じていてもわかるような眩しい光を感じ、それと同時に誰かの話し声が聞こえる。目を覚まして見るとそこはいつもの自分の部屋では無く見慣れない場所、昨日の野宿した場所だった。昨日を経て今日に至りようやくこれは夢でもなんでも無く、現実なのだと理解し諦めた自分がいた。

「明、起きたのか?」

そばに和久がいた、その近くに公一達がいた。どうやら最後に起きたのは俺だったらしい。

「ああ、おはよう和久。」

「昨日はよく眠れたか?」

「まぁ、そこそこ寝れたな。」

「それは良かった。今日は忙しいからな。」

そう言うと和久は、全員に聞こえるように声を出した。

「よし皆起きたな、今日は水を探すぞ。理想は川だな。無ければ池とか沼みたいなやつでも良い。」

和久の声を聞いた公一達は、動き出した。すると公一が和久に質問をしてきた。

「和久、水を探すのは良いけど人数分けどうする?」

「ああ、それなら3人と2人で別れる。3人の方は明・真輔・公一で、2人の方は俺と流次で分かれる。それで良いか?」

特に、誰も意見しないのでそれでチームが決まった。その後二手に別れて水の探索に動き出した。決まりとして水が見つかっても見つからなくても野宿した場所に集合する事になった。別れて暫くして俺たちは歩きながら会話をしていた。

「なぁ、明・公一今更だけどさ、此処って何処だと思う?」

「さぁ、全く見当が付かない。普通に生きててこんな事になるなんて思っても無いし。」

「俺は何となくわかるぞ。」

公一が少し自信ありげに話してきた。

「多分だけど此処は、海外か日本の秘境だと思う。」

「どうしてそうだと思うんだ?」

「それはな真輔、俺たちはテレポートしたんだと思うんだ。それなら全ての説明が付くし携帯が圏外なのも納得できる。」

俺と真輔は頷いた、確かに公一の見解は珍しく理屈が通っていた。それと同時に僅かながらもしかしたら、帰れる可能性が出てきた事に嬉しくもあった。

「だったら、何が何でも水を探し出さないといけないな。」

此処に来て初めて真輔が活気ある声を出した。俺と公一はそれが少し嬉しくもあった。

「そうだな、真輔の言う通りだ。生きて帰る為にもさっさと探さないといけないな!」

「俺も早く帰ってやり残したゲームの続きをしないとな。」

「おいおい、公一あれだけいつも徹夜でゲームしてるのにまだやってないのがあるのかよ。」

「待てよ、真輔だって人の…」

この状況になってから、初めてこうした2人のいつもの何気ない会話を聞けた事に俺は安堵し嬉しかった。まだ此処には俺の知る日常があるという事に。

「おい、明何してるんだ。早く来い置いていくぞ。」

真輔の呼び声で2人の方を見ると少し離れていた。俺は走って駆け寄った。

「ああ、待ってくれ今行く。」


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明達と別れて俺と流次は別の場所を探していた。探索中に流次か話し掛けてきた。

「なぁ、和久ひとついいか?」

「どうした流次?」

「いや、此処って何処だと思う?」

流次の質問は俺が此処に来てからずっと考えていた事だった。

「わからないな、そもそも此処にきた経緯事態も異常としか言いようの無い事だしな。」

「やっぱり和久でもわからないか。」

流次の質問に対して俺は確信的な答えがなく、今考えているいくつかの仮説も、根も葉もない根拠の全く無いものばかりだ。それを言って流次を含めた皆をぬか喜びにさせるような事はしたく無かった。

「あのな流次、俺は何でも知ってるわけじゃ無いぞ。」

「あはは、悪い悪い和久は頭が良いからつい何でも答えてくれるような気がしてな。」

そう言った流次は笑ってはいたが何処か沈んだ表情をしていた。流次のその表情を見て俺は昨日の事を思い出した、俺がこの状況に不安になり少し取り乱した時も、悪いのは俺だったのに皆は俺を責める事なく謝ってくれた。あの時に初めて気が付いた、俺が皆の事を考えて行動するのと同じ様に、皆はこの状況の中、心が折れないようかばい合う様に気丈に振る舞っているんだという事に。

「でも確証は無いが此処が何処なのかはいくつか見当は付いてる。」

俺は、流次の表情を見て例えぬか喜びになったとしても、皆にこの状況の中でも感じる事の出来る明確な希望を持たせる事にした。これは昨日の夜に俺を責めず、許してくれた無二の親友の為に出来る唯一の事だと思った。

「流石、和久!!で此処は何処なんだ?」

「待て、先に言ったが確証は無いんだ。あくまでも俺の予想だからな。その中で一番可能性が高いのは瞬間移動、話くらいは聞いたことがあるだろ。多分俺たちは近道の山からこの場所に瞬間移動したんだと思う。自分でも突拍子も無いことを言っているのはわかってるが、この異常事態はそれ位しか説明できないしな。だから俺の予想では少なくとも地球上の何処かだとは思う。」

「ってことは、もしかしたら俺たち帰れる可能性があるのか!」

そう言っている流次の表情はさっきまでの沈んだ感じの無い本心からの笑顔だった。

「ああ、だからまずは死なないように行動して、食料と水そして俺たちが行動する拠点を得ることが必要だ。」

「そうだな。でも此処って何処の国なんだろうな。」

「さぁな、案外日本の可能性もあるが移動する範囲が不明だから海外の方が可能性は高いな。」

「そうだよな。範囲が決まってるわけじゃ無いしな。とにかく急いで水を探してあいつらにもこの事を教えないとな和久。」

「ああ、そうだな。」

流次はそう言って意気揚々としているが、さっき言った話は正直に言うとかなり楽観的な方の考えだ、移動したのが場所だけなら良いが、もしも場所だけでは無くて時間も移動していたら俺たちは帰ることが出来ないからだ。この可能性に気付きながらも俺は誰にも言うことが出来なかった。その時流次の呼び声が聞こえた。

「おーい、和久これ見てみろよ。」

俺は急いで流次の方に向かった。

「どうした流次?これはまさか…」

「だよな、和久もそう思うよな。」

「とにかく写真に撮って今日皆が帰ったら見せよう。」

そうして、俺たちはある物の写真を撮って水探しに戻った。


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夕暮れ時、俺たちは野宿した場所に、全員無事に集まる事が出来た。

「和久、どうだった見つけたか?」

「いや、ダメだった。明の方はどうだ?」

「すまん、俺たちもダメだった。」

「いや良いよ、ただこれでいよいよ後がないな。明日は絶対に見つけないとな。」

今日のお互いの水探索の報告が終わったあと和久がいつになく真剣な表情で俺たちに話し始めた。

「皆に見せたい物があるんだ。俺と流次で水を探している時に見つけた物なんだが。」

和久はそう言って充電が残りわずかになった携帯で撮ってきたある写真を見せてくれた。それは動物用の罠だった。それもかなり質素なもので、いや質素というよりは原始的と言った方が合っている様なもので見れば明らかに動物用の罠だとわかるものだった。

「これって罠だよな。」

公一がそう呟き、俺たちはそれに頷いた。俺たちの反応を見た和久が話し始めた

「そうだ、皆の考えての通りこれは動物用の罠だと思う。これがあるという事は、少なくとも俺たちが今野宿しているこの付近に猟師が居るというわけだ。つまり、この場所からそう遠くない所にその猟師の村があるはずだ。」

俺たちは和久の話を聞いて大喜びした。此処に来てからようやく帰れる可能性が現実味を帯びてきたのだ。中でも公一の喜び様は俺たちの中でも1番だった。

「やったー、ようやく帰れるぞーーー。」

「公一、嬉しいのはわかるけど、はしゃぎ過ぎだ。」

和久が制止するが、この時ばかりは誰にも高まる興奮を下げる事は出来なかった。しばらくして落ち着いた頃、別の話に切り替わった。話を切り出したのは真輔だった。

「そういえば、今日さ水探しの途中で此処が何処なのか明と公一と話したんだよ。」

それを聞いた流次が反応した。

「えっ、そうなのか実は俺と和久もその事を話したんだ。」

「そうなのか、じゃあ先にこっちから話すな。こっちの予想は公一が考えたんだが、俺たちは近道からこの場所にテレポートしたと思うんだ。根拠は無いが公一の予想にしては珍しく説明は付くだろ。」

この話を聞いた流次が驚いた顔をして話した

「マジか、俺たちで話した時の和久の予想とほぼ同じだ。」

この小さな偶然すらも今の俺たちには、帰れる根拠にすることが出来た。それほどまでに俺たちは帰れるという明確な希望を感じているのだ。しばらくして俺たちは疲れて眠りに就いた、ただ昨日とは違い不安に怯えることは無かった、安堵したやすらぎの中俺は眠った。

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幻影戦奇譚 @miyazima_tarou

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