第2話 前夜
パチパチ…
辺りはすぐに暗くなった。俺たちは焚き火を囲むようにして、これからの事の話と自分達の持ち物の確認をしようとしていた。唯一の救いはここに来てしまう前にサンフラワーに寄った事だった。
「皆頼みがある。」
真剣な表情の和久が俺たちに問い掛けた。
「これからやる持ち物の確認で正直に手持ちの物を全部教えくれ。」
いつに無く真剣な表情の和久に公一が
「和久、確かに全員の持ち物を確認するのは大切な事だけどさ、そこまで真剣になる事なのか?」
「公一、こんな状況でもお前のその考え方が変わらないのは俺たちを絶対的に信頼している事の証なのはよくわかるんだ。」
「だったら別にそこまで真剣になら…」
ここで、公一の言葉を遮る様に和久が
「でも、だからこそ俺はこんな些細な事でも隠して事をされるのは嫌なんだ。」
和久がいつにもなく興奮気味だった。だから和久をなだめようと俺は話しかけた。
「おいおい、気にし過ぎだって和久。」
そうすると、和久は少し落ち着いて話し始めた。
「明、違うんだ、嫌とかそういう事じゃないんだ。きっと怖いんだ俺は、こんな状況で親友だと信じてるお前達に些細な事でも隠し事をされるのが。ここで、隠し事をされたら俺は、きっとお前達を信じられなくなる、この苦しみを分かち合えるたった4人の親友を失ってしまう。俺はそれがたまらなく怖いんだ…」
俺たちは驚いていた。あの和久がここまでこの状況に追い詰められていたなんて思いもしなかったからだ。俺たちの知ってる和久は、天条和久は冷静で落ち着いていて学校でも、成績優秀で、常にトップ争いをしている。運動も人並みに出来る凄いやつで…そんな和久が、ここまで思い詰めていたなんて俺たちは誰も気付いてやれなかった。和久は常に俺たちの事を考えてくれていたのに俺たちは和久の事を何も気付いてやることができなかった。
「ごめんな、和久…」
公一が息苦しそうな表情で和久に呟いた。いや、息苦しい表情をしていたのは俺たちも同じだった。公一の一言を皮切りに俺たちは和久に謝った。
「すまない、和久。」
「気付いてやれなくて、ごめん、和久。」
「色々と気を遣わせて、悪かった、和久。」
和久は俺たちの謝罪に少し戸惑った表情をしたが、すぐにいつもの表情に戻り、落ち着いた声色で俺たちに話掛けてきた。
「いや、すまない皆取り乱した。でも改めてお前たちが親友でよかったよ。」
そういう和久は、いつになく照れくさそうだった。この出来事の後、俺たちは持ち物の確認をした。結果はまず食料になりそうなものは、買い食い時に買った物の余りと公一が夜食用に買い溜めしたカップ麺が数個とまずまずだった。次に飲料がかなり少なかったというよりほぼ無いに等しかった。全員買い食い用のジュースしか買っていない為、今に至るまでにほぼ飲み干していた。そして最後は意外にも薬品関係だった。基本買い食いで寄るので薬品を買う事はまず無いのだ。しかも、種類豊富に風邪薬から頭痛薬とか絆創膏から湿布までと色々と揃えてあった。これだけの薬を買っていたのは真輔だった。
「なぁ、真輔どうしてこんなに薬とか買ったんだ?」
「ああ、明も知ってるだろ俺の家って道場やってるから、捻挫・打撲・擦り傷とかとにかく少なからず怪我をするからこうして定期的に買ってんだよ。」
すると、流次が不思議そうに真輔に聞いた
「じゃあさ、軟膏とか湿布なら分かるけどさ、なんで風邪薬とか買ったんだ?」
「あ〜、これは母さんに頼まれてついでに家の薬箱の分も買ったんだ。あと、言われる前に言うがこのチャッカマンも仏壇用の予備だからな。」
真輔は、そう言って言い訳の様に大量の買い物の品の購入理由を話したが実際俺たちはこの買い物のお陰で焚き火は起こせたし、病気や怪我をした時の薬がある。この状況ではこの上なくありがたい事だ。皆口にはしないがきっとそう思っているはずだ。
「ところでさ、明日はどうする?」
公一がそう言い出し、俺たちは決めなくてはならない今後の事について話し始めた。
「そうだな、皆はどうしたい?」
和久が全員に問い掛けた。
「俺は、まだどうすれば良いのかわからない。実際まだ夢でも見てるんじゃないかと思っている自分がいる。」
少し沈んだ顔をした真輔が言った。次に流次が答えた。
「俺も同じだ。ただ皆がいるからこうしてこの状況でも少し安心しているんだ。」
そう言った流次は普段と同じ落ち着いた表情をしていた。
「凄いな流次は、俺は不安で仕方ないよ。明日どころか今だって何をどうすれば良いのかわからないよ。」
少し笑いながら公一が答えた。そして続けて俺が答えた。
「俺は正直明日が来るのかさえ疑っている。もしかしたら、朝になって目を覚ませばいつもの部屋の中にいるんじゃないかって思っている。」
俺たちが、まだこの現状を受け入れ切れていない返答を聞いた和久は
「わかった。じゃあ俺からの提案なんだが、明日は水を探そう。もう皆飲み物が殆ど無いだろ。皆聞いた事あると思うが水が無いと3日しか生きる事が出来ないらしい。だから出来れば明日、遅くても明後日には水を探し出さないと行けない。」
「でも和久、3日あるならさ明後日見つからなくても明々後日に見つかれば良いんじゃ無いのか?」
「公一、水なしで3日目を迎えたらもう俺たちには水を探す体力と気力は残って無い。」
「確かにそうだな。」
「よしわかったら、もう寝よう。明日は水探しだ。あと火の番は交代でしよう。」
和久はそう言って火の番だけ決めて眠った、最初の火の番は俺だった。焚き火で照らされた周囲は驚くほど暗く静かなものだった。俺たちの置かれた状況も似た様なものなのかも知れない、手探りで進む事すら容易で無いこの現状で明日を迎えたとして、俺たちの今を変える事が出来る何かを見つける事が出来るのか?交代してもそんな不安に包まれながら俺は寝た。
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