10話
――それは、原点に返り岩を創り出す事だ。
けれど、ただ岩を創っても意味があまりに無い。
この世界の魔法は、イメージが重要で魔法の詠唱や発動のワードを必要としていない。
発動に必要な魔力と、形や大きさ等のその物に対するしっかりとしたイメージが在れば、大抵の物は魔法で創り出せるし、動かす事も出来る。
だから、俺は魔法で創り出す岩に対して、
結果は、見事に成功し・・・たのか一見するだけじゃ解らない岩が出来た。
ただ、魔力の減りは同じ大きさの物を創り出した時より、3倍ほど掛かり。
重さも、鉄をイメージして創った岩の方が若干重く感じはした。
岩の中に鉄が含まれているのかを調べる為に、この岩を溶かし精錬して鉄が出来るか試せば良い話なのだが。
勿論の事だが、俺の【火魔法】ではそんな火力が出る訳は無いし。
精錬用の窯を一から手作りする事など、専門知識が無い俺には無理な話だ。
だが、俺には秘策――【錬金術】があった。
【錬金術】の[分解]と[構築]の魔法を使えばいいのだ。
岩を[分解]してその中から鉄だけを再度[構築]すれば、鉄のみを取り出す事が出来る。
と言い表すだけなら簡単な事だが、実際はかなり難しい。
まず、岩に[分解]の魔法を行使するだけでも、他の魔法より何倍も魔力を使い。
狙った物だけを[構築]するのはイメージと集中力が必要となる。
さらに、[分解]と[構築]は1セットで使わないといけない。
途中で休憩する事も出来ないし、集中力や魔力が切れてしまえば、他の魔法と同じく魔法の対象と成っている物は消失してしまうのだから、マジで大変だ。
大事な事なので2度言うが、マジで大変だった。
お陰で始めはかなりの数の失敗した。
失敗に次ぐ失敗。後も一息の所で・・という場面で失敗した時は、地面をのたうち回りながら悔しんだ――けれど、俺はめげずに何回も挑戦し続けて。
百回に近い試行と2ヶ月の月日を費やして、俺はついに【錬金術】の魔法で小指に先ほどの小さな鉄を錬成する事に成功した。
――と同時に鉄を多く含ませた岩を創る魔法にも成功していたという事が実証されたのだった。
例え出来上がった物がどんなに小さい物でも、魔法が成功した時の俺は感動のあまり、涙を流して奇声を上げてしまう程に喜んだもんだ。
・・・その後は、また成功したり失敗したりを繰り返して、どんどんと【錬金術】による錬成のコツを掴み成功率を上げながら、鉄の量を増やし、別の物を精製してみたり色々と行ってみた。
あっ、その過程で岩塩を【土魔法】で創る事が出来ると解り。
後の食事に塩が足された事でほんのちょぴりだけ味が改変されたが、少しマシになったという話で、基本不味いのは変わらなかった。
そんな事が在ったから、探索の為の準備に余計に熱が入ったのは確かだ。
ただ、材料さえ揃えば後は比較的に簡単だった。
【錬金術】で出来た鉄を再度、[分解]の魔法掛けてから、作りたい物の形をイメージしながら[構築]するだけで鉄製品は完成した。
多分だが、鉄を錬成した時のコツが応用できたからだと思う。――何分、感覚的な事なので説明しづらいけれど・・・そういう事なのだろう。
鉄製品以外もほぼ問題なく準備が進み。
――ついこの間もろもろの道具が完成した。
俺が探索の為に作った道具は・・・
棒状の細長い投げナイフを5本。刀身が幅広く、くの字に内側へ曲がった独特形状を持つククリナイフを1本。後は、お遊びで作った
が以上鉄製の武器で、あと他に。
この手のファンタジーの小説でお馴染みの黒色火薬・・・を作ったはいいけど、思った程に威力が出なかったので武器としてはお蔵入り。
――けど、一応火薬なので野草と混ぜる事で煙球みたいな物が出来たり。
前まで使っていたナイフが俺の不注意で根元からぽっきり折れたので、直すついでに柄の部分に少量の火薬を仕込み、刃先が飛び出す――スペツナズ・ナイフに進化させてみたりと、色々と応用が出来た。
因みに、そのスペツナズ・ナイフの威力も大してない。
ゼロ距離で当てればそれなりの貫通力には成りそうだけど・・・正直な話、【投擲】のスキルが在るのでナイフを投げた方がもっと威力が出る。
黒色火薬が出来た時に、最初に考え浮かんだのが銃・・・中でも、一番、作り易そうな火縄銃を思い浮かべたけど、同じ理由で作るのを止めた。
火縄銃は一度発砲したら再装填まで長いし、他の銃火器は中の機構が解らないし、専用の弾丸も作れそうにも無い。
なので、ナイフを投げた方が早く、スキルの恩恵も得て威力もそれなりに成るので現在は銃火器は要らない子に成っている。
――元が男としては、両手に銃を構えて魔法やスキルを駆使しながら、スタイリッシュに魔物を倒してみたいと中二・・・ロマン溢れる考えが浮かんでくるが、現在の状況でそんな夢を見ている余裕は無いので仕方がない。
それに、スペツナズ・ナイフも在る事だし、いつか余裕が産まれた時にでも試せば良いのだ。
それより今は他の道具の話の続きだ。
――と言っても、もう武器の話は無く。後は、ブレイドラピッツの毛皮で作ったポーチや小さい袋に毛皮のブーツなんかだ。
張り切っていた割には武器が少ない様にも観えるだろうが。
そこには意味があり。武装したからと言って、俺自体の強さが格段に向上する筈も無い。下手に多くの武器を持って、もっと奥に行けるとか勘違いしない為にだ。
それに今回の目的は、これまで探索して来なかった場所――出来れば3層辺りを捜索して、その際に糸に成りそうな物と新しい食材もしくは調味料等の素材を採取(無理をしない程度に)する事だ。
レベル上げの為に戦闘を進んでしに行く訳じゃあ無い。
だから魔物と遭遇しても最低限の自衛が出来て、すぐさま逃げる事が出来る事が最善の策だろう。
方法として投げナイフで牽制し、煙球で俺の姿を隠し撒菱で追って来づらくするだけで良い。――最悪、全長40㎝の刃渡り20㎝ほどのククリナイフに魔法を駆使すれば応戦できると思う。
――でもそうはならない様に常に【索敵】で魔物が居ないのか確認しながら、【忍び足】と【隠密】で気配を消して静かに移動する事を意識して行動する様に心掛けるつもりだ。
・・・そういう事なので、探索に行く道具はこれで揃え終わり。
万が一の為にも、一通りの道具を試しに使って問題ないか検査をし、何の問題も無い事を確認もしている。
「大丈夫、俺なら行ける、やれる。・・・うっし、行ってみますか!」
未だにまだ見た事も無い魔物に対しては不安が残るが、その分しっかりと準備を整えてはいる。大丈夫、と自分に言い聞かせ俺は未知の領域へと探索を開始した。
◇◆◇◆◇
今日の天気は快晴。
木々の葉の隙間から見える空は、青く雲1つ浮かんでいない。
お陰で、森の中もたっぷりと陽の光が差し込み、見通しも良好。
実に、冒険日和の天気・・・のはず。
現在、洞窟を出てから西の方角に真っ直ぐ俺は進んでいた。
――コンパスや地図が無いので正確さに欠けるが、龍が居ると思われる場所から反対方向には進んでいるはずだ。
それで、いつも探索している範囲から少し歩いた場所まで来たのだが・・・
「あーうん、何も見えん」
俺は目の前に変わり映えの無い森の風景を観て、そう呟く。
風景上には見慣れた緑色の草木しか俺の瞳には映ってはいない。
けれど、10メートルほど離れた木に何か生物が居ると【索敵】のスキルが教えてくれている。
反応のある木を注意深く見ても、特に変わった様子は伺えない。
葉は疎らに生えていて隙間からは木の枝が見えているので、茂った葉の裏に潜んでいるとかでは無さそうだ。
【索敵】のスキルを信用するならば、肉眼では観る事が出来ない存在がその木には潜んでいると言う事に成る。
「・・・つまり、擬態持ちかな」
図鑑から得た知識の中から、答えを導き出す。
存在している筈なのに、姿は見えない。
つまりは、透明な体を持つ者か、姿を自由に変えられる者、位しか俺には思いつかなかった。
その条件で、思い出したのが擬態の能力を持った魔物が居る事だ。
3層にはその擬態の能力を持った魔物が居るという情報を頭に入れて、今日はその辺りを目指していたので、一応警戒をしていた。
だが、こんなにも早くにその魔物と遭遇するなど考えても居なかった為に、少し判断するのが遅くなってしまった。
――てか、まだ探索を開始してからあまり時間が経っていないのに、もう魔物と遭遇って・・・
「――前途多難だな。・・・はぁ」
幸先の悪さに、自分の運の無さを恨めしく想いため息を吐きだした。
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