9話
人が人として生きて行く為に必要な要素、それが衣・食・住の3つだ。
住の方は、現状は問題ない。
けれど現在、残る2つに少しばかしの問題が生じ始めているのだ。
まずは食だが、先ほど俺は問題が無いと言ったばかりなのだけど。
アレは生命を維持して行くのに必要な食糧は確保されているというだけの話で。
現在、感じている問題はその先――料理ついてだ。
アレを料理と総称して良いのか解らないが、とにかく料理の事が問題なのだ。
原因はほぼ俺に非が在る――というのも死ぬ前から特段、料理なんてした事など無い。
精々、学校の家庭科の授業内で、材料がしっかりと揃えられて、作り方が書かれたレシピと指導する先生が居る状況でだ。
だから道具も材料も揃っていない環境で、手の込んだ料理が作れるはずも無い俺が出来そうな調理法が焼くか、煮るの2択ぐらいしかない。
更な言えば、主な食材である肉は、解体が悪いのか火を通しても何故か生臭い。
他の食材たちも、きのこはぱっとせずに野草は青臭くて苦い。
唯一の甘味であるペシェスカの実は、幾度となく口にして、舌が味を覚えて最初の頃の様な美味しさは感じなくなった。
俺が作る料理の味はお世辞にもおいしいと呼べる品は出来ず。
毎度、焼いた肉ときのこに茹でた野草ばかりで、同じ味に飽き飽きしているのが問題の一つだ。
自分が随分と贅沢な事を言っているのは重々承知しているつもりだ。
しかし、考えても見てくれ。
転生する前は、色彩豊かでバランスが取れた弁当や何度でも食べ手たくなる様な味付けのジャンクフード等々を、お手軽でしかも安価に手に入れる事が出来た場所に居て、お腹が空いたらそれを食べる事が出来た。
そんな飽食の生活を送っていた人間が。
焼いた、生臭い肉と何の変哲もないきのこに、茹でても青臭く苦い野草。という粗末な食事ばかりを3ヶ月も続けていれば、誰しもが飽きたり、嫌気が差したりすると言う物だ。
それに、この娯楽と呼べる物が無い森。
食事ぐらいは、マシな物を食べないと精神が病んでしまう。
――だから食も改善すべき問題だ。
そして次が、衣なのだが・・・
・・その、俺は転生前と性別が違うじゃないですか。
ちょ~っと、その差異が出る部分の服が足りない――もとい無くて困っているんです。はい。
転生前には存在しなかったその部分は、かなり大きいとまでは言わないが、BかC位は在るんじゃあないだろうか。
性別が変わった影響なのか、それとも自身の身体だからなのか解らないけど、やましい気持ちは一切湧いてこない。寧ろ、身体を動かす時に邪魔に感じたり、激しく動いて揺れたりすると痛いのだ。
・・・あと、下の方も転生時に着用していた1枚のみ。
それをこまめに洗濯して、大事に使い続けているのが現状なのだ。
当然、洗濯をしている時は何も穿いて無い事に成り、裸族・・・ブレイドラピッツの毛皮で作った大きめの外套を羽織っているので完全の裸族では無・・く、痴女か。
と、とにかく今の俺は、年端も行かないうら若き少女なのだ。
それが例え、他の人の目が無い森の中に居るとは言え、変た・・・じゃなく、野人と化してしまうのは、いかがな事か。
けれど、それを作るにも布が無い。
糸を紡績しようにも、材料となりそうな植物も動物や昆虫が洞窟周辺では見つからなかった。
一応、試しに毛皮で作ってみた事はあるが、デリケートな部分に毛がチクチクと刺さり痒くて無理だった。
と言う事で、衣の方にも問題が起きている。
この2つが目下の頭を悩ます問題なのだが、解決方法もある程度は目途が立っていたりもする。
それは単純に、俺の行動範囲をもっと広げれば良いだけの話なのだ。
この3ヶ月間の俺の行動範囲は、ほぼ洞窟周辺とペシェスカの実が成る樹の近くのみで。
割と狭い範囲でしか行動して来なかった。
やっぱり魔物との遭遇を恐れてと言う事と、もう一つ別に理由があった。
実の所、一度だけ洞窟の周辺から離れて探索した事が在ったのだ。
その時の俺は洞窟から東に真っ直ぐに、森の中を進んでたのだけれど、ある境目から俺の足はぴたりと止まり、それ以上先に進む事が出来なかった。
あの時の事が正しく、本能的が理解するという奴なのだろう。
先に進むために振り上げた足を地に付ける寸前に、身体中に悪寒が走り抜けて、この足を下した瞬間に俺は死ぬ。そう脳が理解を占めして進むために前に出した足を直ぐに後ろに引っ込めたのだった。
そのままヨロヨロと数歩下がって俺は、いつの間にか忘れていた呼吸を荒く取り戻し、進もうとした先を見る。
その先は、何の境界線も無い。
ただ、いつもの森と変わらずに木々と雑草が茂る森が広がるばかり。
けれど、俺には予感・・・いや、確信と言って良いほどに自信があった。
この先には、この森の絶対なる君主である―――龍がいる、と。
その後は、身体にべっとりと纏わり付く様な死の恐怖から急いでその場から洞窟へと逃走した。
洞窟へ逃げ帰った後も、暫くはその時の恐怖が忘れられなくて、洞窟か外に出る気持ちにはなれず。
数日の間は洞窟内でおとなしく引きこもり生活していた。
そんな出来事が在ってから、俺の冒険心はベッキリと折れたのか。
あの恐怖から解放されて今も、洞窟の周辺以外に足を向けようという考えは起きずにいたのだ。
しかし、今の俺が抱える問題を解決する為にも行動する事が必要だ。
それに、あの恐怖を感じた場所の先に龍が存在するならば、この洞窟が在る場所は図鑑に記されていた2層と云う事に成る。
つまりは、龍が居るであろう東方面とは逆の西方面に進めば、図鑑の3層にたどり着くと言う事だ。
3層には毒や擬態能力を持つ凶悪な魔物が生息すると書いてはいたが、あの圧倒的なまでの威圧を放つ龍と比べれば、余り怖くは無い。
・・怖くは無いが、無策で突っ込んで行って無事に戻って来れる等とは思ってはいない。
それなり準備は、しっかりと済ませているのだ。
その際に大いに活躍したのが、意外にも【土魔法】だ。
【土魔法】と言えばイメージするのが、土壁を創り出したり、地面をへこませたり、等の少し地味な物ばかりだが、実際に使ってみるとそうでは無い事が解った。
確かに、土に関するコントロールを行う事が出来て、俺も落とし穴造りには重宝した。
――だが、【土魔法】の真価はそんなちゃちな事では無い。
なんと【土魔法】は何も無い虚空に岩を創り出す事が出来るのだ。
は?と疑問に思う人が多いかも知れない。最初は俺も同じ様に思った。
【水魔法】で水気の無い場所から水を。
【火魔法】で火の気のない場所から火を。
【風魔法】で風の吹かない場所で風を。
それぞれの属性に適した物を、魔力を消費して産み出す事が出来るのだから【土魔法】で岩を創り出しても、
だけど、俺はふっと考えた。
――岩とは鉱物の集合体だ。
ならば、【土魔法】は鉱物を創り出す事が出来る魔法と言う事に成るのではないか?と閃きが【土魔法】で創り出した岩を手にした瞬間に沸いたのだ。
色々と試行してみた結果は、【土魔法】で鉱物を創り出す事が可能であると言う事が解った。
――ただし、何も無制限に鉱物を創り出せる訳では無かった。
単一の鉱物を創り出すには、通常に岩を創り出す時よりも何倍もの魔力が掛かり、創り出せる鉱物の種類も限りがある。
【土魔法】で試している内にスキルのレベルが上がり、その事で上がる前より創り出せる鉱物の種類が増えたので、そこはスキルレベルに依存しているのだろう。
それと、これは全ての魔法に共通する事だが、何か魔法で創り出している時に魔力を切るとその物が消えてしまうのだ。
つまりは、魔法で物を創り出す時に最低ラインが在り。
その基準を超えないで魔力が枯渇か自ら意志で止めると、あと少しで出来上がる物でもあっても全部無かった事に成る。
当然、魔力も戻って来ないので無駄になってしまう。
因みに、俺が転生したばかりの頃に魔法が使えなかった原因もこれ。
魔力が足りずに、基準値も満たせなかったので発動すらしなかった訳だ。
さて、そんなどうでも良い話は脇に置いておくとして、話を戻すと。
その基準値が最も高いのが、属性の魔法では【土魔法】で。
中でも単一の鉱物で金属類が一番高い上に、消費する魔力も馬鹿みたいに高い。
レベルが上がったエルフの俺が、途中の小指程の鉄を創り出しただけで魔力が枯渇しそうになる位に消費し、基準値に達して無いのでその鉄は光の粒子となって消えてしまった程にだ――その時の俺は、膝から崩れ落ちる程にショックを受けたな・・・
しかし!その事に対して俺は裏技的な抜け道も見つけてある。
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