8話

 さて、あのペシェスカの実を初めて食べた日から3ヶ月ほど経った。

 え?いきなり話が飛び過ぎ?


 ・・・いや、だってね。

 そんな日々、事件や事故が起きる訳ないじゃないですか~。

 物語の主人公じゃああるまいし。


 ・・・まぁ、でも全く何事も無かったって訳でも無いのだけどな。


 危険な生物が辺りをうろついて、摩訶不思議な植物が色々と生えている森に居るのだから、逆に何も無いのがおかしい位だ。


 しかし、死に直面するほど出来事は無かったという話で――あったら、今こうして無事でいる筈が無いのだけれど・・・


 この3ヶ月は、比較的に命の危険が無い様に安全を心掛けて行動していた。

 これまでの魔物と対峙した時の俺の動けなさや、森の動植物に対しての知識の少なさ等の反省を生かしてだ。


 知識は、【回帰の森 図鑑】の本で危険な物から優先的に記憶し、不足している部分はスキルの【鑑定】を駆使して何とか出来た。

 ただ、初めはそのスキルをうまく使えずに困ったりもしたのだけど、そこは修練を積み重ねた。


 修練の内容を具体的に言えば。


 意識を失うまでスキルを何度も行使して、起きたらペシェスカの実を食べ魔力を回復しつつ本を見て勉強して、回復し終えるとまたスキルを・・という繰り返しをした訳だ。


 魔法も同様の事をして、今なら簡単な魔法だとまともに使える様にはなった。


 今思い返すとかなりストイックな修練だった気はするが、この森の中でスキルや魔法が使える・使えないは自分の生死に大きく係わって来る問題な為に、妥協や手を抜く事は一切しなかった。――なので、殆どスキルと魔法を1ヶ月程度の短い日数で使える様になった。


 それで、森の知識を頭に叩き込み終えるて、スキルと魔法が使える様になると、次に自分自身のレベルを上げる事を考えた。


 と言っても、レベルを上げる為には魔物と戦う事が手っ取り早いのだけど。

 前回のあんなお粗末にも戦闘とも言えない事でしか、魔物との戦った経験が無いのだ。


 俺がスキルと魔法を使える様になったからと言って、正面切って戦える訳が無い。

 ――てか、そんな勇気も度胸もかけらほども持ち合わせてはいない。


 だから馬鹿正直な戦いは避けて、魔物を罠にかけて仕留める作戦を取る事にした。

 

 

 罠はシンプルに落とし穴を選択・・・するしかなかった。

 罠を作った事も、仕掛けたりした経験も知識も無い俺が、出来そうな罠がこれしか思い付かなかったからだ。


 仕掛けた場所は拠点となる洞窟周辺と、ペシェスカの実がなる樹の近くに何個か仕掛けた。

 

 洞窟周辺の罠は、偶然に魔物と遭遇して追われてしまったり、洞窟の近くに来ていた時に対処する為の防衛用に仕掛けた物で、本命はペシェスカの実が生る樹近くの罠だ。


 ペシェスカの実を好物にしている魔物が多いらしい事と、あの樹自体が生物を引き寄せる能力を持っているから、近くに罠を仕掛ければ魔物が罠に掛る確率も高くなると考えた。


 罠を仕掛けてから暫くして、初めて罠に掛った場所はペシェスカの実の樹の近くの物であったので俺の読みは見事に的中した。

 けれど、当然の事ながら最初から上手く言った訳では無い。


 罠に魔物が掛た様子が無いのはしょうがないとして、罠に掛った跡はあるが中に魔物が居ないなんて幾つも在った。――時には罠の穴が破壊されていて作り直さなければいけない罠もあったぐらいだ。


 そうして何度も試行を繰り返して十数回目の罠でようやく、またあの時のあの角の生えたウサギの魔物――《ブレイドラピッツ》が罠に掛っていたのだった。

 

 そうそう、話が変わるがそのブレイドラピッツの事。

 後に図鑑で調べた所。俺が偶然にも倒せたアイツは、まだ子供で角も円錐状で身体の大きさも大型犬程もあったのだけど。

 大人は角が剣の様に変わり、さら鋭く敵を切り裂く刃へと変化し、身体のサイズも更に大きくなり、2,3メートルほどの巨体に成長を遂げるらしい。


 もし、俺が遭遇していたのが大人の個体だったなら、あの時の運よく避けれていたけど、そんな事も出来ずに身体を真っ二つに割られてこの世からサヨウナラしていた事だろう。

 ――その想像をした時はマジで恐怖で身体が身震いして、一日洞窟の外に出るのを止めた事にした。


 閑話休題


 話を元に戻すと、罠に掛ったブレイドラピッツはまた子供の方で、前の倒した時のものと比べると一回りほど大きい気はするが、角はまだ円錐状であった。


 まあ、それもそのはず。

 仕掛けた落とし穴は、最大の物でも直径1メートル程の円状で、殆どが小さめな穴にしてある。――下手に大人のブレイドラピッツや他の大きいサイズの魔物が掛かっても対処に困るからだ。


 だが、かわりに穴の深さは5,6メートル程もあり、打ちどころが悪ければ死んでしまう深さだ。

 

 因みにこの穴は【土魔法】で掘った物で。

 どうやら魔法は、無から有を産み出すのは結構魔力を消費するけど、既に存在する物を対応する属性の魔法で操る分には、そこまで消費しない様だ。


 それでも一気にこの深さまでは魔力が足りずに掘り進む事が出来なかったけれど。

 そこはコツコツと頑張り、その甲斐があってか穴の内壁はかなり硬くなり、簡単に横穴を掘られて壊されたり、逃げられる心配は無い。


 従って、この穴に落ちた魔物は運悪く死んでしまうか、どこにも逃げられず穴の中に居るの2択しかない。


 初めて罠に掛った時のブレイドラピッツはまだ息は在ったけど、落下ダメージを受けて瀕死の状態だった。


 止めも簡単で、穴の上から大きめの岩を落として終了だった。


 それから俺は気長に魔物が罠に掛るのを待ち、魔物が罠に掛って居たら上から岩を落として止めを刺す行為を繰り返し続けた。


 あっ、あと魔物が罠に掛るまでの時間も無駄には出来ないので、他にレベルが上がる方法が無いか【ヒント】で調べたら、なんと筋トレ等でも僅かにレベルが上昇する事が解り、毎日筋トレを行う様にして。

 

 更に、偶然にも魔物と遭遇した時の事を考えて、前みたいにまともに動けないのは不味いから、学校の授業で習ったうろ覚えの空手ぽい動きもしていた。



 様々の行動でレベルや魔法とスキルを上げ続ける日々を送り、自己のステータスを高める事に集中した。


 今では俺のステータスはこんな感じに成った。


 『ステータス』

 『キャラ』名前【 】 種族【エルフ】 性別【女性】 レベル【Lv26】

 『スキル』

 【火魔法Ⅳ】【水魔法Ⅴ】【土魔法Ⅴ】【風魔法Ⅴ】【錬金術Ⅲ】

 【投擲Ⅳ】【短剣術Ⅱ】【体術Ⅲ】【魔力操作Ⅴ】【判別Ⅴ】

 【看破Ⅴ】【鑑定Ⅱ】【忍び足Ⅴ】【隠密Ⅰ】【索敵Ⅲ】

 『アビリティ』

 【ラフォール現共通言語】【魔法の才能】【錬金術の才能】

 【ヒント】


 

 レベルが26、この世界的に高いか低いのかは解らないけれど、この森ではまだまだ力不足な感じだ。――でも、レベルが上がった事で魔力が前よりも増えてより長い時間、スキルと魔法を行使する事が出来る様になったのだ。


 他にもスキルは軒並みレベルが上がり、その殆どがレベル5と成っている。

 どうやらレベル5以上にするに、そのスキルに対しての知識やアイテムなどが必要となって来るらしいので、森の中に居る今俺だと実質レベル5が最大みたいな物だ。


 殆どのスキルのレベルが現在でのレベル上限になりつつあるけど、まだ完全に使えこなせている気がしないのでここで慢心する事は無いと思う。

 寧ろ、新しいスキルが2つも増えてちゃんと使いこなせるのか不安なぐらいだ。


 因みにその2つのスキル【隠密】と【索敵】は。

 【忍び足】が移動時に音が出にくく成るスキルに対して、【隠密】は気配を隠して移動したり、その場に隠れたり出来るスキル。

 【索敵】がスキルのレベルで範囲が変わるのだけど、大体が自分を中心に円状に生き物が居るのか解るスキルだ。


 日々、森で罠を確認する時に隠れて移動したり、周囲の様子を窺ったりした事で習得できたのだと思う。


 とまあこういった具合なのだけど、この3ヶ月でステータス面は割と如何にかなりつつあるのだ。


 ・・・ではステータス面以外の事はと言うと、まあまあでぼちぼちな感じだ。


 食料に関しては、ペシェスカの実を多めに取って来てあるし、罠で潰した魔物をお肉も一応ある。【鑑定】と【判定】のスキルを使えば、どれが食べれるか分かるので、食用の草やきのこも少量だが取って来れているので、問題ない。


 拠点自体も【土魔法】を使い、ただの洞窟から隠れ家風の内装に改造もしているし。家具や道具も【錬金術】を使えば、市販の物よりも数段質が落ちるけど作る事が出来るのでそこそこ物は揃っている。


 一見すると中々良い暮らしをしている様にも見えるかも知れないが、そこまででも無いのだ。

 

 結局の所は森の中でのサバイバル。

 最近は、色々と不足している物が出始めている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る