6話

 あれから、俺はウサギの亡骸を背負って洞窟まで戻って来た。


 異世界での初の戦闘――アレを戦闘と呼んで良いのか少し疑問だが、とにかく俺の精神はクタクタに疲弊していた。

 

なので、ウサギと遭遇する前に考えていた木の実の事だが、今日はもう収穫するのは諦めた。


 あの状態で木に登って実を収穫する事なんて、無理だ。

 木の上で足を滑らせて落ちるのが目に見えている。


 ついでに帰りの荷物も、ウサギという大物が増えたのでこれ以上増えてもちゃんと持ち帰られるか怪しかった。

 

 どうせ、あの木の場所も把握している。別に後日で来て収穫すればも良い。

 取り敢えず、最初の落ちていた一個さえ在れば、食べる事が出来るのか調べる事は出来る。――だからその一個だけを麻袋に入れて、袋とウサギを合わせて背負い早々に帰宅した。


 道中はウサギが重すぎて何度も休憩を入れる羽目になったが、そこは運が良いことに他の魔物と遭遇する事無く無事に帰って来る事が出来た。


 ・・・真に運が良いなら、あの時に魔物と出会っていなかったし、スキルも問題なく使えたのかも知れない。というのは穿った考えなのだろう。


 兎にも角にも、今は無事に帰って来れただけ良しとしよう。


 それに今は木の実とかよりも確認したい事が出来た。


 それはウサギに止めを刺して、完全も死んだかを確かめている時の事であった。



 チリン、チリンっと2回ほど何処かで鈴の音が響いた気がしたのだ。


 音が聞こえ、俺は慌てて辺りを渡したが音の発生源らしき物は無く、その後に周辺で何かが起こった様子も無い。


 普段なら戦闘で高ぶった精神からの幻聴かと思い、直ぐにでも忘れる出来事なのだけど。


 ここが異世界で、あの神様が言っていた事を思い出して一つとある考えが浮かんだ。

 

 けれど、このウサギの他にも魔物が来るかもと思い、直ぐにはその事を確認する事は無かった。――なので、それを今確認する。


 「『ステータス』」


 前に見た時と同じ四角いウィンドウが俺の前に現れた。

 しかし、そこに書かれている内容は若干の変化が生じていた。


 「・・・あ、やっぱり。あの音はレベルアップの音か」

 

 俺が予想していた事は見事に的中していた。

 『ステータス』の変化とは、性別の横に新たにレベルと言う項目が増え、

【Lv3】と記されていた。

 

 「あの神様、レベルが在るって言ってたもんな」


 転生する前、神様は確かにそんな事を言っていた事を微かにだが記憶していた。


 お陰であの鈴の音が、ゲームのレベルアップの時に流れるファンファーレに似ている事に気付かされ、現在に至る。

 

 「あれ?でも、初めて見た時はレベルの項目なんて無かった・・・はず」


 あの時は、性別の項目に意識が集中していたので、少し記憶が朧気になるが。

 すぐ横に在るレベルを見逃すはずなど無い・・・と思う。


 「ショックだったからなぁ・・・」


 それ程までに、性別の変化はインパクトのある出来事であった。

 

 しかし、それでも『ステータス』に初めて目にした時にレベルの項目は無かった。

 

 けれど、今はその項目がしっかりと表示されていた。

 ――ただ疑問が残る。


 「何故、最初から無かったんだ?」

 

 レベルと言う物はゲームだと、要となる物の一つだ。

 そしてそれが、現実の物と成っている世界ではかなり重要とされるはず。

 

 レベルが上がれば、何かしらの恩恵が発生して『ステータス』には記されていないが、魔力や体力とか身体の能力が上昇するのがお決まりのパターン。

 

 レベルがどんどん上がれば、それだけ強くなると言う事だ。

 

 この世界でその説が通じるのか今の所は不明だが、上げといて損は無い。

 寧ろレベルと言う概念がある以上、何かしらは絶対に在ると予想に難くない。 


 故に、初めから『ステータス』にレベルの表記が無かったのは謎過ぎた。


 「んん~、あっ、【スキル】も増えてる」


 レベル表記の謎に頭を悩ませながらも、一通り自分の『ステータス』に目を通して確認していると、最初にステータスを見た時も“キャラ設定”時に選んだ覚えもない。

 新しスキルが1つだけ増えており、そこには【忍び足Ⅰ】と書かれていた。


 「多分、魔物に見つからないよう移動してたから、この【スキル】を習得――

 ああ!そうか」


 自信の言葉で脳裏に閃きが起き、レベル表記の謎が解ける。

 謎の答えは・・・


 「レベルが無かったんだ」


 あの時・・・転生したばかりの俺は、言うなればレベルが0だった。

 0=無いと仮定すれば、『ステータス』にレベルが表記されていなくても不思議では無い。

 

 今、レベルが『ステータス』に表記されている理由は俺が、お粗末ながらもあのウサギと戦闘を行い、最後にウサギに止めを刺したからだと予想ができる。

 

 その証拠に【忍び足Ⅰ】のスキルが習得できたのも、俺が森の中を物音を極力出さない様に注意したのと、他の生物に姿を見られない様に茂みの中を移動した。という行動の結果だと考えられるからだ。


 それに戦闘という行動や敵を倒す、などでレベルを上げる為の経験値が加算されるなんてゲームでは当たり前の事だ――てか、当たり前過ぎて分からなかったぐらいに。



 今まではゲームと現実は別、という考えは間違えでは無かった。

 ・・・けど、それは転生前の世界でのお話。


 スキルやレベルあるこの異世界では下手に別けて考え過ぎると、知っている事なのに無意識に除外してしまう可能性が在る――今回の様に。

 ゲームの知識は案外この世界で役に立つ問う事が今証明された今となっては、俺の認識を少し改めないと後々、マズい事が起きそうだ。


 「だからと言って、極端にゲーム的な行動だけすれば良いってもんじゃ無いだろうが・・・何事も程ほどが一番か」


 異世界に転生してから、まだ2日しか経っていないのに色々と考えさせられることが多い。


 「ゲームの攻略本とまでは言わないから、せめてヒント・ ・ ・くらい欲しいもんだ」


 と、俺はついつい愚痴を零す。


 その時、ピッポンと機械的な音が鳴り。


 開いたままにしていた『ステータス』に


 [【ヒント】を使用しますか? はい/いいえ ]

 と表記が現れた。


 「へぁ?」


 突然の出来事に随分と間の抜けた声が漏れ出る。


 【ヒント】それは“キャラ設定”際にだいぶお世話に成った『アビリティ』の名称だ。・・・たしか、『ステータス』を初めて開いた時も、ポイントが如何と表記してくれていたはず。


 それがなぜ今こうして出たのか?

 いや、考えるまでも無いか。


 先程、呟いた“ヒントが欲しい”という愚痴に、まるでスマホのAiサービスの如く反応したのだろう。


 「けど、【ヒント】を使用ってなんだ?もう既に使っているんじゃないのか?」


 また新しい謎に、もうお腹いっぱいの俺は辟易し、直ぐに謎を解く事をやめ。

 もう実際に使用して見ればいいかっと安直な考えに走る。


 例え何かが起こったとして、【ヒント】を使用した事で命を危険に晒す行為にまでは成らないと踏んで、俺は“はい”を選択した。


 すると、表記されていた文字が[知りたい【ヒント】を教えて下さい]と変化したために俺は「じゃ【ヒント】について」と答える。


 ポンっと再び機械音がなり、文字がまた変化を起こして【ヒント】が俺の問いの答えを出す。

 

 [【ヒント】のヒントを表記します。【ヒント】は物体や事象など様々な事柄のヒントを表記する事が出来る。音声による認識を搭載。]


 「へぇ~、てっきり“キャラ設定”だけでの物だとも思っていたが、何でもヒントを出してくれるのか・・・え?まじ」


 驚き、すぐさま俺は他の事も幾つか【ヒント】に質問してみるて分かった。

 当初、俺が考えていたよりも【ヒント】はかなり便利な代物で

 

 ――結果だけに先に言えば【ヒント】は神だった。

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