4話
俺はまず拠点となりそうな場所を探しに森の探索を始めた。
探索を始めた時は当初は、転生初日の様に上手くはいかないのだろう。と悪い方に予想していたのだが・・・その予想に反しての良い形で直ぐに結果が出たのだった。
魔物に遭遇しない様に草叢に隠れながら慎重に行動し、森を様子を調べながら移動中に小高い丘に成っている場所にたどり着き、その下に洞窟を発見するのであった。
見つけた時は驚きが在ったが、まだ洞窟の中や近くに魔物等の危険生物が居るか判ったものじゃ無かった為に、声を出さずに周囲の様子を探った。
しかし、周囲に変わった様子は無く、生き物が潜んでいる様子もなさそうだった。――ただ、洞窟の中は日の光が入っていなかったので、中の様子までは解らない。
なので俺は、ゆっくりと洞窟近くの茂みへと静かに移動し、どんなモノが出て来て良い様に逃走経路を確認し、それから近くに落ちてあった小石を拾い、勢いよく洞窟の中へと投げ込む。
カーン、カラカラ、と小石が何かにぶつかり転がった音が洞窟から響く。
しばらく茂みの向こうから、洞窟の様子を観察し続けるも変化が無かったので、俺は意を決して麻袋からナイフを取り出し、残りの物が入った麻袋をその茂みへと隠してから、余り音を立てない様にゆっくりと慎重に洞窟へと近づく。
もし魔物が出てきたらという不安からか、自然とナイフを握る手は強まり、身体は少し震えだす。
「・・・だ、大丈夫。俺ならやれるはず・・」
そう、小声で俺自身を鼓舞してから持てる勇気を振り絞り、俺は口の中に溜った唾液をゴクリと呑み込んで、そっと洞窟の入り口から顔を覗かせて中を確かめてみる。
「・・・・な、何も居ない?」
先程までの自分が道化のように思えてくるほどに洞窟の内部は静かで生物が居た痕跡も無かった。
――それ以前に、この洞窟は洞窟と呼べるほどに深くは無かった。
精々、横穴程度の奥行きのあまり無いものであった。
しかし、小柄になってしまった今の俺ならば十分に横になって寝る事が出来る広さではある。
「・・・蜘蛛や蛇とかも居ないみたいだし、ここを拠点にするか」
改めて洞窟内を隈なく調べて、魔物の他に危険な生物が住み着いていない事を確かめた俺は、この洞窟を拠点にする事に決めた。
◇◆◇
拠点となる場所が早々に決り、少しは心にゆとりが戻って来た。
けれど、今の俺に安堵し休んでいる暇など無い。
茂みに隠していた麻袋を洞窟内へと持って来て、その中身を広げて確認する。
「【回帰の森 図鑑】が一冊と、【初級錬金術セット】の、白い陶器の空瓶が4つに乳鉢が1つ、それと小冊子・・・後は、ナイフと【食糧(保存食)】の石パン7個と、ゴム肉が2個・・・と昨日の残りの半分だけか」
洞窟の地面に広げた(食べ物だけは一応、綺麗な葉っぱを下に敷いている)
それらの物を改めて確認した俺は、この後の行動を悩んでいた。
「やっぱ、食糧が少ない・・・食事の回数を少なくしても良いんだけど、いざという時に空腹で動けなくなるのは不味いか。・・・でも、折角拠点が出来たし、火も欲しいんだよなぁ」
前の計画では食料を探しに行こうとは考えていた。
ただ、予測していたよりも早めにこの洞窟を見つけて拠点とした為に、探索開始から然程時間が経ってはいなかった。
だから、俺はここで火を熾しても良いのではという選択が頭に浮かんだのだ。
火が在れば、夜になっても明るい上に暖も取れる。
野生の動物ならば、火を見れば怖がり近づかない。
魔物にも、火の付いた棒でも振り回せばそれなりの効果はあるだろ。
火には色々と利用価値が在るのだが――現在だと一つだけ難点がある。
それはすぐに火を熾す事が出来ないと言う事だ。
現代において、火とは100円ライターやマッチなどでお手軽に起こす事が出来るものだが、この何の道具も無い今の状況ではかなり難しい。
石を打ち付けて火花を出して火を熾すやり方は、それ用の石でないと火花が起き難く、木を擦り合わせて熾すやり方は、体力と時間それに根気を要する。
――と、死ぬ前の課外授業のキャンプで習い、実践までした事があるので知っていた。
え?火はそれで熾せたのか?って。
無理だよ、ムリ。
その時は、火打石と弓式の2つを試させて貰ったんだけど。
火打石は火花が少し出たが、上手に火種にする事が出来なくって。
弓式は、煙までしか出ないで終わる始末。
しかも、その熾した火でご飯の用意をする予定だったから、時間が足りずに学年主任の先生が横からチャッカマンで火を付けて強制終了。
あの時の学年主任の少し投げやりな「はい、お疲れ~」の言葉にはイラっとした。
たぶん、時間内に火が熾せない事をあの学年主任は知っていた。
ほぼ毎年恒例の行事だし、長年あの学校に勤めている先生なら既に何回か経験済みだ。
で、多くの生徒が失敗している場面を目撃しているのだろうから、今回の俺たちもそうなる事を予期していたので、チャッカマンで次々に火を付けて行ったのだ。
失敗する事が解っていながらやらせる授業って・・・
まぁ、お陰でこうして火を熾す大変さを身に染みて知っているのだけど。
っと、いけない話がずれてた。
えー確か・・・そう、火を熾すのは大変だって話だった。
先程の通り、火を熾すための道具は何一つ持ち合わせていない俺がゼロから火を熾すのには、長い時間が掛かると予想できる。
日が落ちて手元が暗い中での火熾しなんて、一回しか試しにやった事が無くて、それも失敗で終わった俺に出来る筈は無い。
出来れば、未だ日が高く昇っている内に近場で道具に成りそうな物を集め、直ぐにでも火熾しにチャレンジしたい所だ。
「う~ん、でも火熾しが絶対に成功するから分からんし。水や食料も大事だよな・・・」
サバイバル生活ではどちらも重要で、早めに手に入れて置きたい物であった為、この選択は悩ましかった。
「くぅ、本当なら魔法の『スキル』を使って、お手軽に火を熾したり、水を造り出したり出来れば、簡単だったのに・・・」
ついつい、意味だ未練が残る魔法の事を口走るが、此処で呻いた処で使える様になる訳でも無かった。
「・・・ふぅ、出来ない事を言っても埒が明かないし――よし、火熾しメインでついでに周囲の確認をして、食べれそうな物が在ったら持って来よう!」
再び暗い気持ちに成りかけていた自分に気が付き、軽く頭を振り思考を切り替えて、次の行動を決断する。
暗い気持ちで生活すると、どこかでミスをする可能性が在るという話を聞いた事が在った。
その話が本当かどうかはさておき。今は、森の中でのサバイバル生活の真っ最中だ。
そんな最中に、ミスをする事は命を危険に晒すのも同義である。
魔物と言う凶暴な生物もこの森に居る事だし、注意力が散漫になる事は出来るだけ避けなけれならない。
だから、今だけは失敗した事には深く考えない様にしようと、今日起きてから心の中で決めていた。――決してこの後、また失敗しても良い様に予防線を張った訳では無い。
いや、ホントだよ。
オレ、ウソツカナイ。
・・・転生してからまだ、二日しか経っていないのだが、なんだか精神が不安定になりつつあるな。
「はぁ、さっさと行こ」
俺は小さく呟き、空の麻袋に護身用兼採取用にナイフと水源を見つけ、水を持ってくる用に空の白い陶器の瓶を一つ入れると洞窟から出る。
◇◆◇
洞窟を出た俺は、身の安全の為に再び茂みに隠れ、乾いている枝木を見つければ、拾い麻袋へと仕舞い、洞窟の周辺が如何なっているのか、魔物が近くに生息していないのか、とかをしっかりと調べながら移動をしていた。
「他になんか無いかなぁ・・・ん?あれは・・・」
キョロキョロと茂みの中から周囲の様子を探っていると、地面に白い何かが落ちている事に気が付いた。
俺は、辺りに生き物がいないか軽く確認すると、その落ちている白い何かに近づき拾い上げる。
「これは?・・・桃なのか?」
それは見た目が真っ白い桃であった。
「まぁ見た目が桃っぽいだけで、別の実なのかも知れないけど・・・でもどうしてここに?」
その疑問の答えはすぐに見つかった。
白い桃っぽい実が落ちていた場所から程遠くない場所に、同じく白い樹皮の大きな木を見つけると、俺はまるで吸い寄せられるかの様に、その白い木に近づき見上げた。
するとそこには、手に持った白い桃っぽい実が何個もたわわに実っていたのだった。
「なるほど、風でも吹いて木がしなって実が飛ばされてあそこに落ちたと」
一人で推測し、納得する。
何かむなしさを感じはするが、今はそこを気にするより。
「・・・これ、食べれるのか?」
手に持つこちらの方が重要だ。
見た目は完全に桃そっくりだが、食用なのか解らない。
キノコは勿論の事だが、木の実も偶に口にしてはいけない毒性を持つ種類がある。しかも、そういった種類に限り、似た食用の物も在るから困る。
時折、プロでも瞬間的には判断できなかったりすると聞く。
そんな物を素人が勝手に判断して食べ、病院へ搬送されるニュースは何度も見た。
けれど、この手に持つ実がも食用可の物であるなら、食糧問題が軽減される。
眼に前の白い木には、かなりの数の実を実らせているのだから。
「図鑑を持って来なかったのは痛いな」
あの【回帰の森 図鑑】の長い正式タイトル通り、植物に付いての記載もされていたので、この実が食用なのか違うのか調べる事が出来たのかも知れない。
「無い物は仕方ない。・・とりあえず、何個か収穫して洞窟で確認してから食べる事にしよ」
そう決めた俺は、実を取る為に白い木に近づくと。
ガッサ
「ッ!?」
突如、後ろの茂みから物音が聞こえ俺は驚く。
少しばかり木の実に意識が囚われ過ぎていた様で、周囲の警戒を怠っていた。
つい先ほど、“魔物と言う凶暴な生物もこの森に居る事だし、注意力が散漫になる事は出来るだけ避けなけれならない”っと自分で考えていたのにこの様である。
俺は穴が在ったら入りたい気持ちでいっぱいになるが、茂みの中の者はそんな俺の気持ちにお構いなしに茂みの中から飛び出して来る。
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