1、始まりは、おかしくても大丈夫?
1話
目が醒めるとそこは森の中だった。
辺りを見渡すが、見覚えは無い。
あれ、俺は何でこんな森で寝ていたんだ?
「・・・あ」
そうだ、事故で死んで転生したんだ。
寝ぼけていた脳が活動を開始し、映像がフラッシュバックの様に流れた。
バスの事故の後、気が付くと不思議な真っ白な空間で神様と名乗る声を聴き。
何故か、事故に遭った俺たちが異世界に転生する事に成り、その際に特典として“キャラ設定”した。
――ただその“キャラ設定”はかなり罠が仕組まれた、酷い仕様の物だった。
けれど俺は、何とかその事とに気が付いてある程度の罠を回避する事が出来た。
――のだけど、“キャラ設定”の内容を良い物にする為には、少なからずデメリットを背負う必要が在って
それで俺は・・・
「ああ、だから森の中に居るのか」
記憶をたどる事で、眠っていた意識をよりはっきりとさせ、俺は今置かれている状況をしっかりと理解する。
この森は、回帰の森と呼ばれる場所だ。
一度入ったらが最後、二度とこの地から出た者は存在しない(神様調べ)――魔境だ。
森の四方を標高の高い山脈が囲い、その山脈には空を飛ぶワイバーンや巨大で怪力なギガントと呼ばれる巨人型の魔物が生息している為にこの森に入るのは並の者だとまず不可能。
森の内部も、円状に4層に分ける事ができて。
一番外側の森の外縁部の第4層は、山脈の魔物とタメを張れる程に強力で俊敏な獣型の魔物(肉食)が闊歩している。
外縁部から次の層の第3層は、4層の魔物と比べると力や俊敏さは然程無いのだが、極めて凶悪な毒素を体液や身体の一部に持っていたり、辺りの風景と同化出来る程の擬態能力を持つ等、特殊な能力を秘めた魔物が存在する(もちろん肉食)。
続いて第2層の解説に行きたいのだが。
実の所、この層がこの回帰の森で安全な層なのだ。
出てくる魔物も、3,4層の魔物と比べると凶暴な性格では無く、寧ろ穏やかで、凶悪な能力も無い。(襲えば反撃はするし、下手になわばりを荒らしても同様なので、絶対安全ではない)
原因はもちろん、森の中心部である第1層にある。
中心部の第1層に存在する魔物は、一匹だけ。
その一匹を除いて他の魔物は存在せず――その一匹が他を存在する事を許さない。孤高にして、絶対なる強者。
それは――龍。
この異世界に置いて神と言う絶対の存在を除く、パワーバランスの頂点に君臨するのが、龍だ。
ただ、その中心部にいる龍がどんな姿で、どんな能力を持つのか解っていない。
何故ならば、龍が居る
例え逃げても、この森を抜け切る前に必ず見つけ出し、その者を屍へと還るのだ。
中心部を犯す者には絶対の死を。――まるでそんな風プログラムされた機械の様に慈悲や例外は無く、全ての侵入者に等しく死を与えている。
そんな圧倒的な存在が中心部には居る。
しかし、その龍のお陰で第2層は比較的に平和となっている。
気配の察知能力が優れた獣型の魔物は中心部から漏れ出る龍の気配に本能的に危機感を覚え、森の奥へと入り込もうとは思う魔物はいない。
擬態能力の優れた魔物も同様に奥へとは近付きたくもないらしく、毒素を出す魔物はその毒素が空気中を漂い中心部に少しでも入り込めば、その種族全て根絶やしにする勢いで龍が怒り狂う――と言うか、以前それが起きて一つ種の魔物がこの森から消えたらしい。
ので、中心部の近くの第2層には絶対に近寄る事は無い。
故に、第2層には凶暴な魔物や擬態や毒素を持つ凶悪な魔物が近寄って来る事は無いので、割と安全だという話だ。
え?何でこんなに詳しいのかだって?
ただ、そう本に書かれていたからだ。
【回帰の森~生物・植物の解析、及び生息域分布の図鑑 ルアド著】と拍子に書かれて緑色の分厚い本が俺の手には収まっている。
これは“キャラ設定”の『アイテム』の項目に有った物――【回帰の森 図鑑】としか表記されてはいなかったが、『転移先』をここに決めた時に一緒に選択していた。
・・・そう。この危険極まりない魔物が生息する、回帰の森を俺は自分自身の意思で『転生先』へと決めたのだ。
これには理由が2つある。
1つ目は、危険過ぎる森なので、設定に使えるポイントが増加する、デメリットの分類だったから。
2つ目が、この森の説明文ですら“超絶危険地帯”と書かれていて、俺以外の他の転生者が選択する筈がないと予想したからだ。
で、案の定、辺りを見回しても人影は見当たらず、太くて背の高い木々に緑色草や葉が生い茂っているばかりだ。
「ふぅ~これで、この回帰の森に居る限りは、他の転生者に遭わないはずだ」
同じ場所に転生する人の転生位置が別々だと解らないが。
あの神様が一人一人疎らになる様にとか面倒くさい事をしそうな神様では無かったから、それは多分無いだろう。
なので、予てより懸念していた、異世界に来た事で暴走やヤバい爆弾を抱えたクラスメートと一緒に行動する可能性はなくなった。
転生して早々に、巻き込まれて死ぬとか勘弁だ。
「だからと言って、この森が安全とも言えないが・・・」
なんせ、この森を『転移先』に選ぶだけでポイントが630も増加した。
寿命が減る腕輪と同等の高い加算値だ。
つまりは、それほど命が危険にさらされる場所と言う事。
それに加えて、手元のこの本のお陰でこの森の危険度が非常に高いのは十分に解る。
「――けど、その分しっかりと“キャラ設定”が出来たし・・・あっと、そうそう確か『ステータス』」
あの神様が、転生したら『ステータス』を確認した方が良いと言っていた事を思い出し、ついでに確認してみる事にした。
『ステータス』
[ヒント:初回のみキャラ設定で取得した物の各消費ポイントと総消費ポイント、並びに加算ポイントが表記されます。]
『キャラ』 名前【 】 種族【エルフ】 性別【女性】
『スキル』
【火魔法Ⅳ】[80]【水魔法Ⅳ】[80]【土魔法Ⅲ】[40]
【風魔法Ⅲ】[40]【錬金術Ⅰ】[100]【投擲Ⅰ】[5]
【短剣術Ⅰ】[5]【体術Ⅰ】[10]【魔力操作Ⅰ】[10]
【判別Ⅴ】[80]【看破Ⅴ】[80]【鑑定Ⅰ】[100]
『アビリティ』
【ラフォール現共通言語】【魔法の才能】[10]【錬金術の才能】[20]
【ヒント】[40]
『アイテム』
【平凡な服】【丈夫な麻袋】[5]【回帰の森 図鑑】[10]
【初級錬金術セット】[15]【食料(保存食)】[10]【ナイフ】[5]
[加算ポイント]
[『キャラ』【神様の気まぐれランダム設定!】+20]
[『転移先』【回帰の森】+630]
[総消費ポイント 745 残5]
俺の言葉に反応して、あの白い空間で“キャラ設定”の時に現れたウィンドウに似た物が目の前に表示された。
“キャラ設定”との違いは、選択する項目と自身の姿の写真が無いだけだ。
そしてその『ステータス』に映し出されているのは
そう、
「ふぅ~」
俺は軽く、肺から息を吐きだした。
うん。
解っていたよ。
胸の辺りに、まあまあな山が出来上がっていたし。
声はなんか高くなって、可愛らしいボイスへと変貌していたし。
下半身からは逆に物足りなくなったなぁと感じていたけどね。
目の前にチラチラ写る長い金髪や、転生前より身長が低くなぁ~とか。
転生前の小学生の頃、名前が
――って、コレは違うか。
取り敢えず、まぁ、転生後の身体にかなりの違和感を感じてはいた。
ただね、ちょ~っとばかし現実が受け入れられない――と言うか、転生したばかりで身体の感覚が狂っているだけだと想い込みたい気分ではいた。
でも、『ステータス』の表記は嘘を吐かない。・・・はず。
いや今だけ、嘘や誤表記でしたとかで良いんだよ?
変化は・・・無いね。うん、ですよね。
あはははは
「・・・おれ、おんなになっとるぅぅぅうう!!」
普段は静かで穏やかな、日の木漏れ日が辺りを照らす幻想的な森に。
突如、俺の奇声が遠く響き渡るのであった。
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