第4話

 俺と同じく転生するクラスメートの事だ。


 彼らがどんな考えでキャラ設定をして、異世界でどういう立ち振る舞いをするのか未知数だ。


 “キャラ設定”の落とし穴に気付いて回避できる人もいれば、残念な構成をしてどうしょうも無くなる人もいるだろう。

 残念な人はまだいいが。――デメリットを背負い込んだ奴がかなり危険だ。


 本にだけのデメリットだけならましだが、周りに被害を及ぼすデメリットも何個かある。あの【死滅の魔剣 デス】も近くにいて振られれば対象とみなされる可能性があるのだから。


 自分の所為で死ぬのならまだ納得が出来るけど、誰かのデメリットの所為で死ぬなんてまっぴらごめんだ。

 

 それにこの手の物語だと、異世界に転生してしばらくすると性格が豹変する奴が出てくる。

 大体がその豹変した奴が問題を起こして、そのしわ寄せが俺を含む他の人に降り掛かるんだよ。


 しかも、前者のデメリット無しだと死ぬ前と同じ姿だから、一発で俺だと他の転生者には解ってしまうだろ。


 クラスメートにいじめを受けていた覚えも無いし、恨みを買う様な事もしてないけど。

 同じ転生者として一緒に行動しよう!とか言われるとマズい。

 だって、そいつがデメリット持ってるかも知れないし、豹変する奴かも知れない。

 拒絶して、反感を抱かれるのも余り宜しくない。


 今の俺の中では魔物より、同じ転生者の方がよっぽど怖い存在だ。

 人間不信と言われようが、別に良い。


 2度目のチャンス転生が必ずある保証は無い。

 ゲームや物語と違って、現実は死んだら終わりだからな。

 

 ・・・よし、決めた。

 例えデメリットを背負う事に成っても、しっかりとした構成のキャラ設定で異世界を生き抜く。

 

 ついでに異世界での生きていく指針として、世界を救う英雄とか、美女・美少女に囲まれたハーレムとか、大それた事を考えず、悪目立ちしそうな行動はしない。関わらない。不用意に転生者らしき人物には近づかない。

 

 俺は、元の世界で出来なかった“普通”を目指す。

 

 そう強く心に決めてキャラ設定の全ての選択を終えた。




 「は~い、決まったかな?決まって無くても、時間だから異世界に送っちゃうね!」

 

 俺が設定を終えて、間を待たずに再びあの神様の声が聞えて来た。

 

 結構、時間ギリギリだったみたいだ。

 一応、2度確認して設定したから間違えはないはず・・・


 「皆、なかなか面白いキャラ設定だね!」


 どうやら、あの神様には俺たちがどんなキャラ設定をしたのか観えているみたいで、楽しそうな声で喋っている。


 「うん?あぁ、だめだよ~ポイントがマイナスのままじゃないか!」


 ・・・はあ!?マイナスとかも有ったのかよ!


 「も~、そんな君たちにはボクからとびっきり・ ・ ・ ・ ・のモノをプレゼントしてあげるヨ!!」


 うわ、絶対凶悪なデメリットに違いない。

 自業自得だから同情も出来ないが・・・余計、同じ転生者には遭遇したくは無くなったな。


 「プレゼントの内容は転生後のお楽しみにね!『ステータス』て言えば確かめられるから、他の皆も転生後はしっかりと確認して措くといいよ!」


 ありがたいが、そこら辺はゲームぽいな。


 「あとは~うん、問題なさそうだね!――ではでは、お待ちかねの転生と行こうか!でも、一瞬で終わるから余韻とか全く無いけどね~」


 次の瞬間、視界が光に包まれたように真っ白に染め上げられ、意識も眠りに落ちる時みたいに徐々に薄れていく。


 「じゃ、楽しい異世界ライフが送れよう、ボクは願っているよ!!」


 そんな、のんきで無責任なあの神様のセリフが聞こえると、俺の意識はテレビを消したように、ぷつんと途切れた。



 ◆◇◆◇◆

 

 「ふぅ、無事送れたかぁ・・・」


 先ほどまで、この真っ白な空間に漂っていた魂は、なんとか全てラフォールの地へと転生させる事が出来た。


 「けど、コレはなかなかにヒドイ物ばかりだねぇ~」


 ボクの手元には先ほどまで居た魂だけの彼らが、必死になって選択し続けていた“キャラ設定”のウィンドが在った。


 そこには、説明不足や敢えて内容を伏せてた物がずらりと並んでいる。


 「ふぅ~“あの子達”も、そんなに彼らの事を毛嫌いしなくてもいいのに。」


 この“キャラ設定”の内容は、ボク一人で考えたものでは無い。

 複数の者の意見や考えを反映して出来た物。


 決して、“ボク一人で考えるのがめんどくさかった”などでは無い。

 

 結果、若干の落とし穴が出来てしまったり。後々、命に危険が及びそうな物が並んでしまった。


 「う~まぁ、神様は人に試練を与えるものだし。いいか~」

 

 あくまで他人事。

 哀れな、魂に少しばかりの救済として新たな地で転生させる。と言う祝福を施した。

 ――けれど、産まれたばかりの赤子の様に、甲斐甲斐しく全ての世話を焼く道理は無い。


 「それに、ちゃんとボクの救済策の【ヒント】に気が付いた子も居たみたいだし、全滅はなさそう。」


 勿論、祝福を送った者たちがすぐさまに死を迎えてしまっては、祝福の意味が無い。


 そこで一つだけ用意した、【ヒント】は不足している情報を少し教える程度の物ではあったが、何も判らない手探りで“キャラ設定”を行うよりずっといい物に仕上がる状態にはしたのであった。


 そこに気付けるかは、その者次第なのだが。


 仮に気が付かずとも、余り欲張らずに無難な物だけを選択すれば、本人の努力次第で新たな世界でも十分に生きていく事は可能だ。

 

 逆に欲を張り過ぎた者たちは、等しく受難がこの先に待ち構えている事であろう。


 「んん?何、この子?」


 先ほどはざっと問題が無いか確かめるだけで終えていた、彼らの“キャラ設定”の内容を写した物を改めて見直していると、1人だけ気になる内容の子がいた。


 「おかしいなぁ?ちゃんと一番初めに【ヒント】を選んでいるのに、何でコレを選択したのかなぁ?」


 この“キャラ設定”に使う為に用意した100ポイントは少し低めので、マイナス要素を取る事でポイントを増加する事が可能なシステムを積んではいる。

 上手く使えば、マイナスを大きく上回る事も出来たりする。

 けれど、そこで欲を張った者たちは凄惨な未来しか待ち受けていなのだ。


 しかし、その気になる子は少しばかり様子が違う。

 

 馬鹿みたいに欲張っているのかと問われれば、そうでは無く。

 必要そうな物を限界ギリギリまで取った結果、マイナス要素を2つ取る事に成ってしまった、そんな構築の仕方だ。


 「一つはボクが用意したお遊び・・・・の物――これは、加算ポイントが少なめだから、足が出たからその補填かな?」


 “キャラ設定”の内容を決める際、唐突に想い付いた物。

 それ故に加算ポイントも低くく、マイナス要素も低いが少し個人差が出てしまうので加算されるポイントに見合っているのか、判断し難い物ではある。


 「で、もう一つが・・・自殺願望者なのかな?それとも単なるバカなのかなぁ」

 

 マイナス要素の中には、死の危険が在る凶悪な物も存在した。

 ――その子が選んだ物もまさしく死の危険がある類いの物。


 わざわざ、そう言った死の危険を回避出来るように用意した【ヒント】をその者は取得しているのにも拘らず、自らの意思で危険を選んだのだ。


 危険度が高いほど加算されるポイントが高くなる様に仕組まれている。

 今回のも【ヒント】である程度の内容を理解している者ならマイナス要素を選ぶにしても、もう少し安全な物を2,3個取れば済む程度の加算量なのにその子は、ソレを選んだのだ。


 「ふふ、面白い子も居たねぇ~。もしかするとこの子が・・・いや、この先の展開を考えちゃうと楽しさ半減だしね!」


 と言葉で言いつつも、この先の未来で起きるであろう愉快な出来事を想像する事はやめらず、自然と口から笑いが零れる。


 「あいつが居なくなって結構な時間が経ったけど・・・やっと、おも・・素敵な事が起きそうだよ」


 その呟きを最後に白の空間には誰も居なくなり、空間自体も役目を終えて何も存在しない無へと還るのあった。

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