電話


 丑三つ時。古いアパート。中々寝付けない男は部屋でのんびりとテレビを見ていた。ソファに腰をかけ、ウィスキーをちびちびと飲んでいる。


 男の隣に置かれたスマートフォンが鳴ったのは、番組のCMに入ったタイミングだった。


 端末を手に取り、画面を確かめる。電話だった。


 男はその番号を目で辿っていく。すると、血の気が引いていくのが自分でも分かった。右手からウィスキーグラスが滑り落ちたが、それどころではなかった。


 その番号、男が今いる部屋に繋がれた固定電話機からのものだった。それは男のすぐ後ろに設置されている。


 電話は未だ鳴り止まない。もう一度改めて番号を確認しても、間違いなく今男のいる部屋からのもの。そこからかけない限り、スマートフォンの画面の数字は表示されないはずなのだ。部屋には男しかいないので、つまるところ男の背後に何者かがいるのだ。


 男は振り向こうとしたが、体が動かない。金縛りとかではなく、単純に恐怖で固まっていたのだ。代わりに男は深呼吸をし、意を決して画面の応答ボタンに指を触れさせた。


『出ていけ』


 その声の正体は、かつて男に殺されたこの部屋の本当の住人であった。

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