私たちは血の糸で繋がっている。
生まれてきて何一つ良いことなんてなかった私だけど、今日だけは純粋な笑顔で、産まれてくる赤ちゃんたちを迎えれそうだった。赤ちゃんたちというのは、私のお腹の中には男の子と女の子の双子がいるのだ。
二人だけが私の唯一の生き甲斐だった。二人の父親は、私を孕ませた後に他の女を作って姿を消した。
私の両親も既に他界している。私が小学四年生の時に家族三人で心中を図ったのだが、不幸にも私だけが生き残ってしまったのだ。私は神を恨んだ。どうして私だけ死なせてくれなかったのか。おかげで、孤独でゴミのような人生を歩むことになった。何回も自殺を試みたが、上手く死ねなかった。生きる意味なんて見出せなかった。
だが、ようやくその意味が分かった気がする。多分、私はこの子たちのために産まれてきたのだ。名前も経歴も不明な何処の馬の骨かも知らない男の血が混ざっていようとも、私はこの子たちのお母さんに変わりない。私は初めて幸福感で満たされていた。
私の両親も同じ心境だったのだろうか。ふと、そんなことを思った。私が産まれて大人に近づいていくと共に入った家族の亀裂は両親の死を導いてしまったが、私がこの世に誕生する瞬間は紛れもない幸せに包まれていたのではないだろうか。お母さん、お父さんは今の私のように笑顔で産まれてくる赤ちゃんを迎えたのではないか。
そう思ってしまうほど、私は今たまらなく嬉しくて涙が止まらないのだ。
六月十一日。元気な双子が大声で泣きながら世界の光を浴びた。
事の異変は重大だと昌弘と祥子は混乱した。死んだはずなのに意識があるのだ。一瞬、自殺は失敗して生き延びたのかと考えたが、状況からしてそうではないと判断がついた。自分の体は簡単に潰れてしまうのではないかと心配になるくらい小さくなっていて、隣で娘の千紗が安らかに眠っている。その表情は昌弘と祥子の知っている子供の頃のではなく、十歳くらい大人びた顔立ちに変貌していた。
その現実に直面すると、二人はこの不思議な出来事をどう解釈したものかと頭を悩ませた。それからほぼ同時に昌弘と祥子は妻、夫はどうなったのだろうと各々疑問を持った。そして、また同じタイミングで二人はもう一人の赤ん坊の存在を思い出していた。
昌弘と祥子は悟る。双子の片割れの人格も、かつて愛した人に違いないと。娘の元に産まれ、再び家族三人揃ろう日が訪れたのだ。
何故、こうなってしまったのか。昌弘と祥子はこれを神様に与えられたチャンスだと思った。前世で道を踏み外してしまった我々にもう一度、家族を愛する機会をくれたのだと。
昌弘と祥子は誓う。もう二度と千紗を不幸にさせないと。
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