スーパーハッカー
とある北の国が遠隔ミサイルを日本列島に目掛け発射することが、テレビのニュースで緊急報道された。予想されるミサイルの爆風範囲は関東圏全般だと述べられているが、中部、近畿にも十分被害が被る可能性はあるとも言われていた。
大変だ。
僕は中学の夏休みの宿題に取り組んでいたが、それどころではなくなった。僕は慌てて最近買ってもらったスマートフォンでSNSを開き、世間の声を確かめた。
『マジw戦争勃発じゃんw』
『え、これドッキリかなにかでしょ?』
『まあ、日本はクソ国だから滅んでも仕方ないけど』
『知らね。FPSしよ』
『うち東京やからヤバイ!!!早く逃げな!』
『石垣島に住む俺はどうすれば.......』
『╰⋃╯』
『どうせ中断されるだろ。みんなビビりすぎw』
『この状況でち〇こ書いているやついて草www』
『神奈川に夫が単身赴任してます。こんなことで家族が失うのは嫌です。安倍さん、何とかしてください』
『誰か何とかして!!!』
『日本を救ってくれ!』
『こんな時にヒーローがいればな』
案の定、ネットでは色々な意味で騒がれていた。助けを求めるものもいれば、こうなって当然だという在日韓国人までいる。だが、大半はミサイルに怯える人たちで、ヒーローとなるものを待っていた。東京に住む僕もその中の一人だった。
どうしよう。お母さんに連絡した方がいいかな。
あ、でもその前におばあちゃんにこのこと教えなきゃ。
僕がおばあちゃんのとこに向かおうと立ち上がった時だった。テレビに映るニュースキャスターの目が見開かれた。
『えー臨時速報です。〇〇〇の遠隔ミサイルのパスワードが何者かに盗まれ上書きされた情報が入りました。〇〇〇に滞在するジャーナリストによると、最高指揮者はハッカーの仕業だと騒ぎ、憤ってる模様です』
おおおおお、と思わず僕は声が出ていた。興奮がおさまりそうになかった。ハッカーだなんて、かっこよすぎる。誰が一体。僕はまたSNSに目を向けた。
『天才スーパーハッカー!!!』
『イケメンすぎるだろこのハッカーw』
『ハッカーとかほんとにいるんだね笑』
『マジレスするとハッカーじゃなくてクラッカーね』
『知ったかぶりおつwwwお前こそ意味わかってないじゃんwww』
『は?』
『日本救われたのに喧嘩してるやついて草』
『てか、誰なんだろそのハッカー』
『おそらく、オレンジファーマーの仕業だろうね』
『オレンジファーマー?なんやそれ』
『マニアに有名な日本のハッカーだよ。直訳でみかん農家。オレンジファーマーはハッカー集団には属さず、一匹狼を貫いている孤高のハッカーさ。過去に1度、人工衛星をハッキングして地球に迫る謎の飛行物体を追い返したこともある』
ネットではオレンジファーマーへの歓声が絶えなかった。僕自身もそのハッカーに感謝してたし、謎めいた存在に内心憧れを抱いていた。
一体どんな人なのだろう。
僕が立ち尽くしていると、背中の曲がったおばあちゃんが手にみかんを持ってリビングに入ってきた。
「あれ、おばあちゃん農場にいたんじゃなかったの?」
「いんや。ちょっと畑を荒しそうな虫がいたんで駆除していたところだよ」
そう言っておばあちゃんは指の関節を鳴らした。
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