4章2節 シオンの冒険者生活 Part3

第1話 次の街へ

 誠にっ、申し訳ありませんっ!

 前話の投稿が6月8日という事実。二ヶ月も更新を怠っていたという事実。

 非常に申し訳ない。

 もう一作連載している【幼女無双】と共にこれからもよろしくお願いします。



―――――――――――――――――――――



 イヒンズの迷宮を完全攻略した私は、記者たちから逃げるようにして次の街へ旅立った。

 それもこれも迷宮を攻略したという偉業のせいだった――。



『シオンさん! 迷宮を攻略した感想をお聞かせください!』

『シオンさん! 顔をこっちに向けてください!』

『シオンさん! インタビューをさせてください!』


 などとマスコミが私に突撃してきたり――


『シオン様ー! こっち向いてー!』

『きゃーーーー! 私シオン様と同じ空気吸っちゃったっ!』

『シオンちゃーん! 今日も可愛いぞー!』

『シオン様ー! 握手してー!』


 ――などと冒険者や一般人までもが私に突撃してきた。

 それはいついかなる時でも――例えば私が少し買い物に商店街に行った時とか、宿でゆっくりしている時とか、宿の共有浴場に入っている時とか、軽くクエストを受けに行った時とか……ともかく時間、場所、状況に構わずに突撃してきた。

 正直にいって鬱陶しい。

 街に出てもろくに前に進めない。


 なので最近は特になにもせず宿でゆっくりと過ごしている。身の回りの世話はリコに任せてあるので安心だ。

 だが、そろそろ宿の部屋ですら危うくなってきている。


「シオン、さん……はぁはぁ……インタビューを、させてください……ふぅ」

「しっ」


 どうやってか三階の壁を伝って窓から顔を出す者まで現れた。毎回すぐさま頭を叩いて叩き落としているが、止むことはない。

 プライバシーまでもが侵害されているのだ。

 さすがにこれではいけないと思い、私は三人衆とナンバーズを集めこう言い放った。


「夜逃げしましょう」

「「「『へ?』」」」


 ポカンと口を開ける面々。


「最近ではプライバシーが侵害されており不快です。なので夜にひっそりと次の街へ行きましょう」

「あ〜、確かにそうだな。俺も最近ひどい」

「あなたもですか」


 どうやら私だけでなくユーの所にも行っているらしい。


「『シオンさんと合わせてくれませんか?』って俺がシオン様の仲間であることを利用してな」

「私のところに来てたよ」

「リコもですか」


 リコも最近そのことに悩んでいるらしい。

 それならとリョウを見やる。


「……来てませんよ。私のところには誰一人も……」

「「「…………可哀想に」」」

「わざわざ言わないでくださいよ」


 なぜか誰一人としてリョウに突撃しているのは置いておく。


「あなたたちはどうですか」

『我々は念話が使えないと喋れませんから誰も来てませんよ』

『ていうかいつも外に出るときは飛んでるから会えないんですけどね』

『人間は普通、空を飛べん』

「分かりました。近いうちに夜逃げしましょう。一応ギルドや門番にも言った方が良さそうなので極秘で行動しましょう。ギルドには後で行きましょう。門番にはリョウが行ってください」

「私が?」

「ええ、どうせ誰も集まりませんでしょう?」

「……その通りです」


 なぜか人の集まらないリョウには門番のところに行かせて街を出る手続きをさせておく。適材適所というやつだ。

 そして私は今からギルドに行って支部長にでも話をつけておこう。


「いつ街を出ます?」

「そうですね……できれば今夜にでも行きたいところですが準備が……」

「それならシオン様とリョウが行ってきている間に済ませておくわ」

「いいのですか?」

「任せて!」

「おう!」

「では私とリョウが言ってきている間に荷物を片付けて今夜にでも出発しましょう」


 急だができるだけ早くこの街を出たいのだ。


「あ、お二人のどちらか、宿の店主にも話をつけておいてください」

「分かった!」

「それでは行ってきます」

「行ってらっしゃい!」


 私は窓から家屋の屋根へと飛び移り屋根伝いにギルへ向かう。地上を歩くと記者たちが群がるので最近の移動手段がこうなっていた。

 リョウは普通に正面から出るが一般人だと思っているのか見向きもしない。


 私は屋根をジョギング程度に走る。しかし一般人からすれば全力疾走と変わらず、大通りや路地裏を全力で追いかけてくる。

 私は宿から一直線にギルドに向かう。


 そして記者たちが来るよりも先にギルドへと辿り着きギルドへ入る。しかし記者たちも伊達ではない。ギルドにも人を割かせていたのか幾人か寄ってくる。

 軽く殺気を当てどけさせ受付で支部長に取り次いでもらう。


 すぐに私は支部長室へと通された。


 ◇◇◇


 私はリョウ。シオン様の配下だ。共に冒険者としてパーティーを組んで彼女の兄を探している。

 大事なので二度言おう。


 私はシオン様の配下だ。


 今、特に隠密系のスキルを使っているわけでもないのに私を追ってくる人はいない。

 シオン様やユー、リコは追われているというのに何故私だけ追われないのか。甚だ疑問である。


 そういえば最近自分の存在意義を自分自身に問いている。

 ユーは接近戦が得意で魔物を真正面から粉砕している。

 リコは魔法が得意で後方から魔物を倒したり、ユーの補助をしている。

 私はといえば二人を足して二で割ったような役割だ。接近戦もある程度はできるし、魔法も使える。だがどちらかとなると二人には劣る。

 はたして私はパーティーに必要か、と毎日考えている。


 そんなことを考えていると門につく。

 門は程々に人が出入りしており門番も不審な者がいないか確認している。

 私は手の空いている門番を探して声をかける。


「あの〜、少しいいでしょうか」

「ん? なんだ?」

「少し話があるのですがいいでしょうか」

「今は忙しい、後にしろ」

「いや大事な話なので今すぐお願いします」

「無理だ無理だ」


 どっか行けと手ではらわれる。

 おそらくこの門番、私がシオン様のパーティーメンバーだと気づいていないらしい。泣きそう。

 それから話し続けても無視され取り繕ってもらえない。私は途方に暮れていた。


バサバサっ

「ん?」


 そんな時、私にとっての救世主が現れた。サンダーバードである。


ピーッピーッピーッ!


 言葉は通じないがおそらく「俺が来てやったぜ」とか言っているのだろう。

 サンダーバードは私の頭に降り立つ。


 サンダーバードが何度か鳴いていたため門番や通行人の目線が集まる。


「ごほんっ、改めて話、いいだろうか」

「あ、ああ」


 今度は話を聞いてくれた。

 なぜならサンダーバードは滅多に人に懐かないからである。そんなサンダーバードを懐かせているシオンは有名なので当然、サンダーバードの知名度もある。この街にサンダーバードはシオンの連れている三羽のみ。

 なのでそのサンダーバードが頭に降り立つということはそれなりに関係を持っているという証明だ。

 私は個室に通される。


 ◇◇◇


 さて、私は無事支部長に話をつけ終わり宿へと戻っていた。

 私が戻るとすでにリョウも戻ってきており、荷造りを手伝っていた。


「あっ、お帰りなさい! シオン様!」

「もう少しで荷造りは終わるぜ」

「私はもう終わったよー。もちろんシオン様のもね」

「ありがとうざいます」


 これで夜逃げをする準備は万端だ。

 後は夜になるのを待つのみである。


 ◇◇◇


 さて日もとうに沈み空には綺麗な星が浮かんでいる真夜中。

 私たちは夜逃げを始める。

 人目のつかないところを音もなく走り、門を目指す。


 無事誰とも遭遇することなく門にたどり着いた。


「どうしましょう」


 当然というべきか門は閉められ兵士もいない。私一人だったなら飛び越えれるが三人には到底できないだろう。

 盲点だった。


「おい、こっちだ」


 小さな声で呼びかけられる。音のした方を見れば門番の待機室に通じる扉から一人の兵士が顔を出して手招きしていた。

 素直にそこに行く。待機室に入り兵士の男は先を進む。といってもすぐに立ち止まる。


「ここを通っていけ」

「ここは?」

「ここは小門だ。正門を閉めたときの通行用だ」


 兵士の男はそう言って鍵穴に鍵を突き刺しガチャと開ける。


「ありがとうございます」

「気にすんな。なにせシオン様一行だからな」

「……私が手配しておきました。わざわざ正門を開けるのは面倒ですしバレる可能性もありますからね。そうしたら小門があるということなので、お願いしました」

「「「おぉーー」」」


 私とユーとリコは驚嘆の声を上げる。


「いつも影が薄いですが、今回はグッジョブです」

「いつも特に手柄がないが今回はさすがだぞ」

「見直したわ」

「ちょっと、いやかなり酷くないですか? 泣きますよ?」


 ちょっといじったらちょっと涙目になるリョウ。

 さて小門を潜って街を出る。


「ありがとうございます」


 兵士の男に礼をいう。


「いいってことよ。……」

「なにか」

「握手、いいか?」


 おずおずと兵士の男は申し出る。

 この男もファンだったようだ。それでも仕事を全うするとは、真面目な人だ。


「全然構いませんよ」

「おぉありがとうっ」


 兵士の男は私と握手をして嬉しそうにしている。


「では私たちはもう行きます。改めてありがとうございました」

「ああ、こちらこそ」


 私たちは兵士の男と別れて次の街へと行く。


「サイン、貰えばよかったかなぁ」


 そんな声が聞こえた気がした。

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