番外編 マタタビ
三人称視点に挑戦してます。
また書籍の店舗特典風(?)にしてみました。意外と楽しい。
――――――――――――――――――――――
これはある日の休日のことである。
カグラ、ミーツェ、アイシャの三人の休みが重なりせっかくだからと三人、外で談話をしていた。
今朝の新聞で見た面白い話、ミーツェが買い出しに行った時の話、アイシャが前に住んでいた街での話、カグラの前世での話。
三人が仲良く会話に花を咲かせていた。
しかし次第に話すこともなくなり、街にでも出かけようかと考えていた時である。
「――マタタビ、ですか」
「そうだ、またたびだ」
領主のルナがやって来て、カグラとミーツェにマタタビの枝を見せて来た。アイシャも初めて見聞きしたものに興味津々だ。これはどうやらルナが遠方より取り寄せた代物だそうだ。
マタタビといえば猫が酔っぱらう、という認識だ。実際にルナもその認識だし、あながち間違ってはいない。しかしもう少し詳しくいえばマタタビは猫にとって媚薬である。これは猫の脳を麻痺させることができる代物だ。ちなみにだが猫にマタタビを与えすぎると呼吸が出来なくなることがあるので与える量には注意が必要だ。
さて、なぜルナがわざわざ遠方からこれを取り寄せたのかというと……
「昨日ようやく手に入ってな、お前たちへのプレゼントだ」
そういうことらしい。いつも頑張っているご褒美にと労いのためのプレゼント、と言ってはいるが、ただ本当にカグラが――ついでにミーツェも――酔っぱらうのかというルナの興味九割ぐらいの理由だ。
さすがに二人にだけプレゼントではアイシャが可哀想なのでアイシャには別のものを用意しているがまずはマタタビだ。
「私が貰っていいんですか?」
私なんかが本当に貰っていいのか、とミーツェが尋ねる。ルナから使用人へのプレゼントはさほど珍しくないが、さすがに領主からの、そして主人からのプレゼントというのは貰いづらい。
「ああ、遠慮なく貰ってくれ。そうだお前たちは今日休日だっただろ? 早速効くのか試してみよう」
ルナはそう言うとマタタビの枝をカグラとミーツェの鼻に持っていく。
カグラとミーツェはほぼ反射的にマタタビの匂いを嗅ぐ。
すると二人とも耳や尻尾をピーンッと伸ばし、マタタビの匂いを熱心に嗅ぎ出した。
二人の頬が赤らんでいく。
そして次第に自分で立てなくなり地面に座り込んでしまう。だが二人は匂いを嗅ぐことはやめない。
ルナは知らなかったがマタタビは猫にとって媚薬である。それはもちろん猫の獣人にも効果がある。
二人は徐々に息が上がっていく。二人の体温が高くなる。
そして――
「ルナ様!」
「へっ……?」
――カグラは性の衝動を半分抑えきれずにルナに勢いよく抱きつく。その勢いに負け、ルナは後ろに倒れ込む。そしてカグラは息を荒げながらルナを抱きしめる。
「ルナ様、ルナ様っ……」
「〜〜〜〜〜ッッ!?」
今のカグラは頬を赤く染め息を荒げており逆妖艶だ。そのいつもの表情とは全く違った顔をしており実にルナの心を揺れ動かす。
そしてルナも勢いに任せてカグラとキスを――
「カグラっ!」
――しようとしたとところでミーツェに横から邪魔される。
「カグラは私のものなのっ!」
いつものミーツェなら考えられない領主への反抗だがマタタビによって思考力が落ちているらしい。
ミーツェはルナからカグラをひっぺ返し、自らの胸に抱き寄せる。そしてミーツェがカグラにキスを――しようとしたところでルナの妨害を受ける。
ルナも無意識的な行動だったのか遅れて「はっ私は何を!?」となぜ先ほどの行動をしたのか考える。
もちろん邪魔をされたミーツェはむっとする。そして近づいていたルナを押し出して離れさせようとする。ルナは抵抗する。
そんな中動いたのは今まで蚊帳の外にされていたアイシャである。
「えいっ!」
「「あっ!?」」
アイシャがカグラにキスをした。軽く争っていたルナとミーツェは声を上げる。第三者の介入は予知していなかったのか呆然とそれを見つめている。
カグラは朦朧とした意識の中、アイシャのキスを受け入れアイシャの味を堪能する。その行動にルナとミーツェはまた声を上げる。アイシャもまさか求められるとは思っていなかったのか一瞬ビクッと体を震わせる。しかしすぐにアイシャもカグラの味を堪能する。
「カグラぁ」
寝取られたと感じたミーツェが目尻に涙を溜める。
アイシャを堪能したカグラは四つん這いでミーツェに近寄り慰めるようにキスをする。ミーツェは幸せそうにキスをする。
そして次にカグラはルナに近寄り二人にしたようにキスをする。ルナは最初こそ小さく抵抗していたものの徐々にカグラを受け入れ始める。
「はふぅ」
「あれ?」
よし次はディープキスだ、と覚悟をしたルナだったがカグラはルナを押し倒したまま眠りについてしまう。見ればミーツェも眠っている。アイシャは頬を赤らめてこちらを見ている。
ルナはそっとカグラを地面に寝かせてどかす。
そしてアイシャとルナ二人して「やってしまった!」と頭を抱えて後悔する。危うく一線を超えてしまうところだった、と。これでは後から気まずいだけではないか!
しかし幸か不幸かカグラとミーツェは今回のことをよく覚えていなかったという。
ルナとアイシャは、今後マタタビは控えようと心に深く刻むのだった。
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