第2話 迷宮
無事宿を取ることができた次の日。
私たちは再びギルドに向かう。資金を稼ぐためや実力をつけるためにダンジョンに潜ろうと思っている。ダンジョンに潜るにはギルドでの申請が必要なのだ。
そしてその申請を得るためにいつもの如く注目を浴び受付へと向かう。
受付嬢はかなりテンパっていたものの簡単に申請を許可された。
これをもってダンジョンへと向かう。
ダンジョンは地下型になっており、その入り口を覆うようにして建物が建てられダンジョンの管理を行なっていた。
その建物の前の広場には屋台や店が所狭しと建てられ、人、人、人、人の塊である。身動きがしづらいほど人が集まり、喧騒が聞こえる。
多くの人が生き生きとした顔をしており熱気が生まれている。
屋台に気になるようなものもあったがいけるわけがない。
私たちはダンジョン入り口へと一直線に向かう。
数十分ほど並び、ようやくダンジョンへと入ることができた。次からは高ランク冒険者専用の空いている列へ行っていいらしい。少し損した気分だ。
ここのダンジョンは全てで千階層はあると言われ謎は深い。過去最高到達階層は数百年前の勇者パーティーで512階層。まだまだ先はあるとされている。世界を見てもこれほど広大なダンジョンは珍しく宝も豊富でよく人が集まる。
十階層ごとにフロアボスが現れ、五十階層ごとに中級ボスがいるらしい。そして二百階層ごとに上級ボスがいるらしい。勇者パーティー以外の最高到達階層は267階層なのでそこまでわかっているらしい。
どこの階層までいったのかを記録する魔道具がパーティーに一個配られているので、きりのいいところで帰ることができる。そして再びそこから始めれる。
ダンジョンに入ったのだが、人が多い。広場ほどではないにしろ、いかんせん人が多い。まだ一階層で魔物も出ず安全地帯だからだろうか、休憩する人やダンジョンの空気を味わっているものがいた。
私はこんな低層に興味はないので走って先へと進む。
人が多かったので壁を走っていく。三人もなんとかついてこれているので問題は無い。ただ多くの人がなんだなんだと注目するぐらいだ。
あっという間に十階層。
一階層から十階層は基本魔物はでないが、でたとしても一般人でも倒せるような雑魚なのでフロアボスも弱い。
オーク一体だった。
「ふっ」
ユーが一太刀で切り伏せる。
その調子で二十階層ゴブリンロード、三十階層オークロード、四十階層キングスライム、五十階層ゴブリン・オーク混成軍団250体とどんどん攻略していく。
初見が一日で攻略できたのは三十階層までなので、その記録を大きく上回る速さでの攻略だ。
私は何もせず三人がボスを倒していたのだが、中々の連携だった。十、二十、三十、四十は連携も何もなかったが五十階層では素晴らしかった。
ユーが前衛でリコが中衛、リョウが後衛。各々の短所をそれぞれが補い、軍団を殲滅していった。そして忘れてはならないのはサンダーバードによる攻撃だった。今回三羽を連れてきており、三人の見逃した敵を狙っていった。
私も見習いたい。私はこの程度の数でこの広さなら一つの魔法で終わってしまうので連携ができないのだ。三人と三羽にとってはちょうどいい訓練となっただろう。
流石に疲れているようなので少し休憩してからいくとしよう。
「ふぅー、久々にいい運動だった」
「ほんと、最近そこまで強い敵いないものね」
「久しぶりに出番がっ……」
「サンダーバード達、色々とありがとな、助かった」
『いえいえ、我々もいい運動になりました』
『楽しかったです』
『うむ』
「……」
三人はいい汗をかいて、部活を終えて休憩中の青春の一ページのような雰囲気だった。
「シオン様? どうしました?」
「いえ、あなたたちが青春をしていていいな、と」
「青春?」
「部活を共に頑張った感じで……」
「あぁ、シオン様、ちょうどいい敵いないから」
「私だって兄さんと青春をしたかったのに……」
兄さんと家デート、街中デート、もっともっとしたいことがあった。今思い出すと悲しくなる。
「シオン様……ごめんなさい」
「いえ、今は早く兄さんを見つけれればそれでいいです」
「「「頑張ります」」」
「はぁ、なんか街を破壊したい気分です」
「それってどんな気分っ!?」
私たちは十分ほど休憩をとり次の階層へと進む。
五十階層まではゴブリンやオーク、スライムなどの弱い魔物が中心だったが、五十一階層からは本格的に魔物が増える。今までの敵に加え、狼のような魔物や火を吹く蜥蜴など種類、強さともにレベルが上がる。五十階層までは準備運動だ。
しかし私たちは少しペースは落ちたものの相変わらず早いスピードで攻略していく。
六十階層レッサーウルフを倒したところで私たちは地上へ戻る。すでに夕方になっていた。
「おめでとうございます! シオン様御一行!」
受付の人が大声を出して私たちを祝福する。
「過去最高の速さでの攻略です!」
そして周りの冒険者たちも歓声を上げる。
私は頭を下げてお礼をする。
そして広場の屋台で夕食をとる。多くの冒険者に奢ってもらえた。
◇◇◇
翌日、私たちは再びダンジョンに来た。
前回攻略した六十階層からだ。他の冒険者たちに応援されながら六十階層に転移する。
低層と違ってろくに整備はされておらずゴツゴツとした岩が足元を悪くする。リコが火魔法で明るくしているが十メートル先は暗闇だ。
「今日は百階層まで行きましょうか」
「おう」
百階層を目指して私たちは駆け出す。
七十階層アナコンダ、八十階層デーモンスライム、九十階層レッサードラゴンを倒して、百階層まで来た。
魔物の数も強さも増えてそろそろ三人と三羽では厳しくなってきていた。しかしなんとか相手と戦えていた。
時刻はすでに夕方。ここを倒して帰ればちょうどいいだろう。
私たちはボス部屋に足を踏み入れる。
召喚の魔法陣が起動し、中級ボスが姿を現す。
竜のような硬い鱗で身を覆い、矢尻のような尾を持ち、大きな翼を羽ばたかせボス部屋を飛行する。いわゆるワイバーンというもので、レッサードラゴン以上竜未満の亜竜種の一つだ。
ランクとしてはBランク以上Aランク未満。Bランクの冒険者が五人から十人いれば倒せる魔物だ。
ワイバーンは真紅の双眸を私たちに向け翼を広げ威嚇する。
三人と三羽ではなんとか相手できるだろうか。私はいつものように壁際に寄って観戦する。
三羽は様子を見るためある程度距離をとって飛行する。
ユーは自らの獲物の刀を手に駆け出す。
リコはユーに補助魔法をかける。
リョウは魔法の詠唱を始める。
今まで通りの連携だ。ユーが攻撃を仕掛け怯んだ隙に凌駕魔法を放つ。そして弱ったところをユーがとどめを刺す。
普通の魔物だったならそれでよかったかもしれない。
しかしワイバーンは別である。
あんぜならワイバーンは今までの魔物と違い力も別格、更には飛ぶこともできる。
ワイバーンは大きな翼を羽ばたかせユーを足止めし、リコとリョウを狙う。口から風魔法の『
リコとリョウはなんとか直撃を免れたものの衝撃で吹き飛ぶ。
サンダーバードが咄嗟に雷魔法で突進を図るも、羽ばたいた風で攻撃を逸らされる。
ユーは足に身体強化をして飛び上がりワイバーンを斬りつけるも、硬い鱗に阻まれ攻撃が通らない。
体勢を立て直していたリョウが中級魔法を放つ。
「『
火魔法はワイバーンに直撃し爆発する。
しかしかすり傷程度だ。
――威力に欠ける。
三人と三羽の弱点だった。
上級魔法を使えばいけなくもないがそれには時間稼ぎをしなければならない。
だが二人と三羽では時間稼ぎは難しいだろう。
ユーに相手を怯ませられる威力の攻撃ができればよかったのだが。
三人と三羽はワイバーンに押される。
やがて三人とも体力が尽きたのかワイバーンの尾に払われ壁に激突する。
ワイバーンはサンダーバードも気にせずに私に狙いを定める。
私は三人がぶつかった壁の方を指す。
ワイバーンは首を傾げる。
直後、ワイバーンに衝撃が走る。
初めてワイバーンを怯ませられた。
三人に威力は足りないがやる気だけは有り余っている。
たとえ体力がなくなろうと立ち上がる。
私は知っている。
それは私の兄さんを探すためだということを。
それは自らの心に負けないためだと。
リコは火魔法をユーの刀に付与する。
ユーは『狂化』で身体を強化して、炎の刀でワイバーンの鱗が柔かいところを斬りつける。
そしてリョウが上級魔法を放つ。
ワイバーンは体から血を流し、一部の鱗が剥がれている。
もう一押し。そんなところで――
「キュアアァァァァッッ!!」
「「「ッッ!?」」」
『『『ッッ!?』』』
――ワイバーンは咆哮をあげ覇気が灯る。
ワイバーンの強さのレベルが数段上がる。
三人と三羽は呆然とする。さっきまでなんとか攻撃をできていたもののワイバーンはさらに強くなったのだ。
ワイバーンは口から上級魔法を放つ準備をし、三人と三羽に向けて――
「キュアアァァ――ッッ!?」
――放つところで私はワイバーンの口を無理矢理閉じさせ暴発させる。魔法はワイバーンの体内で暴れ回り、大量の血を吐く。
そして私は刀を抜いて、一閃。
ゴトッと重い音がしてワイバーンの頭と体が地に落ちる。
「皆さん、これからも精進してください」
「すげぇ……」
「えぇ……」
「……」
「今日のところはもう帰りましょうか」
私たちは宝を回収して地上に戻る。
またお祝いムードになり、屋台でご馳走になった。
ワイバーンや価値が高い素材などを換金してまあまあな大金を得た。
最低でも一ヶ月留まり、実力とお金を貯めよう。
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