第3話 休暇

 それからというもの順調に攻略を進めた。

 百六十階層までいったところで、三人と三羽には厳しかった。百階層でさえあと一押しだったのだ。よくここまで頑張ったと思う。


 なので別行動にすることにした。迷宮内専用転移魔道具も新しく買った。

 私はそのまま一人でいけるところまで攻略し、三人と三羽は百階層あたりでひたすら戦い、力をつける。


 そうして一週間ほど私は攻略を続けた。すでに二百階層。上級ボスのいるところまで来た。

 私はそこまでいったところで一度帰り、翌日挑むことにする。


 そして英気を養い、翌日。

 魔道具で二百階層の前まで来る。今まででソロで二百階層まで攻略したものはおらず、多くの冒険者から応援された。


 ボス部屋は今までのボス部屋とは全く違いだだっ広い。それほどボスはでかいということだろうか。

 私は足を踏み入れる。すると、魔法陣が起動する。


 そして召喚されたのはカイザークという亜竜の一種である空飛ぶ鯨だった。

 白くシロナガスクジラほど大きい体は自らの魔法で宙に浮かび、ボス部屋を遊泳する。ワイバーンも亜竜の一種なのだがそれとは比べものにならないくらい強い。

 この魔物は鯨の変異種とされているが滅多に出ないため謎に包まれている。


 距離も離れているため私は魔法を放つ。


「『電撃雷槍デウス・ランス』」


 極大の雷の槍が出現しカイザークに照準を合わせ、光の如き速さで放たれる。

 それは一直線に突き進みカイザークを貫く……はずだった。


 カイザークは大きく口を開け、なんとその魔法を飲み込んだ。

 そして魔法が消える。

 さっきの魔法は上級魔法に値し、かなりの威力を持っている。それなのに奴は食べて無効化した。


 私は走って奴に近づきつつ『雷槍サンダー・ランス』『氷槍アイス・ランス』の二つの中級魔法を無数に放つ。

 しかしそれすらも飲み込む。


 そして私は奴を一閃。

 雷魔法も付与した鋭いその一撃は、奴に傷をつけるのが精一杯だった。


 カイザークは私を睨むと――


「ッッ!?」


 ――私は何かの力に引っ張られ壁に激突する。

 間髪入れずにカイザークはそこに――


「なっ……」


 ――今まで私が奴に与え食われた魔法が、奴の口から放たれる。

 私はすぐさま埋れた壁から抜け出し回避する。

 無数の魔法が降り注ぎ、上級魔法の『電撃雷槍デウス・ランス』までもが降る。

 魔法の雨は的確に私を狙ってくる。


 私は間一髪で避けカイザークに接近する。

 そして奴の背に乗り、刀を突き刺す。


「ホワァァァァッッ!?」


 続けて魔法を放つ。


「『纏雷カバーライト』」


 雷は刀を伝って奴の体を痺れさせる。


「ボワワワワワワワッッ!?」


 かなり効いたようでガクンと墜落しかける。

 カイザークは私を振り下ろそうとするも、私はすでに奴の顔の近くにいる。

 カイザークは顔を驚愕に染め、後退するも――


「『黒雷フラッシュ一閃ダークデウス』」


 黒い雷が刀を覆い、私は奴の目を目掛けて刀を払う。

 強い衝撃が走る。


「ボワァァァァアアッッ!?」


 奴は大声を上げて墜落する。

 砂埃が舞う。


 私は居合いの体勢になり、魔法の詠唱を始める。


「『我が刃は全てを切り裂き 我がいかずちは全てを震わせ 敵の悉くを滅さん』」


 砂埃が晴れ、奴の姿が見える。

 目からは血を流し苦悶の声を上げる。


「ホワァァァァァァァァアアアッッ!!」


 奴は怒りに身を焦がし、私を睨み付ける。

 奴は私を喰らい尽くそうと口を大きく開けて突っ込んでくる。


 私はゆっくりと奴を見据え――


「『黒龍ドラゴニック雷閃ドンナーブレイド』」


 ――一閃。

 斬撃は龍の如く猛威を奮って突き進み、奴の頭から尾まで切り抜ける。

 右と左で真っ二つになった奴は慣性に従い、私を通り過ぎる。そして壁に激突しようやく止まる。


「ふぅ」


 私は一息ついて肩の力を抜く。

 確かに奴の力――喰らった魔法をそのまま返す力――は厄介だったがそれ以上の力をぶつければいける。要は強行突破だ。


 カイザークを見やる。

 全長は軽く五十メートルはあるだろう。それが綺麗に二つに分かれている。

 雷で焼かれたのか血は流れていなかった。


「今日はもう帰りますか」


 これからこれを持ち帰って解体やら換金やらしなければいけない。まだ昼時だが、この大きさだと時間はかかるだろう。

 私は魔法倉庫マジックウェアハウス――鞄の倍以上も大きくまさにそうこのような容量を持っている特別な魔道具――を借りてきていたので、それに収納する。


 そして私は転移魔道具を使って地上に戻る。


「「「「おめでとーーーーーっ!!」」」」

「シオン様ーーーっ! こっち向いてーーーっ!」


 歓声が爆発する。

 それほどの大声量が他の冒険者たちから浴びせられる。


「カイザーク討伐、おめでとうございますシオン様。解体場所はこちらです」


 迷宮の管理人の一人が私を先導する。

 着いたのは街一番の巨大な倉庫。


「ではこちらに出していただけますでしょうか」

「分かりました」


 私はかんりにんに言われた通りカイザークの死体を取り出す。

 真っ二つのカイザークが巨大な倉庫を圧迫する。

 野次馬の冒険者が初めて見るカイザークに驚く。


「今までの五回りほど大きいんですけど……」

「あ、そうなんですか?」

「ええ、本来なら五十メートルもないのですが、明かに五十メートルを超えてます。しかも切り口がこんなに綺麗に……」


 管理人はただただ驚愕していた。

 解体を生業とするプロたち数十人も言葉が出ていない。


「〜〜〜〜〜ッッ。よーしっ、お前らぁ! 死ぬ気でやるぞーっ!」

「「「「おおぉぉぉーーーーー!!」」」」

「増援も呼んでこい! なんなら解体屋全員を呼べっ!」

「了解っ!」

「解体、開始ーっ!」


 解体屋のリーダーが声をかけ解体が始まる。少しして残りの解体屋も集まり、街にいる全ての解体屋百五十人あまりが巨大なカイザークの解体に取り掛かる。


「嬢ちゃん、解体が終わるまでおそらく数日はかかる。早くても明日いっぱいだ。それまで休んどけ」

「はい分かりました。ありがとうございます」


 解体屋のリーダーにそう言われたので、街にでも行ってみようか。この街に来てからダンジョンばっかりで街は見ていなかった。

 三人と三羽は今頃、ダンジョン内で頑張っているだろうがたまにはいいだろう。

 半日だけの休暇だ。


 私は倉庫を離れて商店街の方へ向かう。

 この街唯一の商店街は、多くの店がひしめき合いダンジョン目当で住んでいる冒険者が多く利用している。防具屋、武器屋、魔道具屋のような冒険者向けから、雑貨屋や肉屋、魚屋、八百屋、カフェのような冒険者でない人向けの店もある。

 さらには飲食店も多く、夜は冒険者たちが今日の成果を話し合ったりしながら飲んだくれたり、一本道を外れた裏路地には隠れレストランのような店もあったり怪しげな魔道具屋などもある。

 ここから少し離れたところには宿屋が集まっている場所もあるため常に人で溢れかえっているのが、この商店街だ。


 自惚れるつもりはないが私は冒険者の中では有名人だ。

 何もせずに街に出れば冒険者が殺到すること間違いなし。それに釣られて関係のない野次馬も現れる可能性もある。

 なので私は出来る限り気配を殺す必要がある。


 さて気配を殺してようやく商店街を見て回る。

 肉屋や魚屋、八百屋には興味はない、というか私は料理が壊滅的なので関係ないので無視する。

 武器は今ので十分、防具も必要ない、魔道具も必要ない。

 雑貨を見て回ることにしようか。


 まず目に着いた雑貨屋は「ルームインテリア」という安直な名前の店だ。

 店内に入る。


 カランカランと来客を知らせるベルがなる。


「いらっしゃい――って、誰もいない?」

(ああそういえば気配殺してましたね)


 私は今、思い出して気配を殺すのをやめる。店内はあまり人もおらず問題は無い。


「初めまして」

「うおっ……シオン、だったか?」

「はい」

「そうか、好きに見てってくれ」


 店長らしき女性は最初こそ驚いていたもののすぐに落ち着き、再び先ほどまで読んでいたであろう本に目を戻す。


 私は店内の商品に目を移す。

 店内は落ち着いた雰囲気で緑が多い。装飾だろう壁や天井につけられている蔦が異世界らしさを出していた。

 商品も植物のものが多く、ガラス瓶の中に植物が入れられている、いわゆるテラリウムが多かった。そしてテラリウム用の植物やガラス瓶などの材料も売られていた。


(そういえばリコ、こういうの好きでしたよね。御褒美に買ってまげましょうか?)


 リコがテラリウムが好きだったと思い出しせっかくなのでプレゼントしようかと思う。私からのプレゼントは滅多にないので喜ぶだろう。


 私はどれをプレゼントしようか吟味していく。


 そして数分ほど迷った結果、とある一つのテラリウムを手にする。

 転生者が伝えたのだろう電球の形をしたガラス瓶に、苔がまるで森のように生えているものを選んだ。

 早速、レジに向かう。


「おっ、シオンちゃんお目が高いね〜。それ、マニアの中では人気の商品だよ」

「そうだったんですか」

「ああ。これは自分用か?」

「いえ、プレゼントです」

「そうか。それならリボンでもつけておくよ」


 彼女はそう言って、上部の先端にリボンをつける。


「合計で銅貨十枚いただくよ」


 きっちり銅貨十枚を払って、私はまた気配を殺して店を出る。


(これなら他の二人、いや二人と三羽にもあげたほうがいいでしょうか)


 まあ、ダンジョンで頑張っているようなので御褒美をあげるとしよう。

 ユーとリョウなら魔道具だろうか。何かしらの効果があるものがいいだろう。


 私は近くの魔道具屋に入る。


「…………」


 店長らしき四十代後半のおじさんは私を見てすぐ、新聞に目を戻す。

 私は気にせずに良い魔道具がないか探す。


 ユーは前衛だ。身につけても邪魔にならないアクセサリーがいいだろうか。それなら指輪が一番だろうか。腕輪だと筋肉が膨張した時に粉砕されそうだ。

 そうして指輪の魔道具を探しているとちょうど良いものを見つけた。


 『俊敏の指輪 付与:敏捷ステータス10%増』


 これがいいだろう。

 さてあとはリョウのだが、眼鏡でいいか。


 私は眼鏡タイプの魔道具を探す。

 何故か眼鏡タイプの魔道具は数が少なく、この一つしかなかった。


 『ちょこっとだけ見通す眼鏡 付与:未来視3秒、読心(ちょっとだけ)』


 なんというか名前が適当すぎる気がするが、まあいいだろう。

 私は指輪と眼鏡の魔道具を購入する。

 さて残るはサンダーバード三羽のだが……全員分のを買ったほうがいいのだろうか?

 三羽だけでいいか。またせがまれたらその時に買うとしよう。


 鳥へのプレゼントってなんだ。


 ………………スカーフ?

 私はぱっとそれを思いつく。

 いい感じのスカーフを買って、それに風魔法でも付与してやればいいのではないだろうか。

 スカーフは服屋だろうか。ファッションに疎いからよく分からないが、あるはずだ。


 そして少しばかり服屋を探して、やっと服屋を見つける。

 そしてスカーフを探す。


 赤、緑、青などと言った色々な色のスカーフを見つける。

 サンダーバードは全身は黄色の羽で、翼の先だけが黒い。ちなみにリーダーのファーストだけは全身白色だ。


「すみません」

「はぁい」

「黄色に合うスカーフってどれでしょう。あと白色に合うスカーフも」

「そうですねぇ……」


 考えても分からないので店員に聞く。


「……黄色には青色、白色には赤色ですかねぇ」

「そうですか。では青のスカーフを二つ、赤のスカーフを一つください」

「お買い上げぇ、ありがとうございますぅ」


 レジにて銀貨一枚を払って店を出る。


 時刻はおよそ三時ごろだろうか、どこかのカフェでゆっくり三人と三羽の帰りを待つとしよう。


 そしていい感じのカフェを見つけ、コーヒーとサンドイッチを頼みテラス席で一息つく。


「ふぅ」


 今までこうして一人で休憩することがなかったから、こういうのは新鮮だ。

 行き交う人々、様々なところから聞こえる喧騒。

 皆の笑顔は明るく、まさに楽しそうであった。


(いつか、兄さんと二人っきりでこんなことを……ふふふ)


 いつか兄さんとこんな何気ない日常を送っていることを妄想し、ニマニマしてしまう。


 いつの間にかサンドイッチも完食し、コーヒーももう少しでなくなりそうだ。

 そんな時――


「シオン様ーーーーーっっ! いらっしゃいますかっ! あ、シオン様! 大変ですっ――」


 私の日常を邪魔するように危機が飛び込んできた。

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