3章2節 シオンの冒険者生活 Part2

第1話 迷宮都市イヒンズ

 領都フェーデルを出発し迷宮都市イヒンズへ向かっている。

 サンダーバードを使って周囲を警戒しているので私たちがやることはほとんどない。精々がこちらに向かってきた魔物を倒すだけなのだが滅多にくることはない。


 なので私は家族と雑談に花を咲かせる。

 三人衆は荷台で眠りについていた。


『ゼロ様、魔狼の群れ十匹がこちらに向かってきています』


 サンダーバードから報告を受ける。魔狼十匹程度なら私一人で十分なので三人を起こさないように気をつけながら走っている馬車から降りる。


「少し排除してきます」

「大丈夫か?」

「大丈夫です。先に進んでください」


 私は綺麗に着地して魔狼の方へ向かう。

 数秒走ると魔狼の群れと出くわす。


「グルァ!」


 驚いていた魔狼だったがすぐに戦闘態勢に入る。

 そして私に複数で襲いかかる。


 しかし、奴らが動くよりも早く私は剣を抜き、すべての首を切る。

 襲いかかってきた魔狼は慣性に従い私を通り抜け地面に落ちる。他の魔狼もその場に倒れる。

 私は魔狼の死体を適当に地面に埋め、馬車を追う。


「ただいま戻りました」

「おお、早いな」

「さすがシオンちゃん!」


 父と母が感嘆する。

 そして私は雑談を再開する。


 ◇◇◇


 一日目の野営地につく。

 そろそろ日が落ち暗くなり始めている。空は綺麗な夕焼け空に染まっていた。


 私たちはさっそく野営の準備を進める。それぞれ分担して自らの役割をこなす。

 そうこうしているうちに日も完全に落ち周りは暗闇に包まれる。

 私たちは焚き火を囲って夕食を取っていた。夕食は出来立てのシチューとパンだった。

 サンダーバードも休憩をとり、シチューを飲んでいる。そしてたまパンをかじる。


 そうして私たちは一日目を無事に終える。


 ◇◇◇


 二日目。

 予定では夕方までにはイヒンズに着く。

 今日は魔物も出ることもなく安全に街に着く。

 門での身分証明の列に並び、順番が来るのを待つ。


 数十分ほどで私たちの番が来る。

 家族は商人の証明書を掲示し、私たち四人は冒険者カードを見せる。


「Aランク!?」


 門兵はAランクの冒険者のカードに目を見開く。


「どうぞお通りください」


 Aランクの力によって他より丁重にもてなされ、街に入る。


「じゃ、シオン。俺たちはこっから別の場所だ」

「はい」

「心配はいらんと思うが体には気を付けろよ」

「はい」

「それと兄を見つけたら一度は俺に見せてくれ」

「はい」

「元気でな」

「はい、お父さんもお母さんも」

「シオンじゃあね」

「はい、姉さん」

「今までお世話になりました」


 私は家族と別れをすまし、ギルドへ向かう。


 ギルドはすぐに分かった。

 そこだけ人の出入りが多く、筋肉質の男が多かった。


 さすがは迷宮都市。冒険者が一獲千金を夢見て色々な場所から集まり、モノも集まり町が栄えている。


 冒険者ギルドの扉を開ける。当たり前の如く人の注目が集まる。特に私と肩に乗っているサンダーバードに注目が寄せられる。


 そして――


「よぉ、嬢ちゃん。俺と遊ばな――」

「――興味ないです」


 ――モヒカンのいかにも不良ですと主張している男に寄られたので、断る。

 私は男を無視して受付カウンターに向かう。が、男が私のサンダーバードのいない方の肩を掴む。


「新人は俺のいうことを聞くのがここでは常識なんだよ」

「知りません」


 面倒臭い。


「あーあ、あの子あいつに目つけられた」

「かわいそうに」


 などとヒソヒソ話される。


「何であなたのいうことを聞かないといけないんですか」

「俺が一番ランクが高いからだよ」

「ランクは?」

「Bランクだ!」


 男はそう言ってBランクの冒険者カードを懐から取り出し掲げる。


「「「ぶふっ」」」


 三人はつい吹き出す。


「なにがおかしい!」

「いや、なあ」

「うん」

「お前らみたいな新人からしたら俺は大先輩なんだぞ!」

「うるさいですよ?」

「ひっ!?」


 私は男の肩に手を置き威圧する。


「女が俺に口答えすんじゃねー!」


 男は威圧にも負けず私に殴りかかる。

 少し驚く。私の威圧を我慢できるなんてそれなりに実力があるだろう。

 しかし、Aランクの私には遠く及ばず、私は思い切り奴の股間を蹴り上げりう。そこは吹き抜けになっていたがために男は二階部分の天井に頭から突き刺さり、ピクピクと痙攣しながら気を失う。


 某然とする周りの冒険者。一部は飲んでいた酒をこぼしている。目を見開いている。声が出ない。


「おお、綺麗に刺さったな」


 ユーは自分の股間を押さえながら感嘆する。

 私は受付へ向かう。


「あの女何者だ」

「化け物だ」


 などとヒソヒソ話がされる。


「すみません、いいですか」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 受付の女性に声をかける。

 その時――


「誰だ! 騒いでる奴は!」


 大男が入ってくる。

 職員扉から入ってきたのでギルド職員なのだろうが、それにしては体が大きい。


 大男は周りを見回して私に目をつける。


「おい、お前か。騒ぎを起こしたのは」

「いえ、私ではなくて、あれです」

「ん?」


 私は上を指差す。

 そこには天井に突き刺さった人。

 大男は声が出ない。


「で、あなたは誰ですか」

「ん、あぁ、俺はここの支部長だ。とりあえず話を聞こうか。最悪、ランク降格だ」

「なんでですか」

「いや、もしあいつが悪くてもやりすぎだろ」


 不服だ。


「シオン様、支部長の紙……」


 私はリコに言われて思い出す。

 そういえば前に支部長から何かトラブルが起きたらこれを見せてと言われていたはずだ。

 私はフェーデル支部長のサインの書かれた紙をとりだし、支部長に渡す。


「はい」

「ん? 師匠から?」

「は? 師匠?」

「ああ、俺はフェーデル支部長の弟子なんだ」


 衝撃の事実である。

 支部長は手紙を読む。


「分かった。今回は不問としよう。ついでにあいつを下ろしてくれねぇか?」

「ええ、わかりました。ファースト」

『ラジャっ』


 無事今回の件は不問となった。

 サンダーバードのファーストに下ろすように命じる。

 ファーストは男の足を掴み引っ張って地面に落とす。


 周りの冒険者は驚きの声を上げる。

 ここのギルドにとって支部長は絶対的な存在で不正や悪事が見つかればただでは済まない。そんな支部長が不問にした。

 冒険者たちの間であいつは何者だと言葉が行き交う。


「はっ。お前!」


 男が目を覚ます。


「じゃお前裏に来い」

「え、支部長……」


 男は顔を青くする。


「ランクが高い人が偉いならあなたなんかよりも私の方が強いですからね?」

「は? なにを言って……」


 私は金色のAランクの冒険者カードをとりだし見せる。


「なっ、Aランク冒険者……」

「ということで、さよなら」


 私の金色に光る冒険者カードを見て他の冒険者も声を出して驚く。Aランク冒険者は国内でも数えるほどしかいない。

 それほどAランクの壁は高く、何年も切磋琢磨しても才能がない人は一生なれない、それがAランクだ。

 それが自分たちより年下の少女がAランクだ。驚きもする。

 そしてさらにあの少女は何者だ、と謎が深まる。


 私はそんな騒ぎを無視して、受付に向かい依頼達成を報告する。


「はいシオン様ですね…………シオン様!?」

「何か?」

「シオンってあのシオンですか!?」

「どれですか」

「領都で話題になっている」

「まあ、そうですね」

「本物!!」


 冒険者たちは納得する。ああ、あのシオンか、と。

 私の名前はこの街にも届いているようで皆が知っているようだった。

 先ほどの男は青い顔をさらに青くしていた。


◇◇◇


 私は依頼達成報告を終え、三人衆と一匹と共に支部長室に行く。

 支部長に話があると私がお願いしたのだ。


「それで話とは?」

「できる範囲でこの街にカグラの名前の人を探してください」

「カグラ……分かった。出来る限り探そう」


 支部長は快く受け入れてくれた。


「人探しか?」

「ええ」

「そうか」


 支部長は深く詮索はしてこようとしてこなかった。

 私の顔を見て多少は察したようだ。


 支部長室を出てさっそく街に繰り出す。

 まずは宿探しだ。だが、それよりも前にこの人たちをどうにかせねばならない。

 私が噂のシオンだと知り、有名人に少しでも触れようと群れている野次馬たちだ。


 私は足に身体強化をかけ、ギルドの屋根に飛び乗る。ギルドは五階建て。およそ二十メートルほどだろうか。

 三人衆も一度では無理だが他の建物や壁の出っ張りを利用して屋根に登る。


「まずは宿を探しましょうか」

「そうだね」

「支部長によると『月日亭』というところがおすすめらしいですよ」

「じゃあ、そこにしましょう!」


 そして私たちは屋根を伝って宿を目指す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る