閑話 ミーツェの主人
奴隷になってから何年が経っただろうか。
薄暗い地下にいるため時間の感覚がわからない。
私は数年も誰にも買われず売れ残っていた。
いや一度は売られたのだが強く抵抗していたがためにすぐに返却され、ついには地下牢の一番奥に押し入れられていた。
そしてろくに食べ物ももらえず私はガリガリになっていた。さらに衛生状態も悪くウジが出たりよく病気にかかったりと、私の体は限界だった。
素直に誰かに買われて道具として使われていてもよかったのではと思うが、そこで死んでしまったら償いが足りない気がする。
毎日の如くここのオーナーは私に暴力や罵声を浴びせる。
全く売れないからだろう。
ある日誰かが来た。
そおれなりに偉い人なのだろう。自分勝手なオーナーが敬語で相手の気を損ねないように気を遣っていた。
ゆっくりと品定めとしているようで徐々にこちらに近づいてきた。
「この子は?」
「こいつはひどく反抗的でして、五年も売れなくてですね」
「かなりやつれているが?」
「いやぁ、これはそのぉ」
「まあいい、この子も買おう」
客はそう言って私に近づく。
よく見るとそいつは女で高そうな服に身を包んでいた。
「もう大丈夫だ」
私は声を上げて抵抗するもやつれているため声が出ない。
「そう警戒しなくていい。私は君たちのような奴隷を解放するためにきたのだ。安心してくれ」
聞いているだけで安心させられる声だった。
私はゆっくりと目を瞑る。
◇◇◇
目を覚ますとどこかの綺麗な部屋のベッドで横になっていた。
ちょうどあの女が入ってくる。そいつは水色の髪に青い眼をしており胸も大きい。肌も白く綺麗なので裕福なのだろう。
私はベッドから飛び降り威嚇をする。
「シャァァァ……ァァ……」
「おっとまだ病み上がりなんだよ。安静にして」
私は足元がふらつき倒れかけるもこいつに支えられる。
しかもこいつ、最初会ったときと雰囲気が違う。
いつのまにか私の痣や病気も治っていた。
私はまたベッドに寝かせられる。
「もう大丈夫だから。いつか故郷に返してあげるからね」
「……何が、目的?」
「目的? 私はただ奴隷の子を救ってあげたいだけだよ?」
「嘘」
「嘘じゃない」
「どうせそう言って安心させて後でひどいことする」
「しないよ」
「する」
話が進まない。
「ていうかお前誰」
「ああ、。自己紹介がまだだったね。私はルナ・フォン・フェーゲルハイト、十七歳だよ。一応公爵だけど色々あってね、ここの領地を治めてるよ」
こいつ公爵だった。
通りで裕福だと思った。
「ルナ様、次のお仕事が」
「ああ、分かったよ。じゃまた来るよ」
あいつは使用人に呼ばれて部屋を出て行った。
とりあえずはあいつを見極めなければならない。
◇◇◇
ここで買われてから数日が経った。
あいつは今日は特に仕事はなく、この前買った奴隷たちの世話をしていた。
私は体調も回復し今までの調子を取り戻した。
そして数年ぶりに外に出る。
公爵というだけだけあって屋敷もでかければ庭も広い。
あいつは今、奴隷の子供たちと庭で遊んでいた。
「ミーツェも遊ぼ?」
あいつに誘われる。
子供たちも遊びたそうにしていたので仕方なく誘いに乗る。
遊び終わり昼食の時間になった。
今日はそのまま外でサンドイッチを食べた。美味しかった。
こいつは少しは信用してもいいかもしれない。
◇◇◇
さらに数日が経って、あいつは私に聞いてきた。
「そういえばなんで獣人の子がこんなところに?」
隠しても仕方がないので私は全て話す。
カグラが奴隷にされたこと。それに反抗して私も奴隷にされたこと。私はいつかカグラに謝ること。
話終えると彼女は泣いていた。
「なんで泣いてるの? あなたには関係のない話」
「関係はあるよ。ミーツェは私が保護してるんだから、私もカグラ君を探してあげるねぇ……」
彼女は優しいのかもしれない。
◇◇◇
なんやかんやあって、私が買われて数ヶ月がたった。
私はすっかりルナ様を信用して、彼女のそばで働いていた。貴族の仕事とか礼儀作法とかは難しかったが頑張って覚えた。
この数ヶ月で彼女のことがよく分かった。
彼女は人一倍正義感が強く、使用人や保護した奴隷や捨て子たちに平等に接している。
彼女はよく、奴隷にされた子供や大人を買ってくるので、子供は彼女が経営している孤児院で保護し大人は屋敷で働いて給料を渡していた。
良いやつだった。領民からの信頼も厚いらしい。他の使用人が教えてくれた。
私はすでに十六歳なのでここで働きお金を得ている。
いつか、働いて得たお金で自分を買ってカグラを探す旅に出ようと思う。
私は病気に侵されていたこともあり安く売られたのでそこまで時間はかからないはずだ。一年もすれば十分お金は貯まるだろう。
なので私は当分はここで働かなければならない。
彼女は今日もまた奴隷を買いに行くというので、私はまた子供たちの世話に明け暮れるだろう。
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