第5話 忌子の真実、そして
ここはどこだろうか。
僕はゆっくりと意識を覚醒する。
あたりを見回せば神秘的な森の中のようだった。
上から光が差し込み心地よい風が吹いている。ここは迷宮の中だったはずだがどういうことだろうか。
「う、うぅ」
「ゼシア様、大丈夫ですか」
「……ここは?」
「わかりません。だいぶ落ちたと思いますが……」
「うわぁ」
ゼシア様が目をさましあたりを見回すと驚いた声を上げる。
「ゼシア様、怪我はありませんか? 痛いところとか……」
「うん特には、ないよ。たぶん木にでも引っ掛かったのかも」
「よかった」
「カグラ君は?」
「僕は『自動再生』はあるので大丈夫です」
もう一度状況を整理する。
ボスとの戦いあの途中、床が崩れ落ち僕たちは危うく落ちるとこだった。しかしアルヴ様が僕をわざと大きな穴に落としてゼシア様が僕を守るように一緒に落ちたはずだ。
そして再度辺りを見回す。
天井には発光する鉱石でもあるのだろうか、天井が光り輝き昼間の如く空間を明るくしていた。そしてさらには植物も自生し森が広がっていた。迷宮かどうか怪しいが岩の壁も見えるので迷宮内なのだろう。
しかしドンと聳えるようにしてたっている巨大な樹が迷宮内であることを否定しているようであった。
「カグラ君、どうしようか……」
本当にどうしたものか。
「とりあえず周りを探索しましょうか」
「うん、そうだね」
このままボーッとしていても仕方がないので探索することにする。
ざわざわざわっ
「「ッッ!?」」
いざ探索しようかと思っていたその時、突然森が騒ぎ出す。風も吹いていないのに木の葉が揺れる。
何かが近づいている気配がする。耳を澄ませるも木の葉の音で音を拾えない。鼻も植物の匂いが強いため意味がない。
僕はゼシア様を守るように背をむけ、気配がするほうに意識を集中する。
がさがさっ
(来るっ)
茂みが揺れ気配の正体が現れる。
それは猫だった。しかしただの猫ではない。体長は五メートルは優に超え、体高も三メートルほどもある巨大な猫だった。
猫は僕をジーっと見つめる。
「シャァァ」
僕はゼシア様を守るために威嚇をする。
『なにかと思って来てみれば神子と人間ではないか』
その猫は突然喋り出した。
人語を喋れる生物はかなり長いこと生き知能も高い。老齢な竜などは人語を話すほどの知能を持っている。この猫も似たようなものだろう。
僕はさらに警戒をする。
『そう警戒するでない。こちらへついて来てくだされ神子と人間』
「……」
猫は背をむけ、僕たちについてくるよう促す。
着いたのは先ほど目に映った巨大な樹の麓だった。
『まずは自己紹介をしようか。我は猫王サー・シルフィールだ』
「僕はカグラ、です」
「ゼシア」
『そうかそうか、神子はカグラというのだな』
「神子じゃない、忌子」
『ふむ? 忌子? どういうことだ?』
「獣人のくせに魔法が使えるから……」
『なんと愚かな。獣人で魔法が使えるものは古代より神子とされてきていたのだが……実に愚かな』
「ということはカグラ君は忌子じゃなくて神子ってこと?」
『そういうことだ』
僕は忌子ではなく神子だったらしい。
それならなぜ僕が奴隷になったりしているのだろうか。前世の行いのせいだろうか。
『よって神子は崇められるべき存在なのだ』
崇められたことなんてないけど。むしろ雑に扱われたけど。
「そんなことより地上に戻りたいんですけど。ここどこです?」
『ここか? ここは迷宮の最奥だ』
「最奥……?」
『ああ、要は我がボス、ということだな』
「……え」
『地上から数えるとここは二百階層だ。おそらくお前たちはたまたまできた裏ルートから落ちたのだろうな』
「裏ルート……」
『地上に戻るなら……ここに乗れ』
猫王はさあさっと魔法陣を描き、乗るよう促す。
『これは転移の魔法陣だ。警戒せんでもよい』
転移の魔法陣をささっと描くとはさすが猫王といったところか。
「あの僕たちが最後いた階層まで転移できますか」
『ということは三十階層か? 地上まで送るぞ』
「いえ、ただ……」
最後に視界に入ったトール様とルーシャ様のことが心配だ。もしかするとまだ生きているかもしれない。
『そうか、分かった。三十階層まで送ろう』
僕とゼシア様は魔法陣に乗る。
『では気をつけるのだぞ』
「はい、ありがとうございます」
「ありがとう」
『おおそうだった忘れていた』
「なんです?」
猫王は何かを思い出したのか僕たちを呼び止める。
『我と契約しよう』
「契約、ですか?」
『ああ、契約したなら好きな時に我を呼び出せる。これでなにか助けて欲しかったら好きに呼べ。お前は神子なのだから。まあ神子だからと言っても特には何もないがな』
猫王はそういうととある魔法陣を描く。
『ここに魔力を流せ』
僕はいわれた通りに魔力を流す。
魔法陣が光り出したと思えば、猫王も光り出す。
契約が完了したようだった。
『困ったら誰かを頼っていい。我慢しなくてもいいんだ。ではな』
猫王はそう言って転移の魔法陣を起動して、僕たちを送り出す。
◇◇◇
視界が変わり、三十階層のボス部屋に着く。すでに穴も塞がっていた。
すぐにトール様とルーシャ様を探す。
「トール様っ、トール様っ」
僕はトール様をゼシア様はルーシャ様を探す。
少し歩けばすぐに見つけ出せた。
トール様は死体でルーシャ様は虫の息で、だった。
トール様は大量に血を流しどう見ても死んでいた。
僕はルーシャ様の元へ行く。
「カグラ君っ、ルーシャがっ」
「ゼシア、カグラ……」
「静かにしてくださいっ、今直しますからっ」
僕は『守護』のスキルを発動し炎の魔法を使う。
「『炎癒』」
白き炎が彼女の体を包み傷を癒していく。
しばらくしてルーシャ様が完全に回復する。
「カグラ、なんで私を助けたの……そのまま見殺しにしても……」
「僕のご主人様だからです」
「カグラ……今まで、ごめんなさい」
僕とゼシア様はルーシャ様とトール様をおぶって地上に戻る。
◇◇◇
僕はトール様を迷宮に近い死傷者安置所に安置して、何とか回復したルーシャ様と三人でギルドに戻ってきていた。
すると一角で人だかりができていた。
「うぅ、すまねぇ皆んな」
「アルヴ……」
アルヴ様を中心に人が集まっていた。
どうやら話を聞くに、僕たちは事故で亡くなったと言い仲間を失って悲しんでいるふりをしているようだった。
「アルヴ!」
「ッ!?」
ルーシャ様がアルヴ様の名を呼ぶ。
するとその場にいた皆んながこちらに注目する。
「おいあいつらってさっき死んだって言ってたやつじゃ……」
「戻ってきたのか?」
ルーシャ様はその場にいた人たちに何が起きたのか説明する。
アルヴ様は顔を青くしていた。
そりゃそうだ。死んだと思って悲しんだふりをしていたのに本人たちが戻ってきて事実を話したのだから。
アルヴ様に穴に落とされたこと、アルヴ様が二人を剣で斬りつけたこと、トール様が亡くなったこと。
それらを聞いてその場にいた人たちは憤慨する。
そして皆一斉にアルヴ様を責め立てていく。
アルヴ様は顔を赤くしてギルドを出て行った。
おそらく後日殺人と殺人未遂で捕まる上に冒険者の資格も剥奪されるだろう。
僕たちはギルド職員にも事情を説明して宿に戻る。
「カグラ、私も助けてくれてありがとう」
「いえ、僕は奴隷として……」
「でも助けろとは命令してないでしょ。改めてありがと。それと今までひどいことしてごめんなさい」
ルーシャ様は今までの自分の行いの非を認め謝る。
「アルヴも冒険者の資格も剥奪されて捕まるから、奴隷から解放するわ」
「だからもう自由に生きれますよ」
ルーシャ様とゼシア様がそう言う。
「はい、分かりました。でも一人だと何もできないので一緒にいていいですか?」
「ええ、もちろんよ」
「もちろんです」
僕は新しい人生を歩むことになるかもしれない。
◇◇◇
その日の夜、僕はアルヴ様に捕まった。
宿にいたのだが二人から離れた隙に捕まる。抵抗したのだが主人の命令に逆らえず捕まってしまった。
そしてスラム街に連れてこられ、暴力を振るわれる。
「お前のせいでっ、死ねっ、死ねっ、死ねっ!」
僕はアルヴ様が満足するまで殴られ続ける。
そして僕が回復が間に合わず死にかけたとき――
「お前を売って逃走の資金にするか」
そんなことが聞こえた。
最後にもう一度殴られ僕は気を失う。
気がつけば僕は牢の中にいた。
そっかまた奴隷、か。
ルーシャ様とゼシア様と一緒に生きていくと約束したのだが、また奴隷になったようだ。
涙が流れる。
やっと自由になって生きれると思ったが甘かったようだ。
僕は、まだ奴隷としての人生を歩むのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます