第3話 初めての依頼

 朝九時頃、私たち四人は再びギルドに来ていた。

 他の冒険者の反応は二つに分かれていた。

 昨日の魔法の件で私を化け物を見る目で見る者、変わらずにはしゃぐ者。

 若干、前者の方が多い気がする。


 しかし私に害がないのであれば私は気にしない。

 そして、昨日のバカ二人はというと、顔面蒼白な感じで今にも死にそうなほど怯えて、ギルドの隅にいた。


「カメルさん、カードできてますか?」

「はい、できてますよ。こちらがBタンクの冒険者カード、そしてこちらがDランクのカードです」


 私のカードは説明通り、綺麗な銀色。

 しかし、すぐに金色にかわるだろう。


 ユーとリコは銅色だ。ちなみにリョーはCランクで銅色である。

 ユーとリコもすぐにCランクに昇格するだろう。


「カメルさん、最初の依頼、いいですか?」

「はい、いいですよ。……Bランクのサンダーバードの群れ討伐と、Cランクのホーンラビット十五匹討伐ですね」


 受付嬢は何かしらの作業を行う。


「依頼を受理しました。最初の依頼頑張ってくださいね!」

「はい、ありがとうございます」


 早速、出発するとしよう。


「シオン様、この二つの場所はどこなんだ?」

「場所によっては弁当もいりますが……」

「ああ、それは大丈夫です。デグン平原周辺ですから」

「いやそこ遠くない!? 馬車で五時間なんですけど!」

「馬車で五時間でも走っていけば一時間です」

「その計算おかしいよ!? それできるのシオン様だけだから!」

「そうですか? それなら、ついでに他の依頼も受けて、野営しますか」

「そ、それなら……」


 デグン平原周辺の依頼を追加で十個ほど受ける。

 受付嬢が顔を引きつらせ、「き、気をつけてください」と言っていた。


 よって、Bランクが三つ、Cランクが二つ、D・Eランクが七つだ。

 危険かもしれないが油断はしない。


 まずは弁当やに行ってから、馬車に乗りにいく。

 野営道具一式は、すでに魔法鞄マジック・バックに入っている。私が冒険者用品を扱う商会もあって、全部揃えることができた。というより、父からタダで貰えた。


 ちなみに魔法鞄マジック・バックとは、なかが異空間になっており、荷物が嵩張らずに持ち運べる――もちろん品質によっては容量が決まっている――という冒険者必須アイテムだ。少々、新人冒険者には高い出費だが、利便性を考えれば必須となっているのだ。

 これも父から貰った。


「それじゃ、行きましょ、シオン様」

「ええ。その前に……」

「??」


 ギルドの隅にいた。昨日のバカ二人のところに向かう。


「昨日ぶりですね、先輩。どうしたんですか、そんなに怯えて」

「「ひっ!!」」

「もうすぐAランクの私に教えることがあるなら教えてくださいね? ああ、それと、私をどうこういうのは構いませんが、兄さんを侮辱するのは絶対に許しませんので」


 二人は涙を浮かべながら、首をぶんぶんと縦にふる。


「シオン様、遊んでないで早く行きましょ」

「ええ、わかってるわ」


 私たちはギルドを後にする。


◇ ◇ ◇


 私たちは弁当を買い、馬車に乗りデグン平原に来ていた。


 デグン平原は、だだっ広い野原だが魔物も多くいる。そのためチラホラと冒険者の姿が確認できた。


「少し早く着いたとはいえ、もう昼頃ね」

「先にお昼ご飯食べましょ」


 平原のど真ん中に座り、買ってきた弁当を食べる。


 弁当文化はこの世界にはあったものの数が少なかった。

 そこで転生者は弁当文化を広げた。

 保存方法やパッケージ、料理などが生み出され、様々な弁当ができ、今では冒険者や学生、旅人には必須なものとなっている。


 私は日の丸弁当、ユーは焼肉弁当、リコは十六穀米とサラダ、リョウは海鮮弁当だ。

 私にとって日の丸弁当は兄さんとの思い出の一つだ。


 弁当を食べ終えると、少し休憩を挟んでから早速依頼の魔物討伐に移る。


 近くの森に入り目当の魔物を探す。


 まず、Eランクの依頼であるゴブリンの群れの討伐。

 近くに洞穴がありそこにゴブリンが住んでいたので、私が洞穴ごと破壊する。


「シオン様、どうやって討伐証明取るんですか」

「……あ……ごめんなさい、すっかり忘れてたわ」


 そういえば、討伐を証明するためにゴブリンの耳が必要なのだ。


「ここは私がやっておくから、あなたたちは先に他のをやっていなさい。Bランクでもあなたたちならやれるわよ……たぶん」


 これは私の失態なので三人には他の依頼をしてもらい、私は耳を集める。


 十分ほどで二十三個のみみを集めた。

 洞穴ごと壊すんじゃなかったと今さらながら後悔する。


「あの三人は……あっちね」


 三人と合流するために戦闘音のする方へ向かう。


 少し歩けば、三人はCランクの依頼であるフォレストスパイダーと戦闘をしていた。

 フォレストスパイダーが作った、くもの糸の罠は厄介なのか前衛のユーは戦いづらそうだ。


 ユーは、罠を避けつつ敵に近づき少しずつ傷をつけていく。

 リコは、魔法でユーを援護しつつ罠を壊している。

 リョウは補佐しぶりの出番が嬉しいのか魔法で攻撃を加えていく。


 二分ほどで決着はついた。

 弱り行動が鈍くなったフォレストスパイダーをユーが体を真っ二つに切り裂いた。


「よっしっ!」

「討伐証明は足と糸だったよね」

「ああ、糸は高く売れるらしいぞ」


 三人は足と糸を回収していく。


「ん? シオン様、いたのか」

「いたなら少しくらい手伝ってくれてもよかったのに」

「でもいい経験にはなったでしょう?」

「それもそうだが……」


 それから森の中や平原を探索し、計十一個の依頼を達成した。

 Bランク:ファイアトレント、Bランク:宝珠草の採取、Cランク:フォレストスパイダー、Cランク:ホーンラビット、D・Eランクの雑魚。


 残る一つはBランク:サンダーバードのみ。

 だがすでに日も暮れ始めたので野宿の準備をしよう。


 平原と森の境界線で二つのテントを張り、夕食の準備をする。

 私は料理が全くできないのでリコが作った。ユーもリコほどではないがある程度は作れるらしい。意外だ。


 夕食を食べ終えて後は寝るだけとなった。

 見張りは魔物除けのお香を焚いたので必要ない。それでも来たとしてもすぐに気がつくだろう。


 ユーとリョウ、私とリコで分かれており、リコと横並びになって眠りについた。


 翌日。

 朝食を食べ終え最後の依頼を達成するための準備も終える。


 残すは、Bランク:サンダーバードの討伐

 サンダーバードは黄色い羽毛で覆われており雷魔法が使えるらしい。しかも危機を察知すれば、 超高速飛行で逃げるらしい。しかも群れるためなかなかに厄介だ。

 今回、畑や食糧庫を襲撃され討伐依頼が出た。


 住処はこの森のどこか、と範囲は広い。

 だが、危機を察知すれば逃げ出す逃げ出すという特性を活かせば、すぐに見つけられるだろう。


「では、とりあえず走りましょうか」


 走り始めて早一時間。

 一向に見つからない。普通の鳥すら見つからない。

 私たちはついさっき倒したAランクのホワイトグリズリーの側で休憩を取っていた。


「はぁ、どこにいんだよ」

「もう……走れない……」

「…………」


 三人は疲れ切っていた。リョウに至っては死体のようだ。


「私は少し周りを見てきますので、少し待っていてください」

「おお」

「分かった」

「…………」


 リョウは死んだのかもしれない。


 そうして、私は再び走っていると――


「ピーピーピーッ!!」

「「「「ピーピーピーッ!!」」」」


 甲高い音が森に響き渡る。

 この声はおそらくサンダーバードだ。

 司会の端に何かが飛び立つのが見えた。もう逃げたようだ。


 普通ならばこうなってしまえばどうしようもないが、私は魔法で空を飛べるので追うことができる。


 私が飛ぶ頃にはサンダーバード達はすでに数百メートル先にいた

 私も雷魔法と風魔法で加速していく。


 数秒で追いついた。


「そんなに逃げなくてもいいじゃないですか」


 最後尾の鳥に話しかける。

 そのサンダーバードは、『え、嘘でしょ?』みたいな顔をしている。

 事実だ。


「『風刃エアー・カッター』」


 私は無数の『風刃エアー・カッター』を作り出し、サンダーバードを落としていく――はずだったのだが、日本の空自のパイロットも驚きのアクロバット飛行をし始め、全て避けられてしまう。


「え、嘘でしょ?」


 事実だ。

 サンダーバードは一斉に高度を落としていき、地面に降り立つ。

 私も後をついていく。


『『『『申し訳っ、ありませんでしたー!!』』』』


 一斉に平伏し、念話で謝られてきた。


『畑から食料を取らないと、生きていけないんですー!』

『お願いですから、見逃してくださいっ』

『できれば、ご飯もくれると……』

『バカっ、今そんなことを言ってる場合じゃないだろっ』


 確かによく見れば、少し痩せ細っている。


「魔物には変わりありませんから死んでください」

『え、ちょっ、待っ』

「『雷嵐テンペスト』」

『アッ――』


 森の一部が嵐に飲み込まれる。

 少しオーバーキルだっただろうか。


「ん? マジか」


 吹き荒れる嵐の風に沿うようにサンダーバードが飛んでいた。

 嵐が止み、サンダーバードも戻ってくる。


『僕たち、魔物じゃないんですっ』

『よく間違えられますが、ただの鳥なんですっ』

「魔法使ってるじゃないですか」


 ただの鳥は魔法は使えない。


『魔物の肉を食べたら使えるようになってしまって……』

『半分鳥で半分魔物、みたいな?』

「はぁ、分かりました。害はないんですね?」


 必死に頷く。

 これはどうすればいいのだろうか。

 殺すか、見逃すか……


『助けてくれればこれからもずっとついていって手助けしますので』

「要りません」

『即答!?』

『そこをどうにか』


 ついてくるなどただの邪魔でしかないんだが。

 いや、偵察に使えば……兄さんのペットにするのも……よし、ペットにしよう。


「とりあえず、ついてきてください」


 一旦、三人がいるとこに戻る。


「あ、お帰りなさいシオン様」

「見つかったのか?」

「ええ、ここに」


 二十羽ほどのサンダーバードが降り立つ。


「ほらそこの、肉食べていいですよ」

『えっ、いいんですか!?』

「はい、お好きにどうぞ」


 サンダーバードがホワイトグリズリーの肉を食べていく。


「ど、どうしたんだ。急に肉食べ始めたが」

「? さっき言ってたでしょう?」

「? ただピーピーって言ってだけだが……」

『シオン様、うまっ、私たちの念話は、うまっ、素質のある人か、うまっ、強い人しか、うまっ、聞こえませんよ、うまっ』

「そうですか。私にしか念話は聞こえていないようです」


 とりあえず三人に事情を説明する。


「なるほどな。まぁ、シオン様が言うから心配ないだろ」

「じゃあ、これで依頼終了かな」

「討伐できていないなら、依頼失敗では?」

「……あ」

「支部長に言えば大丈夫でしょう。帰りますよ」


 サンダーバードの方を見ればそこには綺麗になったホワイトグリズリーだった骨が……え、あれ全部食べたの?

 相当な量があったから残ると思っていたが、よほどお腹が空いていたようだ。


『シオン様、私が代表してついていきますね。どこかにでるときはみんなでついていきますが』


 サンダーバードが一羽だけついてくることになった。


 サンダーバードを肩に乗せて私たちはフェーデルに帰る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る