第2話 冒険者の心得

 クエストボードの前には多くの人がいたが、私をみるとモーゼが海を割ったように人が避けていく。


 クエストボードには、Eランク・ゴブリン討伐というものから、Aランク・獣王討伐というものまで様々な依頼があった。


 たくさんの依頼の中から私は二つに目をつける。

 それは、Dランク・ホーンラビット15匹討伐と、Bランク・サンダーバードの群れの討伐だ。

 この二つを明日受けよう。


 そう考えていると――


「おいおい、いつからここはガキの溜まり場になったんだぁ?」

「ガキがBランクの依頼を見ても何の意味もねぇんだよ!」


 やっぱりでた。

 冒険者ギルドあるある、冒険者になった日にチンピラに絡まれる。


「おい、あいつってつい最近、この街にきたBランクのやつじゃねぇか?」

「ああ、そういえばそうだな」


 そんなヒソヒソ話が聞こえる。

 おそらく私に言っているのだろうが、あえて無視する。


「無視してんじゃねぇよ! お前だよ、女ぁ!」

「あれなんか懐かしいな」

「私たちがシオン様とあった時もこうだったなぁ」


 ユーとリコがシオンと会った日のことを思い出している。


「で、何の用ですか?」

「お前みてぇな、Eランクは俺たちBランクに挨拶しなきゃなんねぇんだよ」


 Eランク?

 ああ、こいつら最近来たから、私のこと知らないのか。それに同じBランクでも私の方が実力は上だ。依頼を数度受ければすぐにAランクになることが決まっているのだから。


「おいお前らこそシオン様に挨拶しやがれ!」

「そうよ! あんたたちみたいな雑魚はシオン様に従うのが当然でしょ!」

「シオン様に従いなさい」


 三人衆が反論する。


「うっせぇ!」

「モブは黙ってろ!」

「「「……モブ……」」」


 モブと言われた三人は落ち込んでしまった。

 効果は抜群だったようだ。


「おい女ぁ、礼儀がなってねぇ奴は俺様が躾けてやるよ」

「Bランクは強いんだぜぇ?」

「モブ三人、早く帰りますよ」

「モブって言うなよ気にしてんだから……」

「モブにモブって言われた。あいつらのほうがぽっとでのモブなのに……」

「最近モブの中のモブになってて気にしてたのに……」


 三人は相当落ち込んでいた。

 ぽっちゃりにデブと言ってはいけないように、準レギュラーのモブにモブと言ってはいけないらしい。


「逃げんのかぁ?」

「お前の家族もすぐ逃げんのだなぁ」


 家族…………兄さん…………兄さんが弱い?…………兄さんを侮辱した?…………よし、殺そう。


「おいおいおいおい、シオン様! 殺そうとしないでくれ!」

「兄さんを侮辱したんです、死んで当然です」

「そんなことでシオン様の手が汚れたら神楽様が悲しむわよ!」

「分かりました、死なない程度に殺します」

「それ、死んでないっ!?」


 三人衆が私を押さえ込む。スキルまで使ってやっとだ。


「バカなお前らに 冒険者というのを教えてやるよ。ついてこい」


 男二人はそう言い、訓練場に移動する。

 そのバカ二人を見て他の冒険者は思った。


((((バカはお前だよ!!))))


 と。

 しかも、「あいつら死んだな」とか「見に行こうぜ」とか呟いていた。



「ルールは相手が降参するまでなんでもありだ」

「俺たちは優しいからよぉ、四対一でいいぜ」

「いえお断りします」

「ああ? 逃げんのかぁ?」

「私一人で十分ですので二人同時に来てください。そっちの方が早いです」

「ああ? あんま舐めてっと後悔すんぞ!」

「死ねっ!」


 一人は真っ直ぐ剣を持って走り出し、一人は魔法の詠唱を始める。

 さすがはBランクというだけある。剣の構え方、そして移動速度、魔法の詠唱速度は中々のもだ。


 本当のEランクなら対応できていなかっただろう。

 しかし私からすれば遅かった。


「は? 消え……がっ!?」

「なにっ」


 私は目で追えない速さで走り込み、剣士の方の男の顔を蹴る。

 あまりの事態に呆然となる二人。魔法を使う男はとっさに魔法を放つ。


「『炎槍ファイアー・スピア』!!」


 通常の二倍の大きさで二百個ほどの炎槍ファイアー・スピアが現れる。

 少し驚くも、たかがそれだけだ。


 四方八方から炎槍ファイアー・スピアが迫り、爆発する。

 全てが爆発し終えると、私の周囲にはクレーターができていた。


「はっ、一人で挑むからそうなるんだっ!」

「蹴りを入れられたのは驚いたがその程度だろ?」


 勝った気でいるバカ二人。普通の人なら死んでた魔法だったが、そこは大丈夫なのだろうか。

 煙が晴れるとふたりは驚愕に顔を染める。


「な、なんであんだけの爆撃を受けて無傷なんだよっ」

「上級魔法くらいの攻撃をっ」

「あれが上級? 面白い冗談ですね」

「ッッ!! さっきのはただの練習に決まってんだろ。これが本当の魔法だっ!」


 男はそういうと詠唱を始める。


「『花咲く花は紅蓮なり 花咲く場所は汝なり 花咲く色は紅なり』最上級魔法『紅蓮華』!!」


 訓練場を覆うほどの魔法陣が私を中心に展開される。


 彼はかなりの実力者なのだろう。最上級魔法を使うなどAランク以上の実力だ。

 そして、この魔法で今までに多くの魔物を屠ってきたのだろう。

 しかし、相手が悪かった。


「『始まりは空 終わりは大地 それは天地を繋ぐ柱なり

始まりは我 終わりは汝なり それは断罪の雷なり

今ここに雷神を顕現し 汝を罰せよ』超級魔法『雷神之断罪ゼウス・コンビクト』」


 村一つを覆うほどの魔法陣が空に展開される。


 超級魔法――それは世界でも片手で数えるほどしか使用者が少ないとされている、最上級すら霞んで見える、まさに神の如き魔法。

 超級魔法たったひとつで国が滅んだという逸話もある。


 その魔法は雷で雷神を模し、最上級魔法を破壊し尽くす。

 そして、雷神が二人に迫り攻撃する直前に、魔法は掻き消える。


 男たちは小便を漏らして気絶している。

 観客席を見れば、気絶している者、平伏している者、神に祈りを捧げる者など、混乱に満ちていた。


 ちょっとやりすぎたかもしれない。






 ……まあいいか。


「モブ三人、帰りますよ」

「おう」

「さすがシオン様! さすシオ!」

「これは……放置していいのだろうか」


 ギルド支部長が来る可能性もあるので早く帰ることにする。

 さりげなく『モブ三人』といったが気にしていないようだ。


 ギルドの扉を開けて早く帰ろうとした時、


「シオン君、だったかな?」


 一人の少年らしき人に話しかけられる。


「何か?」

「僕はここの支部長でね、少し話があるんだけど、来てく――」

「いえ、遠慮しておきます。では」


 面倒なので無視して帰る。


「えっ、あ、ちょ、待って。お願いします、話が。あっ、無視しないで。君の兄さんについての話も――」

「……あなたがなぜそれを?」

「「「「ッッ!?」」」」


 シオンの殺気がその場を支配する。


 『シオンの兄』といえば、商会の兄を思い浮かべるのがほとんどだが、シオンにとっては違う。

 それに商会の兄についてシオンに聞く人はいない。それなのに兄について話すということは、そういうことである。

 今この世界でシオンの兄神楽を知る人はシオンの両親、三人衆、学園長のみである。


 それなのになぜ支部長が知っているのか、シオンはそう問いかけたのだ。

 ちなみに支部長は元Aランク以上の者がついているが、その支部長もあまりの殺気に戦慄している。


「シ、シオン様、一回、落ち着いて。私たち死んじゃう」


 周りを見てみると、この場にいた低ランクの者は泡を吹いて気絶していた。


 殺気を解く。


「ふぅ、久々に死を覚悟したよ。ここで立ち話もなんだし支部長室に来てくれるかな?」

「ええ、分かりました。私も色々と聞きたいこともありますし」


 支部長室に移動する。

 ちなみに三人衆はここで待機だ。


「自己紹介は……」

「いりません」

「だよね。まずは君のランクについてだね。今はまだBランクだけど一回だけBランクの依頼を受けたらAランクに昇格するようにしておいたから、そこんとこよろしくね。あと何か面倒なことが起こったらこれ渡してくれれば、優遇されると思うよ」


 渡されたのは一枚の紙。


「これは僕のサインが書いてあって、それなりの権限があるから、大事にね」

「分かりました。ですがなぜこれを私に?」

「なんとなくだけど君にはトラブルが近寄ってきそうだから」

「トラブルメーカーだと?」

「うん。だからそれをその場の責任者にでも見せてくれれば大体は解決だよ」

「そうですか。それで兄さんのことですが、なぜそれを知っているのですか?」

「それは、学園長から聞いてね。僕も手伝うことにしたんだよ」

「それで何か情報は?」

「これでも僕は相当の権力を持っててね、王国内のカグラっていう名前の子供を探したんだけど、誰もいなかった」

「ならどこにっ!」

「まあまあ。そこから考えるに……この国には生まれていないか、別の種族に生まれているかもしれない。それと王国内でも辺境の村だとわからないからね」


 別の国……別の種族……それなら最初にどこに行くべきなのだろうか。


「だから、まずは王都に行ってみるといいよ」

「王都、ですか?」

「そう。あそこなら人も物も集まる。もちろん情報も、ね」

「そこなら兄さんも来ているかもしれないし、兄さんの情報も集まるかもしれない、と?」

「そういうこと。そこでさっき渡した紙を渡したら色々情報くれるかもよ」

「そうですか。では」

「うん。なにか相談があったら僕に相談してもいいよ。こう見えてハーフエルフの81歳だからね。明日も来るんでしょ? お茶しにきてもいいよ」

「遠慮しておきます。急いでますので」

「……早く会いたいのもわかるけど、たまには息抜きも必要だよ」


 私は支部長室をあとにする。


「おっ、終わったかシオン様」

「帰りますよ、モブ三人」

「いい加減やめてくれませんか? モブって呼ぶの」

「? モブはモブでしょう」

「『何を言ってるんだ?』って顔しないでください」

「……ねえリコ、私は焦っているのかしら」

「どうしたんですか、急に。……まあそう、ですね。少し焦ってると思います。もう少しゆっくりでもいい、かなと」

「そう。土地を楽しみながら兄さんを探しても兄さんは許してくれるでしょうか」

「許してくれるんじゃないですか。再会した時にたくさん土産話を聞かせてあげましょう」

「そうね、そうするわ」


 私は兄さんへの土産話を用意するためにもう少しゆっくり探すことを決めた。


◇ ◇ ◇


なろうの方にて後書きに特別小話を書いてありますので、そちらの方もよろしくお願いします。

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