第5話 卒業

 やっと私は15歳になった。とうとうグラッツェ学園中等部を卒業する。

 この学園には卒業の条件の一つとして、卒業試験を合格することがある。もし合格できない場合は留年となるが、私は大丈夫だろう。


 卒業試験は、筆記と実義のテストがあり、両方合わせて1000点満点で行う。

 科によって試験内容は変わるが、冒険科は一般常識の筆記試験と森で行われる魔物討伐の実技試験。魔法科は基礎知識の筆記試験と魔法の実技だ。

 7つも科があるため1週間をかけてテストが行われる。人によっては2日で終わる人もいるが私は4日で終わる。


 1日目は、午前に冒険科の筆記試験、2日目の午後は魔法科の筆記試験、3日目の午前は冒険科の実技試験、4日目の午前は魔法科の実技試験がある。


 初日の冒険科の筆記試験が行われるここ大講堂には大勢の生徒が集まり、教科書とにらめっこをしては頭を悩ませていた。


「シオン様は教科書とか見なくていいのか?」

「バカッ、シオン様なんだから見なくても合格できるでしょ」


 ユー、リコ、リョウのあの3人――面倒なので三人衆と呼ぶ――のうちの2人が話しかけてくる。

 私の子分になってから5年がたった今、私のことは様をつけて呼ぶようになっていた。

 リョウは一足先に卒業し、一人で冒険の準備をしている。私たちが卒業してすぐに旅立てるようにと自ら率先して動いていた。


 2人と少しばかり雑談をしていると、試験の時間がきた。

 兄さんのために全力で試験に向き合う。



 4日間の試験が終わった。

 3人とも合格しているだろうが、私はまたやってしまった。


 一つは冒険科の実技試験のことだ。

 D級の魔物ホーンラビットを20匹狩って、角を持ってくればこの試験は合格だ。


「きゅ?」


 私はホーンラビットを見つけるや否や剣で首を刈り取る。

 前にも言ったが私は獣が大っ嫌いだ。魔物も獣と大して変わらないので、吐き気がする。嫌すぎて試験をリタイアしようかと思ったほどだ。

 ホーンラビットはその可愛さから冒険者の中では人気なのだが、モフモフが可愛いというやつの思考が分からない。毛に触っただけでショック死してしまいそうだ。


 しかし私の好き嫌いで不合格になってしまったら兄さんと会うのが遅くなってしまうため、我慢する。


 吐き気を抑えながら風魔法で角を切り取り、回収する。


 これを既に19回繰り返している。次の1匹で終了という時にそれは起きた。


「グルァァァァァァァァァァァァ!!」


 突如私の目の前に現れたA級のルナグリズリー――名前の通り胸のあたりにツキノワグマのような白い毛があり硬い体毛と素早い動きで相手を瞬殺する――が私に殺気を込めた威嚇をする。


 私は耐えきれず吐いてしまう。

 その様子を自分の威嚇に恐れをなしたと勘違いをした、ルナグリズリーはのしっのしっと近づく。


「来るな! 獣風情が!」


 ボトッとルナグリズリーの首が落ちる。


「グルァ?」


 ルナグリズリーは何が起きたかわかっていない。そして首を切られたと認識するまでもなく絶命した。


 一応採点にはなるかと思い、風魔法で1メートルはある首を浮かせ運ぶ。

 私は獣に耐えることが出来ずリタイアすることにした。まあ、19匹も狩ったのだ、褒めてほしい。

 吐き気を抑えつつ、試験管が待つところまで戻る。


 そして案の定、試験官は大騒ぎ。ルナグリズリーが1人の少女に狩られたこともあるが、いないはずのA級が現れたのだ。すぐ試験は中止となった。



 2つ目は魔法科の実技でのことだ。

 自分のだせる本気の魔法を放つという、至極簡単なものだった。


 順に魔法を放っていく。中には試験官を驚かせたものもあった。


「次、シオンさん。全力でやってくださいね?」

「え、でも全力は……」

「いいから全力でやりなさい。不合格にしますよ?」

「はぁ、分かりました。全部あなたの責任ですからね」


 この試験官は私が魔物の大群を追い払ったことを知らないのだろうか。

 しかし言質はとったので校舎が壊れても大丈夫だろう。


 私は得意な雷魔法を使うことにする。素早く魔法式を描き魔力を流す。


「あっ、おい! そいつは試験は合格でいいと――」

「『雷帝サンダー・テンペスト』!!」

ガラガラガッシャァァァァァァァァァァァァンッ!!!


 上級魔法を発動する。それは的に寸分の狂いなく落ち余波で校舎を吹き飛ばす。生徒たちは、異変に気付いた他の試験官が結界を張り無事だった。

 当の本人の試験官はあまりの高威力の魔法に腰を抜かせていた。


「責任はあなたがもちますよね?」

「えっ、なっ、は、え?」


 あとでその試験官は理事長と試験官長からこっぴどく叱られた上に校舎の修繕費を全額負担したそうだ。


 私は理事長から多少注意を受けたがこれは仕方のないことだろうと思う。試験官が全力で取り組めと言っていたし……うん、私は悪くない。


 そんなことがあったのだ。今、改めて思うとやり過ぎたと思う。


 それから数日がして合格発表の日が来た。

 ユーとリコは850点ほど取り、無事合格。私はやっぱり前代未聞の1000点満点。私の結果を見てユーとリコはなぜか自慢げな顔をしていた。



 数日後の卒業式も終えて、早速冒険者になる――ことはできなかった。


 卒業試験での結果についてマスコミにスクープされそれどころではなかったからだ。家にまでついてきてうるさいので殺気を放ちつつ、


「さっさと帰れ。それかこの店を紹介しろ」


 と言った。


 このおかげでこの店は売り上げも伸び親孝行に繋がった。今まで私のわがままを聴いてくれたお礼だ。


 数日ほど家の手伝いをし、ようやく冒険者登録をする。慣れるまではこの街に留まるが、家の手伝いは一切できなくなるだろう。だからこそ、この数日間だけ手伝ったのだ。


「シオン、忘れ物はないか?」

「もう確認しましたからそんなに心配しなくても……」

「むう、しかしだな」

「今日は登録をして講義を受けたらすぐ帰ってきますから」

「そう、だよな。よしっ行ってこい!」

「はい、行ってきます」


 玄関の扉を開けると、すでに三人衆が待っていた。


「「「シオン様、行こうか!」」」

「ええ、兄さんを探すための一歩です。これから手荒く使いますから覚悟してくださいね」

「おう、当たりまえだ」

「もう覚悟はできてるわ!」

「ではギルドに向かおうか」


 私たちは、兄さんと再会するべく一歩を踏み出す。

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