第3話 神に詰問

 目を開けると、白い世界が広がる。


(兄さんはどこに……)


 ここはあの世かと思い、兄さんを探すも人影一つ見当たらない。

 しばらく辺りを見渡しても何もない。言葉通り何もない。建物も空も地面もだ。まさに無。


 しかし人一人が現れる。女性だ。白髪ロングの美しい顔立ち。天使と形容してもおかしくはない。

 実際、彼女は――


「暁 紫苑さん、ですよね? 信じられないかもしれませんが私は地球を管理する神です」


 怪しさ全開なので私は観察するように凝視する。


「そ、そんなに凝視しないでください……信じるか信じないかはあなた次第ですが、あなたに重要な話があります」


 重要な話とはなんだろうか。今は兄さんを探さないといけないのに。


「その兄さんについてです」


 当たり前のように人の心を読んでいる自称神(笑)。というか今何と? 兄さんについてって言った?


「自称神(笑)って言わないでください! んんっ、失礼。あなたの兄についてですが、彼は既に転生しているはずです、多分」

「もっと詳しく!」

「は、はい。元々、死んだ人は地球か別の世界に転生するんですが、数千年に一人ここを通らずに転生するんです。彼がそうなりまして、気がついたら別の世界に転生してたんです。転生者には何かしら特典を授けることもありまして。悲惨な人生を送った者には幸運値を上昇させて幸福な人生を送れるようにするんですが……」

「転生に気がつかなかったから幸運値を上げれていない、と」

「はい、そういうことです」

「はぁ? 私の兄さんがまた悲惨な人生を送ると? ふざけてるのですか? あぁ?」


 私は自称神にメンチを切る。この能無しのせいで私の兄さんを……


「本当にごめんなさい!!」


 自称神が綺麗なジャンピング土下座をする。5回ほど宙を舞ってから、頭を地面に当てていた。


「数千年に一人とはいえ、本当にごめんなさい! 神も万能じゃないんですぅ」


 私は静かに立ち上がり、地面につけている神の頭を足で踏む。


「ねえ、謝って済む話じゃないでしょう? 人生がかかってるんですよ? ん? 人生をなんだと思ってるんですか?」

「うっ、ごめんなさい。でも神の頭を踏むのは流石にやりすぎでは……」

「あ?」

「な、なんでもないです」


 とにかく私はさらに詳しいことを聞くために自称神を詰問する。頭を足で踏んでいるのになぜかはぁはぁしている。気持ち悪い。

 しかし、自称神は涙目になりながらはぁはぁしつつも、しっかりと私の質問に答えてくれた。


 曰く、向こうの世界には悲惨者救済システムがあるが、私の兄さんを助けるために私にその世界に転生してほしいこと。

 曰く、私にチートスキルを授けるからついでにその世界も救ってほしいこと。


 最初のことについて、私は二つ返事で了承した。当たり前だ。兄さんを助けるためならなんでもする。

 二つ目のことについては、悩んだものの兄さんを救うことに繋がると思い、これも了承した。


「本当にありがとうございます」

「で、あなたは何をするんですか」

「え、な、何とは?」

「兄さんを助けるのは私で、あなた何もしてませんよね。違いますか?」

「ち、違いません! それで私に何をしろと」

「そうですね……向こうの世界の神にお前の全てのコネを使って、私に何かしらの優遇措置を取らせてください。拒否権はありませんよ」

「は、はい分かりました。それとあなたの特典ですが……何がいいでしょうか」


 掲示されたスキル欄の中から便利なものを選ぶ。

 ラノベの知識を元に相性のいいものを選んだ。


 結果、こうなった。


==============================

スキル:身体強化(4倍)、成長率倍増、魔力増幅、剣術(A級)、体術(A級)、物理耐性、魔法耐性、愛情変換

魔法:雷属性魔法、氷属性魔法、水属性魔法、風属性魔法

==============================


 さすがにこれ以上つけると目立ちすぎて面倒なことになるのでやめておいた。

 ちなみに『愛情変換』というのは、愛情の深さに応じてステータスにプラス補正が働いたり、色々なものに変換できる――例えば殺気も兄さん関連なら相当だせる――そうだ。このスキルは私が元々持っていた、つまり私の兄さんへの愛がスキルに実体化した結果だ。しかし、このスキルはヤンデレに多く発現するというが……私はヤンデレではない、筈だ。ブラコンは認めるがヤンデレとまではいっていないと信じたい。


 他のステータス(レベルや生命力などのステータス、称号など)は、転生したらつくという。転生者は基本ステータス値が高いという。なぜなら、世界を渡る際に世界と世界の間にある魔力を、少なからず吸収しているからしい。


「あ、あなたが60人余りを殺して死んだ後、日本ではニュースの的でしたよ。この前、いじめで殺された学校から60人余りの人が殺されたんですから。遺族の方は学校のいじめを知り、あなたに謝罪してましたよ。まあ、多少は恨んでましたが」

「私は間違っているとは思っていないので、咎めても意味ないですよ」

「咎めるつもりはありません。ただの報告です。それと殺された彼らもここでしっかり反省してましたよ」

「それは、本当ですか?」

「ええ、それであなたの兄に謝罪して一生を尽くすと言ってました」

「同じ世界に転生させたんですか」

「はい、どうしてもと言うので、嫌ですよね。でもこれだけは知っておいてください。『神は正義でも悪でもない。神は世界を管理するだけの存在である』ということを」

「ええ、分かってます。兄さんも『神は正義でも悪でもない。神が正義ならこの世に悪は存在しないから』と言ってましたし」


 少しばかり雑談をした。主に兄さんについて。

 兄さんの他に月城瑠奈以外と喋ったことはないので、楽しかった。そのせいで少し長く話し込んでしまった。が、兄さんについて話し合えたので良しとしよう。


「では早く送ってください」

「はい。あの最後にご褒美を……」

「はぁ? ドMの変態が、気持ち悪い」

「はぁぁぁんっ! その神でも容赦なく侮蔑する目、気持ちいいです」


 どうやらこの自称神(笑)は詰問中にドMの変態になっていたようだ。


「そんなことより、早く送ってください」

「はぁはぁ、わ、分かりました。ではあなたに幸せのあらんことを」


 私はまた深い眠りにつく。


♢     ♢     ♢     ♢     ♢


「………………」

「なんでこの子は泣かないのかしら、心配だわ」


 ちゃんと転生できたようだ。


 今世での私の名前はシオン・ヴァーゲル。

 ヴァーゲル商会を経営している両親の次女だ。この家庭は両親と1人の姉、3人の兄と暮らしている。


 ヴァーゲル商会は大商会ほどではないが、冒険者ギルドの新人冒険者御用達の商会だ。ここは『始まりの商会』と呼ばれるほど、新人冒険者に人気の商会で、値段も安い割に使い勝手がいいと評判だ。

 そんな家庭に生まれた私は、裕福な町娘としての生活を送った。

 両親には私が転生者であることを包み隠さず伝えた。その方が今後の生活が楽だからだ。



 5歳から情報収集を始めた。まずはこの世界について知り兄さんを探す準備をする。

 ヴァーゲル商会がある、ここシュワルゲン王国フューデンリヒ領領都フェーデル――王都から直線で真東だが中間の位置にアヴィッツァロ山があるため、フェーゲルハイト領を通り北東に進んだところにある――の大図書館に通いつめ、この世界の地理・情勢・種族などを調べた。


 この世界の教育レベルは低いかと思ったが、他の地球からの転生者によって教育レベルは高水準だった。

 6歳でグラッツェ学園小等部に入学し4年間は一般教育を行い、10歳ステータスの結果で進路を決め、進路に合った科に入り、中等部の科ごとの教育を5年間、受けると言う。科は、商業科・工業科・農業科・冒険科・政治科・騎士科・魔法科がある。成績が上位35%に入っていれば二つの科に入っていいらしい。

 一応、中等部を卒業できれば高等部に入り更に専門的なことも学べるが、私は少しでも早く兄さんを探したいのでここには入らない。


 私は商人の娘なので商業科に入る……筈だが私は兄さんを探すために世界を旅する予定なので冒険科に入る予定だ。

 私が4人兄妹の一番下ということもあり、両親は快くとはいかないものの許可してくれた。私が転生者で多くの知識を持っていたため渋々と言う感じだった。私は仕方なく私の気が向いたときにアイデアを教えるということで許可してくれた。両親には頭が上がらない。


 よって私は冒険科と魔法科に入る予定だ。魔法は4属性もあるわけなので魔法科に入っておいて損はないだろう。



 そんなこんなであっという間に6歳になり入学の年がやってきた。知識を蓄えつつもこっそり魔法の練習をした。本当にラノベというのは教科書にぴったりだ。魔力を制御するのに2週間は掛かったもののラノベを知らなかったら何もできていなかっただろう。本当にラノベ様々だ。

 ラノベといえばこの世界にもラノベ小説や漫画があるらしい。これも転生者の手によって生まれ人気を博している。ラノベの他にも転生者は、あらゆる物を生み出している。政治関係・科学・カードゲームやボードゲーム・料理・医療などなど。他の転生者には感謝してもしきれない。

 閑話休題。


 ついに1週間後、私は小学校に入学する。ほどほどに友達を作り信頼を得て、将来に役立てる。信頼はお金で買えないので相手が子供のうちに洗脳しておけば……おっとちょっとサイコパスが。

 ともかく兄さんを救うために頑張ろう。

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