第2話 復讐
11月中旬の夕方。空は暗く強い雨が降っている。
今日、兄さんに「委員会があって遅れるから家で待ってて」と言われ家で待っているが、いくら何でも遅すぎる。すでに5時半だ。いつもなら4時半には帰ってきているのに……
そう考えている時、
『紫苑、ごめんね』
兄さんの声が聞こえた気がして、振り向いても誰もいない。
兄さんに何かあったかもと思い、傘を持ち足早に学校に向かう。
学校に着く頃には、大降りだった雨も小雨に変わり、日が沈みより一層暗くなっていた。
職員室で兄さんの委員会の顧問である嵐田先生――私と兄さんの遠い親戚だが関わりはない――を見つける。
「嵐田先生、委員会は終わりましたよね」
「ん? ああ、1時間前に終わったが……神楽に何かあったのか?」
「はい、まだ家に帰ってなくて」
委員会はとっくに終わっているらしく、私は嵐田先生と学校内を探すことにした。
しばらく探したものの校舎内にはいなかったため、外に出る。
いないとは思うが念のため校舎裏も探してみる。校舎裏は街灯が近くにあるものの薄暗かった。
「兄……さん……?」
兄さんがいた。
ただ、兄さんは横たえられており、顔は血と雨と痣だらけ。さらに服が破り捨ててあり、今まで隠されていた体には痣や切り傷が目立っていた。
「兄さん?……兄さんっ、兄さんっ」
体を揺らし呼びかけても何の反応もない。さらには息が止まっており、心臓の鼓動も聞こえない。
兄さんが……死んだ? 嫌だ、そんなもの認めたくない。兄さんはまだ生きている。もし兄さんが生きていなければ私は……
僅かな希望を持って、私は人工呼吸や心臓マッサージをした。が、兄さんが生き返ることはなかった。
兄さんが死んだ。
これはどう抗っても覆ることはない事実。
その事実を理解し、私は泣き崩れる。
「兄さん……兄さん……兄さん!!」
私は兄さんの亡骸に泣きついた。
雨はまた強くなっていた。
「どうした! 神楽はいた……の……か?」
声を聞きつけた嵐田先生と茨木先生が来た。
「茨木先生。救急車を! 早く!」
「は、はい!」
「紫苑、神楽は……」
「殺されました。いじめられて殺されたんです。私がいじめに気づいていれば、兄さんは……私が代わりに死んでいれば……」
「紫苑! そんなことを考えるな。一回、落ち着け」
「……でも!」
「でもじゃない。とにかく落ち着け」
「……はい」
嵐田先生に抱きつかれ、一度落ち着く。
少しして、他の先生方と救急隊員が来る。
救急隊員も神楽を診ても兄さんは殺された。その事実は変わらない。
「紫苑、今は辛いだろうが私の家で暮らせ、いいな?」
「はい……」
あれから数日が経った。
私はずっと学校を休んでいる。何をするにもやる気がでない。
それほど、兄さんを失った心の穴は大きかった。
私が学校を休んでいる間、ずっと考え込んでいた。
『兄さんが暗い闇の中に消えていく』夢は正夢だった。
私は兄さんが未だにいじめられていたことを知らなかった。兄さんは私に迷惑をかけたくなかったのだろう。それでも、私が兄さんの苦しみに気づいていれば、今とは違う運命があったのではないか。
兄さんのいないこの世界に価値はない。そして兄さんがいなければ私が生きる意味もない。
私は決めた。
自殺して、私は絶対に兄さんと再会する、と。
でも、自殺する前にするべきことがある。
兄さんをいじめていた奴らへの復讐だ。
そうもしないと私の気が収まらない。
絶対に殺してやる。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
ついに復讐決行の日。
2・3週間もう準備にかかったが確実に成功させるためなら仕方ない。
復讐の手順はこうだ。
第1作戦。放課後、手紙でゴミ共(いじめていた奴ら)を1つの空き教室に集める。
第2作戦。麻痺毒を入れたクッキーや飲み物を置いておき、考えなしに飲み食いすれば、麻痺したところをナイフを持って復讐する。飲み食いしなければ食べるまで待つ。
以上が復讐の手順だ。雑かもしれないがこっちの方が楽で準備もしやすい。
そして今、第1作戦は完了した。
ゴミ共が何の疑いも持たずに離れの校舎の古く広い教室に集まる。その数、60人弱。
そして、大量に置かれている麻痺毒入りのクッキーや飲み物に手を出し、バカのように飲み食いして騒いでいる。あんなバカな奴らに兄さんが殺されたと思うと怒りが再燃してきた。でも今はまだ我慢。
しかし、数人怪しんでいた者もいたが、他の人につられ食べている。賢いと思ったが所詮はバカだ。
こうして全員が麻痺毒を口にしたので、麻痺するまで待機だ。
10分程して麻痺で体が動かず倒れる人が出てきた。逃げようとする人もいたが時すでに遅し。全員がその場に倒れる。
あとは私がナイフで殺していけば復讐は完遂される。
(もう少しで私もいきますから待っていてください、兄さん)
私は隣の教室からで出て、ナイフを持って教室に入る。皆んなが視線だけを私に向け、目を見開く。
まず私は近くにいた男に跨り、人(ゴミ)を殺す覚悟を決める。
(私は兄さんのためなら大量殺人鬼になる。これは私の兄さんのため)
私は真っ直ぐナイフを振り下ろす。
何度か刺した後に、男は絶命する。
男は終始苦悶の声をあげていたが、なぜか見ていて気持ちが良かった。
次はメガネをつけている奴だ。
「ま、待って、くれ! 何で、こんなことを、するんだ」
「なんで? そんなの復讐以外にあるわけがない」
「な……た、頼む私だけは見逃してくれ。私も被害者なんだ!」
「兄さんを殺しておいてよくそんな口を……死ねっ!」
「待っ――ッッ!?」
お腹、足、腕、胸……急所を狙わずに苦しませて殺す。
そして抵抗もできずに死んだ。
それから、同じように順番に一人ずつ殺していった。
男も女も、先輩も後輩も関係なく、苦しませて殺す。
兄さんの復讐のために、私は疲労も忘れてナイフで刺し続けた。
気がつけば、その場で生きている者は私しかおらず、大量の血が飛び散り教室は赤く染まっていた。もちろん私も身体中返り血だらけだ。
でも……私は兄さんの復讐を遂げることができた。
日は沈みきり暗い教室に佇む私。周りは元々その色だったかのように赤く染められていた。
私は教室を出て、予備のナイフを取り出し、自分の首を搔き切る。
首から血が溢れ出し、私は倒れる。
(兄さん、私は今いきますからもう少し待っていてください)
私は60人余りの人を殺したが、私は私が間違っているとは思わない。たとえ、他の人が『やりすぎだ』といってもだ。
第一、60人の人たちの家族が私を恨むのはお門違いというものだ。私だって大切な、家族であり初恋の兄さんを殺されたのだから。むしろ私が恨みたい。
それに兄さんだって恨んでいるだろう。兄さんは多人数でいじめられ、挙げ句の果てに殺されたのだ。だから私が代わりに殺したのだ。
ちなみにだが、奴らは私を犯し殺すつもりだったらしい。兄さんに続けて私も殺すというのは、頭が相当いっている。なぜ兄さんだけでなく私も殺そうとしていたのか、本当に不思議でならない。
何を言いたいのかというと、私が間違っているのではなく、奴らが間違っていたということだ。そしてきちんと謝罪してほしい。まあ生きている内にして欲しかったが、死んでしまっては仕方ない。
話は変わるが、もし私に来世があるのなら兄さんの幼馴染みに生まれたい。それならば結婚もできるし子も成せる。そして幸せな生活を送りたい。
だが……兄さんは大量殺人鬼の私を許すだろうか。
私はそんなことを考えながら、ゆっくりと穏やかに深い眠りについた。
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