第3話 幸せな日々

 天気は快晴。樹海の木々に囲まれたこの村は平和そのものだ。

 僕はもう8歳だ。僕はこの世界の勉強をしつつ、ミーツェにも勉強を教えている。

 そんな今日も僕はミーツェと遊ぶ予定だ。そろそろ来るかな。


「カグラ! 早く来なさい!」

「はぁい! 今いくよ!」


 今お父さんは村の人たちと狩りに行っているのでいない。お母さんはリビングで好きな読書を楽しんでいる。


「お母さん、行ってきます」

「あら、もういくの? 気をつけてね」

「はい!」


 僕は走って玄関に行き、勢いよくドアを開ける。


「ちょっと危ないじゃない!」


 どうやらミーツェはドアの前にいたらしい。


「ご、ごめん」

「まあいいわ。ほら早く行くわよ! 樹海の入り口らへんで遊びましょ」

「うん!」


 樹海の入り口は木がまばらに生えており魔物も来ない安全なところになっており、子供たちの遊び場となっている。

 そしてそこは悪口を言っていた奴らからミーツェに助けてもらったところである。なので僕としてはミーツェとの思い出の場所である。


 ここは九つの部族が暮らしているため子供が少ない。同世代の子は、僕とミーツェも含めて6人いるが残りの4人は僕に悪口を言っていた奴らである。そのためミーツェと二人で遊ぶしかないのだ。

 僕は悪口程度なら気にしないのだが、ミーツェは気にするらしい。優しい子だ。

 ともかく、二人で遊べること――例えば鬼ごっこやお父さんとかくれんぼなど――をしている。まあ、ミーツェは体を動かすことが好きなのでほとんど鬼ごっこをしている。鬼ごっこと言ってもただの鬼ごっこではない。樹海の地形を利用して、木の上や岩の上を走っている。

 そして僕は思った。これは修行だ、と。走って跳んで、時に足を置く位置を考える。これが地味に……いや、普通にキツい。これを普通にやってのけるミーツェは、獣人ということを抜いてもプロのパルクールを目指せると思う。目指せないとおかしい。


「カグラ、今日はこれに昇りましょ」

「え、これ?」

「そう、これ」


 ミーツェが指した木は、30メートルを超えるであろう巨木だった。樹海ではこのような巨木は珍しくない。むしろこれより大きい木などごまんとある。それに比べこの木は中くらいの木だろうが大きいものは大きい。


「ミーツェ、これはさすがに危ないんじゃ……」

「大丈夫よ。取り敢えず半分まで昇ってみましょうよ、ね?」

「う、うん」


 僕が他の獣人より力が弱いことを忘れていないだろうか。

 ミーツェが昇ったところをついていけば安全か。僕はそう思いミーツェを見るも――


「ほっと、よっ」

「えぇ」


 ――無理じゃん、あれ。いきなり2、3メートル跳ぶとか……獣人ってすごい。一人で地道に昇っていくか。


「よいしょっ……うんしょっと」


 枝や窪みを足の踏み台にして少しづつ昇っていく。

 目標の半分を超えたところ――7、8メートル――で上を見上げると、すでにゴールしていたミーツェと目があった。ミーツェは恥ずかしかったのか目を逸らす。可愛いなぁ……おっと危ない、落ちるところだった。ここはもう十分高いところだし。落ちたら大変だ。


「カグラ、頑張ってもうちょっとよ」


 ミーツェは恥ずかしながらも応援してくれる。もうちょっとだし頑張ろう。


 

 ゴールが目前に近づいてきた。あと少しというところで――


「あっ」

「カ、カグラ!」


 ――足を踏み外した。

 ミーツェが手を伸ばし、僕も手を伸ばす。なんとかミーツェの手をとるも、ミーツェは前かがみになっていたために二人一緒に落ちてしまう。


 ミーツェはパニクっていて受け身をとろうとしていない。このままではミーツェも怪我をしてしまうだろう。それならと僕はミーツェを抱きしめる。


 そして少しして地面に落下してしまう。

 僕はなんとかミーツェを抱きかかえたまま、受け身をとるも、腕の骨が折れたかもしれない。まあ、死ぬ前に比べれば軽いもんだ。


「カ、カグラ? ねえ、カグラ? ねえ大丈夫? ねえ、カグ……ラ」


 ん? ああ骨が折れてるのか。左腕の骨が曲がってはいけない方向に曲がってしまっている。少し痛いが痛いのは慣れている。

 だんだん、意識が遠のいていく。


「カグラッ! カグラッ! カグ――!」


 ミーツェが涙目になりながら僕の名を呼んでいるのを片目に見つつ、僕は意識を失う。ミーツェが無事でよかった。




♢   ♢   ♢




 どのくらい経ったのか分からないが、僕は目を覚ます。外が暗いので夜だろうか。

 ベッドの側にはお父さんがいた。


 お父さんから聞いたことだが僕は丸一日寝ていたらしい。それと左腕は骨折したがもうほとんど治っているそうだ。お父さんが言うには、僕には怪我を治すスキルでもあるかもしれないと言っていた。さらに転生者は何かしらのスキルを持っていることが多く、スキルの種類は前世と関係があるらしい。

 それなら僕の傷を治すスキルは、前世にいじめられていたからだろうか。

 ともかく僕の怪我は2日もあれば完治するだろう。


「じゃっ、俺はミーツェを呼んでくるから安静にしてろよ」


 お父さんはそういうと部屋を出て行った。

 少しして――


「カグラッ!」

「うぐっ」


 ――部屋のドアが壊れるほどの強さで入ってきたミーツェが勢いよく抱きついてくる。抱きつく力が強いため非常に苦しい。


「ミーツェ、離して、苦し……」

「あっ、ごめんねカグラ。それとあの時はアタシが無理言って、カグラが怪我しちゃって、本当にごめんなさいっ!」

「別にいいよ。だから泣かないで、ね?」

「うん、ごめんねカグラ」


 さっきお父さんから聞いたことを、僕が転生者であることを隠してミーツェに伝える。


「――だからさミーツェ、心配しないで。あれは事故だし、何よりミーツェが無事で良かったよ」

「カグラァ……大好き!!」

「うぐっ!」


 またもや勢いよく抱きつかれ非常に苦しい。それに成長し始めてきたミーツェの胸の柔らかさを顔全体で感じる。

 だがいやらしい気持ちは全く持っていない。まずミーツェは8歳で、いわば子供だ。僕はロリコンではないので発情はしない。なんども言うがロリコンではない。


「ミ、ミーツェ、苦し、死ぬっ」

「あ、ご、ごめんっ。えっと、これならいいでしょ?」

「う、うん」


 今度は普通に抱きついてきた。ミーツェの髪のいい匂いがする。

 ミーツェの顔を見てみると薄っすらと涙を浮かべていた。自分のせいでこんなことになってしまい、嫌われたかもと怖かったのかもしれない。



 完治してからは外で遊んだりもしたが、家の中で遊んだりもした。最初、家の中で遊ぶものがなかったので前世の記憶を頼りにリバーシやトランプなどのボードゲームやカードゲームを作って遊んだりした。

 この世界には他にも転生者がいて、その人たちもこのゲームを広めていたので、村にたまに来る行商人から話を聞いて、ミーツェも一度遊んでみたかったらしい。ミーツェはとても喜んでいた。毎日、僕の家に来て遊ぶくらいに。

 この時に僕が転生者ということがバレたがミーツェは大して気にしていなかった。


「はい、僕の勝ち」

「むぅー、じゃあ次よ!」


 今日もミーツェは遊びに来て、一緒にリバーシをしていた。今日だけで2桁はしている。それでもミーツェは飽きずに楽しんでいた。もちろん僕もミーツェと遊べて楽しい。ちなみに今は、僕が27戦19勝、ミーツェが27戦8勝だ。ミーツェは物覚えがよく即座にルールを理解し、わずか3日で僕に一勝したのだ。脳筋かと思っていたが思いの外賢いのかもしれない。


「カグラ、次はババ抜きをしましょ」

「うん、わかったよ」


 遊ぶものはミーツェが決めている。リバーシ、トランプ、鬼ごっこ、かくれんぼ。しかし、子供の僕が言うのはなんだが子供のうちはたくさん遊ぶのが一番だし、僕はどれも楽しいのでミーツェに決めてもらった方が楽だ。しかし1週間に1日ぐらいは勉強をしている。しかしミーツェにほだされて遊ぶことになっていることは両親には内緒だ。


 そんなこんなでとても充実した毎日を暮らしていた。

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