第6話
その後もイケメンに絡まれること一時間。最後には結局イケメンの番号を押し付けられたところで、私達は店を出た。
イケメンは電車通学らしく、そのまま駅の中へと消えていく。それを見送ると、私は「うっは~……」とスーパーヘヴィー級のため息をついた。
「うわ、カズミー。今のため息、うら若き女子高生にあるまじき重苦しさなんだけど!」
「だってマジで疲れたんだもん……」
「プリン・ア・ラ・モード、おいしかったのに。特大パフェ、最高だったのに。フルーツタルト、幸せの意味を教えてくれたのに」
結局イケメンの金で食べたいだけ食べていた小毬ちゃんは、私の気分とは裏腹に足取りが軽い。でも、あれだけ食ったのだ。確実に体重は増えているはずである。見苦しくデブれと、八つ当たり気味に内心呪う。
「私にとっては、地獄の釜のほうがまだマシに思えたっての」
「でも、目の保養にはなるよね、楠木君。やっぱ整った顔してるもん」
「目の毒の間違いだろ」
吐き捨てるようにそう言うと、小毬ちゃんは「はぁ~」と大きなため息。
「相っ変わらずだなあ、カズミーは」
揶揄するような口調で言いながら、隣を歩く私を彼女は見上げた。
「どういうことよ」
「べぇっつにー?」
「別にって……」
あからさまに言葉を濁され、私の漏らした言葉にもどこか咎めるような色が混じった。
それに気づいたのだろう。
「あのね」
と、小毬ちゃんは立ち止まり、正面から私の顔を見て、どこか真剣な顔つきで言った。
「カズミーがね、楠木君みたいな人、嫌うのは分かるよ。仕方ないって思ったりもするよ。あんなこと、あったわけだし。だからカズミーも、あの一件以来、嫌うって決めたんだよね。ああいう人達のこと」
「それは……」
小毬ちゃんの言うところの、『ああいう人達』。
それはつまり、『イケメン』だの『アイドル』だの『王子様』だの女の子にもてはやされるような男達のことで。
軽薄で、軽々しくて、チャラくて、不誠実な野郎共のことで。
そういった人間を、私がここまで嫌うようになった経緯を彼女は知っている。だから、楠木勇一という人間に対して辛辣に接する理由だって分かっている。
だからこそ、分かっているからこそ、小毬ちゃんはこんな目を向けてくるのだろう。
心配するような、労わるような、だけど少しだけ厳しさの入り混じったような、そんな瞳。
だけど不意に彼女は私から視線を逸らすと。
「ごめん……わたし、嫌なこと言っちゃったね」
そう、謝ってきた。
「いや……ううん、小毬ちゃん、悪くないし。間違ってないし」
「でも、カズミーの気持ち、考えれてなかった。一番困ってるの、カズミーなのにね。こう考えたらカズミーももっと楽になれるのにって、そんな傲慢な気持ちでわたしの考え押し付けようとしてたのはわたしのほうが悪いよ」
「じゃあそこは小毬ちゃんが悪いってことでいいよ。小毬ちゃんは悪いことをした。でも、私はそれを許すよ。今、許したから小毬ちゃんはもうどこも悪くないって」
「ありがと、カズミー」
囁くようにそう言うと、小毬ちゃんがギュッと腕を回して私に抱きついてくる。私も彼女の背中に腕を回すと、小柄な小毬ちゃんはすっぽり隠れてしまってかわいい。
「小毬ちゃんこそ、ありがと。私のためを思って言ってくれたんでしょ」
「うん。そうなの。その通りなの」
「仲直りの印に牛丼食べてこっか?」
「ドーナツがいいなあ」
「まだ甘いもの食うのかお前……」
呆れ半分そう返す頃には、もうすっきりとお互いを許し合っていた。
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