8

 次の日、朝早くに起き食堂へ向かう。よく考えるときちっと朝、起きて食堂を利用するのは初めてかもしれない。いつも朝は部屋でパンをかじることや食べずに出掛けることばかりだったが流石に毎日それだと飽きてくる。

 食堂には既に食事を済ませ一息ついている小林先生と忍さんが談笑していた。

 「あら、おはよう!文也君」

 「おはようございます。忍さん、小林さん」

 「やぁおはよう」

 「あなたとこの時間に会うのは珍しいわね」

 「忍さんこそ早いですね。夜も遅いのに」

 「あー違うよ文也くん。忍さんは晩ご飯中」

 なるほどメニューに昨日の残り物が混ざっているのはそれでか。

 「忍ちゃんにはいつも残り物じゃなくて作るって言ってるんだけどね。ちゃんと食費は二人分、頂いてるんだから」

 そういえば一郎さんと親子だったな。その一郎さんはというと昨日の夜も遅かったようでまだ寝ているようだ。そのことをしきりに小林さんに愚痴っている。

 「あの子、私が言うのも何だけど就職活動もせずにバンド活動ばかりしててどうする気なのかしらね。食べていけるほどの才能がある訳でも無いんだし」

 「まぁまぁ彼なりに考えていることもあるでしょうし今は見守って見ましょうよ。無責任かもしれないけど結局、こればかりは自分で決めるしか無いんですから」

 高校の教師らしくまるで保護者面談で進路について話すようだ。こうやって見てるとこの人、普通なんだけどな。

 どうにもこのアパートの住人は変な人が多いせいか疑ってしまう。勿論、まともな人もいるのだが最初に会った人たちのインパクトが強すぎた。

 そんなことを考えて座っていると目の前にご飯とおかずが並べられる。

 「ごめんなさい。取りに行かず」

 「いいのよ。これが仕事だから」

 そうは言うもののいくら食事代込の家賃とはいえ格安物件だ。本当ならもう少し払わないといけないのだろうが学生の身ゆえお金も無い。バイトも考えておかないとな。

 「忍さんこれ食ったら寝るんですか?」

 「そうしたいのは山々何だけど食べてすぐ寝たら太るでしょ。だからしばらくは起きてるわよ。撮りためてたドラマも観たいし」

 「毎晩、大変ですよね。昼夜逆転なんて僕にはとても出来ないですよ。文也くんぐらい若いときはまだ元気もあったけど」

 小林さんも見た目はそれほど歳がいっているように見えないがいくつなのだろう。

 「小林さんって歳はいくつ何ですか?」

 思った疑問を口に出す。和美さんにこれを言ったら今頃、顔にアザが出来ているだろうが小林さんなら問題無いだろう。

 「僕ですか。今年で37になります」

 「何だ。まだ若いじゃないですか」

 「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」

 お世辞のつもりでは無かったのだが喜んで貰えたなら良かった。ただ小林さんの見た目だと20代後半から30代前半だと思っていたので人は見た目では分からないなと思った。隣の人とか特に・・・

 その隣の人は眠いであろう目をこすりながら昨日の残りを頬張っていた。

 

 和美さんたちが起きて食堂に入って来た頃には食事を終え既に準備をしたリュックを背負うところだった。

 「あれ?もう出るんだ」

 「和美さんこそ今日は遅めですね」

 「二日酔いだから有給とった」

 「そうですか。大人っぽいですね」

 「もっと褒めろ」

 その場にいた全員がそれは褒めているのか?という顔をしたが和美さんに朝から機嫌を損ねられても困るのでスルーして貰いたい。

 「またあいつ連れて来ていいからな」

 「今日は来ないと思いますけど。声掛けておきます。もう一人も来る気になってるので可愛がってやって下さい」

 「そいつは楽しみだ」

 「行ってきます」

 「おう!しっかり勉強してこいよ」

 オヤジか。あんたは。

 良かったな久志。和美さんに気に入られたぞ。

 同情と憐れみを心に仕舞いながら俺はアパートを出た。

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る