6.
おかしい。俺は今、下宿先の食堂で友人や同じ住人たちと夕食をとっているはずだ。決して家電量販店にはいない。
確かにテレビを購入しに夕方、訪れたし購入もした。そのテレビは先ほど俺の部屋に設置されたはずで、配送も設置も依頼した覚えは無い。
「何してるんですか」
俺の代わりに久志が質問する。
「何ってご飯食べてるんだよ?」
あの独特ななまりで返される。
「いや、それは分かってますけど・・・そうじゃなくて何でここにいるんですか」
質問者が俺に代わる。
「何言ってるんですか!お二人さん、私もここの住人だからですよ」
それだけ言って米を頬張り始めた。
「いや・・・知らんがな・・・」
使ったことも無い言葉が俺の口から洩れた。
「あれ?二人は凛凛のこと知ってるの?」
パンフリこと臣吾が新しいおもちゃを見つけたような声で尋ねてくる。
「知ってるというか。今日、俺がテレビを買ったんですけど・・・」
「テレビ!いいね!俺にも買ってよ、和美さん」
「何であんたに買うのよ。自分で買え」
「そう言わずに、しょうもない男に貢ぐぐらいなら俺に買った方がお得でしょ」
「なら、しょうもないあんたに買っちゃダメでしょ」
「いや、そこはどうでもよくて」
話が脱線したので久志が元に戻す。流石の二人も部外者の久志には絡みにいかない。
「俺たち今日、この人・・・白さんと家電量販店で会ってるんですよ」
「そりゃ会うでしょ。凛凛はあそこでバイトしてるんだから」
当たり前でしょと言わんばかりに和美さんがあきれ顔で言ってくる。
「白さん僕がここの住人って知ってたんですか?」
「知ってたアル!」
いや、唐突にベタな中国人設定いらないですから、あなた普通に喋ってたでしょ。
「それならそうと、あの時言ってくれれば良かったのに」
「その方が面白いって言われたアル!」
その語尾いらないですから・・・普通に喋って下さい。
「誰にですか?」
久志が尋ねる。確かに言われたということはこの中のメンバーか今、ここにいない住人の誰かになるが・・・いったい誰が・・・と考えかけたが考えるのを止めた。
「あんたら二人でしょ」
「「ひどい!」」
声を揃えてパンフリと和美さんが俺を非難してくる。
「確かにあんなことがあったとはいえ私たち二人をそんな目で見てたなんて!酷過ぎる。文也がそんな奴だったなんて」
あまりに芝居掛かり過ぎていてイライラする。初めて見る久志の方は少し戸惑っていたが俺には通用しない。
「白さん、誰に言われたんですか?」
「臣吾と和美だよ」
今度は普通に答えた。しかも簡単に犯人を吐いた。
「ちょっと凛凛、ばらすの早すぎ」
パンフリが抗議するが白さんは何を言っているんだという顔をしてご飯を食べることを優先する。
「二人とも人望無いですからね」
一緒に食事をしていた真琴さんにつっこまれる。その言葉が聞いたのか二人揃って大人しくなる。
「お二人は仲がいいんですね」
暗くなった二人を慰めようと久志が言ってはいけないことを言ってしまう。
「「誰がこいつと!」」
「「マネするな!!」
今時、少年漫画のラブコメでもやらないぞ。こんな息の合った反論。ちょっと笑いそうになったがそれを見せてしまうとパンフリはともかく和美さんに殴られる気がしたのでグッとこらえた。久志はこらえきれずに笑っていたが住人でも無く初対面のこいつなら和美さんも手を出さないだろう・・・あっ背中、叩かれた・・・
「それじゃあ、テレビを滅茶苦茶安くしてくれたのは知り合いってことでですか?」
「二人から近々買いに来るかもって聞いてたから見つけた瞬間、他の店員に取られないように必死だったよ」
「それはすみませんでした」
「いやいや、気にしないで社割使っただけだから」
片手をパタパタさせながらもう片方の手は箸を動かすことを止めない。それにしてもよく食べる人だな。
「白さんは・・・」と言いかけて遮られる。
「凛凛でいいよ。みんなそう呼ぶし」
「じゃあ凛凛さんは学生ってことですけど俺たちと同じ学校ですか?」
「さんはいらないよ。そうだよ。一つ上の2年生だよ。分からないことあったら聞いてね」
この人、滅茶苦茶まともな人だ。俺のまとも人間リストに登録された。パンフリはこのリストには当然入っていない。
その後は大学についての質問や最近、和美さんが合コンでやらかした話などくだらない話・・・本人は至って真剣だったが・・・をしながら夕食を楽しんだ。
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