5.
家電量販店に入ると景気のいい音楽が流れて来る。しかしこの音、店員さんは延々とこれを聞かされていておかしくならないのだろうか。自分だったら気が狂ってしまいそうだ。
「おーい、テレビコーナーは三階だってさ」
僕がどうでもいい考え事をしている間に久志が柱に書かれた案内を確認してくれていた。
「そう言えば、俺もここに来るの初めてだな」
久志も家具や家電は全て家から持ってきたとのことで一切、こちらに来てから買い足しはしていないらしい。
「都会はいいよな。こんな広い店があったら一日遊べるよな」
その通りだと思う。いくら今はネットでレビューを見たり購入もボタン一つで出来る時代とはいえ実際に自分の手に取って眺めたり試したりする楽しみが店にはあると思っている。
エスカレーターを上がり三階に着くと既に何人かの客がテレビやレコーダーをチェックしており店員もそれに付き添っているようで人の動きは小さい。
「で?デカいのいっとく?」
「いや、入らないから・・・」
正直なところ最近では大型のテレビでも海外メーカーの参入もあってか手ごろな値段で購入できるようになっており可能ならそちらも考えたいところだが実際のところ一人暮らしのあの部屋に大型テレビを入れてしまうと寝るところや勉強するところが無くなってしまう。
それにいくら安くなったとは言え普通サイズに比べればまだまだ高額だ。
「まぁ大きいに越したことは無いけど普通のでいいよ。値段も手頃だし」
普通サイズと言っても最近の主流はそれなりの大きさの物になる。むしろ小型の物の方が需要が無いのか値段が張る。
スマホに置き場所のサイズを測ってきたので確認する。このぐらいのサイズならちょうど置けるだろう。大きさとしても申し分無い。
「このサイズで探すよ」
「りょーかい。店員さんにおススメ聞いてみる?」
そう言ってぐるりと見渡してみたが手が空いていそうな人はいない。とりあえず適当に見てみるか。
「テレビお探しですか?」
少しなまりの聞いた声で後ろから声を掛けられる。
振り返るとそこには綺麗な女性の店員が立っていた。
「どうもーお客さん、テレビをお探しですか?」
すこし拙く聞こえる日本語に名札を見て納得する。名札には『白凛凛』と書いてあった。
「そうなんです。このぐらいの大きさでテレビを探してまして、ただ学生なのでそれほど予算も無くて」
「なるほど!それならこちらの機種がおススメですよ。後はそうですね~」
分かりやすく機種や値段の違いを教えて貰い店に入る前は今日、購入しようか迷っていたのだが気が付けばレジに並んでいた。
「いや~助かりました。どれがいいのか分からなかったから」
横にいる久志も思わず二台目を買ってしまいそうになるほど説明が上手かった。
「ありがとうございます。ではお値引きさせて頂いて・・・」
「あれ?こんなに安くていいんですか?」
値引きをして貰えることは説明の時、聞いていたが思ったより値引きが大きい。
「今回は特別です。次回からもごひいきに!」
「ありがとうございます」
何だか分からないが得をした。浮いた予算で今月の昼飯代が賄えそうだ。
「良かったな」
「あぁ」
「それではまた会いましょう」
「えぇ、また会いましょう」
そう言って白さんと別れた。
少し大きめのテレビを購入したが最近のテレビは薄型化しているせいなのかそれほど重くは感じない。男二人で交代で持ちながら部屋に戻る。
「お帰りなさい。お友達?」
お母さんが夕食の支度をしながら声を掛けてくる。
「ただいま、そうだ。お母さん、今日の晩御飯は食堂で食べたいんですけど友達の分もいいですか?お金は払うんで」
「いいわよ。一人分ぐらい。元々、私の趣味みたいなものだし。お家賃に十分含まれてるから」
十分に含まれているほどの家賃を払っていただろうか。どう考えても相場より安いのだがまぁ今回はお言葉に甘えよう。
「久志、食べていくだろ?」
「ありがたい!」
一緒にテレビを運んでもらった礼としてはどうだろうと思いつつも久志が喜んでいるようなので気にしないことにした。
夕食を待つ間にテレビの設置を済ませる。その間にも和美さんや真琴さんたちが帰って来る。忍さんは今日も仕事のようで僕たちが帰って来たと同時に出て行った。
初めて見た久志は驚いていたが事前情報があった分、驚きは小さかったそうだ。
「ご飯できたわよ」
食堂から声が聞こえ二人で部屋を出る。今日はいつもより一緒に食べる人が多いようだ。
みんな揃ったわね。今日は一人お客様もいるからお行儀良くね。特にそこの二人。
当然ながら和美さんとパンフリのことである。
今日は焼き魚がメインのようだ。冷奴もついている。
「あっ醤油、取って文也くん」
「はい、白さん」
・・・・・・・・
今日はいつもより一緒に食べる人が多いようだ。
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