第48話 だ・・駄目、こ・・こんなの・・だめっ・・

しめた!


手の鎖が外された。


私は笑いを抑えきれなかった。


「何が可怪しいんだ?」


男爵のバカ息子、イスメト・バヤルが訝しげな顔で言う。


「言ったでしょ、安全第一よ。もう、あなた達は終わりよ。ハリカをこんなにしたのは許さない!燃えて無くなれーっ!・・・・ん?・・・えっ?・・・なに?・・・なぜ?・・・・燃えないの?」


「どうした?何かしたのか?フフフ。」


「い、いえ、何でもありません・・・ス、スイマセン・・・」


「残念だったな。お前は鎖だけが魔法を阻害する魔道具だと思ったんだろ。哀れだな。この建物全体がそうなってるんだ。片手を鎖で縛れ。」

「はい。」


秘書が、鎖で縛ろうとする。しかし、私は常人とは比較にならないほど力も強い。


「甘かったわね。」


「何ぃ?」


私は秘書クリプの手を掴みひねる・・ひね・・捻られない?

逆に手を捻られて腹這いの状態に抑え込まれた。


「さぁ、甘かったのはどっちかな?」

「くっ!殺さないでっ!」

「結局、殿下は俺に迎合してただけだな。なら仕方がない。殿下の服をお剥きしろ。それから殿下がお喜びになられるように前と後から同時に犯して差し上げろ。」

「ひっ!」


わ、私は両手で前後から股間を押さえてしまった。



――――――――――――――――――――



「おい、アスラン!何か方法はないのか?」


焦りを隠しもせずボラさんが俺に懇願・・いや、尋ねる。


「ちょっとやってみます。待って下さい。」


聖剣マレキュラーで切る。


やった、切れた。


あれ?・・・切れたところからすぐにふさがってくる。


この聖剣は切るのではなく正確には分子結合を壊すらしい。しかし、分子結合が破壊された側から修復されるのでは水面を剣で切っているようなものだ。埒が明かない。結界の中の圧力を上げ結界を破壊するのは可能かもしれないが中の人間のほうが先に死んでしまうかもしれない。

溶かす?

熱でも中の人間のほうが先に死んでしまう。

レーザーで一瞬で広範囲に穴を開ければそこからでられるかもしれない。

レーザー等のいろいろな知識は全てフェムトからもたらされている。記憶力も理解力も良くなっている。フェムトによって脳が改造、基、改良されているとのことらしい。


球体の膜のような結界を見回す。

直径は手を上げても届かないくらいだ。

何か屋敷の方の兵士達が、結界で音は聞こえないが、ざわつき慌てふためいている。

兵士たちの間から動物が飛び出してきた。


それは白地に黒い縞模様のある未だ名前もつけてない卵から生まれた虎の外観をしたキメラだった。

白虎はかなりの速さで兵士を避けながらジグザグに俺たちのところへやってくる。

数メートルまで近づいたところでジャンプし、爪で結界を切り裂いた。


それは無駄だぞ・・と言おうとしたが、切り裂かれた箇所が修復されることはなかった。


「おっ、壊れた!壊れたぞ!出るぞ、アスラン。」

「よくやった、権兵衛。」

「何だそりゃ、なぜオレが権兵衛なんだ?」

「古来、母星の地球という星の日の本という国では名前がないものは権兵衛、アメリカという国ではジョン・ドォ―というらしいぞ、知ってるだろ?」

「いや、知ってるけどさ。早く名前をつけてくれ。」

「それは、姫が付けるだろ。」

「じゃあ、仮ということで付けてくれ。あの我儘姫が気に食わない時は変えるだろうし。」

「それもそうだな。じゃぁ・・・白いトラだからビャッコでいいか?」

「それ安直に過ぎないか?」

「いや、漢字だったら恰好良いぞ。」

「でも呼ぶ時はカタカナだろ。」

「我慢しろ。」

「へ~~い。」

「逃げる男爵を捕まえてこられるか?」

「まかせとけ。」

「よし。行け。」

「オレは犬か!」


白虎は物凄い速さで男爵と秘書に追いついた。

まず重要な男爵を叩き気絶させる。

次に秘書を気絶させる。

しかし、秘書を気絶させることは出来なかった。

秘書はそのまま霧状になり消えた。


「なんだ?だらしないな。秘書に逃げられたのか?」

「あの秘書人間か?霧状になって消えたぞ。あれはナノマシンだけで構成された体を持つ双頭の猿が使う手だぞ。」

「姫は双頭の猿を溶かしてたぞ。あっ、ビャッコには無理か。」

「クッ、仕方ないだろ、生まれたばかりなんだから。」

「まぁ、そういうことにしておいてやる。姫の居場所を聞き出して助けに行くぞ。」

「姫は男爵の家にいるんじゃないのか?」


ボラさんが会話に割り込んだ。


「では、ボラさん。案内してください。」

「よし、付いてこい。馬で行くぞ。」


俺たちは馬に乗りユスフ・バヤル男爵邸へと向かった。

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