第46話 貴重

 ―――《ユスフ・バヤル男爵邸》―――


 手首が痛い・・・


 ここは・・どこ・・・


 ん・・・ま、眩しい・・・


 だ・・誰?


 次第に覚醒していく


 頭が、いっ・・痛い・・なぜ?


 こ・・ここは・・ど・・どこ?


 周りに数人・・・男・・・誰?


 な・・なぜ、ニヤついてるの?


 周りを見回す


 レイラ姫・・と・・ハリカ・・・いた



 手を・・頭上に引っ張られ、バンザイの格好で鎖に繋がれている・・え?・・ワタクシも?・・・手が・・痛い・・手に鎖?・・


 ワタクシもバンザイの恰好で鎖で上に引っ張られ無理やり立たされている。


 次第に覚醒していく意識の中で男達の目的に気づいた。


「あなた達誰?」


 レイラ姫が静かに威厳のある声で詰問するように言い放つ。


「俺はこのゼンギン侯爵領の次期領主、イスメト・バヤルだ。まぁ、その時はゼンギン領ではなくバヤル領と改名されてるがな。」

「なるほど、バヤル男爵のバカ息子というわけね。」

「そうだ。俺がそのバヤル男爵のバカ息子だ・・・・って、誰がバカ息子だ!!」

「あなたの隣の人も笑ってるわよ。」

「笑うなタリプ。」


 横にいたのは意識を無くす前に顔がレプタリアンに変わった男だわ。

 変身?

 もしかして、このバカ息子も騙されてる?


「まぁ、いい。計画が全て終われば俺がこの国の王だ。その前にレイラ姫、俺がお前の夫になってやるぞ。」

「ごめんなさい。」

「お前はただの道具だからお前の気持ちはどうでもいい。今日は新婚初夜だからお前は最後のお楽しみだ。楽しみに待ってろ。最初は横の二人だ。俺とタリプと俺の友人を楽しませろ。」

「トカゲはいやよ。」

「トカゲ?何の話だ?」

「その、タリプって男爵の秘書?付き人?その人はレプタリアンよ。」

「タリプが?見ろ。どう見ても人間だろ。」

「変身してるのよ。トカゲが人間に。」

「違うだろ、タリプ?」

「もちろんですよ。助かりたくて嘘をついているのでしょう。」


 クソ、このトカゲ、嘘をついていらっしゃいますわ。しかし、この状況では私達の証言は虚偽としか見られません。


「変ね。タリプはバヤル男爵の懐刀でしょ?どうしてこの革命を起こす大事な日に男爵と一緒にいないの?もしかしてここにいるタリプ・シケルは別のレプタリアンが化けてるんじゃないの?」

「違う。俺はタリプじゃなく双子のクリプだ。」

「あー、そういう設定ですか。」

「な、何が設定だ!」

「そうなのか?お前タリプじゃなかったのか?」

「イスメト様までそんなことを仰いますか?」

「すまんすまん。敵に騙されるところだったぞ。」


 クリプが左の口の端をあげて『してやったり』と言うような顔でニヤリとしました。

 しかし、イスメトは既に姫を見ていて気付いてません。

 流石バカ息子です。


「まずは、そっちの胸のない女だ。」

「だ、誰が胸のない女ですか!ボクは虚乳です。」

「お前だ、お前。見るからに胸がないだろ。どうせ今から素っ裸にするんだから見栄を張ってもバレるぞ。」

「すっ、素っ裸ですか?」

「そうだ、喜べ。誰も見てくれない裸を俺達で見てやろうと言うんだ。なんて奇特なんだ。お金を貰っても良いくらいだ。」

「どうしてですか!ボクの体を見たいという人は沢山いますよ。」

「ほう、名前をあげてみろ。」

「・・えっ?・・ん〰〰〰とぉ・・・」

「ほら、言えないだろ。」

「い、今はど忘れしただけです。」

「ほう若年性アルツハイマーか、大変だな。」

「だ、誰がボケ老人ですか!失礼な。」


 しかし、変です。

 何時もなら、どんな状況でも姫があっという間に解決します。

 しかし、今日は文句をいうだけで何も致しません。

 いつももなら姫にお任せするので私が何かするのを忘れてました。

 魔法でこの腕に巻かれた鎖を溶かして脱出しますわ。

 ただの鎖です。

 簡単です。

 即脱出します。

 あ・・あれ?・・な・・なんだ?

 どういうこと?

 魔法が発動しません。

 姫も同じなのでしょうか。

 だから何もしないのでしょうか。


「おい、そこの巨乳。今魔法で鎖を溶かそうとしただろ?無理だぞ。その鎖はナノ阻害電波を出しているんだ。」

「クッ、殺せ!」

「お前はくっころさんか?」

「エイレム死んだら生き返れないわよ。」

「しっ、しかし、このままでは、御主人様に顔向けできません。それならいっそ死んだほうが・・」

「大丈夫よ。何とかなるわよ・・きっと・・たぶん・・・もしかしたら・・・誰かが・・・助けに来るかも。田中さんとか?」

「なんですか、その他力本願!いつもの姫様らしくないじゃないですか。早く、この鎖切ってくださいよ。こいつら腐りきってます、ボク、犯されちゃいますよ!?」

「洒落?ハリカ煩い!自分でなんとかして。私、今・・何も出来ない。」

「姫も腐りきりましたか?腐りきってないで、鎖切ってくださいよ。ぷーっ、ぷぷぷっ。」

「ハリカッ!緊張感に欠ける!面白くない!」


「おい、貧乳。現在の城の状況を教えろ。良い情報を教えたら罰を与えない。くだらない情報や嘘を教えたら罰を与えるぞ。」

「罰ってなんですか?」

「叩く。次に体を指から切り落としていく。」

「え?ぼ、ボクにそんなことをしたら御主人様に殺されますよ。」

「ハハハハッ、殺せるものなら殺してみろ。まず質問その一、王城は俺達のことに感づいているか。」

「もちろん、感づいてますよ。もう王都から援軍が来ることですよ。」

「嘘だな。指を一本切り落とせ。」


 バカ息子、イスメト・バヤルがクリプに命じる。

 一人の友人がハリカの鎖に繋がれた右手の親指を持つ。

 そしてクリプが裁断バサミを持ち親指にあてがった。


「ぎゃあぁぁっぁぁぁ・・」


 嗜虐的な性格をしたバカ息子に怒りをぶつけるような、恐怖というより憤怒を無に昇華する為の行為のような悲鳴が、部屋中に響き渡る。

 切り落とされた右手の親指が床に落ちた。

 落ちた音は悲鳴にかき消され、指はまるで最初から落ちていたかのようにそこに存在していた。


 姫もワタクシもハリカに掛ける言葉さえ見つからずただ池の鯉の様に怒りで口をパクパクさせている。


「ど、ど、どうしてそんな酷いことをするの?」

「はぁ?好きだからに決まってるだろ。」

「今、人間同士で争っている場合ではないのよ。」

「そんな事知ったことか。争っている場合でないからこそ付け入るスキがある。だからこそ、俺が王になれる。」

「お前なんか王にはなれない。絶対王にはしない。私がさせない。あなたは今したことを必ず後悔する。死ぬまで後悔する。」

「そうなのか?だったらこれからやることを考えたら来世まで後悔しそうだな。」

「殿下、大丈夫ですよ。あなたはここでは死なないから安心して下さい。それに、その細腕では何も出来ないですよ。レベルも1ですし。私達に後悔なんてさせられませんよ。」


 クリプ・シケルが姫様を馬鹿にする。許せません。姫様も御主人様もレベルは1だけど強いのを知らないのでしょうか。


「次の質問だ。アスラン・バラミール侯爵はなぜレベル1なのに強いんだ?」

「御主人様は強いから強いのですよ。理由をボクが知るわけないじゃないですか。」

「答えになってない。」


 そう言うと右手の人差指を切り落とした。


 Gyaaaatgaaggaga


 獣の叫びのような悲鳴が部屋中に響き渡る。

 ハリカの目からは涙が溢れ口からは涎が垂れ流されている。

 指からは血が留まることを知らない川のように流れ出続けている。


 このままでは血が全部流れ出て死んでしまいます。


「ヒール」


 小声で魔法をかける。

 全くは魔法が発動しません・・なぜ


「ヒール、ヒール、ヒール・・・駄目だ。」

「いくらやっても無駄だ。魔法は使えないし、今後使うな。使っても魔法名を唱えなくちゃいけないから分かるぞ。」

「知ってるわよ。ナノマシンは基本的に保有者との意志の伝達が出来ないから言葉を発するしかないからでしょ。」


 姫様は時偶意味不明なことを仰っしゃいます。


「何だ、そのナノマシンというのは?」

「あなたが今魔法と言ったモノの正体よ。」

「そうか。良かったな、知識があって。でもレベル1じゃ、どうする事もできないぞ。」


 ハリカは鎖にぶら下がっている状態で咽び泣いている。


「次の質問だ。」

「も・・もう・止めてぇ!」


 ハリカの悲痛な叫びが部屋を埋める。


「駄目だな。」

「何でもするから。」

「何でもするのか?だったら止められないな。お前が苦しむのを見たいからやっているんだからな。」

「だったら、何もしないから。」

「それなら、お前から情報を引き出すために拷問するしかないな。」

「じゃあ、絶対拷問するってことじゃない。」

「そうだ。お前が答えても答えなくても拷問するってことだ。」

「もう止めて!もう切らないで!トカゲの尻尾じゃないんだから来られたら生えてこないの。お願い、何でもするから止めて!」

「だったら、そのでかい胸の女を裸にしろ。」


 ワ・ワタクシですか?

 どうやら、悪の魔の手がワタクシにも及んできたようです。

 クリプ・シケルがハリカの手首に巻かれた鎖を外してます。



「ほら、早く脱がせろ。」

「わ、ワタクシを裸にしたら御主人様が黙ってませんよ。あなたは、生きたまま細切れに切り刻まれますわよ。」

「ほう、出来るものならやってみろと伝えてくれ。その前に、俺がその貧乳を後で組み立てられないくらいに細切れに切り刻むぞ。」

「エイレム・・もう・・挑発は止めて下さい、ボクが酷い目に遭います。」


 鎖を外されたハリカがワタクシの服を脱がそうとしますが右手の親指と人差指が切り落とされた手ではなかなか脱がせられない。血が服に広がっていく。


「早く脱がせろ。出来ないのならこれを使え。」


 男爵のバカ息子イスメト・バヤルがニヤニヤしながらナイフをハリカに渡した。



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