第45話 包囲網

 窓から外を見る。

 少し高台になっている屋敷から外を見るとかなり遠くまで見える。

 ゼンギン邸は周囲は緑で囲まれているがその間隙を埋めるように兵士が溢れていた。

 かなり遠くの方まで兵士で埋まっている状態だ。

 ゼンギン邸の門では昨日見たユスフ・バヤル男爵と、確かタリプ・シケルと言ったか、お付きの者が護衛に囲まれながら衛兵になにか言っている。


 突如、お付きのタリプ・シケルが大声で宣言し始めた。


「この屋敷にいるゼンギン侯爵、及び息子のボラは共謀して国家の転覆を企てた。そして、現在共に屋敷にいるアスラン侯爵もまたゼンギン侯爵と共謀している。国家転覆予備罪とその共犯の罪で捕縛する。大人しく出頭してこい。」


 え?俺も?俺もですか?


「ボラさん、何やったんですか、国家の転覆を企んだんですか?」

「そ、そんな訳無いだろ。何が何やら。だが、さっきも言ったようにあいつはキナ臭い。多分、俺たち親子を嵌めて追い落とし、自分がここの領主になろうと企てているんじゃないのか。その為に殿下も攫ったかもしれないぞ。」

「あー、姫ですか?あいつは大丈夫ですよ。」

「しかし、殿下は女性だぞ。捕まって犯されているかもしれない。あの大きなおっぱいを揉まれながら・・・」


少し上を見ながら興奮してる。

赤い顔して妄想しているようだ。


「人のフィアンセで変な妄想しないでくださいよ。あいつは大丈夫ですよ。」

「しかし、羨まし・・い、いや、けしからん!あのおっぱいを、大きなおっぱいを、俺でさえ揉んだことがないのに・・くそっ」

「ボラさん、未練タラタラじゃないですか。もう止めてくださいよ。」

「なぁ、俺の妹と殿下と交換しないか?」

「・・・出来るわけないじゃないですかぁ!そもそも姫が納得しないですよ。」

「( ̄ ̄ ̄ ̄□ ̄ ̄ ̄ ̄)チッ、でも、暫く間があったぞ。考えただろ?」

「少しですよ。でも、舌打ちしても何も変わりませんよ。」


 ドドドドド・・


 会話を切り上げさせるに十分な程の大きな足音とともにボラの父親のゼンギン侯爵が足早にやってきた。


「ボラ、ここにいたのか。あのユスフの野郎、男爵に取り立ててやったにもかかわらず儂の罪をでっち上げて捕まえに来やがった。」

「こんにちは、お久しぶりです、ゼンギン侯爵。」

「お~、いらっしゃってたんですか、バラミール侯爵。もうすぐ、公爵ですな。」

「敬語はやめてくださいよ、同格ですし。」

「はははは。しかし、今日バラミール侯爵が来られたのは儂には幸運だったな。強い息子とその息子に勝ったバラミール侯爵、何とかなるかもしれませんな。」

「父上、実はレイラ殿下がバヤル男爵に捕まっているかもしれません。って言うか捕まってます。」

「ほ、本当か?くそっ、人質を取られたか。」

「アイツのことは気にしなくていいですよ。気にせず反撃しましょう。」

「もしかして、もう殿下に飽きたのか?だから、死んでもらおうとしてるのか?だったら俺にくれ。」

「ボラさん、めげないですね。ハリカだったらあげますよ。虚乳ですよ。」


発音が同じだから勘違いしてくれるだろう。嘘は言っていない。


「えっ?巨乳かぁ。ハリカでもいいな。ちょっと考えさせてくれ。」


ボラさんは計画通り、勘違いした。


「それで、父上。どうするんですか。投降するんですか。」

「いや、投降しても殺されるだけだろ。どうせ殺されるのなら戦う。死ぬまで戦うぞ。」

「分かった。俺も戦うぞ、父上。」


ゼンギン侯爵は窓まで行く。

そして、窓を開け放ち外にいるユスフ男爵に向かって叫びだした。


「儂は戦うぞ、やれるものならやってみろ。そのうち王都から応援が来るぞ。」

「ゼンギン侯爵、お前は馬鹿なのか。儂が王都から援軍が来るのを考えなかったと思うのか。既に手は打ってある。ゼンギン侯爵謀反の情報を王に渡してな。今日謀反の侯爵を退治することは王も了承済みだ。観念しろ。」

「レイラ姫を人質にとっていることも王は知っているのか?」

「知っているわけ無いだろ。これから王との交渉の駒として使うんだ。この領を奪取した後のことだ。お前が気にする必要はない。お前はあの世から眺めてろ。」

「くそっ、この恩知らずが。」

「交渉決裂だな。覚悟しろ、ゼンギン侯爵。」


どうやら直ぐにでも男爵の攻撃が始まりそうだ。


「おいアスラン、やはり殿下は人質に取られているじゃないか。」


ボラさんが心配そうな顔で俺を問い詰める。


「大丈夫ですよ、逆に敵の内部から切り崩すようにレイラ姫が動いてくれますよ。」


あれ、可怪しいぞ。

また殿下の位置がわからないし殿下と通話できない。

おまけにテレポートも出来なくなっている。

これ、以前もあったやつだ。

まぁ、姫は大丈夫だ。

暫くここで事態を静観するか。


「ボラさん、そろそろ、攻撃してきますよ。」

「分かっている。アスラン、お前も戦え、死にたくなければな。俺と戦った時以上の力を見せろ。頑張れば、俺がギフトを使う時の力は出せないにしても努力しろ。」

「へい、へい。」


それから十分後、攻撃は開始された。


ギフトに依る攻撃。

火の塊が次々に屋敷に向かって飛んでくる。

屋敷に当たり爆発。


しかし、その爆発はすべて屋敷の回りで防がれ、暴風も屋敷の外側へと広がっていく。

すべて俺がフェムトを使い、張ったシールドで防いでいる。



魔法を使えるギフトはナノマシンが体外にも存在し周囲に影響を及ぼす。

しかし、魔法が使える者のナノマシンの数はそれほど多くはない。

一つのナノマシンにより発生する熱量は限られていてナノマシンの総数で発生する熱量が決まる。

だから、普通の人間には双頭の猿ほどのナノマシンの数は存在せず発生する熱量も比較的小さい。

しかし、発生させる人間が多くなれば、発生させられる熱量も多くなる。

しかし、それでも尚フェムトマシンの優位性が上回る。

しかもそのフェムトを10人分注ぎ込まれた俺には到底かなわない。

しかし現在、俺は屋敷の周りに張ったバリアで敵の攻撃を防いでいる。

その為、俺からの攻撃はできない状態だ。


「どういうことだ?屋敷が爆発しないし燃えもしないぞ。」

「大丈夫です。俺が防いでいる。ボラさん、敵の攻撃が多いから、攻撃が中断するまで俺は何もできないから攻撃してくれないか。」

「分かった。」

「勇者は何もするなよ。見てろよ。」

「なんでだよ。」

「死ぬぞ。お前はレベル2だろ。」

「はっ!レベル1のやつに言われたくないわ!」

「ぐさぁっ!刺さる。それ心に刺さったぞ!それには事情があるんだよ。さぁ、ボラさんも攻撃魔法が使えるんだろ。早く攻撃してくれ。」

「どうして知ってるんだ?攻撃魔法と剣も使える。それだけじゃないがな。」

「知ってるけど。」

「知ってるのか。なぜ?いや、聞かない。レベル1で広い屋敷の周り中にバリア張ってるし何か秘密があるんだろ。気が向いたら教えてくれ。」


そう言うとボラ・ゼンギンは窓から外の敵兵を見た。


「フレアーボム!」


ボラの手から炎の塊がものすごい勢いで発射され敵の集団に向かって行く。

炎の塊は集団の一角、その中央付近に着弾。

その途端、爆発を起こす。

炎は周囲に燃え広がり物凄い数の犠牲者を出していく。


ボラさんは立て続けにフレアーボムを発射し更に周囲を火の海と化していった。


「もうダメだ。燃料切れだ。」

「もう?はやっ!」

「『はやっ!』とか言うな!これだけ出来る奴はそうはいないぞ。」

「分かってますよ。一気にエネルギーを放出したんですよね。」

「その通りだ。


ナノは一つ一つのその内部に保有するエネルギーは少ないが、全てのナノを発動し最大火量を発生させると全てのナノのエネルギーを一回で使い切るほどの爆発も可能らしい。

その場合は一回で燃料切れとなる。

しかし、それは爆発の及ぶ範囲が広範囲となるだけで温度が高くなる訳ではないようだ。


ボラの妹のエスラも戦っていたが既にエネルギーが底をつき攻撃魔法が使えなくなっている。

珍しいと言われる攻撃魔法の使い手だが、ここの兄妹はふたりとも攻撃魔法が使える。裏取引でもあったのだろうか、それとも偶々だろうか。


外ではここの守備衛兵が戦っていた。

しかし、圧倒的に男爵軍と比べて数が少なく既に兵はいなくなっていた。


未だ、敵の数は多く攻撃は未だ止まない。


おかしい。


それ程攻撃魔法が使える人間がいるとも思えない。


しかし、攻撃がやまない。


こちらに打つ手はなく、相手の力が尽きるのを待つしかなくなった。


その前に、こちらの力が尽きてしまえば俺たちは捕まって殺されるだろう。余計な証拠を残さないように。


間違っても犯罪者として王都へ連れて行かれることはないだろう。


確実に殺される。


ま、俺は死なないけど・・・







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