第44話 虎
貴族街はめっきり寒くなり冬の訪れを物語っている。
歩いている人も少なく、30分も散歩すればもう帰りたくなる。
「寒い。もう帰るよ。一度屋敷に帰ってから泊まっている宿へ行くから。」
「オレ全然寒くないぞ。」
「お前は犬か!猫なら暖炉の前で丸くなれ。」
「オレ、所詮はキメラだからな。普通の猫とは違うんだよ。」
一度屋敷に帰ってのんびりコーヒーを飲む。
豆を挽き、お湯を沸かし挽いて粉にした豆に掛ける。
コーヒーの甘い香りが漂う。
数杯分のコーヒーを淹れカップに移す。
テーブルに座り外を見ながら手に入れた豪華な屋敷で飲むコーヒーは贅沢だ。
庭も奇麗に整えられている。
芝生が辺り一面に植えられ周囲に木が植えられている。
花は無く豪華さには欠けるが落ち着く庭だ。
飲んだらのんびりとゼンギンシティーに向かう。どうせ、夕方まで女性陣はいない。
宿へ戻ってきた。
宿へ戻ってもすることがなかった。勇者の様子も気になったのでボラを尋ねることにした。
「アスラン、どこへ行くんだ?」
「ボラ・ゼンギンのところへ行くんだ。」
「あー、ここの領主の息子か。」
「詳しいな。」
「フェムト持ちだからな。情報は共有されてる。知ってるだろ。」
「そうだったな。まさか、虎が賢いとは思わないもんだからな。人前では喋るなよ。」
「その時はテレパシーで会話するぞ。」
ボラ・ゼンギンのいるゼンギン邸に到着した。
門には警護の衛兵がいる。
「すみません。ボラさんいますか?」
「どちら様でしょう。」
「アスラン・バラミールです。これ身分証。」
侯爵であることを示す身分証を衛兵に見せる。
「これはバラミール侯爵でしたか、失礼しました。ボラ様はいらっしゃいます。案内します。こちらです。」
衛兵の後をついていく。
「それは虎ですか?白いトラなんて珍しいですね。噛まないですか?」
「大丈夫ですよ。犬より賢いんで。」
「人間よりな。」
「シッ!」
「い、今、と、虎が喋りませんでしたか?」
「いえ、俺の独り言ですよ。ハハハハ・・」
ゴン
トラの頭を叩く。
コンコン
衛兵が部屋のドアをノックする
「はい、なんだ?」
中からボラが返事をする。
「バラミール公爵がいらっしゃいました。」
ドアを開けずに衛兵が答える。
「お通ししろ。」
中に入ると、ボラと昨日門で見た二人の女性、そして勇者がいた。
女性はふたりとも巨乳で目が胸に釘付けになってしまう。いかん、いかん顔を見なければ・・
名残惜しいが、仕方がない、嫌々ながらボラの顔に目を向ける。
「どうしたんだ?アスラン。あっ、敬語使わなくてもいいだろ?」
「もちろんですよ。ちょっと、暇だったんで、ちょっと遊びに来ました。これペットのホワイトタイガーです。」
「真っ白い虎の子供か、珍しいな。くれ。」
「駄目ですよ。俺のですから。多分、他の人には懐きませんよ。」
「そうか仕方がない。殿下はどうした?」
「殿下はユスフ・バヤル男爵から殿下と同じ年齢の娘の昼食会に誘われて男爵邸に行ってますよ。」
「ちょっと待て。可怪しいぞ。男爵に娘はいないぞ。」
「何だって?」
「大丈夫か?あの男爵の周囲には以前からきな臭い匂いが漂っていたんだ。捕まっているかもしれないぞ。そしたら人質にされるかもしれない。男爵邸に行ってみるか?」
「あっ、大丈夫ですよ。あの姫が簡単に捕まるわけ無いですよ。あれ可怪しいな。」
フェムトで連絡が取れない。
「何が可怪しいんだ?」
「いえ、やっぱりなにか起こっているかもしれないですね。」
「殿下のことだから放っておくわけにも行かないしな。」
「どうしたんだ?」
勇者が会話に加わる。
「この国の姫が誘拐されたかもしれないんだ。」
ボラが勇者に説明する。
「本当か?だったら俺も誘拐犯を懲らしめる手助けをするぞ。」
えっ?大丈夫なのか?
「勇者、大丈夫か?だって、君、レベル2だろ?」
「こ、これからだ。魔物を退治してレベルを上げている途中だ。」
「魔物?」
「そうだ、魔物だ。」
「魔物じゃないぞ。魔力なんかないからな。この国ではバケモノとよんでるし。何だって良いか。」
「ないのか?だって、僕は魔法が使えるぞ。」
「それ、魔法じゃないぞ。科学だ。」
「科学?もしかして俺と同じ転生者か?」
し、しまったぁ!科学とか言っていると勇者の従者だとバレるかもしれない。
「いや、聞いただけだ。魔法をそう呼ぶみたいなことを聞いたんだ。魔法は魔法だな。はははは・・」
「どうした、アスラン。棒読みだぞ。」
ちっ、ボラさん、余計なツッコミを・・
話題を変えなきゃ
「ところで、そちらの女性は美人だな。」
「俺の妹とその友達だ。エスラ、ナディデ、挨拶しろ、バラミール侯爵だ。今度公爵に陞爵されるそうだぞ。第二夫人はお勧めかもな。」
「わたくしはエスラ。エスラ・ゼンギンですわ、バラミール侯爵様。ゼンギンシティーにはご旅行で?」
「妹を取り戻しに行く途中なんだ。その為にクランを組んだんだ。」
「クランですか。でしたら、私もクランに加えて頂けないでしょうか。」
エスラ・ゼンギンを観察した。長々とは見れない。時間を止める。輪郭しか見えなくなった。時を戻し、速度を遅くする。
じっくり観察できる。
ブロンドで緑の目。かなりの美人だ。嬉しいことにこの人も巨乳だ。身長もレイラほどではないが高い。165センチくらいだろう。
見た目だけではなく、フェムトの鑑定機能で相手の能力を見る。
攻撃魔法が使える。レベルは20。エイレムやハリカよりも強い。
クランに加えても良いかな・・
時を戻す。
その時勇者が会話に割り込んだ。
「エスラ、君は僕の従者だろ。そんなどこの馬の骨とも分からない奴のパーティーに加わることは許さんぞ。」
「勇者シンジ、わたくしはあなたの従者ではありませんわ。わたくしはアスラン閣下の恋の従者ですわ。(*´ェ`*)ポッあなたにはわたくしの友人のナディデを従者に差し上げますわ。それに、閣下は、どこかの馬の骨ではありませんわよ。現在は侯爵ですし、今度公爵に陞爵されます。どこかの馬の骨はあなたですわ、勇者シンジ。」
「ガ〰〰〰ン!ショ、ショック!僕は勇者だぞ!」
「勇者シンジ、ユウシャって名前かと思ってましたわ。勇者って役職ですの?公爵のような。」
「違う。勇者は王よりも偉いんだ。思うままに生き思うままにハーレムを作れる人間のことだ。」
「そ、そうだったのですね。つ、つまり、ただの遊び人ですわ。お兄様、追い出すべきかと。」
「まぁ待て、エスラ。彼は魔王を倒すために遣わされた勇者だ。魔王はいないけどな・・ぷっぷぷぷぅーぅっ。」
「わ、笑うな。じゅ、従者は主人に従うものだぞ。」
「だから、俺達は従者じゃないし、神からの啓示もないぞ。啓示があったら訪ねていくから、それまでこの街でバケモノ倒して金をもらって暮らしておけ。傭兵ラグザがあるからそこで登録しろ。」
「ギルドじゃないのか?」
「ギルドってなんだ?ラグザは組合だな。傭兵を雇って他国との戦争やバケモノ退治に駆り出される。他には買取ラグザってのがある、そこでも買い取ってくれるぞ。」
「そうか。バケモノ退治してレベルが上げられるから一石二鳥だな。」
「お前はレベル2じゃ普通のバケモノでもきついんじゃないのか?」
「ここに来るまでに倒したバケモノはレベルが1か2だったから楽勝だったぞ。」
「本当か?そんな弱いバケモノいるわけがない。嘘は突くなよ。普通の人間でも5以上あるぞ。」
そこで俺は勇者に提案してみることにした。
「なぁ、勇者シンジ。ダンジョンへ行ってみたらどうだ。」
「ダンジョンがあるのか?」
「あるぞ、王都だ。そこのダンジョンは絶対死なないし、ポイント制でポイントが貯れば商品と換えてもらえるぞ。」
「本当か?そんなダンジョンがあるのか?絶対死なないのか?」
「そうだ。ただの訓練施設だからな。分からないことはタナカさんが教えてくれるぞ。」
「田中さん?あの田中さんじゃないよな・・・まさかな。従者ボラ、僕をダンジョンまで連れて行ってくれ。」
「今度、暇なときにな。」
「俺が連れて行こうか?今直ぐ行くか?」
「アスラン、今から殿下を助けに行かないと。」
「殿下なら大丈夫だと思うぞ。」
「いや、分からないだろ。まずは確かめないと。今直ぐ男爵邸に行くぞ。」
「仕方ないなぁ。」
「お前の婚約者だろ!なぜやる気が無いんだ。」
「だって、大丈夫だと思うぞ、絶対。」
「アスラン様、わたくしも付いていきますわ。攻撃魔法が使えるのでお役に立ちますわよ。」
「エスラだったか。じゃあ、ハリカと交代でクラン入り決定だ。」
「嬉しいですわ。」
ドンッ!!!
その時慌ただしくドアが衛兵によって開かれた。
「た、た、大変です!敵襲です!屋敷が敵兵によって取り囲まれています。」
「な、何!?敵は誰だ?」
「男爵です。ユスフ・バヤル男爵です。」
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