第41話 ゼンギンシティーへ

 昨夜、私達が馬車に戻ってきたのはかなり遅い時間だった。

 勿論、その原因はハリカのことなどすっかり忘れて私とアスラン、エイレムと、護衛のトムとリズの5人でのんびりとホテルでお風呂に入り部屋で休憩していた為だ。


 ハリカが切れた。


 小さい頃から知っているけど初めて見た、というくらい切れた。

 だから暫くアスランがハリカの召使いをするという約束をさせられた。その間、アスランはハリカを御主人様若しくはハリカ様と呼ばなくてはいけないらしい。期限はハリカの機嫌が治るまでだ。


 今は未だ早朝で馬車はあまり鬱蒼としていない森の中を走ってる。

 早朝はバケモノの出現する数も少なく、護衛の二人ものんびりと馬車を制御している。


「姫、これからどこに向かうんだ。」

「まずは、あなたが試合したボラ・ゼンギン覚えてるでしょ?そのゼンギン家が治めるゼンギンシティーに向かうわ。途中でちょこちょこ止まるから時間がかかるけど夕方には着きそうよ。エイレムとハリカにはバケモノと戦ってもらって少しでもレベルを上げてもらわないと、今のままではただの足手まといにしかならないからね。」

「ははは、足手まといか。そのとおりだな。ハリカ様何か言われてますよ。」

「ふん、ボクの代わりに下僕のアスランが戦えばいいんですよ。」

「ハリカ様、それではいつまでたってもボンクラのままですよ。」

「誰がボンクラだ!ボクはボンクラじゃないですよ!くそっ、アスラン、マイナス10ポイント。」

「ハリカ様、覚えておけよ。」

「なんですか、その口の聞き方は!?アスラン、マイナス20ポイント。」

「ポイントが貯まるとどうなるんだ?」

「その時は首です。」

「じゃぁ、直ぐに首にしてくれ。一人で行くから。」

「それ、卑怯ですよ。姫様からも何か言ってやってくださいよ。」

「アスラン、約束でしょ。約束守るのは貴族の義務よ。」

「いや、それ人間の義務だから。まぁ、ハリカと話すとついからかいたくなるんだ。ゴメンなハリカ。」

「ハリカ様でしょ、様。」

「はい、はい。」

「ハイは一回!」

「( ̄ ̄ ̄ ̄□ ̄ ̄ ̄ ̄)チッ」

「何かっ!?」

「いえ、何でもないです。ところで姫、勇者とかいうのはどこで合流するんだ?」

「さぁ、会いたくないし、もしも会えたらその時は、仕方なく合流するわよ。いつになるのやら。多分ゼンギンシティーに付く前には嫌でも合流かもね。」


暫く進んだところでバケモノの集団に囲まれた。でかい顔にでかい目が2つ、口はなし。丸い頭の周りには無数の腕が。頭上にはまるで髪の毛の様に触手が生え蠢いている。身体は二頭身で頭とは釣り合わない小さな腕のない体に太い脚がガニ股に生えている。何故か全てレベル2。

どういうことだ。

可怪しい。こんなに弱い魔物がたくさんいるなんて。


「エイレム、ハリカ、やっつけなさい。」

「姫様、可笑しいですわ。全てレベルが2しかありませんわ。」

「あ!分かった。勇者がレベルが低いのよ。だから、その勇者の成長のために弱い魔物を集めたんじゃないかな。田中さんが。まぁ、いいわ。やっておしまい。」

「分かりましたわ。ハリカ行くわよ。」

「ボクもぉ?遠慮します。エイレム頑張れ。」

「ずるい!洗濯板ハリカ。」

「だ、誰が洗濯板ですか!アスラン、エイレムをやっつけて。」

「ハリカ様、申し訳ございません。俺は巨乳には敵いません。」

「ぼ、ボクも巨乳ですよ。」

「いえ、エイレムは巨乳ですが、ハリカ様は虚乳です。」

「むっきぃー、だ、だれが虚乳ですか!」


ドン!


大きな音がして、音のした方を見ると既に魔物はエイレムが全て倒していた。全て倒してたがレベル2なので獲得経験値も少ない。

結局アスランとハリカが言い争っている間に戦闘は終了した。


暫く進むと狼が大群で出没。全てレベル1。もう、田中ぁー!エイレムとハリカの訓練ができないって。

今度、文句言いにラーメン食べに行こう。もちろん田中さんの奢りだ。


 私達は大した障害もなく、夕方にはゼンギンシティーに到着した。少しはレベルも上がっただろうかと見てみれば、エイレムがレベル14でハリカがレベル12と以前と全く変わらなかった。出てくるバケモノが低レベルだから仕方がないが・・レベルをあげるのは大変らしい。その苦労が良く分からない。どれだけ倒しても相変わらずレベル1の私が言うのも何だが・・



 ゼンギンシティーは王都よりは狭く人口も少ないが、外国との貿易でかなり繁栄している都市だ。

 もう大分暗くなってきているので城壁の門の前はかなり混んでいる。私達は貴族用の門へと向かう。


「あっ!」


 元婚約者候補のボラ・ゼンギンが貴族用の門にいた。これから入場するところのようだ。


「あっ、殿下。こんなところで何してるんだ?俺の申し出を受けに来たのか?」

「冗談でしょ。もう、既にアスランとの婚約は決まったも同然よ。アスランはもう、公爵に陞爵するの。」

「公爵か。凄いよな、アスラン。」

「どうも。」


 アスランが気恥ずかしげな表情で謝意を示す。

 あれ?ボラの後ろに見たことのない男がいる。平たい顔、日本人顔だ。

 もしかして・・・


「ボラさん、その人だれ?」

「こいつは森の中で会ったんだ。何でも勇者とか言っていたぞ。」

「レイラ、勇者みつか・・」

「しっ!え〰、勇者って何ぃ?私ィ、分かんなぁ―い。もしかしてぇ、すごい人ぉー?」

「どうしたんだレイラ。勇者ってあい・・」

「しっ!(ボラ・ゼンギンに押し付けるのよ。黙ってて)」

「(あー、なるほど)」


 私は、アスランにフェムト通信で話した。


「これから従者とともに魔王を倒すらしいぞ。俺を従者と言ってるんだ。」


ボラが勇者を指差して説明する。


「え〰、魔王ってなーにぃー?初めて聞いたぁ!私分かんなぁ―い!でも、ボラが勇者の従者なんだぁ!でも、勇者さん、従者が見つかってよかったわね。」

「そうなんだ、本当に見つかってよかったよ。君、名前は?」

「私?名もなきNPC、村人その一よ。じゃーね。」

「君、勇者の従者にならないか?巨乳の君なら資格十分だよ。」

「いえいえ、わたくしはただの村人その一。武器も装備できませんから。」

「そ、そうか、仕方ないか。だったら、今晩お前の相手をしてやるぞ。俺の部屋に来い。」

「いえいえ、村人その一にはそのような機能はついてませんので。」

「だったら、そっちの巨乳の金髪女性はどうだ?名前は?」

「ワタクシはエイレ・・」

「ん”っ、ん”っ!あっ、この娘は村人その2。ここから動けませんので。」

「そうか残念だ。じゃあもう一人の赤毛・・胸がないから、いいか。」

「むぅっ、ひ、酷いです。アスラン、やっておしまい!」

「ハリカ、レベル1の俺がレベル2の勇者に戦いで勝てるわけ無いだろ。さぁ、行くぞ。」


アスランが話を無理やりまとめたのでやっと勇者から逃げられる。ほっとした。ここは、ボラ・ゼンギンに勇者を押し付けて私達は先に進むべきかしれない。


「じゃあ、ボラさん、勇者の人も、もう会うこともないでしょうけどお達者で。」

「城に泊まらないのか?」

「公式訪問じゃないから遠慮するわ。ホテルに行く。」

「そうか。残念だな。」


 先に門に来ていたボラ・ゼンギン御一行様は私達より先にゼンキンシティーに入っていった。

 次が私達の番だ。

 王族専用の身分証を見せる。


「これは、殿下でしたか。ようこそゼンギンシティーへいらっしゃいました。」


 門の衛兵が歓迎してくれた。

 衛兵に宿を紹介してもらったのでその宿へと向かう。


 宿へ到着し二階の部屋へと案内された。

 少し高級そうな宿だ。


「姫様、勇者は宜しかったのですか?」


 エイレムが話しかけてきた。


「良いのよ、エイレム。面倒な事をボラ・ゼンギンに押し付けたの。」

「しかし、勇者は強いのでしょ。絶対に役に立ちますよ。彼も姫様と同じたったのレベル2でしたよ。絶対に強いですよ。」

「あのね。あいつのレベル2はそのままのレベル2よ。あいつの中にあるのはあなた達と同じギフトだから。育ってきた星の環境で身体が脆弱なんだと思う。だから最初はかなり弱いんでしょうね。」

「そうなんですか。厄介払いだったんですね。ここにも一人アスランという名の厄介者がいますよ。」

「煩いですよ。ハリカ様。」


 顔は笑顔だが目が笑っていないアスランだった。

 大分、アスランの下僕が様になってきている。いつまで続くことやら・・・










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