第40話 めげない勇者
目が覚めた。
ここはどこだ。
外は既に朝で明るくなっていた。洞窟から外を覗くと既に魔物はいなくなっていた。
「よし。いくか。街に向かえば従者にも会えるだろ。」
僕は剣を抜き右手に持ったままで歩き始めた。
小さな物音にも怯え、ビクッとしてしまう。いや、敵が出てきた時に直ぐ対処できるように訓練しているだけだ。
まぁ、ほんの少しは怖いが・・
あのデカ顔面が大勢で押しかけた時には逃げればいいな。一匹なら大丈夫なんとかなる。
その前に弱い魔物か、デカ顔面が一匹の時にやっつけてレベルを上げるぞ。
なんてったって100倍だからな。
森の中は鬱蒼としていて暗く道以外は人が通ったような形跡さえない。
木々の間から午前中の温かい日差しが溢れる。
少し肌寒く季節は秋か春だろうと分かる。
空気は澄んでいてまるでピクニックのように心地よい。
あのバケモノさえいなければ・・
暫く歩くと犬が出てきた。
犬?
黒くでかい!
犬ではなさそうだ。狼かもしれない。
狼はとっくに僕に気づいているようだ。
あっ、狼と目が合った!
狼は肩を少し下げ今にも飛びかからんとする体勢をとっている。
周りでも音がした。
どうやら狼の集団に取り囲まれたようだ。
確認したいが目の前の狼から目が離せない。
離した途端襲いかかってきそうだ。
目の前にいた一匹が猛スピードで接近する攻撃は単調だ。剣で殺す。なんてったって俺には『剣術』のスキルと『必殺必防』のスキルがある。更に『必当』のスキルがある。
必ず当たると書いて必当だ。
狼に頭に剣を突き出してカウンターで剣を突き刺そう。剣で突く。
スカッ!
よ、避けられた?しかし、何という効果音。『スカッ』はないだろ!
しかし、『必当』は?必ず当たるんじゃないの?
『必殺』は必ず殺すというだけで、当たらなければ死なないということだろうか。なんだか使えないスキルだ。
いや、レベルが上がれば大丈夫だろう。
避けた狼が、またジャンプして襲って来た。
ジャンプしているから俺の攻撃を避けられないだろ。
上段から剣を狼に向かって振り下ろす。
突如狼の腹が裂けた。
どうやら、先程の突きで切れていたんだな。
と思ったら歯があるじゃなか。
「く、口だぁ―!は、腹に口が!」
叫んでしまった。
あまりの驚きに剣を外した。なぜ?必ず当たる『必当』は?
狼は俺の首に噛み付く。
その寸前、身体が動き噛みつきを防ぐ。
これだ!『必防』の効果だ、そうに違いない。
避けた体勢のまま後ろに回った狼を剣を後ろまで振り回し切る。
狼は不意を疲れたのか剣を頭に受けた途端絶命したようだ。
頭に剣が食い込んでいる。
これ『必殺』がなくても死ぬんじゃないの?
う〰ん、スキルの効果がいまいちわからないな。
しかし、狼は楽ちんだ。
手が何本もあるわけではないし、口は二つもあるが、二つしかないとも言える。
十数分掛かったかな。やっと全部倒した。
簡単だったな。
ん?あれ?レベルが上がる効果音がしない。
「ステータス!」
――――――――――――――――――――
シンジ・カザマツリ
Lv.2
職業:勇者
経験値:1246
HP:50/120
MP:100/120
体力:25
筋力:25
敏速:25
知力:25
魔力:25
幸運:50
スキル:『剣術』『アイテムボックス』『鑑定』
ユニークスキル:『獲得経験値100倍』『必殺必防』『必当』
使用可能魔法:『ファイアー』
――――――――――――――――――――
経験値はたくさん入っているけど未だレベルが上がらないのか。次にレベルが上がるまでの経験値の表示がない。分かりにくい。田中さんに文句言わないと。
しかし、HPがかなり減ってる。
回復ポーションとかないのだろうか。
ないと積むかも・・
暫く休憩するか。
だが俺は強い。
狼なんかあっという間だったな。
よし、もっとやっつけてこの世界で無双してやるぞ。
しかし、俺の従者は何やってるんだ?
本当にどこにいるのやら。
今日は絶対お仕置きだ!
絶対にお仕置きと称して巨乳を揉みしだいてやる!
い、いや、従者に巨乳がいるとは決まったわけじゃないんだが・・
それどころか女がいるとも限らないし・・
い、いや絶対に巨乳の女性がいる!
思考は現実化するんだ。いると思えばいるんだ。
丘の上の皇帝もそう言っている。
更に街に向かって歩く。
何か、ゴトゴトおとがする。
なんだ?
ん?
あ!馬車だ!
俺は馬車に手を振っていった。
「止まれ―、止まってくれー。」
馬車が止まった。
御者と中から出てきた男女も若い。
コイツラだな。若いと聞いていたから間違いないだろ。
俺の従者だ。
「何だ、君どうした、こんな森の中で。」
若い御者が話しかけてきた。
「君たちを待ってたんだ。良かった、良かったよ。来てくれて。僕もう泣きそうだったよ。」
「そうか、待ってたのか。一人で寂しかっただろ。さぁ、馬車に乗ってくれ。」
馬車の中から出てきた高そうな服を着た若い男が促してくれた。聞いていた通り貴族のようだ。
馬車の中には男が一人、そして女性が二人いた。
女性は何と期待していた通りの巨乳だ!しかも美人。
今夜のお仕置きは決定だな。
「君、どこから来たんだ。何でこんな森の中を一人でうろついてたんだ。」
「知ってんだろ、遠いところから来たんだよ。」
「そりゃ、遠いところから来たんだろう、こんな所を歩いてるんだから。俺達はこれからゼンギンシティーに向かうところだ。そこでも良いのか?」
ゼンギンシティーか。
従者が向かってるのだから魔王領に近いのか?
いやいや。そもそも未だ俺はそんなに強くないんだからまずはレベル上げだ。
だから近くの街に行って装備を揃えてギルドに登録するのか。
それからレベル上げだな。
魔王はまだまだ先だな。
「そこで良いぞ、大きな街なのか?」
「王都より少し小さいくらいだ。ゼンギン侯爵の収める土地だな。」
「問題ないぞ。しかし遅かったなぁ。何やってたんだ?」
「何やってたも何も、王都で用事があってな、遅くはないと思うぞ。」
「そうか、しかしそこの女性は今晩はお仕置きだな。遅れたバツだ」
勇者を待たせたのだから当然だな。
「駄目だ、その女は俺の妹だぞ。もう一人の方も妹の友達だ。図々しいやつだな。まぁ、ゼンギンシティーまでは一緒に乗っけてってやる。」
巨乳はこいつの妹か。
だったら問題ないな。
「それでお義兄さん、お前達は従者だろ。」
「誰がお義兄さんだ!失礼なやつだな。ゼンギン侯爵の嫡男、時期侯爵のこのボラ・ゼンギンに対して。」
「知ってるよ侯爵なんだろ。田中さんから聞いてるよ。だけど、時期とは言ってなかったな。しっかりしろよぉ、田中ぁ。お義兄さん、田中さんから聞いていると思うけど僕は勇者だぞ。あなた達は僕の付き人、従者だ。聞いてるんだろ。」
「誰だよタナカって!知らないぞ。それに、何の話をしてるんだ!?あんまり失礼だと馬車から叩き出すぞ。だいたい勇者ってなんだよ。」
「勇者っていうのは魔王を倒す天下無双、天上天下唯我独尊のヒーローだ。」
「そうか、魔王を倒すのか。まぁ、俺の知らない所で頑張ってくれ。」
「駄目だ。勇者の従者は常に勇者のそばにいて勇者の世話をしなければいけないんだぞ。勿論女性の従者は下の世話もだ。当然ハーレムは作るぞ。」
「勝手にハーレム作れよ、俺の知らない所で。やっぱり、お前何か勘違いしてるぞ。お前な、これがアスラン・バラミールなら叩き出されてるぞ。」
「アスラン・バラミール?どっかで聞いた名前だな。」
「俺は優しいから叩き出しはしないけどな。ゼンギンシティーまで黙って乗っておけ。」
「くそっ、我儘な従者だな!」
「お前は自分が一番我儘だと知らないのか?」
お、俺がわがままなわけ無いだろ!
「俺は素直なだけだ。ところで、我が従者よ、ブロンドでグリーンアイの君の名は?」
「お前の従者ではないぞ。失敬なやつだな。」
「もう、お兄様、良いではないですか。私の名前はエスラよ。このボラ・ゼンギンの妹です。よろしくね。勇者、えーとお名前は?」
「シンジ・カザマツリだ。お前の御主人様だ。」
「あーはははっ、図々しいけど、面白い人。よろしくね、勇者シンジ。Lv.2ね。天下無双には程遠いわよ。」
「お、お前は俺のレベルが分かるのか?」
「当然よ。この世界の殆どの人は他人のレベルが分かるわよ。」
え?勇者の俺だけが他者のレベルが分かるんじゃないの?その優位性はないの?
くそぉー、それじゃ、『君のレベルじゃ僕には勝てないよ。』『え、どうして分かるのよ?やってみなくちゃ分からないでしょ。』カキィーン!『本当だわ、あなた強いのね。惚れちゃう!』という女剣士との甘い戦いの後の一時がおくれないじゃないか。
「俺は昨日この世界に来たばかりなんだ。100倍成長するから『あっ』という間に追いつくぞ。まだ僕は弱いから、エスラ、今なら僕を組み伏せて僕の童貞が奪えるぞ。今だけの特権だぞぉ!」
「ご、ごめんなさい。私、今晩お風呂掃除をしなくちゃいけ何のよ。だから、ごめんね。」
「なんだ。だったら、掃除の後一緒に入れば良いじゃないか。問題ないぞ。」
「その後皿洗いがあるのよ。一晩中掛かるの。あなたは一人で魔王討伐に向かって。」
「大丈夫だ。また迎えに来るぞ。」
「いえ、来なくて大丈夫だから。」
「でも田中さんから聞いてるだろ、従者なんだから俺のハーレムに入らなくちゃいけないんだぞ。」
「君、勘違いしてない?私、本当に従者じゃないわよ。」
「いや、何も勘違いしてない。君の瞳と胸が真実だと告げている。」
「おい、シンジ。それはお前がスケベなだけだろ。」
「(∀`*ゞ)テヘッ」
しかしエスラは美人だ。金髪で身長も高くスタイルも良い。しかも巨乳だし。
特に少しつり上がった猫のような緑色の目がエキゾチックで印象的だ。
俺の嫁にするしかない。
今晩が楽しみだ。
もうひとりは普通の娘だ。茶色い髪とエスラより低い身長でスタイルも普通だが、彼女の胸も大きい。
「そっちの君の名前は?」
「私の名前はナディデ・アヴィシャル。エスラの友人よ。」
「そうか、君たちは三人でパーティー組んでるのか?」
「パーティーは組むものじゃなくてやるものよ。」
「パーティーは組んでないぞ。王都に観光で行っていただけだ。今はその帰り道だ。」
「え?パーティー組んでないのか?魔王と戦えないじゃないか。あ~、分かった。これから俺がメンバーを見つけてパーティーにするんだな。了解。」
「だから、一人で勘違いしてるぞ。パーティーは組んでないし、ましてや魔王とは戦わない。更に従者では絶対ないし、なりもしない。」
「そうなのか?理解した。これからだな。これから神の啓示を受けて魔王討伐へと向かう使命を帯びるんだな。そして、従者になると改心し、パーティーを組むんだ、そうか。よく分かった。」
「お兄様、この人なにか勘違いしてるんじゃないの?多分、何言っても無駄よ。人の話を聞かないタイプだわ。」
「そうだな。でももしかしたら、こいつの言うように本当に神の啓示を受けるかもしれん。なぁ、シンジ、魔王ってなんだ?」
「魔王は俺達の戦うべき相手だ。」
「いや、だからそんなやつどこにいるんだ?」
「え?魔王はいないのか?」
「いないぞ。そんなやつ。」
「だったら俺は何と戦えばいいんだぁ!??」
「煩い!馬車の中で叫ぶな!」
「あっ!分かった。これから魔王は生まれてくるんだ。これから少しずつ世界が変調をきたし、世界に暗雲が立ち込めるんだ。その原因が魔王だということが判明し、世界の変調を治すために魔王討伐に向かうんだ。なーんだ。未だプロローグの段階か。良かったな、ボラ。」
「何が良かったんだよ!お前年下だろ、しかも俺は貴族だぞ呼び捨てるな!」
「何言ってるんだボラ。僕は勇者だぞ。しかも、ボラは僕の従者だ。当然呼び捨てるし、敬語なんて使わないぞ。」
「┐(´~`)┌ ヤレヤレ」
ボラは両手をあげる変なポーズをとって黙ってしまった。呆れ返ったような顔だが、当然僕の言っていることに納得したのだろう。当然だな。僕は勇者だ。並ぶものがない勇者だ。天下一品だ。そう言えばラーメン食べたいなぁ。こんな馬車の世界にラーメンがあるわけないな。しかも、天下一品ラーメンは望むべくもないな。まずは米を探すんだろうな、王道として。
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