第39話 勇者

 ここは、森の中か。

 ここから俺の勇者の人生が始まるのか。

 装備は皮の鎧と普通の剣か。

 聖剣はいつもらえるんだろ。

 早く欲しいな。


 まずは街を目指さないとな。

 どっちだろ。

 マップ機能とかないのか?

 やはりここは・・


「ステータスオープン!」


 おっ、ステータスが表示された。



 ――――――――――――――――――――


 シンジ・カザマツリ

 Lv.1

 職業:勇者

 経験値:0

 HP:100

 MP:100

 体力:20

 筋力:20

 敏速:20

 知力:20

 魔力:20

 幸運:50

 スキル:『剣術』『アイテムボックス』『鑑定』

 ユニークスキル:『獲得経験値100倍』『必殺必防』『必当』


 使用可能:魔法なし


 ――――――――――――――――――――


 数値は低いのかどうかよくわからないが、獲得経験値が100倍もあれば怖いものなしだな。

 神様、田中さん、xこれでイージーモードな異世界生活で楽しいハーレムライフが送れます。本当にありがとう。

 アイテムボックスの中に聖剣はないな。なんにも入ってないし。


 さぁ、金髪碧眼の美女を探しに街へ行くぞ。出来れば巨乳が良いな。

 いや。違う。

 巨乳は絶対必須条件だな。

 洗濯板には興味がない。

 洗濯板は歴史の教科書でしか見たことがないが。

 やはり、巨乳のお姉さんに僕の童貞は奪ってもらわないと。

 従者が来る予定だけど未だ来ないのか?

 従者には女もいるのか。いるよねきっと・・


 幸運が50だ。

 という事は、街に向かえば50%の確率で到着するということだろう。

 適当に歩こう。


 十数分は歩いただろうか。人の気配は一切ないのに森が騒がしい。

 気配察知の能力があれば分かるのだろうけど、強い僕には関係ないな。

 お、小さなうさぎがでてきた。

 異世界定番の角の生えたうさぎではない。


 こいつは魔物だろうか?

 魔物は退治すれば経験値だ。

 100倍だからこいつでもかなりの経験値になるんだろう。


 ズブッ。


 剣で突いた。嫌な抵抗があったが背中から突き抜け腹からでてきた。


 き、気持ち悪い。


 生まれて初めての動物の殺生は精神的に答える。夢に出てきそうだ。いや、絶対に出てくるな。


 僕は左右の手を組んでうさぎの冥福を神に祈った。勿論田中さんにではない。


 ピロリロリン!


 音が鳴った。レベルが上った。レベル2だ

 さすが獲得経験値100倍だ。



 ――――――――――――――――――――


 シンジ・カザマツリ

 Lv.2

 職業:勇者

 経験値:100

 HP:120

 MP:120

 体力:25

 筋力:25

 敏速:25

 知力:25

 魔力:25

 幸運:50

 スキル:『剣術』『アイテムボックス』『鑑定』

 ユニークスキル:『獲得経験値100倍』『必殺必防』『必当』


 使用可能魔法:『ファイアー』


 ――――――――――――――――――――


 何か数値の上がり方が少なくないか?でもやった!ファイアーが使えるようになった。今度は魔法で攻撃してみよう。

 早く次でてこないかな。


 ん?なんだ?

 何か丸いものが目の前に・・・・

 顔?

 巨大な目が二つ付いたでかい顔。鼻はない。二頭身の体と同じ長さの顔が目の前に・・

 一瞬思考が止まった・・

 敵の手が僕に伸びてくる。

 避ける。

 でも肩にあたった。痛い。とても痛い!

 スキルの『必殺必防』は?

 必ず防ぐんじゃないのか?

 なぜ。

 魔物をよく見る余裕が出てきた。

 腕は顔の周りに10本右5本、左5本、頭の上には髪?いや、触手のようなものがウネウネと蠢いている。

 今度は触手が伸びてきた。

 避けた。

 また触手と右手が伸びてくる。

 避けられない。強そうな右手を避け触手の攻撃を受ける。

 痛い。頭に当たる。

 温かいものが顔に垂れてくる。

 鉄臭い。

 血だ。

 固まった。恐怖で身体が硬直した。

 だから敵の攻撃を避けるだけで攻撃しなかった。

 俺は剣をかまえてさえいなかった。


 HPが減った。70だ。

 50も減っている。

 後数発受ければ死んでしまう。

 逃げないと。逃げないと死んでしまう。

 でも僕は戦う。

 戦える。

 奮起した。

 戦えると自分を励ました。

 僕は剣を構えてさえいなかったことに、今更ながら思い至り、剣を構え魔物を見すえた。

 魔物は攻撃をやめ何かを思考しているかのように触手が蠢き腕が蠢いていた。目は何らの意志も持たないただの飾りのようにその表情を変えなかった。

 腕が動いた。

 僕は腕をめがけて剣を振るった。

 当たった!腕は切れ地に落ちた。

『必殺必防』の力だろう。簡単に切れ落ちた。切った腕は死んだ、つまり必殺と言えるだろう。本隊は死んでいないが・・・うーん、微妙・・


 本隊に斬りかかるが腕に阻まれる。

 まず腕を攻撃して腕と触手がない状態にして顔を切らないと駄目か。


 どどどど・・


 何か暴れ牛が暴走している足音のような音がする、なんだ?

 魔物の後方からだ。

 あっ!同じ種類の魔物だ。こっちに向かってやって来ている。10匹以上いる。


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。逃げないと殺される!くそっ、一旦引く。逃げるわけではない。戦略的撤退だ。いや、それ逃げているんだからとは誰も突っ込まないから自分で突っ込んでおく。


 そう言えば、従者がやってくるとか言ってたな、田中さんが。何やってるんだ?下僕が!くそっ、御主人様を蔑ろにしやがって。女性がいたら絶対服をひん剥いてやる。僕が許すまで一晩中ご奉仕させるぞ。


 僕はバケモノ共に背を向け来た方向に向かって走った。

 くそっ!従者、何やってるんだ!早く来い!



 ――――――――――――――――――――


 ~ その頃従者は ~


「レイラ、勇者ってなんだ?」

「敵いもしない者に向かって行く自惚れ屋さんのことね。」

「もう来てるんだろ?行かなくて良いのか?」

「どうでもいいわよ。勇者なんだから一人で何とか出来るわよ。私の天下一品の時間を無駄にしないで欲しいわ。聖剣も持っているって言ってたし、田中さんが。」

「そうか、勇者って自惚れ屋さんの割に強いのか。だったら、この後コーヒーも飲んでいこうぜ。」

「そうね。あ、ハリカ、馬車まで送るから、トムとリズと交代して馬車で留守番してて。」

「え〰、ボクがですかぁ?ボク一人ですかぁ?嫌ですよ。」

「わがまま言わない!」

「留守番しろって言ってコーヒー飲んでる人とどっちが我儘なんでしょうね?」

「コーヒー買ってってあげるから。おとなしく馬車で待ってて。」

「ボクは子供ですか。でも次はエイレムか御主人様ですよ。」

「おい、ハリカ。お前は御主人様である俺に馬車の番させようとしているのか。お前はメイドなんだぞ。」

「分かってますけど。酷いですよぉ。」

「じゃぁ、今日のところは大人しく馬車の番してろよ。」


 ラーメンを食べ終わったのでカフェへと移動した。

 レイラはハリカを連れて消え、カフェに着く頃にはトムとリズを連れて戻ってきた。


「トム、リズ。好きなものをレストランで食べてきて。勿論おごりよ(田中さんの)カフェで待ってるから。」

「はい、殿下。今日はカラーゲ定食です。」

「ねぇ、1時間ほど、いや2時間二人でホテルの部屋で休憩してきてもいいわよ。」

「殿下、ほ、本当ですか?有難うございます。良かったなリズ。」

「そ、それはあなたでしょ。馬車の上でも私を触ってきてたし・・」

「まぁ、仲が良いのね。くそっ。」

「殿下も仲が宜しいじゃないですか。」

「じゃあ、アスラン私達もホテルでゆっくりしていく?エイレムと三人で。」

「ん?なにか忘れてないか?」

「何も忘れてないわよ。急ぐ旅じゃないんだから。急いでも損するだけよ。のんびり行きましょう。」

「そうだな。のんびりするか。よし風呂も入るか。」

「お風呂にも行きましょうよ。」

「じゃあ、トムさん。一緒に風呂に行きましょうよ。食べ終わるまでカフェで待ってますから。」

「はい、閣下。なるべく早く食べてきます。」

「トムさん、ゆっくりでいいですよ。急ぐ用事なんかないのですから。」

「それもそうですね、はっはははは。よし、リズ行こう。」

「うん。私もカラーゲ定食よ。」


 ――――――――――――――――――――


 ~ その頃、馬車では ~


「もう、遅いです。何やってるんですか、御主人様と姫様はぁ!トムとリズも遅いし。何かあったんですかね。」


 ハリカの独り言が馬車の周りの半球状の光の中で木霊していた。馬車の周りにはレイラ姫の小さなフェムトが飛び交い結界を形成している。その為、近くにいた全てのバケモノは結界に阻まれ結界の周りをウロウロと彷徨うしかなかった。


 ――――――――――――――――――――


 ~ その頃、森の中では勇者が苦悩していた ~



 くそっ、従者は未だ来ないのかよ。これじゃ夜が明けちゃうよ。お楽しみタイムが無くなるじゃないか。女性はいるんだろうな。勿論巨乳だろうな。

 従者共!早く来い!何してやがるんだ!







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