第38話 異世界転移

 ぼ、僕は死んだのか?

 さっきまで病院のベッドで寝ていたのに・・

 そうか。

 僕の人生は終わったのか。


「それで、君は悔いはないのか?」

「そうですね。ずっと病気だったから、健康に運動して遊びたかったですね。テレビゲームだけじゃなくって、本当に冒険したかった・・でも、もういいんです。」

「そうか。だったら少しその願いを叶えようかな。目が覚めたら君は異世界にいる。君には力を与えるから、そこで思いっきり冒険を楽しみなさい。」

「え?勇者になって魔王と戦えるんですか?」

「そうだ。頑張りなさい。」

「あなたは神様ですか?」

「みたいなものだな。」

「お名前は?神様の名前を教えて下さい。」

「田中だよ。」

「田中さんですか。普通の名前なんですね。」

「そうだな。はははは。さぁ、眠りなさい。」

「はい。」



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 ここは王宮、謁見の間。

 俺は王の前で跪き、暇乞いを乞うている。


「そうか、話はわかった。但し、婚約破棄は許さん。お前のことだ、必ず帰ってくる。まだ若い、数年の放浪を許そう。姫もそれくらい待てるだろう。誰か連れて行くのか?」

「いえ、1人で行きます。話を聞くと簡単に行くとは思えません。足手まといになる可能性を省き、1人で隠密理に行動し妹を奪還してきます。」

「そうか1人で行くのか。しかし、1人だと何かと大変だぞ。いつ出立する?」

「家はエイレムに任せて来ましたのでこの後すぐに旅に出ます。」

「食料はどうするんだ?馬車で行ったほうが良くないのか?すぐに奪還できるものでもあるまい、時間が掛かるぞ。馬車と、御者と、身の回りの世話をする者をつけようかの。」

「そうですね。では宜しくお願いします。」


 俺は言われるがまま、王城の前で馬車を待つ。

 暫く掛かるのか未だに来ない。

 空は晴れ渡り青空で心地よい風が吹く。旅立つには良い日だ。レイラと別れ、エイレムと別れ1人で旅に出るのは寂しいが、ただの旅ではない。大切な人達を巻き込む訳にはいかない。

 ゴトゴトと馬車の来る音が聞こえ始めた。

 さぁ、行くぞ。そして奪還する。


 馬車が止まる。

 ドアが開く。

 既にお付きのものが乗っているようだ。


「さぁ、アスラン行くわよ。」

「は?どうした殿下。なぜ、乗ってる?」

「一緒に行くからに決まっているでしょ。」

「お前との婚約は破棄しただろ。」

「それは陛下も許さなかったでしょ。エイレムもハリカもいるわよ。」

「ボクも居ますよ。」

「ハリカ、お前は大事な用事があるんだろ?ここに来ていいのか?」

「大事な用事?」

「疲れたから家で寝るんだろ?」

「はい?根に持ちますね。小さいなぁ。」

「なんか言ったか。お前がメイドの仕事を放り出して家に帰ったことを叱っているんだろ。」

「ネチネチとですか?」

「御主人様は小さくないですよ。さぁ、ハリカとばかりイチャイチャしてないでワタクシともイチャイチャしてくださいな。」

「エイレムは優しいなぁ。」

「むっかぁー!ボクだって御主人様が優しいなら優しくなりますよ。」

「ハリカ、帰ってもいいんだぞ。大事なんだろ?」

「行きますよ。連れて行ってくださいよ。」

「仕方ないな。料理は作れよ。」

「うっ・・」


相変わらず料理は苦手なようだ。良くメイドが務まるな。


「閣下、お久しぶりです。」


 御者は見たことがあると思ったらダンジョン第十二階層の盗賊役をしていたトムとリズだった。


「久しぶりですね。相変わらず美男子ですね。ハリカを差し上げます。」

「どうして差し上げちゃうんですか!ボクはモノですか!」

「いえ、いえ、遠慮しておきます。」

「ハ、ハリカ、残念なお知らせだ。」

「何ですか?」

「返品されたぞ!」

「ボクはモノじゃないです。返品されてません!」

「御主人様、そろそろ出発いたしませんと。返品された商品は後でオークションにでも出せばいいですわ。」

「おう、それもそうだな、エイレム。返品商品は質屋かオークションが相場だな。」

「ボクはモノじゃありません。何ですか、二人して。」

「閣下、そろそろ出発しませんと。」

「あっ、そうですね。出発しましょう。トムさんは御者兼護衛ですか。」

「はい、そうですね。リズは世話役兼護衛時々御者ということで。」

「え?下の世話係?」

「い、いえ、違いますよ。料理とかの世話ですよ。下の世話は三人もいらっしゃるじゃないですか。彼女は俺の恋人です。」

「し、知ってましたよ。いつまでも白状しないから辛かっただけですよ。( ̄ ̄ ̄ ̄□ ̄ ̄ ̄ ̄)チッ、リズさんよろしくね。二人はレベルも高いから安心ですね。」

「誠心誠意お世話しますよ。護衛も。」


「待て、アスラン!!」


 大声で叫びながらチャクル将軍が走ってやって来ている。


「将軍、見送りに来てくれたんですか?」

「そうだ。見送りに来たぞ。本当は俺が護衛について行きたかったんだが国の防衛も俺がいないと纏まらないからな。本来ならお前のほうが地位が高くなってしまったから敬語で話さないといけないんだが許せ。許すよな。勿論だよな。」

「将軍、そんなに脅さなくてもお世話になってるんだから許しますよ。」

「気をつけていってこい。こっちは任せておけ。お前の家は偶に様子を見に行ってやるから安心しろ。」

「はい。宜しくお願いします。では、行ってきます。」

「あー、行って来い。」


 俺達は馬車に乗り込み王城を後にした。


 馬車の中は向い合せで座る最大六人乗りの馬車だ。御者席にも通常二人だが座ろうと思えば三人は座ることが出来る。馬2頭引きの馬車だ。

 王室の馬車だけありなかなか豪華な装飾の施された木製で襲撃を受けても中に籠城し中から攻撃し、暫くは持ちこたえることが出来るようになっている。


「あー、お腹すいた。ラーメン食べたい。」

「姫、昨日も食べたばかりだろ。」

「仕方ないでしょ、癖になる味なんだから。」


 俺は、後ろの窓、つまり御者席とをつなぐ窓を開け御者をしているトムの横で微笑むリズに話しかける。


「仲がいいですね。」

「もう、からかわないでくださいよ、閣下ぁ。」

「暫く留守にします。昼食食べてきますんで。帰ってきたら俺達と交代でお二人で食べに行っていいですよ。」

「え?どこにですか?」

「ダンジョンの第五階層ですよ。」

「どうやって行くんですか。馬車じゃもうかなり離れましたよ。」

「後で教えますよ。このまま先に進んでもらってて構いませんので。」

「分かりました。」

「では行ってきます。」


 俺達四人は、ダンジョン第五階層へと転移した。

 レイラ姫はまずレストランではなくホテルに向かうようだ。

 仕方なく後を追う。


 ホテルの受付にはいつものようにタナカさんがいた。


「あ!田中さんいた!いつもいるのね。」

「いや、用事で離れてたからいま来たところだよ。」

「そう?でも、良かったぁ、伝えたいことがあったんだ。私達これから少し旅に出るから。でも、昼飯食べにちょくちょくここには来ると思うけど。」

「うん。分かってるよ。アスランさんの妹を取り戻しに行くんだろ?それでね。お願いがあるんだけど。聞いてくれる?聞くだけとか言わないで、もう引き受けちゃったから。」

「何よ?聞くだけは聞くわよ。」

「それがね。ここのような日本の植民地の惑星で病気がちでずっと入院してた少年が死んだんだ。」

「まぁ、それはご愁傷様ね。じゃあね。」

「ちょ、ちょっと行かないで!話を最後まで聞いて。」

「じゃあ、カフェでコーヒー飲みながら話聞くわよ。勿論田中さんのおごりでしょ。」

「わかったよ。」


 何か、レイラが無理やりタナカさんの奢りにしてコーヒーを飲みに行くことになった。ホテルを出るとホテル前の噴水の周りには沢山の人が休憩している。ポイントを貯めて商品をもらおうと連日人々が詰め掛けているようだ。


 カフェの中に入ると、カフェは盛況で半分以上の席が埋まっている。

 俺達は外の席に座りコーヒーを注文した。


「それで田中さん、お願いって。」

「その病気がちの少年の夢は冒険らしい。勇者となって魔王と戦いたいらしいんだ。だから、この異世界に、実質的には異世界ではないけど、能力をもたせて連れてきたんだ。」

「そ、良いことをしたわね、田中さん。それじゃあーね。」

「・・って、まだコーヒーも来てないよ。」

「私はラーメン食べに来たの!答えはノーよ。」

「まだ何も言ってないよ。」

「もう、言ったも同然でしょ。」

「いや君は勘違いをしているぞ。実はその少年を君たちのパーティーに勇者として加えて欲しい。そして、君たちは彼の従者だ。そして、魔王を討ち取ってくれ。」

「ほーら、やっぱり。嫌よ、子守なんて。しかも、姫の私が従者?」

「いや、この世界で魔王と言ったらエイプズキングダムの皇帝だろ。そして、今その討伐に向かっているのは誰?」

「私達。」

「そう、だから君たちが適任なんだ。その少年に魔王を倒してこの世界を救ってもらいたいんから、君たちと目的が一緒じゃないか。一緒に同行するだけだから。」

「本当に?同行するだけ?従者はいやよ。役に立つんでしょうね?」

「勿論。勇者だよ。レベルはどんどん上がるし、魔法も使える。聖剣も与える。だから役に立つよ。」

「どこにいるの?」

「今、バケモノに囲まれていて、助けを待ってる。従者が助けに来ると言ってあるから。」

「従者?従者じゃないと言っておいて。そうしないとそいつを放って置いて通り過ぎるわよ。良い?分かった?従者はいやよ?」

「言っておくよ。それじゃ支払いは俺に付けておくから。よろしくね。楽しい冒険をさせてやってくれ。」

「わかったわよ。」


俺達はカフェで寛いだ後、伝統の味のラーメンを食べにレストランへと向かった。



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