第33話 襲撃アゲインアゲイン

「総統、どうですか?敵の動向は。既にこちらの動きを察知して兵を配置してますか。」

「今、俺のナノマシーンに調べさせた。こちらに向かっている。ここからおよそ10キロの地点を国軍の兵士およそ2,000でこちらへ向かっている。」

「では、ここで迎え撃ちますか?」

「いや、まだ相手がこちらに気づいていない。こちらの軍に気づいて迎え撃つ体制をとった後に逆に奴らを包囲して殲滅する。ヘルペス、お前が別働隊を3,000を組織し敵を包囲し攻撃しろ。ある程度数が減った所を本隊1万で攻める。俺の指示を待て。指示を受けた直後に兵を率いて包囲体勢に移れ。数は圧倒的にこちらが上だ。ここを乗り越えれば王都に軍の兵はもう残ってはいまい。王城に忍び込ませた別働隊も動く。直ぐに王都を占領するぞ。」

「はっ、指示を待つ間に戦術を兵士と確認します。」


俺は、総統閣下の指示を待つ間に部隊長を俺の馬車に集める。数分後には部隊長が俺の馬車へと集まり戦術確認する。常日頃から訓練している内容なので確認だけであり直ぐに終わり一息つく。


その時馬車の扉が開き伝令がやって来た。


「ヘルペス将軍、総統閣下からの伝言です。敵までの距離5キロ。今だ。行動しろとのことです。」

「お、来たか。直ぐに行動を開始する。」


俺は総統閣下の指示に従い行動を開始した。

別働隊を本体よりも速く移動させ会敵まで1キロの地点で道を逸れる。


林の中で敵は見えづらいが数百メートルの地点まで来ると敵を目視できた。


敵はこちらを待ち伏せて囲む作戦のようだ。

その包囲網を包囲する為の行動を開始した。



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― 時は少々遡る ―



「チャクル将軍、出軍の準備が整いました。」

「そうか。殿下は未だ来られてないが、時間がない。先に出るぞ。」

「御意。」


俺達は双頭の猿がこの王都へと向かっているというレイラ王女の具申を受けた王の命令で迎撃の為の軍を差し向ける。

ここでレイラ王女と待ち合わせる予定だったが刻限になっても現れず先に向かうことにした。

まぁ、あのお転婆姫のことだから後から来るだろうし、姫には戦場には赴いてほしくはない。

ただアスランの武力は眼を見張るものがあったから彼には来てほしかったが、仕方がない。後から追いつくだろう。


軍は王都の城壁を出て順調に北へと向かう。

猿は何とかなるだろう。

ただ、あの双頭の猿とは戦える気がしない。

しかし、戦うしかない。

もう生きては帰れないだろうな・・・

妻と息子に会えないのは残念だが、これが仕事だ。

この仕事で高い給料を貰っていい暮らしをさせてもらっているのだから文句はない。

伯爵という地位にも就かせてもらっている。領地もある。俺が死んでも妻と息子はいい暮らしが送れるはずだ。伯爵位は息子が継承するはずだしな。

敵を止められればこの戦で死んでも悔いはないな・・・


前のほうが騒がしくなる。

どうやら斥候が戻ってきたようだ。


「どうだった?」

「はっ、この先、進軍して来てます。現在は、距離はおそよここから5キロ程の所を進軍中だと思われます。」

「よし、ここで迎え撃つ。作戦通り、ここで散開しろ。


俺達は隠れて猿の通過を待つ。

この狭い道を通過する時に一斉に弓で攻撃し数を減らし、残党は剣とギフトの能力で殲滅する予定だ。

ただし、双頭の猿を如何にして屠るかについては結局軍議では結論は出なかった。

ただ、一匹だけになったら、せめて数がかなり減少したら諦めて引き返すのではないかという楽観論が出ただけだった。


「斥候は戻ってきたか?」

「いえ、まだ戻ってきてません。依然として索敵のギフトが使えない現状では待つしかありません。」


そうだ。索敵のギフトを持つ者が全てその能力が使えなくなっている。その原因はこの猿の進軍と何ら関係がないとは思えない。猿に目を潰されていると言える。


「どうなっている。距離は5キロということだったがもう到着しても良い時間ではないのか?」

「そうなのですが、もしや、囚われたのかもしれません。」


その時、道ではなく我らの後方が騒がしくなった。


「敵襲です!後方から敵が攻めてきました。」

「何ぃ!?」

「敵は我々を包囲しています!我々の数より多そうです。」

「くそっ、やはり敵には我々の位置が分かっていたのか。まさか猿にそんな知恵も能力もないと思っていた。」

「将軍、どうしますか?」

「作戦の失敗を嘆いても仕方がない。このまま戦い、持ちこたえるしかない。」


馬車の外へ出ると既にいたる所で猿との戦いが行われ乱戦状態になっていた。

空を飛ぶ猿が物凄い速さで飛んできては兵士の首を切り取っている。


「魔法兵士!飛ぶ猿を攻撃しろ。弓兵はそれ以外を攻撃しろ。」

弓兵のギフトにはその矢に様々な効果を与えるスキルが有る。しかし、空を飛ぶ猿は動きが早く弓でも打てない。

唯一ギフトのスキル『攻撃魔法』が出来る者が戦える。しかし、数が少ない。


剣術のギフトを持つ兵士はその剣に効果を与えるスキルや『見切り』という剣の速度が遅く見えるスキルが有る。しかし相対している猿には手が4本ある猿や、それ以上の腕がある猿がいて苦戦を強いられている。どんなに剣がよく見え遅く感じると言っても限界がある。四方八方から何本もの剣が襲撃すれば対処の仕様がない。所詮人間、腕は二本だ。

次第に猿は数を減らしていくとはいえ、それ以上に人間の被害が大きい。しかも、最初の数も猿のほうが多かった。

ジリ貧だ。この儘ではいずれ俺達は全滅してしまう。

不幸中の幸いは姫がいなかったことだ。

姫には、ここで死んで欲しくない。アスランと幸せになってほしい。

このままでは国は奪われるだろう。しかし、生きていれば奪還する機会は訪れる。いつかかならず訪れる。

だから、猿を少しでも多く殺す。

只では死なない。


俺は猿に向かって『攻撃魔法』のスキルを放つ。弱った所を剣で纏めて数匹殺す。

攻撃魔法は、その発動回数に限界がある。多くの敵を魔法だけで倒すことは出来ない。だから動きを封じ、剣や弓で攻撃して倒すのがセオリーだ。もし、魔法だけで倒せる者がいるとしたら凄いが、いるのだろうか。その為にはレベルを限り無くあげると可能になるのかもしれない。レベルが65の俺でさえ依然として不可能だ。

これだけ数がいれば魔法だけで倒せば必ず魔力が枯渇する。少しでも魔力を温存するために魔法と剣を交互に使う必要がある。


既に、数十匹は倒しただろうか。敵の数はかなり減っている。しかしそれ以上に我軍の兵士の数のほうが減っている。

もう残っている者は精鋭と呼ばれる猛者だけだろう。


「閣下、兵士の数がかなり減っています。ここは撤退を始めるべきだと具申します。」

「よし、撤退を開始しろ。殿は俺が務める。俺に続け。」


俺は腹心の部下だけを連れて殿を務めることにした。


「いけません。将軍がいなくなれば誰が国を守るんですか。」

「今ここで食い止めなければその国がなくなるんだぞ。」

「そうですか、では私もお供いたします。」

「ふん。好きにしろ。」


俺達は退却戦を始めることにした。しかし、既に殆どの兵士が猿と戦っている状況では逃げ出した途端後ろから斬られてしまう。

逃げ出すことも出来ずただ無策に兵士の数を減らすしかない状況に陥っている。


「駄目です、閣下、退却できません。」

「仕方がない、踏ん張れ。援軍が来る・・ハズダ。」

「援軍ですか?それまで踏ん張りましょう。」


「お前ら、もうすぐ援軍が来るぞぉー、それまで踏ん張れぇー。」


中将のアルフォンソが全軍に告げる。


ウォォォォーッ・・


鬨の声があがる。

戦況は少し持ち直し、もう少しの間、兵士たちは耐えられそうだ。


しかし、鼓舞されたとはいえ戦況は芳しくはない。この儘ではいずれ滅びる。

死ぬかもしれないが生き残る可能性にかけて逃げ出すか、死を賭して戦い続けるか。


一人減り、二人減り、次第に少なくなる兵士の数。

双頭の猿の姿を見ることさえ無く死んでしまうのか。

魔力は既に枯渇し体力ももうすぐ尽きてしまいそうだ。


四本腕の猿が四本の剣を持って攻撃してくる。切っても切ってもまだまだ敵兵の数は多く、こちらの兵は既に数えるほどしか残っていない。


「アルフォンソぉー!」


アルフォンソが切られた。歴戦の勇者だが寡兵では衆兵には及ばないのか。

アルフォンソの隣りにいた兵士が飛んできた猿に首を切られその猿を切ろうとしたアルフォンソを別の四本腕の猿が切った。


俺はその猿に向い剣を振るう。

剣は右腕一本を切り落としたものの既に刃が潰れてしまっていてもう一本の右手の骨の途中で止まり骨から剣が抜けない。


「しまったぁ・・」


その瞬間、猿の左腕の剣が俺に向かう。

これは死んだな。死を覚悟し目を閉じた。

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