第31話 襲撃前夜

 レイラ姫は王宮へと消えていった。出撃は夜半すぎでそれまでは自由だ。寝るにはまだ早すぎる。訓練も終わった。夜まで寛ぎ身体を休めよう。


「エイレム、出撃は夜半すぎだ。早めに就寝しなければならない。」

「はい。そうですわね。」

「でも、その前にお風呂だ。行くぞ。」

「そんなに張り切られてもお風呂は別ですわよ。勿論、女湯に来られたらダンジョンから追い出されますわよ。」

「わ、分かっている。そんなことはしない。エイレムが男湯に来ればいい。」

「私の裸体が男どもの好奇の目に曝されますが宜しいでしょうか。更に、ホテルもダンジョンも追い出されると思いますよ。若しくは、男風呂で男どもが私の胸を揉みしだき、突如、掃除夫になりパイプ掃除を始めてしまうかもしれません。勿論お風呂のパイプではなく私のパイプですよ。それでも宜しいですか?その時、たったレベル1の御主人様は男どもに半殺しにされたあげく私の痴態をただ指を咥えて見ているだけかもしれません。」

「わ、分かった。我慢する。見ているだけなのは少し残念だからな。」

「少しですか・・・」


 結局一人でむっさい男どもに囲まれながら男湯に浸かる。

 隣の壁一枚隔てた天国からは天使たちの鈴の音のような声が聞こえてくる。あーこんなむっさい地獄には居たくない。俺も天国に行きたい。天使たちの下へと行きたい。裸の天使たちを拝み倒したい。押し倒したい。そして致したい。


 いかん、これではまた天国へとダイブしてしまうかもしれない。

 いや、天にある国なのだからダイブという表現は大分違っているような気がする。

 しかし、天国の温泉へはダイブするという表現が的確だろう。

 余計なことを考えていないと本当に天国の温泉へとダイブしてしまいそうだ。

 仕方がない。

 ここは諦めよう。

 諦めてベッドの上のエイレムの巨大な胸へとダイブしよう。

 もし明日の戦いで首チョンパでもされたらダイブしなかったことを後悔してしまう。飛ばされた首が自分の体を見ながら『やっときゃよかった』と叫ぶだろう。まさか、これって明日首を切られるっていうフラグじゃないだろうな?


 結局、天国へと行くこともなく最後まで地獄温泉に鬼(男)共に囲まれている。

 長湯することもなかったが出る頃には余計疲れていた。

 部屋へ戻るとエイレムとハリカは未だ帰ってきてない。女性は長風呂だ。ベッドの上で横になる。しかし、ここで眠れば先日の二の舞だ。

 今日は絶対にあいつらが寝るまで外に出て、寝た頃に戻ってこよう。

 よし、コーヒーだ。カフェでコーヒーを飲んで女襲に備えよう。


 ホテルを出てカフェへ行くと未だ夕方だということもありカフェは開いていた。コーヒーを飲んでいるとタナカさんがやってきた。


「こんにちは、アスランさん。レイラさんは一緒じゃないんですか?」

「今、明日の襲撃に備えて王宮に応援を頼みに行ってますよ。」

「そうなんだ。では、後でレイラさんに伝えて下さい。実は、このダンジョンにツインヘッドエイプ軍団のスパイが入り込んでいるそうです。くれぐれも気をつけて下さい。それに王宮にもスパイが入り込んでいるという話です。早急に対処しないと大変なことになるかもしれません。」

「そうなんですね、分かりました。それは置いておいて、月の温泉は混浴との話ですが、本当なんですか?」

「勿論です。雰囲気が良くて混浴だから、もう、むふふふな状態になっちゃいますよ!」

「そ、そうですか?ムフフな状態ですか。一度味わってみたいですね。そのムフフな状態。ジュルッ。」

「よ、ヨダレ出てますよ。」

「大丈夫です。今度必ず行きますよ。むふふふっ」

「はい。お待ちしてますよぉ。必ず皆さんでおいで下さいよぉ。」

「はい。必ず。ところで、月の温泉近いんですか?どこにあるんです?」

「月ですよ。あれ。」


 タナカさんは月を指差しているが、そんなところに行けるわけがない。


「からかわないでくださいよぉ。近くでしょ?遠かったらバケモノ多くていけませんよ。」

「いえ、本当ですよ。まぁ、そのうち分かりますよ。」

「タナカさんも『そのうち』ですか?でも、楽しみにしてますよ。」

「それじゃ、よろしくお願いしますよ。忘れないでくださいよ。」

「勿論忘れませんよ。」


 タナカさんは忘れないでと言っていたが、そんなムフフな温泉忘れるわけがない。

 ん?でも何か忘れている気がする。

 あっ、忘れていた!

 エイレム達が帰ってくるのを待ってたんだった。

 もう帰ってきてるだろう。

 部屋へ帰ることにしよう。


 部屋は灯りがついていない。

 このホテルの部屋は魔法で灯りが点くようになっている。

 便利なホテルだ。

 その灯りが点いていない。

 またカフェに行くのも面倒臭い。

 部屋で待つことにしよう。

 ドアを開けて部屋へ入る。

 灯りの魔法を発動するボタンを探す。


 ドスン!!


 何だ?後ろから押されて倒され、抱きつかれた。


 灯りが点いた。


 抱きついていたのはレイラ姫だった。三人とも既に部屋に戻っていた。


「姫、帰ってたのか。」

「さっき帰ったばっかりよ。」

「あっ!思い出した!!すっかり忘れてた。レイラにタナカさんから言伝てがあったんだ!すごく重要らしいぞ。」

「何よ?」

「月の温泉に絶対来てくれって!絶対って言ってたぞ!そのうち行くぞ!」

「え〰、だいじなことって、温泉?分かったわよ。田中さん何考えてるのやら。猿の襲撃退けたら皆で行きましょう。」

「ワタクシも行けるのですか?」

「ボクも行くぅ!」

「ハリカ、勝手に行け!」

「どうして御主人様はボクにだけ冷たいんですか?」

「アスランは子供だから好きな娘には冷たくするのよ。」

「そういうものですか。なるほど。御主人様はボクのことが好きだったんですね。」

「(貧乳は嫌いだ。)ボソッ。」

「何か言いました?」

「別に。愛してるって言ったんだよ。」

「えっ?(〃⌒∇⌒)ゞえへへっ♪」

「じゃあ、猿の進撃を退けて月の温泉旅行だ。レイラ?月の温泉ってどこにあるんだ?近くだろ?遠かったらいけないぞ。」

「月の温泉は月にあるに決まっているじゃない。景色が最高らしいわ。」

「そ、そうか、お前もか。楽しみだな。」


 既に俺達の頭の中は月の温先旅行でいっぱいだった。

 なにか忘れている気がするが気のせいだろう・・・


 何ら色っぽいことは起こらず、俺達はすぐに寝て真夜中の出撃に備えた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「起きて・・アスラン・・時間よ。」

「ん?・・もう朝?」

「何寝ぼけてるの。出撃の時間よ、起きなさい。皆起きてるわよ。」

「よし、じゃあ、行くぞ。お前ら準備はいいか?」

「一番最後に起きたやつがなにか言ってるよ。」

「ハリカ、何か言ったか?」

「いいえ、なにも。思ったことしか言ってません。」

「思ったことなら何でも言って良いわけじゃないぞ。それじゃあ、出発だ。」

「あれ?あれあれあれ?」

「どうした、姫?」

「転移できない。取り敢えず歩いていくしかないか。」


 ホテルをの部屋を出て情報を得るためにレセプションまで行くと田中さんが居た。田中さんは相変わらず呑気そうな顔をしている。笑顔の日本人顔だ。


「田中さん、テレポートできないんだけど。どうして?」

「多分猿の仲間がホテルを囲んでいるんだが、そいつらの所為だろ。まぁ、猿の仲間倒したらまた出来るようになるぞ。」

「猿の仲間が囲んでることをさらっと言うな!そこ大事なとこでしょ。」

「まぁ、君なら簡単な作業だよ。」

「もう、双頭の猿の軍団が到着したってこと?」

「いや、別働隊だろうね。アスランから聞いてるだろ。」

「あー聞きましたよ、全く、好きですね。」

「温泉の件聞いたのか。これが終わったら遊びに来いよ。」

?」

「大変です。服着た猿が侵入しようとしています。十匹です。」

「あーもう、ちょっと倒してくるわ。」


 猿の集団は押し入ろうとドアのガラスを剣で攻撃していた。

 玄関のドアは厳重に閉じられ猿の侵入を防いでいた。どうやら唯のガラスではないようだ。


「田中さん、このガラス強いの?」

「結構強いよ、透明チタンをウルツァイト窒化ホウ素の膜で囲んでいるだけだけど。ダイヤモンドでも傷はつけられないよ。だけど、破壊不能オブジェクトという訳ではないから壊される可能性はあるな。」

「ダイヤモンドより硬いの?へぇー凄い。ダイヤモンドより硬いチタンだったら猿の攻撃も耐えられそうね。」

「そうだね。こっちは大丈夫だから猿やっつけてきて。」

「田中さんは戦えないんだよね。」

「そう不干渉法違反になるよ。」

「もしもの時は正当防衛は適用されないの?」

「ない。なるように任せなくちゃいけないんだ。ここは純粋な植民地とは違って実験場みたいなものだからな。」

「仕方がないわね。じゃあ、行ってくる。やつけたらそのまま将軍と合流して王都の外で双頭の猿の軍団をやっつけてくるから。終わったら、月の温泉行くから招待してね。」

「期待して待ってるよ。」


 私達は猿を倒しにホテルの外に出る。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る