第30話 ダンジョン ―第十二階層:レッサードラゴンー

 山岳地帯の岩肌を岩につかまり崖をよじ登っていく。

 少し開けた場所に出た。

 周りに木や草はなく全て岩や石で構成されている。

 ここから暫くは崖をよじ登る必要はなく岩だらけではあるが普通に歩いていけるようだ。

 やっと一息つける。

 水を飲みながら進む。

 四半時は進んだだろうか、鳥が上空を飛んでいる。

 まさか、小さく見えるが実は大きい猛禽類で襲ってくるんじゃないだろうな。


「御主人様、どうしてボクを睨むんですか?」

「嫌、鳥が襲ってきたら背が低いハリカが襲われにくいなと思ったらムカついたんだ。」

「それ、理不尽!」

「御主人様、鳥が近づいてきてますわよ・・・・ん、どんどん大きくなってきてます。」

「それは近づいているからそう見えるだけだろ。」

「そうですわね。だけど・・かなり大きいですわ。どんどん大きくなってきますわよ。」

「そんな訳無いだろ。唯の猛禽類だろ・・・ってホントだ。でかい。なんだあれは?」

 かなり近づいてきた。見ると爬虫類?竜?羽付き竜?文字が見えた!ワイバーンLv.45。かなり強い。盗賊の親玉より少し強いくらいだが、空からの攻撃だから剣が届かない。唯一届くエイレムの魔法は効かない。

 この剣のように何でも貫く弓が欲しいな。


「エイレム、何でも良いから攻撃してみろ。」

「ハイ。『サンダーボルト!』」


稲妻がワイバーンLv.45に向かって走る。

一瞬にして稲妻はワイバーンLv.45を直撃する。


「だ、駄目ですわ。まるで効果がありません。逆に、肩こり解消で赤いバーが伸びるかもしれません。」

「仕方がない。来るまで待つか。放っておくぞ。」

「・・って襲ってきてますよ。剣を鞘に戻さないで、御主人様。」

「来た時に抜刀するから大丈夫だ。」

「御主人様、ワタクシも恐いです。」

「だったら、ハリカを盾にしておけ。」

「どうして僕がエイレムの盾なんですか!」

「だって、大事な胸は守らなきゃいけないだろ。」

「あーそうですよね。おっぱい大事ですよねっ・・・ってボクにもおっぱいありますよ!!」

「ハリカにおっぱいはないだろ。」

「( ̄ ̄ ̄ ̄□ ̄ ̄ ̄ ̄)チッ」


 ワイバーンLv.45が急降下してきた。

 まるでハヤブサのように翼を折り畳み空気抵抗を減らし速度を増して襲撃してくる。

 いつものように世界の色が失せていく。

 時が遅く進み始める。

 しかし、ワイバーンLv.45はその色を少し淡くしただけで色褪せることはなかった。

 モノクロの世界で色を持った剣が色を少し残したワイバーンを攻撃する。

 剣がワイバーンLv.45に届く寸前ワイバーンが向きを変えターンして空へと戻っていった。

 くそっ、こんな事は初めてだ。

 早すぎる。

 唯一勝機があるとすれば色の濃さだ。剣の方が色が濃かった。


 ワイバーンは上空でホバリングするとまたすぐに急降下を始めた。


「来るぞぉ!」



 ――――――――――――――――――――


 そろそろ虫がいる第十階層は終わったかな。

 そろそろ行こうかな。

 でも、もし終わってなかったらと思うとなかなか腰が重い。

 やはりカフェでコーヒー飲んでいるのが良いかな。後ニ階層くらい三人で平気だろう。

 午後のカフェは心地よい。というか空調が効いてるからだけど・・。

 既にコーヒーを五杯もお代わりしている。目の前にはダンジョンとは思えないほど笑顔で話し込んでいるカップルが居る。

 何しにダンジョンに来たんだか?

 あ!それは私もか。コーヒー飲んでるだけだし。

 そろそろ行こうかな。行きたくないな。このままお昼寝したい。でも仕事だからな。

 鈴木さんには見られないようにしないと。田中さんは・・まぁ、いいか。


 あー幻覚が見える。

 田中さんと鈴木さんが前から歩いてくる・・・・・・って、本物かい!


「あれ、どうしたの?お二人で。」

「レイラさんを探しにダンジョンに入っていたんだよ。フェムトで連絡着かないし。」

「そうそう、あれ可怪しいよね。ところで、私達なんて第九階層の砂漠で転移スポットか、転移罠でどこかの海まで飛ばされたんだけど、何あの罠?」

「え?そんな罠なんか無いよ。」

「それって、何かの策略?連絡取れなくなることのないフェムトで連絡取れなくなるし。あるはずのない罠で飛ばされるし。なにかが起こってるんじゃないの?」

「あー!そうだった。もしかしたらその為にそんな風になってるのかも。」

「何?要領を得ないな。」

「猿だよ。あのツインヘッドエイプが軍団率いてこのギュリュセル王都まで進軍しているんだ!だから早く知らせようと思ったら連絡着かないし。」

「鈴木さん、もしかしたらその猿が連絡取れないようにしているのね。」

「そう考えている。可能性は高い。あの猿なら可能かもしれない。」

「え?猿がフェムトに干渉することが出来るの?無理でしょ?」

「いや、あの猿は俺達の実験動物だったんだ。あの猿を使ってギフトの実験をしていたらしいんだ。もう数百年も前のことだ。ギフトというのは能力の制限されたナノマシンを使って力を与えるんだけど、その実験で使われた猿なんだ。」

「ギフトなの?だったらフェムトの劣化版でしょ?」

「そうなんだけど、ギフト用のナノマシンを能力の制限無しで与えてしまったらしい。その後数百年で、体全体がナノマシンで構成しているロボットと化しているんだ。身体をまるで吸血鬼のように霧状に変えて移動することも出来るんみたいなんだ。」

「そうだったのね。矢で攻撃しても矢が通り抜けたって聞いたわ。でもナノマシンって旧型でしょ?フェムトマシンにはかなわないんじゃないの?」

「そうだ。しかし、フェムトマシンはナノより小さい単位のフェムトと言う名が使われてるけど。実際それ程の違いはないんだ。実はフェムトメートルほど小さいマシンは作れないんだ。」

「そうなの?」

「一番小さい原子が0.1ナノメートルで、100ピコメートルなんだ。フェムトで言うと100,000フェムトメートル、だからフェムトマシンなんてものは作れないんだ。単純にナノマシンの高性能版ということでフェムトマシンと呼んでいるだけなんだ。因みに、水素原子の原子核の大きさが1.75フェムトメートルかな。」

「でも、ナノマシンの高性能版だということは私達はツインヘッドエイプには勝てるよね。」

「勝てると思うよ。ただ普通の武器では打撃を与えられないよ。まるでロ○アの能力者だね。」

「じゃあ、最下層のドラゴンは次回ということでツインヘッドエイプを退治してくるわ。いつ頃来るの?」

「明日到着予定だね。早朝には近くまで来るから、もしかすると未明に到着して夜襲をかけてくるかもね。先日のレプタリアンのようにね。」

「じゃあ、今日はこのホテルで英気を養って寝ないで動向を探るべきね。じゃあ、私は旦那たちを迎えに行ってくるわ。」

「詳しい情報が分かったら教えるよ。今日はずっとここの事務所にいるから。」

「田中さんたちは手伝ってもらえるんでしょ?」

「俺達はこの星に直接関わってはいけないんだ。法律で。」

「法律?違憲審査して!まだ日本は付随的違憲立法審査権なの?私も具体的被害を受けたらそれに対して提訴できるの?ここ日本の植民地でしょ?だったら私も日本人として提訴して法律審で違憲審査してもらえるでしょ?」

「今はConstitution of the world(世界憲法)と言う憲法があり各国はその憲法に反する法は作れなくなってる。これは、AIによって管理されている。つまり、存在する法は合憲だと推定されるのではなく実際に合憲だということになる。これが前提にあるから違憲主張はできず、憲法自体が間違っているとして改憲を要求するしかないんだ。だから、違憲審査は無くて、法が可怪しいと思うなら改憲を主張して提訴するしか無いから非常に難しくなってるんだ。」

「私もその世界法定に提訴できるの?」

「この星の人は無理かな。一応、地球のことは秘密で、この星の人は地球のことは知らないことになってるから。」

「それ絶対、不平等でしょ。憲法14条はないの?」

「日本にはあるけど、この植民地の人は国民とは認められていないから。」

「マジ不公平。私がこの星を征服して地球からの独立運動を起こすわ。」

「ちょっとぉ、レイラさん、止めて。俺帯の給料がなくなるよぉ!」

「今は、従うわよ。」

「『今は』ですか。仕方ないね。俺達が転勤した後にしてくれよ。」

「じゃあ、その時は転勤パーティーと独立運動開始パーティーを兼ねないと。」

「でも、その時迄にこの星を征服できているかどうかわからないよ。問題が多い星だから。」

「そうなの?でも頑張るわ。じゃあ、あいつら迎えに行ってくる。」


 しかし、どこにいるのか分からない。取り敢えず第十一階層に来てみた。

 どこにいるか分かる?

『不明です。レーダーが機能しません。フェムトを飛ばしても飛ばしたフェムトと連絡が取れなくなります。完全に異常事態です。何らかの事態が起こっているものと思われます。』

 だったら、ここで待ってるから、調査後ここに集合して。

『承知いたしました。』


 待つこと十数分。

 捜索に出ているフェムトらが戻ってきた。

 フェムトは無数の集団であり全方位に飛ばすことが出来る。

 ニューロンのように全体として一つの脳としても機能している。コアが無数にあるようなものだ。

 しかし、連絡が取れない現在のような状況では私と離れた各フェムトはそれぞれに思考するしか無く思考能力は弱くなる。


 どうだった?

『ここにはいません。次の階層へ行きましょう。』

 了解。


 第十二階層への階段まで転移し、階段を降り第12階層へ。

 フェムト達は各方向へ散っていく。

 すぐにフェムトが戻ってきた。

『いました。ワイバーンLv.45と戦っています。』

 レーダーに表示して。

『レーダーに地形が表示できません。レーダーの機能不全です。方角だけ表示します。』


 直ぐにワイバーンと戦っているアスランたちを見つけた。

 空を飛んでいて剣も届かない、エイレムの魔法も効かない相手に苦戦しているようだ。


「ちょっと、アスラン、何手こずってるの?」

「お、レイラ、良いところに来た。手伝ってくれ。」

「今それどころじゃないの。死ね。」


 ワイバーンは細切れになって落ちていった。

『0:45:0:0』

 私だけポイントを獲得。横取りしたみたいだが今はそれどころじゃない。


「さすが姫だな。もう無敵だな。ポイント大分貯まったんじゃないのか?」

「今はそれどころじゃないの?あなたの宿敵、双頭の猿がこのギュリュセル王国の王都に押し寄せてきてるのよ、軍団で。だから、もう今日はこれでお終い。ホテルに帰って作戦立てるわよ。」

「王宮には帰らないのか?」

「ここのほうが居心地が良いの!空調完備してるし食事は美味しいし。ほら行くよ。集まって。」


 私達は第五階層のホテル前へ転移した。


「アスラン、食事未だでしょ。何食べたい?」

「お前もだろ?まさか、まさか食べたのか?」

「悪い?」

「自分だけ?ずるいぞ。俺も腹減ってるのに。」

「何でも食べて良いわよ。奢るわよ(田中さんが)。エイレムは何が良い?ハリカは・・・何でも良いわね、食べられれば。」

「なぜボクだけそんな扱い?損な扱いだよ!」

「ハリカは皆に愛されてるのよ。(腹黒い割には・・)」

「何かぼそっと言いませんでしたか?」

「何も言ってないわよ。あなた王女に不満があるの?」

「え〰、おんなじ愛人仲間じゃないですかぁ?」

「私は愛人ではない!クラン仲間と言うなら分かるけどなぜ愛人をピックアップ?」

「そっちのほうが絆が深いと思いますよ。」

「はいはい。姫様もハリカもその辺りで止めましょう。ワタクシお腹が空きましたわ。今日はラーメンに致しましょう。」

「お~ラーメンかぁ。ちょっと聞いてくるわ。」

「どこへ?・・・」



 ホテルの受付にいるって言ってたから居るはずだ。

 居た!


「田中さん、天下一品ラーメンはないの?」

「えっ、好きなんですか?15世紀以上も続く伝統の味、天下一品ラーメン!今や老舗の味ですよ。」

「で、あるの?」

「ここにはレトルトがあります。全く作りたてと変わらないですよ。それが今のレトルトの技術です。現在の35世紀の技術はド○えもんも裸足で逃げ出しますよ。オット、もともと裸足でしたね。」

「隣の食堂で食べてくるわ。」

「あ、レストランですよ。食堂って言ったら怒られますよ。」


 隣へ行ってみんなでラーメンを食べる。

 記憶にある懐かしい味だ。

 こってりしている。

 ニンニクは欠かせない。

 替え玉制度を作ってほしかった。

 チャーシュを食べる。

 メンマを食べる。

 レンゲでスープを飲み干す。

 もう一杯食べたくなる。

 ごちそうさま。


 皆でカフェに移動してコーヒーを飲みながら作戦会議をする。


「双頭の猿は明朝未明辺りに王都へ来るらしいわ。王都へ被害を及ぼしたくないから王都の外で殲滅するわよ。だから一度仮眠して真夜中過ぎにここを出発、遭遇即戦闘開始するから。」

「どこで遭遇するか分かるのか?」

「私がフェムトを探索に出すから、遭遇場所は予測できるわ。」

「ふぇむとぉ?」

「あーその内分かるわよ。」

「敵の数は分かりますか?」

「教えてもらってない。(あ!田中さんたちの素性は内緒だったな。)いえ、不明。探索後にわかると思う。できるだけ、こちら側の人数揃える必要があるから、一度王宮まで行って事情を話してエクレム・チャクル将軍に部隊を率いてもらうから。元婚約者候補のボラ・ゼンギンにも加わってもらう。残りは城壁から攻撃してもらうようにするわ。」

「俺達はどうする?」

「明日のためにゆっくり休んでて。私もなるはやで帰ってくるから。」

「じゃあ、俺はエイレムと風呂にでも入るかな。」

「え〰、ボ、ボクはぁ?」

「ハリカはコーヒーでも飲んでろ。」

「二人で変なことするんじゃないんですよね?」

「子作りは変なことか?」

「十分変なことです!」

「じゃあ、ハリカとは結婚できないし子供が作れないな。だって子作りは変なことでやってはいけないことなんだろ?」

「え〰、卑怯ですよ。」

「アスラン、ハリカをからかうのもいい加減にしなさい。」

「え?からかってないよ。」

「それはそれで何かむかつきます。」

「じゃあ、私王宮へ行ってくるから、良い子でお留守番しててね。」


 そして、私は王宮へと転移した。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る