第23話 ダンジョン8 ー第九階層:砂漠ー
リリリリリィーン、リリリリリィーン、リリリリリィーン・・
「はい、山本ですけど・・」
『レイラさん?なんか、混乱してますか?』
「あ!なんか電話鳴ってたからつい昔の癖で、昔の名前を・・って何?」
『モーニングコールです。朝ですよ。時間ですよ、置きて下さい。朝食用意してるよ。モーニングセットですよ。コーヒー、サラダ目玉焼きにトースト、コメダ仕様だよ。』
「ほんと?あそこのコーヒー美味しいよね。纏めて沢山抽出してるからか美味しいのかも。料金は経費で落ちるの?」
『大丈夫ですよ。』
朝と言っても地下だから変わらないかと思ったら外の明かりは調整されているようで朝の雰囲気を醸し出している。まるで外にいるみたいだ。
「皆、起きて、時間よ。着替えなさい。次の階層に行くわよ。」
「まだいいだろ。時間決まってないんだから。」
「できる限り深く潜るから時間が惜しいのっ!早くしなさい。エイレム、おっぱいプルプルしないの!」
「申し訳ございません。しかし、殿下もプルプルしてますよ。」
「私は良いの、妻だから。」
「だったらワタクシは第二夫人だから許されるかと思いますわ。」
「くそっ!」
「ハリカ、こんな所でクソしないの!」
「駄目よ、ハリカ。臭ってきますわ。」
朝食を食べてホテルを出る前にレセプション寄ると田中さんが居た。
「田中さん、朝から受付?」
「今朝モーニングコールしたじゃないですか。」
「あ、あれ田中さんだった?寝ぼけてたから考えてもいなかった。ところで、攻略済みの第八層の海を渡った所まで直接行けないの?」
「テレポートで行けるはずですよ。」
「全員で?」
「はい。フェムトがなくてもレイサさんと一緒なら可能ですよ。」
「そうなんだ。じゃ今日の夜も攻略できない時はここまで戻ってくるから。」
「はい。待ってるよ。あ、レイラさん、今晩の受付は鈴木さんだよ。」
「ほんと?だったら、覗いてたこと文句言わないと。」
「程々にね。」
私達は、第八階層、海の向こう側まで転移した。
そこから第九層への階段を降りる。
第九層は砂漠だった。
砂の丘で先が見えない。
岩がない、サハラタイプの砂漠。
太陽光が容赦なく降り注ぎ、湿気を奪い乾燥した空気が周囲を覆い尽くす。
オアシスも見えず、ただ辺り一面の砂、砂、砂。
ラクダがなければ徒歩で進むしかない。
しかし、ラクダなどいる訳もなく結局徒歩で進むしかない。
猛烈な熱気と乾燥した空気は容赦なく体力を奪い尽くそうとし、更にでてくるバケモノが追い打ちをかける。
砂の丘を越えた所で巨大なサソリが出てきた。
サソリは犬のような速さでその巨体を近づけてくる。
レッサースコーピオンLv.22。
流石にレベルが14と12のエイレムとハリカには困難かもしれない。しかし、覚醒していないとはいえアスランが居る。障害が大きい方がフェムトの覚醒を促す上でも良いだろう。ここは任せるべきだ。
思考中、時間がほぼ止まる。止まった時間の中で私はゆっくり考える。周囲は全ての色を失う。そして、思考を中断すると時の進行が再開し色が戻る。
動き出したサソリはその爪を広げハリカとアスランに襲いかかる。
麻痺させるためにエイレムの電撃が飛びサソリを直撃する。
サソリに電撃が当たるがサソリは一切の攻撃を受けなかったかのように前進を止めない。
どうやら、サソリの外皮は絶縁体のようで電気を通さないようだ。
サソリの爪がハリカに襲いかかる。
ハリカは剣で爪を攻撃する。
キンッ!
まるで金属を叩いたかのように甲高い音が響き渡るが爪はその動きを止めずハリカを挟む。
「ぎゃぁぁぁぁぁ・・・」
ハリカの悲鳴が響き渡る。まぁ死ぬことはないので放っておいてよいのだが・・・訓練だし、ARだし・・・
「大丈夫か、ハリカァ!今助けるぞ。」
どうやら、アスランはいつもケンカばかりしてはいるがハリカのことが可愛くて仕方ないようだ、胸はないが・・・
アスランが剣をサソリの巨大な爪に振り下ろす。
アスランの剣は『聖剣モールキュラ―』分子結合を引き裂く剣。まるでバターのように硬い外皮の巨大なハサミを分断する。
もう一つのハサミがアスランに襲いかかる。
アスランには時間が遅く進んでいるように感じているのだろう。
ハサミの速度の何倍も早く動きもう一つのハサミも分断した。
GuGyagagagyaa
サソリの悲鳴が上がる。
サソリはその口を使いアスランに襲いかかる。
アスランはサソリの頭に聖剣を突き立てた。
実際は聖剣ではないので聖剣(笑)としたいところだ。
サソリは断末魔の悲鳴を上げること無く崩れ落ちる。
赤いバーは消え数字が表示された。
『1:0:20:1』
エイレムとハリカの攻撃は効かなかったが1ポイントづつは獲得しようだ。
二人にはこれ以上はレベル的に苦しいかもしれない。
「エイレム、ハリカ、敵に攻撃が通じなくなったみたいね。」
「はい、そうですわ。レベル差がありすぎるので全く攻撃が通じませんわ。」
「姫、ボクもう駄目です。もう攻撃が通じる気がしません。帰ってもいいですか?」
「どうぞ、どうぞ。」
「え?冷たいなぁ、引き止めてくださいよ。」
「ハリカ、お前引き止めてもらえると思ってるのか?」
「はい。当然です。」
「そんな訳はないだろ。」
「・・・残りますぅ。残りますよぉ。」
「いや無理することはないぞ。」
「仲が良いのは分かったからもう止めなさい。次行くわよ。」
私達は砂漠を先へ進んだ。
ラクダはないのだろうか?
『田中さん、第九層、ラクダいないの?』
『・・・・・』
ん、通信不能?フェムトでの通信ができない。
どうなってるの?
『どうやら、何らかの障害が起きている模様です。』
つまり、ここが通信不能の場所ではないのに、通信できないということ?
『そうですね。少し調査のためにフェムトを飛ばしてみます。』
お願いね。
フェムトの意思疎通機能が調査を開始するを告げる。
『シリ』とか『ヘイ、グーグル』とか『アレクサ』とかの発展型だな。
ただ、私がいた時代より15世紀も経過しているから思考能力はもはや人間以上だ。
「キャーーーーッ。」
ハリカの悲鳴が響き渡る。
「どうしたの?」
「で、殿下。前、前見て下さい!」
前を見ると真っ黒い艶光したサソリが50匹ほどまるでGの様な速度で迫ってきている。
まるでGが全速力でしかも集団で迫ってきたような恐怖がある
「て、撤退しましょう、撤退!」
「わ、ワタクシも賛成です。一匹でも無理なのですから、撤退しましょう。」
今度はブラックスコルピオン。Lv.20~30までが50匹はいる。
仕方がない。
ここは、わた・・・・い、いえ、無理。
「アスラン、倒しなさい。絶滅させなさい! Exterminate 'em! こっちに越させないでぇ!」
「分かった任せろ・・・・って無理、絶対無理!!姫は?」
「私はGが苦手なのよ、いえ、あなたなら出来る。あなたしか出来ない。あなたになら任せられる。さぁ、お逝きなさい。」
「字が、字が間違ってるぞぉ! 俺は未だ死なないぞぉ!しかも、あれはGじゃないぞ!」
アスランがGに向かって、い、いや、黒いサソリに向かって走る。
サソリに向かって剣を振るう。
サソリが切断されていく。
あっ!
囲まれた。
死んだかな?
目の前にはブラックスコルピオンの集団の中へと消えていくアスランの姿が、あっ見えなくなった!
―――――――――――――――――――――――――
「おつかれ、田中。」
「あっ、先輩。早かったですね。」
「第十五階層の休憩所まで未だ誰も来ないだろ。来る気配もない。二日で攻略できると王女には言ったが悪いことをしたな。到底数日で終わるダンジョンではないな。」
「そうなんですよ。ちょっとやりすぎちゃいました。てへっ。」
「田中ぁ。可愛く言っても許されないぞ。まぁ、単に日数がかかるだけで、バラミール領を奪われたミスに比べればミスとも言えないもんだけどな。」
「そうですよ。先輩。ホテルも用意してるんだからアトラクションの多い遊園地と一緒ですよ。」
「お前は、反省しないやつだな。まぁ、良い。ところで未だレイラ王女はいるだろ。用事があるんだ。」
「もう出ましたよ。」
「そうか、だったらフェムトで連絡を取るか。・・・通じない。不通だぞ。どういうことだ。」
「ダンジョン内でも普通に使えるはずなんですけどね。可怪しいですね。用事ってなんだったんです。」
「あー、ツインヘッドエイプが動き出した。軍隊を率いてギュリュセル王国の王都に向かっている。王女でなければ多分止められない。未覚醒のアスランは頼りにはならんだろう。早く伝えないと国がなくなる。ダンジョンで訓練している場合ではないぞ。」
「あー大変ですねぇ。まぁ、その内、連絡取れるんじゃないんですかぁ?」
「田中ぁ、お気楽だな。少しは危機感持てよ。ここの人類が全滅すればお前の給料も全滅だぞ。」
「そ、それは大変な事態ですね。」
「俺達もダンジョン降りるぞ、レイラ王女を探しに行く。田中、付いてこい。」
「え〰〰〰〰っ、マジ?僕は辞退したいですけど・・僕剣持ってきてないですよ。」
「フェムト使いに剣など不要だろ。早く来い。」
「もう、人使いが荒いなぁ、デスノートに名前書いちゃいますよぉ〰。」
〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰
時は前日に遡る
旧バラミール領ではツインヘッドエイプの軍団が進軍を開始していた。
しかし、部隊は大群でありその進行速度は遅々として進んではないなかった。
その隊列の中央付近では馬車に乗ったツインヘッドエイプが幹部を従え軍議を催していた。
「ジャミングは作戦通りだろうな。」
「はい。フェムトでさえ連絡が取れないようできました。流石にフェムトだけが行えるテレポートに制限をかけることは出来ませんでしたが。それと、テレポートトラップを仕掛けました。フェムトにのみ反応するように設定してあります。これで王女はリベリル海へ飛ばされるはずです。」
「そうか、良くやった。これでレプタリアンの首領が忠告していたフェムトを持つ王女をダンジョンに隔離しておけるな。情報が入っても対応が遅れるだろう。」
「はっ、有難き幸せ。」
「そこで、次の作戦だ。お前は部下を連れて王族を人質に取れ。そしてお前は部下を連れてダンジョンへ入れ。王女のフィアンセを人質に取って王女をダンジョンに足止めしろ。足止めできない時はフィアンセを殺せ。少しは動揺するだろう。既にダンジョンには間諜を放ってある。そいつと合流してフィアンセを探せ。首を切り落とすと効果的だと思うぞ。すぐに動け。」
部下は少数の部隊を連れて王宮へ。
もう一方の部下は少数の部隊を連れダンジョンへと向かった。
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