第20話 ダンジョン5 ー 第六階層 ー

 俺達は居心地の良い第五階層を後にして第六階層へと進んだ。

 まだまだ敵は俺達と同じくらいか弱いくらいだから、皆で戦えばまだまだ下の階層まで行けそうだ。

 いいや、俺達なら第二十階層くらいまで若しくは、第三十階層まで行けるかもしれない。いや、行けるに決まっている。

 しかし、今日は木刀を持ってきたから、それがほんの少し気がかりだ。いや、木刀でも俺なら最下層まで行ける・・はずだ。


 第六階層は岩だらけの世界だ。

 通りがかりの誰かが二足歩行の牛だと言っていた。う〰〰〰ん、イメージが湧かない。


 パンッ!


 突如破裂音がした。

 ん?何だ?い・・痛い・・

 破裂音の出どころは俺の胸だった。突如胸の上で何かが爆発した。

 俺は膝を付いていた。


「御主人様大丈夫ですか。」

「エイレムは優しいな。」

「そこっ、イチャイチャしない。敵が見えない、まずは探すわよ。イチャイチャは帰ってから。」

「姫様、ホテルに帰ってから御主人様とのイチャイチャを許していただけるのですか。」

「違ぁーう!余計なことは後にしろって言ってるの。早く見つけなさい。ハリカ、何食べてるの。」

「あ、バレちゃいました。テヘッ。あっ、あの岩の上に牛が。」


 ハリカが指差した方角を見るが既に牛は見えない。

 牛が隠れたのか、バツの悪さに見つけたと話をはぐらかしたのかのどちらかだろう。

 多分後者だな。


「御主人様、本当に見たんです。」

「あー、俺は信じるよ。」

「え〰、目が泳いでますよ。」

「それ、クロールだった?」

「ホントなんですって、御主人様は胸大丈夫なんですか?」

「あ、ホントだなんともないや、さすがは俺だ。俺が敵の攻撃を受けるわけがない。決まっている。」

「流石です。御主人様です。」

「ハリカ、褒めても何もでないぞ。」

「え〰ポイント増やしてくださいよ。」

「それは無理。」

「でもそれって御主人様の胸先三寸じゃないですか。正式メンバーにしてくださいよ。」

「それをやってしまえば、お前が簡単に裏切ることを認めることになるんだぞ。裏切ってもまた許してもらえることになる。つまり、裏切るハードルが下がるということだ。だから簡単には許さないし、簡単にクビにする。分かったか?」

「良く分かりません。」

「つまり、お前は大事にされているということだ。」

「話をごまかしてませんか?」

「そんなことはないぞ。」

「目、泳いでませんか?」

「ちょっと、いつまでやってんの。居たよ。2時の方向、岩の陰。アスラン、ハリカ前衛は攻撃開始。」

「承知。」


 どうやら、俺とハリカが前衛らしい。いつ決まったのだろう。

 それで、エイレムが後衛。

 だとしたら姫は?姫は中衛、否、司令塔?違うな、姫は見学だな。


 岩へと走る。

 岩の陰だ。

 居た。牛?

 ミノタウロスLv.15だとの表示。

 いや身体が人間だ。頭が牛。まるで人が牛の頭部の被り物をしているのかの様に頭だけ牛だ。上半身裸。筋骨隆々の色黒。腰蓑を付けている。足は裸足だ。

 身長2メートル。攻撃するなら腹だ。

 牛が剣を上から振り下ろす。

 時が緩慢な時間を刻む。

 牛の剣はゆっくりと俺の頭を目指している。

 俺は普通の速度でその剣の下を通過し牛の腹へと到達する。


 ゴン!!


「痛ぁー!手が・・痺れる。」


 硬い。兎に角硬い。

 その衝撃が自分の手に戻ってきた。

 手が痺れる。

 腕が痛い。


「ハリカ、少し任せた。」

「任されるから、10ポイントください。」

「じゃぁ5ポイントあげるから、俺ちょっと抜ける。第五階層で剣買ってくるから。」



「姫、この木刀じゃ無理。攻撃が全く効かないし、衝撃が俺の手に帰ってくる。まだ手が痛い。第五階層で剣買ってくるから。」

「ねぇ、アスラン。どうして木刀持ってきたの?馬鹿なの?」

「いや、訓練だって聞いてたからさ。」

「あー仕方がないわね。あの剣どこに置いてるの。」

「屋敷の寝室。」

「取ってくるから暫くこの剣使ってて。」


 どれくらい掛かるんだろ。走って言ったとしても半日くらい掛かりそうだけど。

 待ち合わせ場所とか決めとかないとここから動けないじゃないか

 まぁ、この剣でも俺ならやつを倒せるな、絶対。決まっている。


「ハリカ、おまたせ。どうだ?って赤いバー減ってないけど。」

「御主人様、硬いです。硬すぎて手におえません。」

「その剣でも無理か。俺が攻撃してみる。」


 再度ミノタウロスLv.15の攻撃を掻い潜り腹部へ到達する。

 走ってきた速度のまま剣を鳩尾に突き立てる。


 ガビィィィィィィン!


「痛ぁー!手が、腕が痺れる。」


 剣は刺さることもなくまるで剣で岩を突いたかのようにその衝撃がまた腕に帰ってきた。


「ハリカ、どうなってるんだ?」

「兎に角外皮が硬いんだと思います。」

「赤いバーが全然減らないぞ。」


 ミノタウロスLv.15が剣を振り回してハリカを攻撃し始めた。

 ミノタウロスLv.15の剣を自分の剣で受けたハリカが吹き飛ばされた。


「大丈夫か、ハリカァ?」

「もう、駄目かも知れません・・このまま抱きしめてて下さい・・」

「まだ大丈夫みたいだな。少し待ってろ。」

「( ̄ ̄ ̄ ̄□ ̄ ̄ ̄ ̄)チッ」

「エイレム、火だ、火の魔法で攻撃しろ。」

「はい。『ファイアー』」


 スイカ大の火の塊が弧を描きながら飛んでいく。

 ミノタウロスは避けること無く剣を構えている。

 攻撃は届くだろう。後はどれだけダメージを与えられるかだ。

 ファイアーが到達し辺り一面火に包まれ、火は一瞬で消えた。


「やったか?」


 ミノタウロスは全くダメージを受けていなかった。

 それもそのはず、ミノタウロスの前には半透明のバリアが展開されていた。


「御主人様、魔法が通じませんわ。レベルの低いワタクシの魔法では全て防がれてしまうかもしれません。」


 困った、手詰まりだ。

 剣は通じない。魔法も通じない。どうする事もできない。しかも姫は剣を取りに帰ってここに居ないし。


「この剣を使いなさい!」


 怒鳴り声が聞こえた。

 見ると姫が『聖剣モールキュラー』を持っていた。

 え、もう帰ってきたのか?まぁ、疑問は後だ。

 俺の剣を姫から受け取った。

 剣を抜き三度目の攻撃にミノタウロスLv.15に向かって俺は走った。

 静寂が訪れる。

 時がその速度を失い緩慢な色褪せた世界を唯一人色のついた俺が走る。

 目の前が赤く染まる。

 その刹那、強烈な痛みとともに俺は吹き飛ばされていた。


「大丈夫?」

「ん?何だ、俺は気絶していたのか?」

「ミノタウロスが魔法使ったの。まさかミノタウロスが魔法を使うとは思わなかった。そう言えば一番最初のアスランの胸への攻撃もミノタウロスLv.15の魔法だったみたいね。ほらもう一度行ってやつけてきなさい。」

「よし。次は必ず倒す。倒せるに決まってる。魔法の避け方はどうやるんだ?知ってるか?」

「うーん、飛んでくる攻撃魔法なら避けられるんだろうけど突然爆発するような魔法は避けられないよね、バリアが必要ね。」

「どうやるんだ。」

「今は無理ね。その内できるようになるから今は避けられる攻撃魔法が来ることを祈るしか無いわよね。訓練で良かったわね。」

「はぁ、神頼みかよ。もう一度、やってみる。」

「神様は昼飯食ってたわよ。」

「何じゃそりゃ。」


 再々度ミノタウロスめがけ走る。

 時が減速する。

 ミノタウロスLv.15がまた右手の剣で攻撃する。同時に左手から火の塊が飛び出す。

 今度はやつの魔法が見えた。

 

 右手の攻撃も左手の魔法も避ける。

 ミノタウロスLv.15の攻撃も見えれば避けられる。

 時に見捨てられたミノタウロスは簡単に俺の到達を許してしまう。

『聖剣モールキュラ―』を下から真上に股間を目指して振り上げる。

 遅い。

 時は緩慢にして経過せず、全ての色を淡くした世界で唯一ほんの少しの色を醸し出していたしていた聖剣は遂にはミノタウロスLv.15に到達する。その須臾、色を取り戻した聖剣は一瞬にしてミノタウロスLv.15を切り裂きその頭上に到達した。


 赤いバーは消滅した。


 後には左右均等に分断されたミノタウロスの死骸が残された。

 死骸は数秒後には消える。

 表示された数字は『1;0;10;1』

 頑張ったエイレムとハリカはともに1。

 剣を取りに帰った姫は0だ。

 そして、俺が10だった。


「おっ、俺の獲得ポイント合計は67ポイントだ。まだまだだな。これでどれくらいの商品と交換できるのか聞くの忘れてたな。エイレムは何ポイントだ?」

「ワタクシは95ポイントですわ。」

「凄いな。やっぱり、魔法は楽な上に効果が大きいな。俺も使いたいぞ。」

「楽ではありませんわ。ちょっと失礼ですわ、御主人様。」

「ごめんごめん。言うこと聞くから勘弁して。」

「ホントですわよ。」

「ちょっとそこ、いちゃいちゃしない!それでハリカはどう?」

「ボクは・・43ポイントです。」

「何だ、43ポイントか。低いな。くっくくくっ。」

「御主人様酷いです。笑わないで下さい。」

「すまんすまん、次は頑張れよ。俺はお前がサボっていたんじゃないって分かってるぞ。くくくくっ。で、姫は?」

「私は242ポイントよ。」

「は?唯の見学者の、ただ見ていただけの、単なるオブザーバーの、しかも、剣を取りに帰っていて暫く居もしなかった姫が245ポイント?エイレムの倍以上?何それ?理不尽?ずる?」

「私が魔法でペンギンを沢山屠ったからよ。」

「姫。これから暫く手出しを禁じる!リーダーの俺の許しがあるまで。」

「リーダーは私でしょ。身分的に。ここ民主主義国家じゃなくって絶対君主国家よ。絶対君主の娘がリーダーでしょ。」

「姫、何言ってるのか分からないぞ。」

「まぁ、とにかく私がリーダーよ。でも良いわ、暫く手出ししないから。アスラン、あなたが泣いて土下座して謝罪して私に戦ってくれとお願いするまで手出ししないから。」

「何だよ『どげざ』って。」

「ハリカ、私が言うとおりにやってみなさい。」


 そう言うとハリカが実に屈辱的な格好をする。


 この格好で泣いて謝罪してお願いするのか。絶対に俺はしないぞ。まぁ、姫の力がなくてもこの剣があれば俺には余裕だろうけどな。そうに決まってる。


「アスラン、あなた、私の力なんか必要ないって思ったでしょ?」

「な、何のことかなぁ〰。」

「まぁ、頑張りなさい。」


 そう言うと姫はくるくる巻いた銀色の長い髪を揺らめかせ近くの岩に座った。ドレスの胸が揺れる。

 姫、目が怖い。


「暫く休憩するぞ。」

「はい。」

「はいですわ。」

「・・・」


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