第18話 ダンジョン3 ー 第四階層 ー

 青空で心地の良い第三階層を彷徨っていると直ぐに第四階層への階段を見つけた。心地よいこの階層を去りたくはないが仕方がない。

 第四階層へ降りるとドアが勝手に開く。

 中へ入るとドアが勝手に閉まった。

 中は一面白い空間で寒い。


「雪と氷の世界ね。早速敵のお出ましよ。キャー、可愛いぃ。」


 姫が騒いでいる。そこに出てきたのは丸っこい毛のない動物?脚がヒレになっている。名前がゴマフアザラシLv.7。


「よし、俺がやる。」


 俺は剣を構えてゴマフアザラシLv.7に斬りかかる。


 キーン!


 甲高い音とともに剣は受け止められていた。

 訓練なので聖剣モールキュラーは今日は屋敷に置いてきているので普通の剣だ。


 剣を受け止めていたのは姫だった。

 攻撃の際、時が遅くなる。それでも姫が剣を受け止めたのを見ることはできなかった。受け止められたあとで初めて剣が受け止められたのだと気づいた。


「ちょっと、アスラン、何するの?可愛そうでしょ。」

「どうしてだ、これ敵だろ。」

「ゴマフアザラシはみんなのアイドルでしょ。」


 姫はゴマフアザラシLv.7に近づき腰を低くしてゴマフアザラシLv.7の頭をなで始めた。

 おいおい、大丈夫か?と心配しているとゴマフアザラシLv.7は頭をなでている姫の手に噛み付いた!


「いったぁーい。何するのよ!!」


 姫は怒りに任せゴマフアザラシLv.7に剣を上から叩きつけ、まるで包丁で大根を切るようにぶつ切りにしてしまった。


「殿下、ゴマフアザラシLv.7が可愛そうですわ。」

「し、仕方ないでしょ。噛みつかれたんだから。次行くわよ。」


 姫は噛まれても尚怪我さえしていない手を押さえ、しなくても良い言い訳をする。


「レイラ姫、何言い訳してるんだか。バケモノなんだから倒して当然だぞ。エイレム、動物を可愛がりたいなら俺を可愛がれ。」

「はい、では今晩。」

「エイレム、あなた私の後ね。私が先よ。」

「え〰、ボクはぁ?」


 姫は自分の優先順位を主張する。ハリカは単に仲間はずれが嫌なのか?


「先行くぞ。ん?看板があるぞ。」


『この階層を抜ければ次の第五階層には温かい飲み物と食事が用意されています。食事はポイントと交換できます。』


「だそうだ。早く次行くぞぉ!」


 寒い。兎に角寒い。真っ白い世界を俺達は歩いていく。途方に暮れてしまいそうだ。

 下は地面ではなく氷のようだ。所々に岩ではなく氷の塊がある。でかい。巨大な氷の塊だ。


「あの氷の塊大きいなぁ。」

「あれは、氷山よ。昔からずっと解けずに存在している氷の塊ね。ARだけど・・」


 姫は博識だ。俺が知らないことをよく知っている。それどころか、誰も知らないような事まで知っているのは不思議だが・・


 GARURURURURU・・・


 突如低い獣の咆哮が聞こえた。

 小さな氷の塊の奥から白い大きなクマが出て来た。

 こんな白いクマは初めてみる。名前はそのままシロクマLv.15。レベルが高いが4人もいれば大丈夫だろう。


 次の瞬間シロクマLv.15は後脚で立ち上がり、咆哮を上げ、俺達を脅す。


「エイレム、攻撃魔法で弱らせろ。」

「はい。『フレイムボンバー』。」


 エイレムから蜜柑くらいの小さな炎の塊が出てかなりの速さでシロクマLv.15へ飛んでいく。炎はシロクマLv.15に直撃すると小さな爆発を起こした。爆発はシロクマLv.15の半身を焦がしたものの赤いバーはほんの少ししか減っていない。


「すいません。御主人様。やはりレベルがひとつ上の相手には分が悪いです。」

「連続攻撃できないだろ?俺達が剣で攻撃する。離れた時に魔法で攻撃しろ。攻撃する時は一声かけろよ。」

「承知致しましたわ。ダーリン。」

「誰が誰のダーリンよ!エイレム、アスランは私の旦那様よ。」

「おい、お前ら仲良くしろよ。」

「王女に向かってお前とかいうな!不敬罪!」

「レイラ、気にするな。」

「な、名前で呼んでくれたの?う、嬉しい(´∀`*)ポッ」

「姫様、騙されてますよ。」

「ハリカ、誰が騙したんだ!お前マイナス10ポイント。合計マイナス40ポイント。」

「皆様方、少し落ち着いてくださいまし。シロクマLv.15が元気を取り戻しましたよ。」

「エイレム、混乱を齎したお前が言うな。しかし、エイレムの言う事ももっともだ。攻撃するぞ。」


 俺はシロクマLv.15に向かって走る。

 時はその速度を失わず依然として一定の速度を保ちながら経過していく。シロクマLv.15に辿り着き上段から剣を振り下ろす。振り下ろされた剣はシロクマLv.15の左肩に届き左手を巻き込みながら氷の大地へと向かって行く。

 刹那シロクマが俺に向かって右手を振り下ろす。振り下ろされたシロクマLv.15の右腕が俺の頭上へと到達する寸前、俺は頭を下げて右腕を避け後方へとステップバックする。


「アスラン、切れてないわよぉ!」


 姫が叫ぶ。

 見れば、剣はシロクマLv.15の堅い表皮に阻まれ血も出ていない。

 やはり、訓練だと思って只の木の剣を持って来たのは大間違いだったようだ。レベルの高い相手には通用しない。


 赤いバーもほんの少ししか減っていない。


「エイレム、クールタイムは終わったか?」

「はい、ご主人様。『アイシクルダムダムブリット!』」

 ブルーネット巨乳メイドのエイレムが尖った氷の塊を高速で打ち出す。

 エイレムの黒い皮の鎧は体型に合わせて裁断され縫合されている。その艶光のする鎧の胸の部分が激しく揺れる揺れる。俺はシロクマどころではなくなる。

 高速で一直線に音を立てて飛んで行く氷の塊がシロクマLv.15に命中した。

 氷の塊はその固い外皮を貫き体内へと侵入する。

 刹那、体内で爆発した氷の塊がシロクマLv.15の体を爆散させた。


 遂に赤いバーが消滅し数字が表れた。

『8:0:3:4』

 エイレムが8で、ハリカが4、木の剣で戦って効果が出なかった俺が3だった。

 姫は相変わらず見学だった。だから0だ。

 と言うか邪魔。

 姫が戦ったらあっという間に敵が死んじゃうから姫邪魔。だから見学で丁度良い。

 しかし、魔法は良いな。クールタイムがあるのが邪魔だが楽そうだし、痛快で晴れ晴れとした気持ちになりさそうだ。

 魔法を使いたいがギフトが無い俺には使えないし、今後使えるようにもならない。残念だ。


 また、第五階層を目指し歩き始める。


「キャーーー。」


 突如、姫の悲鳴が上がる。

 姫が襲われたかと姫の方を見れば白黒の沢山の鳥?が二足歩行でこちらへ歩いて来ていた。

 表示はペンギンLv.5。レベル5でも大勢集まれば強い。


 姫は、大喜びでペンギンに近づき頭を撫で始めた、懲りずに。


「よしよし。」とか言ってる。

 するとペンギンがゆっくり口を開ける。

「どうしたの?餌が欲しいの?」

 姫がペンギンに尋ねる。

 次の瞬間、ペンギンの口から魚が飛び出し姫のおでこに直撃した。

「痛いわよ!」

 刹那、姫のチョップがペンギンを真っ二つにした。


 それを合図にしたかのように一斉にすべてのペンギンが襲い掛かってきた。


「それぞれに戦え。姫は魔法で攻撃できないエイレムを守ってやってくれ。」

「どうして妾が旦那の愛人を守らなくちゃいけないのよ。」

「誰が旦那だよ、誰が愛人だよ。エイレム顔を赤くしてうつむかない。ハリカ、加われなかったからと言って拗ねない。戦え。」


 茶色の皮の鎧に包まれた赤毛貧乳メイドのハリカがペンギンLv.5に剣を抜いて走る。ペンギンの数が多い。ハリカは剣を振るいつつも、横からくるペンギンLv.5を蹴り飛ばして対処する。動きが激しい。しかし、残念なことに胸は一切揺れない。見ていて楽しくない。残念だ。

 オット、いけない。俺も戦わないとポイントが入らない。

 俺もペンギンに向かって木刀を持って走る。

 すると、横を眩しいものが通り過ぎ、その光の塊がペンギンの集団へと着弾した。

 刹那、光は大きく膨らみ、光は須臾にして消えてしまう。

 後には倒れたペンギンLv.5が倒れている。

 半分ほどのペンギンLv.5が一瞬にしていなくなる。

 どうやら、エイレムの魔法だったようだ。


 俺は木刀でペンギンの頭を叩き倒していく。

 そして全てのペンギンの赤いバーが消えた後、数字が現れた。

『80:225:50:35』

 エイレムが80、姫が225、俺が10匹倒したので50ハリカが35だった。


「もしかして、あの光の魔法はエイレムじゃなかったのか?」

「いいえ、ワタクシではありませんでしたわ。姫様が魔法を使われて一瞬で沢山のペンギンLv.5を屠りましたわね。」

「レイラ姫、君、魔法が使えたのか?」

「妾を何だと思ってるの?魔法くらい使えるわよ。」

「ギフトもないのに?」

「あなたもその内使えるようになるわよ。」


 そうか、そうなのか?俺も魔法が?そうか。待ち遠しいな。あまり動いていないエイレムでも俺より獲得ポイントが多い。何より全く動こうともしなかった姫が俺の四倍以上もポイントを獲得している。使えるものなら早く使いたい。

 でもどうしたら使えるようになるんだろ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る