第17話 ダンジョン2 ー 第ニ階層 ー

「殿下、どこ行ってたんだ。早くいかないと良い景品が貰えないぞ。」

「ちょっとね。仕事請け負ってきた。」

「どんな?どこで請け負ってきたんだ?」

「ん?内緒。後で教えてあげるわよ。」


 全員で王女の馬車に乗り込み教会へ向かう。

 出発すると貴族街にはあまり人がおらず閑静で平和そのものと言った印象でダンジョンという訓練施設で景品が貰えるということは貴族街の住人は誰も気にも留めていないようだ。


 しかし、貴族街と平民街を分ける城壁の門を潜ると途端に騒がしくなった。

 様々な人が鎧に身を包み、突如湧いたお祭り騒ぎに乗り遅れまいと教会を目指している。教会に近づくにつれ人が溢れ馬車が通れなくなるほど沢山の人が教会を目指している。

 しかし、王族の馬車は流石に道を開けて通してくれるようだ。

 教会に到着すると教会の前に馬車を停め俺達は馬車を降りた。


「御者のおじさん、二日ほどかかるから帰っていいわよ。明日の夕方ここに来てみて。宜しくね。」

「承知いたしました。殿下、お気を付け下さいまし。」

「わかったわ。さぁ、みんな行くわよ。」


 やはり、このクランのリーダーは俺ではなく姫のようだ。

 教会に入ると先日来たままの教会だが、中に受付が設けられている。


「皆さんお集まりください。本日の受付は締め切りました。これから今日入場される方に簡単な説明を致しますので、お静かに。・・・・」


ザワザワザワザワザワザ・・・・


「はい。静かになりましたね。きちんと話を聞かないと損するかもしれませんよ。いえ、確実に損をします。ま、私が損をする訳ではないので良いのですが・・」


「ひ、ひでぇ・・」


「では説明します。このダンジョンに出没するバケモノは本物のようですが本物ではありません。しかし、攻撃を受けると実際に痛みが走ります。ですが実際に死ぬことはありません。しかし、実際に死ぬほどの攻撃を受ければ死んだとみなされ第一階層に戻されます。戻されれば本日の訓練は終了し、これ以上商品が得られなくなります。ですから死なないように気をつけましょう。因みに三十階層までありますので頑張って下さい。無理せず行ける所までを何回も挑戦することが肝要です。

  武器や防具は実際の戦闘に使用するものを使用して下さい。その能力も加味して攻撃力や防御力が判断されます。

 兎に角、習うより慣れろです。実際にやってみましょう。理解を深めるために戦闘中にアナウンスが解説します。それでも不明な点があれば帰りに受付で聞いて下さい。では検討をお祈り申し上げます。

 では第二階層からグループ毎に少しの間隔を開けて次のグループが入場することになりますので宜しくお願いします。」


 俺達の前には大勢の人がいたので第一階層で暫く待つことになるようだ。

 順番が来れば係に教えてもらえるようにお願いして、俺達は教会の座席に座って待つことにした。



「最後まで行ければどれくらいの時間がかかるんだろうな。」

「二日間くらい掛かるらしいわよ。」

「どこ情報だ?」

「内緒。」

「ワタクシ達は何階まで行けるでしょうか。どう思われます?」

「最後まで行くわよ。」

「そうだ。俺たちなら最後まで行ける。決まっている。」

「(おー、レベル1がなんか言ってるよ。)」

「ハリカ、何か言ったか?」

「いえ、最後まで行きたいなぁ〰と言ってました。」

「ハリカ、マイナス10ポイント、100ポイント貯れば首だ。」

「え〰〰っ、どうして私ばっかりぃ!」

「理由は自分の胸に聞け。」

「私、胸はありません。」

「そうだったな。お前の胸は偽物だったな。では胸のあるエイレムにでも聞け。」

「ぐぅ〰〰。」


 赤髪ふわふわカーリーメイドのハリカが変な音を出した所で係の者が呼びに来たので後に続いてダンジョンの入口へと向かう。入り口は普通の扉で、扉を開け階段を降りるとダンジョン地下第一階層と書いてある。

 その下に、ここはかなり広く敵は出てこない、ダンジョンで敵に倒されたらここに転送されるのでここで他のメンバーを待つことになる場所だと書いてあった。

 第二階層への階段を探すと大きな看板ですぐに分かった。

 すでにかなりの人間が係の指示に従い、少しの間隔を開けて第二階層へと向かっているようだ。


 どんな化け物が出るのか、楽しみだ。

 死ぬことがないから、死ぬまで戦える。

 良い訓練になるのではないかと思う。

 兎に角、行ける階層まで進もう。

 死ねばまた明日挑もう。

 そしていつかは最下層まで行こう。


「皆、今回は最後の階層まで行くわよ。ハリカ、エイレム頑張って付いてきてね。」


 姫はやる気満々だ。


「(え〰、またまたレベル1が何か言ってるし。付いてくるのはあなたでしょ。)」

「ハリカ、マイナス10ポイント!お前、一日でクビになるつもりだろ?」

「え〰〰〰、どうしてぇ。」

「自分の胸に聞け。」


 以下同文・・・



 暫く歩くと前方で別のグループが敵と戦っていた。

 敵は透明のうねうねと動く物体だ。

 戦いを眺めていると、敵の上には赤いバーが見える。

 その上には名前が『スライムLv.1』と表示されている。

 アナウンスが流れる。


『赤いバーが無くなれば敵は死にます。Lv.はレベルで後の数字が大きいほど強い敵です。これはギフトと同じ表示方法を採用しています。』


 なるほど、ギフトではこんな風に相手のレベルが表示されるのか。


 程なくして赤いバーが消え敵も消えた。

 すると数字が表示された。数字は『1』するとアナウンスが再度流れる。


『この数字がポイントです。Lv.1の敵を倒せば1ポイントです。Lv.=ポイントです。これを貯めれば、商品と交換できますし、商品が直接貰えることもあります。』


 なるほど、これを貯めれば商品が貰えるのか。


「お前ら、俺達も早くバケモノ倒してポイント貯めるぞ。」

「おう。」

「がんばりますわ。」


 少し歩くとすぐに俺達の前にも敵が出てきた。

 緑色の小さい人間?だ。

 表示がゴブリンLv.2と書かれている。

 赤いバーがスライムより少し長い。


「ハリカ倒してみろ。お前のギフトは何だ?」

「ボクのギフトは『肉体強化』と『ソードマスター』です。」

「それは心強い。剣で倒してみろ。」

「倒したら、メンバーにしてもらえます?」

「は?倒さなかったら首だ。」

「え〰っ。」

「早く殺れ。」


 ハリカは剣を鞘から抜き構えもせずにゴブリンへと走る。

 大丈夫かと思っていたら、構えた瞬間剣を繰り出しゴブリンの首が落ち赤いバーが消えた。

 スライムより少し多い数字『2』が表示される。

『ポイントは戦った人だけが貰えます。2ポイントです。ダンジョンが個人を識別しポイントを累積します。累積されたポイントは獲得ポイントの下に表示されます。ポイントが貯ればレベルが上がります。但し、レベルアップはかなり遠い道のりです。』


 なるほど、戦った者だけか。なら、皆で戦うべきだな。


「ここ敵が弱すぎるから第三階層へ行くぞ。」


 周りを見回したが階段が見つからない。


「階段が見えないからこのまま進むか。次はエイレムだな。エイレムのギフトはなんだ?」

「ワタクシのギフトは『肉体強化』と『下級攻撃魔法』ですわ。」

「え?魔法が使えるのか?少ないだろ、使える人。」

「はい。希少ですわよね。」


 更に歩く。周りでは別のグループが先程のスライムLv.1やゴブリンLv.3と戦っている。同じゴブリンでも色々なレベルのがいるようだ。

 皆簡単に倒している。

 この階層は準備運動のようなものだろう。


 少し歩くと第三階層への階段が見つかった。

 この第二階層はかなり広いのではないだろうか。その広い場所に所狭しと人が溢れている。一片数キロメートルの正方形だろうか。


 第三階層へ降りる。

 第三階層は草原だ。青空が見える。魔法だろうか。そしてかなり広い。ここからが本格的な戦いになるのだろう。



「姫、ここ凄いな。青空があるぞ。魔法か?」

「あー、ARね。化け物が出てくるのと同じ原理よ。空の映像を天井に映してるのね。」

「えーあーるぅ??」


 姫の言うことは良く分からない。


 敵が出てきた。

 馬だ。ブラックホースLv.5と表示されている。でかい。巨大だ。と言っても普通の馬の大きさだが。


「エイレム、魔法を見せてくれ。」

「ファイヤー!」


 スイカくらいの大きさの赤い炎の塊が剣先より出てそれほど速くない速度で弧を描きながら馬へと向かって飛んでいく。

 速度が鈍い。

 攻撃が当たる瞬間は時の流れを遅く感じる。

 見ていてもどかしい。

 俺が攻撃するとか攻撃を受ける場合だけにしてほしいものだ。

 馬に炎があたる。

 炎は爆発するわけではなく馬に火が点き、毛が燃え始める。

 ある程度のダメージを受けるがまだ赤いバーは残っている。

 火は馬の体全体に広がる前に消え始めた。



「エイレム、もう一度攻撃!」

「アイシクルショット!」


 氷の塊が今度は速いスピードで一直線に馬へ向かっていく。

 氷は丸い岩のようだ。

 その塊が頭に当たり馬は倒れた。

 しかし、まだ赤いバーは消えてはいない。


「よし、皆で袋叩きだ。」

「さすが、御主人様、卑怯ですね。」

「ハリカ、ポイントマイナスするぞ。」

「間違えました、さすが御主人様、手段を選ばないところが、ひ、いえ、流石です。」


 俺とエイレムとハリカの三人で倒れている馬へ向かう

 姫は剣も抜かず興味なさげに他のグループの戦いを眺めていた。

 三人で攻撃開始。

 数発の攻撃で馬のバーは消え数字が出てきた。『3・1・1』


『三人で攻撃した場合は各人にポイントが付きます。各人のポイントは貢献度に応じます。』


 なるほど、この場合エイレムが3ポイントか。これから先は努力しないハリカにはポイントが付かないということか。


「ぼく、サボりませんよ。」

「誰も何も言ってないぞ。」

「いま絶対、ハリカはサボるからポイントが低いとか思ったでしょ?」

「思わなかったと言ったら嘘になるかな。でも、それは自業自得だろ。」

「ひどい。」

「正直なだけだ。姫、どうした、他のグループ見て?」

「ほら、向こうのグループ、見てよ。オーガLv.10と戦ってるわ。なかなか決まらない。赤いバーが減らないのよ。あっ!一人消えた。死んだから地下一階に転送されたのね。」


『死亡により地下一階へ転送されました。』

 アナウンスが告げていた。

 アナウンスは戦っている人の近くにいる者には聞こえるようだ。


「あの死んだ人、無能力者だったよ。これだから無能力者は!」

「ハリカ、なんか俺に文句あるみたいだな。」

「いえ、失言です。」

「今度言ったら首。」


 俺達は次の獲物と階段を目指し先へと進むことにした。暫く歩くが他のグループが敵と戦っていて敵が回ってこないので地下四階へと進むことにする。


「どんどん先へ進むわよ。」

「姫様、どうかされましたか。戦わないとポイント貰えませんし豪華賞品も貰えませんわよ。」

「良いのよ。深い階層の方が敵も強く訓練になるしポイントも沢山付くはずよ。」


 エイレムの質問に姫が答える。


「なるほど。確かにそうですわね。では先へ進むことに致しましょう。」


 キーン!!


 突如、高い金属音が鳴り響いた。音のした方を見るとオーガLv.10が姫を巨大な剣で攻撃し、それを姫が剣で受け止めたようだ。

 オーガLv.10は木の陰にその巨体を隠し待ち伏せしていたようだ。

 オーガLv.10は身長2.5メートル。赤い色をし、筋骨隆々だ。


「なに、これホログラムのはずよね。なぜ、剣の重さがあるの?最新技術かしら。しかし、このオーガLv.10、モデルは赤鬼ね。鬼にしては金棒持ってないわね。」


 気が狂ったのか姫がわからないことを叫んで騒いでいる。

 それでいて、姫はレベル1とは思えないほどの剣捌きでオーガを一刀のもとに両断した。

 すると、次に出てきたオーガLv.8は武器に金棒を持っていた。


「あの人達絶対私を監視しているわ。それともAIが判断しているのかな。」

「誰だよ、あの人達って?どこの人だよ。」

「神様よ。」

「神様ってどこにいるんだ?やっぱり天国か?」

「天国なんか無いわよ。月よ。月からこの星を眺めてるわよ。」

「そうなのか。よくわからんが凄いな。月にも人がいるのか?神様だから良いのか。ハリカ、二人で剣で攻撃するぞ。攻撃を入れたら退避。合図をしたらエイレムが攻撃魔法で倒す。」

「え〰、最後までやるよ、ボクだけでも倒せるよ。」

「これは連携の訓練だぞ。練習しておかないといざという時にできないかもしれないだろ。ハリカ、協調性に欠ける。マイナス10ポイントで合計マイナス30ポイント。」

「え〰!」

「煩い。行くぞ」


 二人で攻撃し、オーガLv.8は対処できず、無残に剣を受け両腕を落とした。


「今だぞ、エイレム。」

「承知いたしましたわ。ファイアーボム!」


 スイカ大の赤い炎の塊がゆっくり飛んでいきオーガの頭に当たり爆発を起こす。

 オーガの頭上の赤いバーが消える。

『3:0:3:2』数字が表示された。

『立ち位置で誰の数字かを判断して下さい。』

 またアナウンスで教えてくれる。

 なるほどエイレム・レイラ姫・俺アスラン・ハリカの順番か。

 姫は加わってないから0で仕方ないが、ハリカだけ2ポイントか、うっ、かわいそう。


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