第15話 月

「先輩、レイラ・ギュリュセル姫の入浴シーンが始まりますよ。」

「おう。もうそんな時間か。今行く。」


 ここに赴任してからの密かな楽しみが始まる。

 先輩は僕が来る前から楽しんでいたようで先輩に教えてもらった。

 まだ例の、ギフトを間違えてフェムトを処置された三人は見つからない。フェムトを処置された三人の身元も確認しておけばよかったのだが、確認していないので一人一人確認する必要がある。洗礼式でどのギフトが当たるかは運で、誰にどのギフトが当たったかまではこちらでは確認しないのでこの事態になった。


「脱ぎ始めましたよ。大きいですね。」

「しかし、この娘も成長したな。何だ服をまた着だしたぞ。」

「あっ、目が合いました。もしかしたら気づいてるのかも・・」

「そんな訳はないだろ。」

「消えました!消えましたよ!」


 突然レイラ姫が消えた。


「何を見てるの?」

「は?」


 声のした方を見るとそこには今画面で見ていたレイラ・ギュリュセル本人がいた。


「ねぇ、何が大きいの?神様。」

「は?どうして?ここにいるの?ここ、月だよ。ここまで20万キロあるんだよ。」


 取り敢えず『大きいの?』問題は無視した。


「ねぇ、私のいる星って日本の植民地か何か?」

「え?なんで日本って知ってるの?」

「だって、私達が話している言語って日本語じゃない。食文化は日本語っぽいし。」

「でもそれで日本の植民地とは分からないでしょ。」

「ねぇ、『神様の飲み物』出して。あるでしょ。田中さん。」

「うん、待って。それで答えは?」

「それはね、私が前世では日本に住んでいたからよ。それでいま西暦何年。」


 生まれ変わりか?あるんだ転生。


「そんなことまで知ってるんだね。いま西暦3415年だよ。」

「そんなに?一度日本へ連れて帰ってもらおうと思ってたんだけど、もう私の知ってる日本とは違うよね。」

「何年頃、日本にいたの?」

「西暦2000年頃。気づいたらこの星にいた。そう、あれから1500年近く経ってたんだね。日本は、地球は変わった?」

「そうだね。今は一つの国になってるよ。地球の人は沢山この天の川銀河に進出してきてる。ここは、地球から見れば射手座の方向にあって地球からの距離はおよそ1万2千光年。」

「1万2千光年?そ、それじゃ地球まで行こうと思ったら生きてる内に着かないんじゃ?」

「そうだね、ここから地球までおよそ10時間だね。」

「はい?」

「だから10時間。」

「アメリカ旅行感覚?」

「昔の人からすればそうだね。今は日本からアメリカまでは一瞬だけど。空間を繋げてるからね。」

「そうなんだ。想像もつかないよ。」

「それで思い出した。君だね。君にはギフトがないでしょ。だけど不思議な力があるんじゃないの?」

「そう。その件でここまで来たんだ。私達を探しているって聞いて。この力を悪用しないか心配だったんでしょ。大丈夫。私も地球人だったんだから、うまく利用するよ。だから、ここで雇ってもらうってことで現地調査員的な感覚で、人類を発展させる努力をする。だから便宜を図ってもらう。そして私達を弊害がない限り処分しないという条件であなた達の言うことを聞く。だから雇用してもらう。どう?先輩の鈴木さん。」

「そうだね。どうしよう。」


 鈴木さんが代わりに話し始める。


「上の人に聞いてくれたら、覗いてた件は内緒にしておいてあげる。」

「もう、仕方ないな。田中、コーヒーは?」

「できました。どうぞ、レイラ姫。」

「ありがとう。ねぇ、カップラーメンとかないの?文明の味を食べたい。」

「あるけど。食べる?持ち帰りにしてもいいよ。」

「じゃぁ、テイクアウトで。」

「ちょっと、コーヒー飲んでて。上に掛け合ってくるよ。あ、コーラもあるよ。飲む?」

「え〰、懐かしいぃ〰。飲む飲むぅ。で、田中さん何が大きいの?」


 しっかり覚えていたようだ・・・


「もう覗かないでね。神様。」

「もう、信用ないな。」


 そこへ、鈴木さんが戻ってきた。笑顔だ。


「レイラさん。オッケーでました。給料も出ます。仕事はこちらが依頼しますのでそれを処理していただきます。具体的には害虫退治ですね。害虫と言っても怪物ですが。」

「赴く場所が遠くの場合はなにか足を貸してくれるの?例えばUFOの様な垂直離着陸できる乗り物とか?滑走路がないから飛行機じゃ無理だし。そう言えばあの星って大きさどれくらい?地球くらいあるの?」

「地球の1.2倍の直径でほぼ地球と変わりません。赤道上の円周がおよそ5万キロだね。乗り物については必要な時に貸与するということで。何かあればフェムトで連絡下さい。」

「分かったわ。じゃあ、このカップ麺貰っていくわよ。後、調味料とか無いの?あの星にないやつ。ところであの星ってなんていうの?」

「座・アースです。当時の日本の首相が織田信長が好きでして。」

「だから、組合がギルドじゃなくってラグザね。楽座からきてるのね。納得。あと一つ聞きたいのだけど。」

「何?何が聞きたい?」

「アスラン・バラミールのフェムトが覚醒していないんだけど。どうしてか分かる。」

「経緯を教えてもらえる。」


 彼女はゆっくりとフェムトが覚醒する前のことから話し始めた。

 話を聞き終えると先輩はその理由がわかったようだ。


「普通は死んでる。10人分のフェムトを体内に取り入れたのだから普通は死んでる。」

「ギフトとは違うの?」

「全く違うものだね。体内へのインストール方法も違うけど手術マシーンがギフトを認識して手術するんだけど、ギフトでなくフェムトと分かった時点でフェムト用の手術を行うんだ。それがゆっくりと体内に入っていき覚醒するんだけど、10人分なら普通は死んでる。そして君は首を切り落とされて死んだんだろ?だから10人分のフェムトでも宿主を守ろうと覚醒したんじゃなのかな。アスランも心臓を刺されて死んだんだけど、君ほどフェムトを必要としなかったからまだ覚醒していないのだろう。だが、君も殺されたからこそ、10人分ものフェムトが適応したと言えると思うしアスランも殺されたからこそ覚醒するだろう。もうすぐだろうね。」

「そうか、もうすぐなんだね。良かった。ありがとう。じゃあ、帰るね。またね。」

「また来るのかよ。」

「あっ、忘れてた、フェムトってなんなの?」

「それはまた今度暇な時に話してあげるよ。それか、フェムトに聞けば分かると思うよ。」

「そうなんだ、ありがとう。」


 レイラ姫は良い香りを残し去っていった。ほんの少し胸を揺らしながら・・・

 うーんエロい。

 あ、これから入浴するはずだ。

 続き続き!

 あれ、映像が見れないぞ。

 浴場と寝室が閲覧禁止になってる。

 やられた。本当の目的はプログラムをいじることじゃなかったのか?

 解除できない!ちくしょー。

 やったのはフェムトだな。

 仕方がない。

 今日は巨乳ブルーネットのエイレム・デミレルだ。

 あれ?

 夜だと言うのに居ない。

 会話を聞こう。

 なに!

 引っ越した?

 どこへ。

 くそぉー、どこへ引っ越したのかわからない。


「せんぱーい、レイラ王女も、エイレム・デミレルも見れません。」

「本当か?仕方がない。今日は上司の茜さんの裸でも覗くか。」

「良いですね。でも僕たち首になりませんんかね。」

「大丈夫だろ。・・多分・・」


 今日も座アースの第一ムーンに作られた監視基地の夜は平和に更けていく。

 新たな場所を開拓せねば。

 僕は決意を新たにする。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る