第14話 謀反2
レイラ姫の馬車には何度か乗ったことがあるが何時見ても豪華な内装で溜息が出る。今日はいつもと違い胸の邪魔な肉をひけらかすエイレム・デミレルが乗ってない。そのデミレル家が謀反を起こしたというのだ。しかし、情報がそれだけしかない。
姫様が作戦をボク達に話し始める。
「良い、戦闘になったらハリカは後方支援。何かお願いするかもしれないけど、それ迄は後方で自分の身を守っていて。戦闘は私達がするからハリカは絶対危険なことはしないでね。」
いやいや、あなた達のほうが絶対危険ですって。レベル1が二人で戦闘って。あわせてもレベル2にしかなりませんよ。
「殿下、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だから。」
「そうですか。」
「で、殿下?俺も戦うがイマイチ自信が失くなった。」
「どうして?」
「さっき、食堂でお前はレベル1だと言われた。」
「あー、まぁ確かにレベル1とギフト持ちからは見えるらしいわね。それ間違いだから。」
「え???なぜ??」
「後でね。」
ご主人さまは正にレベル1らしい弱気な反応をした。
これぞレベル1だ。卑屈な反応だ。ほっ。辞めてよかった。
ついに馬車はデミレル邸へ到着した。
馬車を降りた私達はデミレル邸の玄関へと向かう。
ご主人さまは剣を抜いてはいないが何時でも抜けるように手を添えている。レベル1がいくら頑張っても屁の突っ張りにもならないが・・・
まぁ、死んでも私には関係ない。ご愁傷さまと言うだけだ。
姫様はここに来てでさえ剣も持たず素手で防具も鎧もつけていない、真っ赤なドレス姿だ。ミニスカートで長い脚をほとんど露出させている。その姫様がデミレル邸の玄関を開ける。
その護衛がレベル1の侯爵だと言うから、もはや自殺か世の中をなめているとしか思えない。
中に入ると玄関ホールだが、そこにデミレル子爵がいた。
「デミレル子爵、どういうことだ。謀反を起こすなど。」
姫様は叫ぶ。
玄関ホールの奥の方にはデミレル子爵と娘のエイレム、そして衛兵が10人程いる。
「殿下、ようこそおいで下さいました。姫には人質になっていただきましょう。お前ら、捕まえろ。」
「妾達を簡単に人質にできるとは思わないことだ。」
「いえいえ、殿下はレベル1だとの見て分かります。簡単に捕まえてみせますよ。」
その通りだ。レベル1のどの口が簡単に人質にできるとは思わないことだと言うのだろう。
人質になる未来は目を閉じていても見えてしまう。自明の理だ。
兵士たちが10名ほどで私達を捕まえに走ってくる。
「アスラン。やっておしまい。」
「え?俺が?一人で?護衛が10人いるぞ。」
「他に誰がいるの?ほら殺れ。」
ご主人は仕方がなさそうに、自信だけはある顔で敵10名程に向かって走っていった。
どうやら、殿下は御主人の犠牲の下にデミレル子爵の下へと向かうつもりらしい。
レベル1がレベル10以上の衛兵10名を相手にどうやって戦うのだろう。自爆しかない。単純計算で100倍の戦闘力だ。
ご主人は諦めたような顔をして敵に向かう。もう様をつけるのもめんどい。
無駄なのに・・・
あー可哀そう・・・
無駄な努力ね。早く次の優良物件見つけないと・・
今回のは事故物件だったよ
兵士が剣をご主人の脚に向けて横に薙ぐ。
どうやら生きて捕まえる気のようだ。
終わった。
ご主人の足は4つに別れた・・・と思ったら、衛兵はそのまま倒れていた。
なにが?
何が起こった?
ご主人は剣を鞘から出してもいないのに。
それを見た他の衛兵が作戦を変更したのか首や心臓を狙ってくる。
しかし、狙った兵士はことごとく剣が届く寸前で床に倒れる。
何が起こってるの?
す、素敵・・・
ご主人が、ボ、ボクの御主人様が剣を高く両手で掲げて構える。
御主人様は剣を振ってもいないのに相手の兵士は床に突っ伏す。
はっ、もしかして、もしかしてこれが。
これが秘技?
目に見えない剣速で繰り出された剣?
御主人様は剣を下げ構えるのを止めてしまった。
まだ兵士は残ってるし、剣も構えている。
どういうことだろう。
兵士が剣を御主人様めがけて突いてくる。
危ない!御主人様。
するとどういうことでしょう。
兵士の剣が刀身の中程から真っ二つに折れてしまった。
チョップだ。
今度は見えた。
チョップで剣を上から下に叩き切りました。
凄まじいチョップだ。
さすがボクの御主人様です。
以前からお慕い申し上げていたボクの御主人様です。
気がつけば残りの兵全て横たわっていた。
どうやら、ボクの御主人様の勝利のようだ。
ボクの御主人様に勝とう等と10年早い、いや100年は早いでしょう。
ボクは御主人様の勝利を疑ってなどいませんでしたが、そんな不届きな輩もいるのでしょう。エイレムはそうかも知れません。
「御主人様、流石です。お見事です。」
ボクは御主人様に勝利のお祝いを申し上げた。
「あ、ありがとう、ハリカ。まだ終わってないからな。」
「はい。」
ボクは満面の笑みを湛えたた顔で返事をする。
「アスラン次行くわよ。」
姫様は人使いが荒い。ちょっとイラッとくる。
ボクの御主人様なのに・・・( ̄ ̄ ̄ ̄□ ̄ ̄ ̄ ̄)チッ
姫が子爵と対峙する。
「それで、どういうこと、デミレル子爵。」
「わ、ワシの娘を、ワシの可愛い娘を無能力者の成上りの侯爵に嫁がせるのが許せないんです。」
「今、見たでしょ。」
「え?何を?」
「その侯爵が戦う所を。本当に無能力者だと思っているの?レベル10の兵士10人を相手に手加減して倒す者が本当に無能力者だと思うの?確かに見かけのレベルは1だけど・・」
「えっ?アスラン・バラミール侯爵ですか?」
「本当です、俺ですよ。何度もお会いしてるでしょ。」
「ほ、本当だ。じゃあ、ボラ・ゼンギンに勝利したのも偶々勝ったわけじゃないんですね。レプタリアンを退けたのも姫と婚約させるためのプロパガンダじゃないんですね。安心しました。」
「殿下、これは王家も悪い。きちんと説明しなかったからこんな事態になったんだぞ。今回の件は無かったことにできないのか。」
「そうね。少し王家も悪いわね。陛下に相談してみるわよ。デミレル子爵、沙汰を待ちなさい。悪いようにはしないよう王に進言するから。」
「はっ。」
デミレル子爵は、本当に勘違いしていると思う。エイレムの父は良い人だ。ボクにも優しくしてくれる。胸は小さいけど美人だから優しくするんだと誰か言っていたけどそんなことはないと思う。
「ご、御主人様、大丈夫でしたか?」
なんと言うことでしょう。
エイレムがボクの御主人様に抱きついているではありませんか。ボクの御主人様なのに、ボクだけの御主人様なのに、か、顔が近い!くぅ〰〰〰、ゆ、許すまじ・・エイレム・・
「俺は大丈夫だ。なんともない。それよりエイレムは大変だったな。」
「もうワタクシはどうなることかと思いましたわ。まさかお父様が御主人様のことを疑い謀反を起こすなど。御主人様はレベルに関係なくお強いことをワタクシは存じておりましたわ。でも、中には御主人様のレベルが1だと知って蔑んだり、メイドを辞めるという輩もいるのでしょうね。」
エイレム、あ、あんたボクがメイドを辞めると言ったのを知ってる。知ってるんだな?知っているからこその仕打ちだな?いや、単に考えれば分かることか?気づいたのか?確かに、レベル1だと知って辞めたけど。いえ、辞めると言っただけ。辞めてないよ。
くそー、エイレムめ!あの無駄にでかい胸を、ただでかいだけの無駄な脂肪の塊をボクの、ボクの御主人様に押し付けて抱きついてる。孫の代まで許すまじぃぃぃ・・
「エイレムどうする。一緒に帰るか?それとも今日は自宅にいるか?」
「一緒に帰ります、御主人様。」
「それじゃ帰るか。ハリカはどうする?」
「ボクも一緒に帰ります。」
ボクは満面の笑顔で返事をする。
「あっ、そうか。もう辞めたんだったな。」
「誰か辞めるんですか?」
「え?ハリカ、君が辞めさせてくれって。」
「ボクが?ボクがそんな事言うわけないじゃないですか。嫌だなぁー。エイレムが言ったんじゃないですか?」
「エイレムはいなかっただろ。じゃあ、通いでメイドやるのか?」
「通い?住み込みに決まってるじゃないですか。」
「殿下、屋敷まで送ってくれないか。」
「いいけど。途中から歩いて帰って。プンプン・・」
姫様はなぜか怒ってらっしゃいます。
「じゃぁ、ここで馬車降りて歩いて帰って。気を付けてね。」
「はい、殿下。失礼します。」
「姫またな。」
馬車は屋敷に向かう途中私達を貴族外の中に放出して王城へと行ってしまった。
ボク達三人は上空で明るく輝く月を見ながら御主人様の隣を屋敷へと歩く。
御主人様は右手に剣を持っている。
その剣がなければ手を繋げるのに・・・
ふと、左手を見ると旦那様はエイレムと手をつないでいるではないの。
どうやら今日のことでボクはエイレムに一歩遅れを取ったようだ。
昔から旦那様を好きだったのはボクだと言うのに。
クソぉー、エイレム、許すまじ。玄孫の代まで許すまい。
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