第13話 謀反
王女もメイドも帰った屋敷の中で一人残った俺はソファーに深く座りオットマンに足を載せ寛ぐ。
ふと気づく。
お腹が減った。
晩御飯は誰が作るんだ?材料は買ってきたけど・・・
俺の他には誰もいない。
俺か!俺が作るのか・・めんどい!
しまった、二人とも帰すんじゃなかった。
仕方なく。もう一度食堂のある平民街へ行くことにした。
既に夕方で平民街も薄暗くなりつつある。
城壁の門を出て平民街へ。そこから一番近くの食堂に入る。
高級そうな店だ。しかし、中へ入るとかなりガラが悪い。酔った者たちが大声で騒いでいる。
俺は奥の空いているテーブルに座ろうと通路を通る。
するとテーブルから足を出して道を塞いでくるやつがいる。
「すいません。足どけてもらえますか。」
「あ”ーー?舐めてんのか?なんで俺様がお前の言うことを聞いてお前のために足を動かさなくちゃいけないんだ?あ”ーこるぁあー!」
こういった態度を取られるのは初めてだ。そうだ、平民服を着ているからだな。仕方ない。貴族と名乗るのも面倒臭い。ここは我慢しよう。
「すいませんでした。向こうから行きます。」
「ちょっと待て。俺様の気分を概してそのまま行こうってのか?賠償金置いてけ。このぉ・・・って、おい、こいつレベル1だぞ。お前いくつだ?成人してるのにレベル1か?は、初めて見たぞ。アーハッハッハ、こいつ、屑だ!」
そ、そうだったのか。俺はレベル1だったのか orz。ガーン!な、なんて弱いんだ。良く死ななかったな。ブルルルルル体が震える。
俺は、俺のレベルを教えてくれた酔っぱらいにお金を支払い、ショックのあまり何も食べずに店を出た。
――――――――――――――――――――
「お、お客様ぁー。」
お客様は何も食べずに行ってしまわれました。
こ、この酔っ払いがぁ。
お前がどこか行けばよかったのに。
未だ成人したてのような若い人だったのに。
貧乏そうな服を着ていたから、やっとお金を溜めて高級店である当店に来て高級な料理を食べられると期待して勇んで来て頂いたのかもしれないのに。
ここは、高級店のイメージを維持するためにもお客様のふざけた振る舞いを注意すべきではないでしょうか。
「あー君たち。」
私が注意しようとしたら、兵士の方が酔っ払いに声を掛けました。近くにある門の衛兵の様です。注意していただけるのでしょうか。
「何だ?俺たちゃ何も悪い事してないぞ。」
「いや、カツアゲしたろ。あの方はアスラン・バラミール侯爵だぞ。貴族からお金を奪うのは重罪だぞ。」
「え、アスラン・バラミール侯爵?あのレプタリアンの襲撃を退け陞爵した英雄か?嘘だぁ。あいつレベルが1しかありませんでしたよ。人違いですよ。」
「レベル1?本当か?そうか、何だ、人違いか。まぁ、あんまり悪いことはするなよ。」
「へーい。」
どうやら、衛兵に注意されて酔っ払いは大人しくなったようです。しかし、あの子供、貴族様に間違われるとは。間違われた貴族様も良い迷惑です。
――――――――――――――――――――
ボク、メイドのハリカ・デュランが屋敷に帰って来ると灯りが着いてない。
ご主人様は直接帰ったはずなのに何かあったのか。
もう一人のブルーネットメイドのエイレム・デミレルも未だのようだ。
だったら、お腹も減った事だし料理を作るか、面倒なことはエイレムに任せたいけど。あいつは巨乳なのを常に主張しているようで嫌いだ。
確かに、単に胸が出ているだけでエイレムが主張している訳ではないのだろうけど、ムカつく。
しかし、驚いた。ご主人様が無能力者だったとは。
とっととメイドを辞めたいが、そんな無責任な事もできない。理由がほしい。
クランにも加入すると言ってしまった。
かなり後悔している。
ボクはニンジンの皮をむきながらそんなことを考えている。
しかし、レイラ姫もアスラン侯爵もレプタリアン撃退の英雄だと言われているが、それはただのプロパガンダだったのだろうか。そうかも知れない。イヤそうなのだろう。
仕方がないから理由ができるまではメイドを続けよう。
できるだけ早く辞めよう。
撃退したのが嘘で只の無能力者だったらとっとと辞める、そうしよう。
「ただいま。」
ご主人様の声がした。ご主人様のお帰りのようだ。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
「ん?一人?ハリカだけ?」
「はい。未だエイレムは帰って来てませんね。何かあったのでしょうか。」
「ん~、ま、心配だね。」
「そうですね。」
「ところで知ってた?俺ってレベル1らしいよ。」
え?今まで失礼だと思ってレベルを見ていなかった。
確認するためにレベルを見る。勿論、ギフトに付加された能力だ。
ほ、本当にレベル1?たったの1?これでクラン?これじゃ、只のお荷物?
領地を取り戻せなかったらアスラン・バラミール侯爵の降格か廃爵は予定されている。
これでは既に確定しているのも同然だ。
確実に領地は取り戻せない。
将来の私の、いえ、ボクの、いえ、ボクの旦那の領地なのに・・
ここは、やはり・・・
「ご主人様。お願いがあるのですが。」
「何だ?何でも言っていいぞ。」
「辞めさせてもらっても宜しいでしょうか。」
「え〰〰!そ、それは勘弁しろよ。」
「そうですよね。王様からの勅命ですし。暫く我慢します。次が見つかるまでですよね。すぐに見つかりますよね。見つかるかなぁ。」
「でも、エイレムがいればなんとかなるだろうから良いよ、直ぐ辞めても。クランはどうする?」
「クランへの加入はなかったことにして下さい。」
「そう。残念だ。」
「ところで、夜寝室には絶対に来ないでくださいよ。危険ですよ。」
そう危険。ボクの貞操が・・こんな平民童貞にやられてたまるか!
「危険なんだ。近づかないようにするよ。」
ドンッ!
強烈な破裂音とともに誰かがドアを開け侵入してきた。
私は反射的に私のギフトのスキルであるシェルを使い防御する。
しかし、侵入してきたのはレイラ姫だった。
「殿下、どうされたのですか。」
「大変よ。デミレル子爵家がクーデターよ。」
デミレル家といえばもう一人のブルーネット贅肉メイドのエイレム・デミレルの家、デミレル子爵家だ。
「俺達はデミレル邸に向かうけど、ハリカは帰っても良いよ。それとも一緒に行く?」
「え?帰るって?」と姫様。
「あ、ハリカがメイド辞めるって。クランにも入らないらしい。」
「あっ、そう。残念ね。じゃーね、ハリカ。ハリカは計算高いからいないほうが良いかも。」
「いえ、一緒に行きますよぉ。」
レイラ姫はボソリと失礼なことを言う。
そりゃたしかに計算高いけど。計算で辞めると言ったけど。
言われると腹が立つ。
しかし、一緒に行くけど、レベル1のあなた達が行ってどうしようというの?殺されるだけじゃないの?失礼承知でレイラ姫のレベルも調べたけど同じレベル1。さすが無能力者コンビ。いいコンビだ。二人が結婚しても確実に殺されるな。
離職してよかった。まぁ、今日が最後だ、我慢我慢。
「ハリカも一緒に来るか?」
「そうですね。エイレムのことも心配なので一緒に行きます。」
「ハリカも一緒に行くの?あなたのスキル『シェル』で自分を守ってなさい。私達のことは良いから。」
いえいえ、私達のことは良いからって、確実に死ぬでしょ?見殺しにしろってこと?
私は急いで取りに帰った戦闘用の鎧を着込み剣を持って玄関前のロビーに走る。
私の鎧は茶色い革製で胸当てと脛当てと籠手も付いている。
ロビーに行くと既に今日買ったばかりの戦闘用の皮の鎧を着込んでレベル1なのに怯えた顔もせず、なぜか自信満々な顔をしている不思議な侯爵、アスラン様と着替えもせずに普通の格好をしているレイラ姫が待っていた。
レイラ姫は剣さえ持っていない。流石にレベル1だし、姫だし、戦うつもりはないのだろう。
ご主人様は無能力者なのに豪華な剣を持っている。
カタナと呼ばれる細い刀身の剣だ。やはりレベル1だと重い剣は振れないのだろう。ププッ、笑っちゃう。おっと聞こえたのか、睨まれちゃった。
しかし、レベル1の無能力者が持つにしては装飾はされてないが綺麗な鞘と
もし切れる剣ならレベル12で『ソードマスター』のスキルを持つボクが持っていた方が良い。
私達は屋敷の庭に停車されていた姫の馬車に乗り込みデミレル邸へと向かう。
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