第8話 フィアンセ

 しかし、驚いた。

 まさか死んだと思っていた姫様が生きていたとは。


「おい、姫様が入浴するそうだぞ。」

「見に行くか?」

「あの巨大な胸は見ものだぞ。」

「不敬罪で処罰されないのか?」

「いや、それでも尚あの胸は見る価値がある。俺は見に行くぞ。」

「そうだな。『死して屍拾う胸なし』だ。」

「どんな意味だ?」

「知らん。誰かが言ってた。」

「それは死んだら胸が見れないから生きている内に見ろということだな。」

「そうか、それほど殿下の胸というのは価値があるのか。よし。俺も見に行くぞ。」

「そうだ、俺は不敬罪なんぞには負けん。」

「将軍もどうですか?」

「お、俺もか?流石にそれはまずくないか。でもちょっとだけなら。」


 そう言うと将軍は覗き集団の先頭に立って覗きに行った。


 でも、俺はバケモノと戦えた。

 ギフトはなかったけど戦えた。

 この剣のお陰だろう。

 もっと強くなれば学園にも入学できる、かも。

 特訓だ!

 俺は剣の素振りを始めた。当然重い木刀を使っての素振りだ。

 習った型を思い出しながら素振りをしていく。

 10回、100回、1000回。終わる頃には汗諾々だ。

 俺は汗を流すために浴場へ行く。

 あれから数時間経過している。

 もう姫も上がられたことだろう。

 脱衣所で汗まみれの服を脱ぐ。

 着替えは準備済みだ。

 タオルも用意してある。

 浴場へ入ると湯船の横で誰か寝ている。


 ん?姫だ!姫だった。


 姫が見事な肢体を曝け出し、凶暴な胸部を惜しげもなく露出させ、どうだと言わんばかりに見せつけてくる。

 俺は衝動に抗えず隅々まで堪能してしまった。

 鼻血は出なかった。

 ふと、姫が目を覚ます。


「ん?ここどこ?アスラン、あなた素っ裸じゃない・・・って童も裸?あなた、あ、アスランどういうつもり。私を裸にして、私の裸体を堪能していたの?その後、私の身体をどうするつもりだったの?ふ、不敬罪よ、私もうお嫁に行けない。アスラン、あなた責任とって私を貰いなさい。」

「え〰〰〰っ、それ冤罪ですよ。」

「 (* ̄ ̄ ̄ ̄ー ̄ ̄ ̄ ̄)フッ.勝った。」

「何か言いました?」

「い、いえ、何も。な〰んにも言ってません。ふっ。」

「どうして笑ってるんだ?は、嵌めた?」

「え?あなた私に嵌めたのですか?何を嵌めたのですか。う〰〰っ。もう、子供ができるかもしれません。あなたはパパです。もう、早速式を挙げないといけません。陛下には宜しくお伝えください。」

「俺は無能力者だぞ。しかも領地は奪還できなかったし責任取れません。爵位も無くなるだろうしお金も無いぞ。」

「え~い、煩い。男ならごちゃごちゃ言わない。金がないなら作れ。領地がないなら 捥ぎ取れ。責任が取れないなら責任が取れる大人になれ。」

「婚約者のボラ・ゼンキンはいいのか。侯爵家との関係が悪化するのではないか。」

「お前も侯爵だろ。お前が領地を奪い取り、王家との関係を維持すればよいではないか。」

「無理だな。残念だ。」

「お前は王に妾との結婚を承諾させ、更に、必ず難癖をつけてくるゼンギン伯爵を納得させる義務いや責務がある。ゼンギンは最強のギフトを持つと言われている息子のボラとの勝負を要求してくるだろうな。」

「はぁ。無理だな。婚約は破断の方向でお願いします。」

「妾が許すわけなかろう。兎に角努力しろ、考えろ、行動しろ。」


 有耶無耶に婚約者にさせられてしまった。

 無能力者だけど良いのだろうか、王が認めてくれるのだろうか。

 いや、無理だろうな。

 まぁ、認めてもらえるように頑張ろう。

 あの胸は捨て難い。

 無能力者でも剣は少し使えるみたいだから。

 でもこの剣で戦ったら相手を殺してしまうからこの剣は使えないな。そもそも、木刀での戦いだろうけど。


 時間は夕方になり、夕食の時間となった。

 俺達は二人で食堂へ行く。

 既に集まっていた兵士と将軍からまるで結婚式のような歓声が上がる。

「おめでとうアスラン。殿下もおめでとうございます。アスラン、殿下はなずっと前からお前のことが好きだったんだぞ。でも恥ずかしがって言えなくてな。やっと、殿下の念願がかなって俺は嬉しいんだよ。オーーん。」


 将軍は泣き出してしまった。


「おめでとうございます。伯爵。」

「おめでとうございます。次こそは必ず領地を取り戻しましょう。」

「「「おめでとうございます。」」」


 食堂の意識は一つになり、皆で、次こそ領地を奪還することを誓い合ってくれた。バラミール領の兵士でもないのにも関わらずだ。

 嬉しくて、将軍だけでなく俺まで涙が出てきた。

 よし。どんなに強いバケモノでも倒すことができるように訓練しよう。

 俺は強い。どんなバケモノでも倒せる。いつかは。決まっている。

 この聖剣があれば大丈夫だ。

 姫も守る。


「殿下。何があっても必ず守るぞ。」

「アスラン、殿下とは呼ぶな。名前があるだろ。」

「はい、殿下。」

「死刑。」

 姫はそう言いながら俺のおでこを中指で叩いた。

 あまりの強烈さに僕は床に倒され意識を失った。

 はるか遠くから、すまん、大丈夫かという姫の声がかすかに聞こえてきた。


 目が覚めると宿の僕の部屋で寝ていた。

 姫はいなかった。

 隣の部屋で寝ているのだろう。

 僕はベランダに出て空腹に震えるお腹を抑えながら星を見上げた。

 月も見える。

 既に沈みかけている。

 隣の部屋のドアが開く音がして姫もベランダに出て来る。


「殿下、じゃなくてレイラ姫、眠れないのか。」

「そうだな。眠れない。寝ると誰かが妾を素っ裸にして鑑賞するからな。」

「すみません。あれは不可抗力ですって。」

「冗談だ。ところで、カタナを見せてくれないか。」

「待ってろ。今取ってくる。」


 俺は取ってきた剣を姫に見せる。


「ほぉー、これは分子結合を切断するカタナだな。」

「え、ぶんしけつごうって?」

「わからないなら気にするな。良く切れる剣ということだ。」

「レイラはなぜそんな事がわかるんだ。」

「なんとなくだな。」

「はぁ。」


 分かったふりをしているのだろうか。発言が根拠に乏しい。

 結局その後、ただ星を見て何も話すこともせず、時だけが経過して、眠くなったので姫に暇乞いをして眠りについた。


 翌日早朝出発しバケモノの攻撃に会いながらも兵士の数を減らすこと無く、西の空が赤くなり始めた夕刻王都へ到着した。


 陛下の前へ進み出てエクレム・チャクル将軍と二人跪き敗北したことを報告した。


「それで兵を半分失いながらもおめおめと帰ってきたのか、アスラン。」


「それはアスランの所為ではありません。猿どもを舐めていた私に責任があります。」


 将軍が俺の責任を緩和するように養護する。


「エクレム、それほど猿どもは強かったのか。」

「はい。特に双頭の猿は異常です。武器が全く通じませんし、ギフトによる攻撃さえも意に介さないのです。」

「そうか。しかし、兵が50名近く減らされたのか。エクレム、兵士200名で行けば猿どもを蹴散らせそうか。」

「いえ。猿どもの数は減らせるでしょう。しかし、最終的には双頭の猿に全滅させられる可能性があります。」

「では、どうすべきだと考える。」

「偵察部隊を送り込み双頭の猿の弱点と対処方法を探るべきかと。」

「そうか。アスラン、猶予は2年間だ。その間に領地を奪還できなければ伯爵位は剥奪するぞ。」

「はい、承知してます。」

「お前は無能力者だそうだな。しかもバラミール領の兵士は全滅。他領の兵士を借りるしかない。たとえ、領土を奪還できたとしても、自分の力で奪還できなければ、領地は半分になるぞ。」

「はい。陛下、自分で領土を奪還するためにも学園に通わせてもらえませんか。」

「無理だな。無能力者は通えないぞ。」

「そこを、何とかお願いします。」

「意地悪で言っているのではないぞ。無能力者と能力者は根本的に違うのは分かるだろ。能力者はギフトで体中のピコを利用して身体を強化したり、魔法のようなことができる。無能力者は体内にピコがないから何もできない。」

「私は剣が使えます。だから戦えます。」

「んー、しかしなぁ。」

「良いではありませんか。陛下。」


 突如四十前の金髪の貴族が話に割り込んできた。


「どうしたゼンギン伯爵。」

「なんでも、兵士の噂話によればレイラ姫とアスラン伯爵が内々に婚約したというのを聞きました。しかし、息子がレイラ姫との婚約を打診している以上、無能力者とレイラ姫との婚約を認め、みすみす姫が不幸になるのを見過ごすわけには行きません。ですので、アスラン伯爵と当家の嫡男と、姫の婚約者の座をかけて戦わせれば、アスラン伯爵が本当に戦えるのか分かりますし一石二鳥です。」

「その話は俺も聞いた。領地なしの無能力者に姫は嫁がせられん。姫の相手は政治的に効果のある人間でなくてはならない。」

「では当家の嫡男に任せれば一石二鳥というか三鳥ですな。姫の相手にふさわしくないと判明し、当家の嫡男と結婚すると判明し、学園に入学するのに相応しくないと判明するわけですな。」

「それでよいか、アスラン。」

「はい。ただし、剣のみで闘って頂きたいです。」

「どうだ、ゼンギン伯爵。それでよいか。」

「はい、無能力者には剣だけでも負けることはございません。」

「では勝負は、遠征から帰ったばかりで疲れてるであろうから、公平を期して二日後に行うものとする。」


 その日王城に部屋を宛てがわれた。

 未だ暫定的ではあるが爵位持ちということもあり、それなりに豪華な部屋だった。

 ただ豪華だと言うだけで何もすることもなくベランダに出て少し明かりの見える街を眺める。

 城壁の中はバケモノも侵入できず、時折女性の悲鳴が聞こえるが概ね平和と言えるのだろう。

 ゼンギン侯爵の息子ボラ・ゼンギンとの試合は明後日だ。

 この『聖剣モールキュラー』があれば勝てる。

 しかし、あくまで試合だ。殺試合ころしあいではない。

 この剣は使えない。

 どうしよう。

 この剣を使えなければ所詮は無能力者、ちょっと剣ができるだけの人だ。

 ボラ・ゼンギンの能力は分からないが、剣には自信があるところから彼のギフトには身体強化のスキルと剣のスキルもあるはずだ。

 ただ、それだけでは普通であり、最強とは言われないだろう。だとすれば、それ以外にもスキルを持っているはずだ。それが最強と言われるスキルだろう。


 流石に俺が勝つに決まっているなどと楽観的な事は言えない。


 勝てないまでもできるだけの努力はしよう。

 俺は、木でできた重い剣の素振りを始める。






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