第3話 縁談
この世界はバケモノだらけだ。
このギュリュセル王国の王城の私の部屋から見える街並みの先には壁があり、その壁がバケモノ共から人々を守っている。
壁の向こうには森が広がっていて他の街まで人は住んではいない。
人々は簡単に壁の外を出歩くことさえ出来ない。
しかし、何でこんなバケモノだらけの世界に生まれたのか。
でもそれはまだ良い。
王女に生まれて何不自由無く生活できている。
しかし、ギフトが発動しなかった。
私、レイラ・ギュリュセルは無能力者だ。
この世界で生きていくには不自由だ。
強いギフトを貰えた人はたった一人でも城壁の外を出歩くことができる。
だけど、私は一人では外へ出歩くことさえ出来ないし、バケモノ共を王女としてではなく人として退治したかった。
だのに、戦うことさえ出来ない。
あの人とともに戦いたかった。
数年前のお城での舞踏会で初めて彼に出会った。
彼はまだ幼かったけど彼のことを物凄く好きになった。
その優しさに。
意思の強さの宿った瞳に。
いつか彼と一緒に戦えると思ってた。
一緒に生きていけると思ってた。
だけど、私は無能力者だ。
守ってもらわないと城壁の外では生きていくことさえ出来ない。
もし、戦えるのなら、この国の戦力として、バケモノと戦い、他国の侵略と戦い、ずっとこの国で生きていけただろう、彼と一緒に。
多分、私はお城から出ることも叶わず、他国へと政略結婚で嫁いでいくことになるだろう。
数日前、久しぶりに彼に会えた。
小さかった彼も成人し既に15歳。
身長も高くなっていた。
彼は良いギフトを貰って壁の外で生きていくことさえできるのだろう。
不自由のない生活が彼を待っているのかもしれない
だけど、一緒に生きていくことは出来ない。
私は政略結婚させられた他国のお城の中で一生籠の中の鳥として生きていくしか無いのだろうか。
そうだ。
無能力者でも学園に入学して勉強して鍛えれば外で一緒に戦うこともできるようになるかもしれない。
父に聞いてみよう。
「父上、妾を学園に通わせてたもれ。」
「レイラ姫、陛下に無理を言われては陛下も困られてしまいます。」
「そうだ、セバスチャンの言うとおりだ。お前にはギフトが芽生えなかった。ギフトのない人間とある人間とは根本的に違う。ギフトは体内にあるピコを利用して身体を強化したり不思議な力を使えたりできる。それがないとバケモノ共とは戦えないから学園には通えないぞ。それに、お前はギフトなぞ無くても他国へ嫁ぎ何不自由なく生きていけるではないか。」
「そうです、殿下。学園に通っても無駄ですぞ。」
「それより、レイラももう15歳だ。既に縁談の話が来ているぞ。無能力者でも貴族なら問題ない。できれば他国の王子なら良いがこの国の貴族でも構わんぞ。」
「え?本当か?陛下!?相手は、相手は誰じゃ?」
私は、その相手が彼であることを期待した。
「ゼンギン侯爵の嫡男だ。ボラ・ゼンギンだ。舞踏会で会っただろ。」
「何だ、その魚みたいな名前。ふざけた名前じゃな。」
思い出せない。
舞踏会の夜、記憶しているのは彼のことだけだから。
彼のことで一杯で他のことなど覚えてもいない。
クソ、魚に邪魔されるとは。
「嫌じゃな。父上、妾はアスラン・バラミールと結婚したいのじゃ。」
「それは無理だな。アスランも考えた。だが無理になった。」
「どうしてじゃ。教えてたもれ。」
「アスランのバラミール領がバケモノ共に襲われて占領され、バラミール伯爵は殺害されたらしい。」
「え?本当か?あ、アスランは無事なのか。教えてたもれ。」
「アスランは無事だ。こっちへ向かっているそうだ。」
「そ、そうか。生きているのなら良かった。じゃなぜ、アスランとは無理なのじゃ?」
「アスランは領地がなくなった。領地を取り戻せなければ侯爵の地位を相続しても名誉子爵等への降格か爵位の剥奪さえ待っている。猶予は二年だ。その間に領地を取り戻せなければ平民となる可能性さえある。それに、バラミール領の奪還にゼンギン侯爵の協力を取り付ける為にも、姫は直ぐにでもボラ・ゼンギンと結婚する必要がある。だから、アスランとの結婚は無理だ。本来ならば、姫の希望通りアスランと結婚させてやりたいが。すまない。」
「納得できない、が、まぁ、分かったのじゃ、お父様。つまり、領地をゼンギン侯爵の協力無しで取り戻せたら結婚できるというわけじゃな。」
「まぁ、そうだな。しかし、精鋭が半数に減ったという話だ。簡単にはいかないだろうな。」
通常陛下と呼べと義務付けられているが、私はムカついている時は陛下とは呼ばないことにしている。
今回はかなりムカついている。
「セバスチャン、無能力者で戦える方法はないのか?教えて。」
「殿下。無理ですな。人間の握力は50キロ、ゴリラの握力は500キロです。体格はそれ程変わらないのに10倍違います。ギフトは普通の人間をそれ位変えてしまいます。更に言うなら、バケモノはゴリラよりも更に強いのです。だから無能力者にはどうしようもありません。」
「クソ、正論で言われると反論しようもないのじゃな。」
「殿下、クソとか口が悪いですぞ。」
「はい、はい。妾は部屋へ戻るぞ。」
「おやすみなさいませ。」
「糞して寝ろ。」
私は部屋へ戻った。
ベランダに出ていつもと変わらない、変わることのない風景を、街と壁と森だけで構成されている代わり映えのしない風景をただ見つめる。
いつものように。
既に月が登っている。
小さな月だ。
まるでこの王都のように小さい。
大きな満月が懐かしい。
この星にある小さな月は二つある。
公転半径が違うのだろうか、公転速度が違うのだろうか、二つの月はいつも追いかけっ子をしている。
追いついたと思ったら追い越し、何時の間にかまた追いついてきている。
まるで私とアスランだ。
追いついたと思ったら、どうやら追い越していたらしい。
でも、もう二度と追いつくことはないのかもしれない。
いや、駄目だ。
追いついてみせる。
でも、無能力者の私に何ができるのだろう。
コンコン
ドアがノックされた。
ドアが開き執事のセバスチャンが入って来る。
どこの世でも執事の名前はセバスチャンが主流らしい。
「姫、只今、アスラン様が到着されました。」
「分かった、直ぐ行く。」
然し、それよりも肩がこる。
あー、くそっ。どうにかして欲しい。
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