第2話 没落

 目が覚めた。既に、外は明るくなっている。

 昨日授けられたギフトは翌日には本人には分かるらしいので、今日、ギフトの説明会が昨日の教会で行われる。

 王立学園関係者が来て、その能力が秀逸であれば直ぐに入学が認められ、学費の免除や生活費までも負担する場合もあるらしい。


 ただ、俺は金には困ってないので入学できれば良いと思っている。

 のだが・・・

 依然として自分のギフトが分からない。


『ギフトは明日には種類が分かります。』と言われた。


 しかし、分からない。


 そうだ、この宿に泊まっているアラナイに聞いてみるか。


 朝食を食べに食堂へ行くとアラナイは既に護衛と一緒に朝食を食べていた。

 合点がいった。彼女は王の娘なのだ。だから護衛がいても可怪しくない。

 しかし、護衛の手前、ギフトについて聞くのは憚られるがアラナイから話しかけて来るだろう。そうに決まっている。根拠はない。来たら話そう。


 アラナイから見える席に着いて朝食を待つ。注文する必要はない。メニューは一品しかないからだ。


 供された朝食は昨日とは違い腸詰めと卵を焼いものにお米のご飯がついていた。

 腸詰めは何の腸詰めかは分からなかったが、噛めば香辛料で味付けされた肉汁が溢れご飯がすすむ一品だった。

 卵にはショーユを掛けて食べる。これはこれでシンプルで美味しい。

 今日はミソシールはついていなかったが黒い飲み物がついていた。これは『神の飲み物』と呼ばれているそうだ。普通はコーヒーと呼ぶらしい。

 なぜ神の飲み物かと聞いたが分からないらしい。


 食べているとアラナイと目があった。

 どうやら俺に気がついたようだ。まぁ、俺様のオーラに気が付かないわけがないが。


 朝食を食べているとアラナイがやって来た。

 整えられた長い金髪を揺らしながら足早に近づいてくる。

 アラナイはまるで親しい友人のように僕の許可も得ず、まるで日常の出来事のように俺の前に座る。

 顔が曇っている。

 あまり良くないギフトだったのだろうか。


「どうした、アラナイ。元気がないな。」

「おはよう、アスラン。ギフトどんな能力だった?」

「アラナイ。普通聞かないぞ。」


俺も聞きたかったが、俺から弱みは言いたくない。だから、はぐらかした。


「普通じゃないから訊いてるの!」

「だから顔が曇ってるのか?」

「そう。深刻なのよ。教えてよ。」

「もしかしたら、まだギフトの能力がわからない、とか?」


 まさか俺と思いカマかけてみた。

 暫しの沈黙の後、アラナイは口を開いた。


「どうして分かったの?まさか、アスラン、あなたも?」

「そうなんだ。絶対に良いギフトに決まっていると思ってたのに、くそっ。しかし、まさかアラナイもだとは思わなかった。」

「昨日の担当者の話では今日までにはギフトが発動してギフトの能力、つまりスキルが分かると言われたよね。だったら、ギフトはもう発動しないってこと?」

「分からない。今日中には発動するのかもしれないな。教会へ行ってみれば何か分かるだろ。」

「そうね。聞けば何か分かるよね。」

「心配するな。するだけ無駄だろ。ギフトが発動しないと確定してからどうするか考えればいいだろ。」

「うん。」


  その日の午後、アラナイと連れ立って昨日の教会に来た。

 教会に着くと空いてる席に着席してくれとのことだった。

 その時点でも依然としてギフトが発動せず不安に駆られていた俺達は担当者に質問をするために一番前の空いていた席に座る。こんな思い通りにいかない事は初めてだ。


 教会の席も大分埋まった頃、担当者が来て話し始めた。


「皆さん。既に自分のギフトは分かっていると思いますので説明します。説明会終了後、王立学園の担当者が皆さんの能力をアーティファクトで調べ、秀でたギフトを持つ方には入学や授業料免除・生活費の援助等の案内をします。漏れた方も試験を受ければ入学することができます。なにか質問はありますか。」


「あのー、まだギフトが発動しない人もいるんでしょうか。その人はいずれ発動するのでしょうか。」


 不安などないが俺はアラナイの為に訊いてみた。


「そういう方も偶にはいらっしゃいます。今現在ギフトが発動していない方はギフトは今後も発動しないと思われます。発動しなかった人は無能力者と呼ばれ職業が制限されることもあります。」

「そうですか。分かりました。」


 そうか、ギフトが発動しない人もいるのか。無能力者か。もう学園には通えないのか?横を見るとアラナイが暗い顔をしている。まぁ、何とかなるだろ。俺に不運は来ない。不運は不運と思っているやつのところに訪れるものだ。


『あいつはギフトがなかったのかよ。可哀想にな。』

『仕方ないでしょ、私達みたいに優秀なギフトを貰えなかった人もいるの。』

『哀れだな。』

 嘲笑や、同情、罵詈雑言が聞こえてくる。酷い言われようだ。


「皆さん、ギフトとは神が授ける能力です。その能力は様々です。種類が多いのでここでは割愛します。個別に係の者に聞いてください。」


「大事なことは一つです。ギフトは相手やバケモノの強さを教えてくれます。レベルというものです。自分より高いレベルのバケモノと戦いは避けなければいけません。無理な戦いを避けることができたからこそ人類は生き残ってこれたのです。」

「大きな体のバケモノでもレベルが同じなら戦えるということですか?」

「はい。強さの基準がレベルです。ギフトには相手のレベルが分かる能力がありバケモノのレベルをギフトが判断します。レベルが自分より下なら退治することができますが、上なら絶対一人では戦わないことです。複数で戦わなければいけません。」


 会場の人々は皆希望に燃えた目で演説する女性を見つめている。


「兎に角、この広い世界の殆どがバケモノによって奪われ支配され、その上、更に人間の領土を奪い取り人間を殲滅しようとしています。バケモノを駆逐し領土を奪い取れば領主となることも可能です。切取り次第です。バケモノの駆逐は人類の急務にして最大の命題なのです。やらなければやられるのです。皆さんの幸運をお祈りします。以上です。後ろの方から順に出口に向かってください。」

「ギフトが発動しなかった人はどうすればよいのですか。」

「頑張って生きて下さい。」

「はぁ。そうですか・・」


なんじゃそりゃ。

それだけかよ。

生まれて初めて落ち込んだかも。

いや落ち込まない。

なんとかなる。

いや、なんとかする。

意志あるところに道は開けるんだ。


 後ろの席の人は既にギフトの能力調査を終えた者もいるようだ。


「俺達は一番前だから結局今日も最後まで残るのか。」


 待つこと数時間。調査がやっと最後の方までやって来た


 アーティファクトでギフトの能力を調べているようだ。

 その後、訊きたい事をがあれば尋ねて終わりか。

 

 遂に僕の順番がやって来た。


「はい、これに手を乗せて。」


 手を乗せるように言われ、アーティファクトに手を乗せると次第に熱くなり、すぐに収まった。


「あー、無いわね。ギフトが固定しなかったのね。あなたにはギフトはありません。学園への入学はできませんね。今後は誰かの手伝いをして生きていけば・・って、あなた領主の嫡男?領主なら能力がなくても大丈夫ね。多分。」


 それほど学園に入学したかったわけではないが無能力者だったのはショックだ。だって学園でもてまくることが出来なくなったことを意味する。

もてまくることは決まっていたのだが、学園に通えないことには不可能だ。

 おまけだが、入学すれば戦闘のプロに教えを請いバケモノ共を殲滅し狭い領土を増やすことができたのに。残念だ。しかし、何とかなる。はずだ。決まっている。


 次のアラナイも俺と似たようなことを言われている。

 すぐに調査は終了した。アラナイは憔悴していた。今まで学園に通うと思っていたのにそれが不可能になったのだから当然だ。王の娘なら食いっぱぐれることはないから大丈夫だろう。


「大丈夫か、アラナイ?」

「少し、ショックだったの。学園で勉強する積りでいたから。私達無能力者ね。」

「これからどうするんだ?」

「まだ、考えられない。だけど、こうなったら、バケモノを退治することもできない。本当にどうしよう・・・」

「生活はできるだろ?王が生活費出してくれるんじゃないのか。」

「どうだろ。私はあの人の世話にはならず自分で稼ぎたかったの。」

「まぁ、如何しようも無ければバラミール領まで来い。養ってやるぞ。」

「え?それって?もしかして、嫁に来いってこと?」

「まぁ、嫁でも良いぞ。」

「ごめん、嫌。」

「アラナイ、そらないよ。」


 その日は、すぐに彼女と別れた。

 夕食で会うこともなく、食後に薄明かりの部屋で天井を見つめているといつの間にか眠りについていた。


 朝の日差しで目が覚めると寝ていたのだと気づく。朝一番で考えたのはアラナイのことだ。落ち込んでいるのは間違いがない。どうやって元気づけよう。まぁ、俺の顔を見れば嫌でも元気が出るだろうけど。

自信過剰?いや、自明の理だな。


 朝食に行くと彼女の姿はなかった。

 宿の人に尋ねると未明に出発したとのことだった。

 残念だ。まぁ、この世の半分以上は女だ。


 俺も妹の待つ我が領地へ帰ろう。

 まぁ、当然ギフトは今日中に発動するだろう。ギフトが発現したとしても試験はまだ先だ。一度帰ろう。


 乗合馬車の乗り場へ行くとまだ席が空いていたので直ぐ乗る。

 乗合馬車は二人の護衛が付き途中の街々で停車しながら目的地へと向かう。

 俺の故郷バラミール領が最終目的地だ。

 つまりバラミールは最果ての田舎だということだな。

 だがしかし、俺が大領地にし、引いては国にする。

 大声では言えないが独立するつもりだ。


 二日間の行程、途中護衛がバケモノを駆逐しながらも順調に進みバラミールへ到着した。

 久しぶりの我がバラミール。まだ我がものではないな。だがもう直ぐだ。

 然し、どこか可怪しい、喧騒がない。

 確かに人口は王都ほど多くはない。然しこれではあまりにも・・・


 城壁の門へ来ると門は開け放たれていた。

 これでは化物共が入ってしまう。

 不安が心に押し寄せる。

 馬車は門を潜り街へと入る。


 人々が至るところで血を流し殺されていた。

 ただ殺されていた。


 通常、バケモノ共は食料として人間を襲う。

 食べもせず殺すことなどありえない。

 だとしたら人間が侵入したのか?


「領主館へ急いでください。お願いします。」


 御者のおじさんにお願いした。


「承知しました。」


 馬車は俺と護衛二人の三人を乗せたまま領主館へと向かっている。


 不安が大きく伸し掛かる。

 両親は、妹は大丈夫だろうか。


 領主館に到着すると馬車の護衛二人も付いて来てくれるというので一緒に館の中へ入る。

 護衛は義務もないのに領主館の中まで護衛してくれる。俺が領主になった時に雇いたくなった。しかし、もしかしたらそれが狙いで中まで護衛してくれるのかもしれないなどと余計なことを考えながら先を急ぐ。

 

 門を越えた所で門の衛兵が腹を割かれ殺されていた。

 周囲には大量の血が血溜まりを作り、割かれた腹から腸が出ていた。はみ出たと言うよりも引っ張り出されたのではと思えるほどの量の腸が露出している。

 毎日挨拶してくれて仲良くしてくれたのに。

 恐怖より悔しさがこみ上げてきた。


 館の中へ入ると至る所でメイドや執事が殺されている。

 すべて知っている、知っていると言うだけでは済まされない人達だ。

 陵辱はされていない。

 だとすれば、人間による襲撃ではないだろう。

 やはりバケモノだろう。

 急いで二階の執務室へ向かう。

 そこに父もいるはずだ。

 ドアを開けると父の執務室のソファーには別のが座っていた。

 二人座っているのか?

 いや違う、一人に頭が二つ付いている、人間ではない。

 顔は猿だ。

 然し、人間のように服を着ている。

 次の瞬間、驚くべき事が起こった。


「お前は誰だ?」


 猿が、猿の右側の頭が、言葉を、人間の言葉を喋った。

 なぜ猿が喋れる?

 疑問が湧く。

 然し、ただ一つ分かったことがある。

 この領の人々を殺したのはこいつらだ。

 猿は足で父だったものの死体を踏んでいた。後頭部は破裂し脳が溢れていた。その頭だった場所を猿の足が踏んでいた。隣には母の死体が在った。


 ドドドドドッ!!


 走る足音とともに隣の部屋にいた猿の仲間が執務室に入ってきた。

 全ての猿が衣服を着、人間のような普通の二足歩行をしていた。

 ただ、ソファーに座った猿と違うのは頭が一つだということだ。


「お、おい、逃げるぞ。」


 馬車の護衛が小声で言う。

 俺達は出口に向かって走り出した。


「これだから頭が一つしかない人間は頭が悪いと噂される。短絡的だ。殺せ。」


 二つ頭の猿の声が背中越しに聞こえた。


 俺達三人は走った。

 部屋を出て階段を降りる。

 バケモノは直ぐ後ろだ。

 もうすぐ領主館の出口だ。横を見ると護衛が一人いなくなっている。何時の間にか二人になっていた。

 やっと門だ。門に到達した。横を見るともう一人の護衛もいなくなっている。


 ドンッ


 低い打撃音とともに背中を強打され前に回転しながら転ばされた。

 見上げると猿が槍を構えていた。

 猿はソファーに座っていた猿とは違い毛が疎らでまるで進化の途中のような感じだ。良く見ると手が三本あり醜悪さを増加させている。三本目の手は右の脇腹から生えていた。

 その手はちゃんと機能しているようで小さなナイフを掴んでいつでも攻撃できる態勢だ。

 猿が叫んで何かを喋ろうとしているが言葉にはなっていない。

 口が二つ付いていた。もう一つの口は頬についている。

 だから喋れないのだろうか。


 俺はなぜだか冷静だ。

 いやいつも冷静だから当然かもしれない。

 しかし、槍を向けられ刺される寸前だと言うのに冷静だった。

 恐怖心は持たないようにしている。

 恐怖心を持たない方が良い結果が生じる。

 だから、持つだけ無駄だと思っている。

 しかし、こんな時は冷静でいられるはずはない。しかし何故か冷静だ。

 恐怖心が麻痺しているのか・・


 「GYAいあああAaああ・・」


 言葉にならない言葉で猿が叫んだ。


 叫びと同時に猿が槍で俺の腹を刺した。


 熱い。痛い。殺される。恐怖が身体を包んだ。

 しかし、次の瞬間、恐怖が消えていた。


 ここに来ても尚、俺は冷静で、周りを俯瞰的に見ていた。


 次の瞬間、猿は身体がばらばらになり崩れ落ちる。血が霧状になり四方に飛び散る。


 何が起こった?


 周りにいた猿たちも身体が切り刻まれて死んでいた。辺り一面血の海と化している。


 助かった。


 原因はわからない。仲間割れ?自爆?誰かのギフト?分からない、だが助かった。


 他の猿に追いつかれないように俺は馬車へ急いだ。

 馬車は停めた場所にあった。馬も御者のおじさんも無事だ。

 何が起きたかをつたえると、一緒に王都へ行くことを進められた。

 バラミールを出る前に妹のセリンの安否が気になったので自宅へ寄ったが誰もいなかった。殺されたのだろう。

 俺達はこのバラミール領を出て王都へ向かった。


 馬車の中は静かで誰も話さずただ、車輪の音だけが響いている。

 バラミール領の塀を超えて暫く行ったところにまた死体があった。


 しかし、死体だと思ったものは身体を起こそうとしている。

 よく見ると叔父のデニズだ。


「おじさんちょっと馬車停めて。知り合いだ。」


 馬車を飛び降りるとデニズのもとへ走った。


「叔父さん、大丈夫?バケモノ猿にやられたのか?」


 槍がデニズの腹に突き刺さっている。


「猿を見たのか?よく殺されなかったな。はぁっ、はぁっ。」


 息も絶え絶えだ。もうダメかもしれない。


「殺されそうになったけど逃げれた。」

「そうか・・良かったな。それからお前の妹のセ、セリンが拐われた。もうバラミール領にはいない。どこかへ連れて行かれた。」


 デニズは話すのも苦しそうだ。


「どこへ連れて行かれた?」

「わからない。あ、あんな・・あ、頭が二つあるバケモノザルなんか初めてみた・・・」

「デニズ?デニーズ!」


 デニズは死んでいた。


 俺はデニズを置いて馬車に乗り込んだ。

 バラミール領はバケモノザルの手に落ちた。

 もはや俺は領主の息子ではなく継ぐ領地もなくなった。

 父も母も死に妹は行方不明だ。

 もう全て無くした。

 

 しかし、なんとしてでも妹は助けだす。


 力がほしい。

 まだ、ここに来てもこの期に及んでもギフトは発動していない。ギフトは人の強さが分かると言われているが俺にはわからない。

 自力で頑張るしかない。

 そのためには学園に入って戦い方を学たい。

 しかし、ギフトを持たないと絶対に学園には入れない。

 ましてや、貴族の息子でさえなくなった現状ではコネも使えない。

 しかし、まずは王に領地を占領されたことを報告しなければいけない。


 不運は不運を呼ぶ。

 落ち込む気持ちがさらなる落ち込む事態に陥らせる。

 だから、俺はどんな事があっても落ち込まないようにしている。

 だからこそ、上手くいくに決まっている。今日中にはギフトが発動するに決まっている。

 俺は気持ちを切り替えた。


















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